昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

メガネの秘密

 よい機会なので、アレンさんのメガネ(魔道具)について根掘り葉掘り聞いてみた。彼が詳しく話してくれたおかげで、ようやく仕組みがつかめてきた。
 彼の『仏像度』は、彼自身が固まったりほぐれたりしているわけではなく、わたしの魔力の状態によって変化しているようだ。
 メガネをかけている本人のスペックは関係ないと言うから驚いた。彼のことを見ているわたしが『どれだけその魔道具に抗う力を持っているか』が重要なのだとか。
 魔法属性の強弱も関係があるのだろうけれども、わたしからの見え方を鑑みると、その時々の魔力量で大きな変化が出ているようだ。

 ちょっと体温低めなイケメンに見えているときは、わたしにほどほどの魔力がある状態。
 自動応答システムみたいにしゃべる無機物な仏像のときは、やや魔力不足。
 長細い岩がメガネをかけてガチガチ言っているときは、体調を崩すレベルで魔力が足りない状態。そんな感じだ。
 もともと魔力のないヒト族の女性からは、漏れなくメガネ岩に見えるのだとか。
 わたしも初対面の時はそのように見えていたので、この世界に来た直後のわたしには、ほとんど魔力がなかったのかも知れない。
 「タベラレマスカ教の教祖だ」なんて言っていた頃は、挙動のおかしな仏像様に見えていた。その後、徐々に人間化してきたので、わたしの魔力は段階的に増えていたのだろう。

 なぜ彼は、こんなワケのわからないメガネ型魔道具を愛用しているのか。
 それは、たぶん「女性よけ」だ。彼はわたしを自分に近づけまいとしているのだ。
 最初の頃、ペッタリしたダサダサな七三分けだったのも多分そのためだ。彼はお花の匂いをまき散らすわたしを「よけたい」らしい。玄関にぶら下げておくと嫌な虫が入ってこなくなる虫除けグッズのように。なんの悪さもしないわたしを「しっしっ」と避けている。

 しかし、最近そのメガネの効果がどんどん落ちていっていることに彼は気づいていないようだ。
 たった今、彼はきちんとメガネをかけているけれども、かなりイケメンが炸裂している。メガネを外すと輝きが増すので、一応『リアよけ効果』はあるのだけれども、最初の頃に比べれば相当効きめが弱くなっていると思う。

 じっと彼を見た。
「なんですか?」と、彼が言った。
「アレンさん、まつげ長いですね」
「それはあなたでしょう」
 彼は眼福の騎士様だ。
 ヴィルさんがビカーッとした『動』のイケメンなら、こちらの御仁は日本庭園のような『静』のイケメン。
 ヴィルさんの裏側には、ある種の衝撃的な天然ボケが潜んでいるけれども、今のところアレンさんはどこから見てもスマートかつインテリジェンスにイケている。
「そんなに見ると、穴が開きますよ」
「アレンさんだって、ずっとこちらを見ているでしょう?」
「美しい花を愛でるのは当然のことです」
「うっ……」

 彼がイケメンに見えてしまっているのは、メガネが壊れているからではなく、多分わたしのせいだ。
 シンドリ茶(※シンドリ先生の激マズ魔素茶)を毎日飲んでいたせいなのか、はたまたフェンリルと神力がつながったせいなのか。原因はわからないけれども、近頃、魔力を測るたびに過去最高値を更新し続けている。魔力が充実しているせいで、メガネのリアよけ効果の影響を受けにくくなっているのだろう。
 でも、わたしはメガネ男子が好きだし、メガネのおかげで「よけたい」という意思が確認できるのも便利。だから、彼には教えてあげない。

「ずっと、元気がないですね」と、アレンさんが髪をなでながら言った。
 わたしはうなずいた。
 神薙として色々なことに慣れてきて、あとは結婚して仕事に励むだけという大詰めの段階で、この大どんでん返しは非情だ。
 ずっと自分をネコだと思って生きてきたのに、いきなり「今日からお前は百獣の王ライオンだ」と言われたようなものだ。
 キャットタワーをもらって幸せに暮らしていたわたしを、皆で担いで猛獣だらけのサバンナへ連れていこうとしている。
「ダイジョーブ。あなたはライオンだから勝てますよ」と言われても、ネコはライオンの戦い方を知らない。わたしはチマチマと猫パンチを繰り出しながら、広くて怖いサバンナで生きていかなくてはならないのだ。

 アレンさんは多分、キャットタワーと一緒にやって来た『猫じゃらし』だ。
 だから、わたしを鼓舞して猫パンチを出させるために「よけたり」「かまったり」するのだろう。だまされませんし、踊らされませんから。

「暑いでしょう? 冷たいメロンでも食べますか?」と、彼が言う。
 うなずくと、しばらくして美味しそうなメロンが出てきた。
「ヴィーニエ男爵領のメロンです。果肉がオレンジ色の品種は、ここのものが一番有名なのですよ」
「送ってくださったの?」
「ええ、貢物です。あーんして?」
「あーん……」
「美味しいですか?」
「んんー、あまぁい。お礼状を書かなくては♪」
「ふふ。ようやく笑顔が出ましたね?」
「幸せです♪ アレンさんも食べて?」

 一緒にメロンを食べながら「陛下の使者に会えそうですか?」と彼は言った。お隣の王宮から使者が来ていたものの、わたしに元気がないので待たせていたらしい。
 ああー……爆速でフラグを回収してしまった。猫じゃらしに踊らされまくりだ。

 まんまと上機嫌になってしまったわたしは、陛下の使者と会い、翌日フェンリルを連れて会いに行く約束をしたのだった。
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