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[リア]
イレギュラー
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フェンリルについては、ヴィルさんが王宮に報告しているはずだった。
しかし、彼のことなので、肝心な部分の説明を忘れたのかも知れない。正しく伝えたにも関わらず、伝言ゲームのように途中で話がおかしくなった可能性も否定できない。
王宮に着いてみると、フェンリルのことを「恐ろしい生き物」だと勘違いしている人たちがいた。近衛騎士団の皆さんだ。
何かあったら守らなくてはと思っていたのだろう。彼らは陛下と宰相、そしてお義父様の前に、緊張した面持ちでズラリと立っていた。しかし、わたしの後ろから小さなフェンリルを抱っこした神獣番の男性が歩いてくるのを見て、気の毒なくらい虚をつかれた顔をしていた。
それもこれも、すべては「人喰いオオカミ」なる都市伝説のせいだ。
以前聞いた話では、神狼は悪人を食べる恐ろしい生き物。しかし、これは大ウソだ。
フェンリルは普通の温かい手作りご飯や高級カリカリフードが好きだし、ミルクをかけたフルーツなど甘いデザートも好物だ。彼は人なんか食べない。
陛下に小さなムクムクを紹介した。
「子犬のようにカワイイ」と伝えてあるはずなのに、陛下の第一声は「なんちゅうこっちゃ!」だった。
王家には、彼がどういう姿をしているかが書かれた文献があるそうだ。そこには「銀毛で長い差し尾を持つ、体長二メートルほどの巨大オオカミで、つり上がった目ににらまれると足がすくみ上がって動けなくなる」と書かれていたらしい。
「どう見ても三十五センチくらいだな」と、陛下は言った。
「ええ。差し尾ではなく巻き尾ですし、丸い顔に丸いおめめ、見つめられると愛くるしさでとろけはしますが、すくみ上ることはないかと……」
「もう先祖が信じられん」と、イケオジは首を振った。
フェンリルに関する情報は、王家で伝わる話も、民間で伝わる話も、ことごとく間違えている。まるで、ここをオチにするために千年かけて長い長い前フリでもやっていたかのようだ。
王宮には「誰かが意図的に情報をゆがめたのではないか」と深読みしている人もいるらしい。
陛下がフェンリルと会うために選んだ部屋は、国賓をお迎えするときなどに使われている立派な応接室だった。
ふかふかの大きなソファーに座り、膝の上にフェンリルお気に入りのクッションを乗せると、彼はその上にぴょんと飛び乗ってリラックスした。
「やっぱりね、聖女なしで千年は無理があったと思うの」と、フェンリルは言った。
彼は近衛騎士を退出させることを条件に、オルランディア語で話していた。
「ボクだって、こんなに小さくなってしまうとは思わなかったもの。リアに会えなかったら死んでいたかも知れないし」
昔はもっと大きかったと主張するフェンリルは、千年前まで聖女と互いの神力をつなげることで、支え合って生きていたと言う。単体でも生きられないことはないけれども、自分の力が最大限は発揮できない。小さくて弱い存在になってしまうと言った。
約千年、聖女なしで生きてみたが正直しんどかったということらしい。
事実、出会ったときはひどく弱々しかった彼だったけれども、神力をつなげて以来、見違えるほど元気になっていた。
「我々は『聖都』を宣言しても構わないのでしょうか」と、陛下が尋ねた。
陛下がフェンリルに会いたがっていた理由は、まさにそれを確認したいからだった。
このオルランディア王都が正式に『聖都』を名乗っても良いのか、わたしの後にも聖女は降りるのか、そういった確認事項がいくつもある。
わたしはてっきり聖女の降りた場所が無条件で聖都になるのだと思っていた。しかし、そうではないらしい。
報道もそれに関しては妙に慎重だった。どの新聞を読んでも、聖都になったかどうかは「判明次第、詳報する」と書くに留めていた。
現時点でオルランディア王都は公式な聖都ではない。
「ごめんね。それはちょっと事情があって無理なんだよねぇ」と、フェンリルは言った。
彼が言うには、そもそもの順序が違っているそうだ。
聖女を降ろす場所を決めるのは守護龍であり、聖女降臨までの正しい手続きはこうだ。
①守護龍が聖都の場所を宣言する
②聖女様がパンパカパーンと降りてくる(この時点では聖女候補の状態)
③降りてきた聖女様を守護龍とフェンリルがお迎えする。神力をつなげて、正式な聖女様誕生
それに対して、今回わたしたちが踏んだ順序は、このようなものだった。
①力尽きそうになったフェンリルが守護龍に助けを求めていた
②近くで元祖ノルを食べてはしゃいでいた神薙が声を聞きつけ助けに行った
③ふたりしかいないけど、もう死んじゃいそうなので神力をつなげた
④神獣とつながっているので「聖女様」爆誕です、パンパカパーン
⑤ここが聖都ってことでいいですか?
とてもイレギュラーな状態だ。手順①からしてまったく違う。
まだ守護龍は現れていないし、聖都の宣言もなされていない。神獣側の事情で順番がメチャクチャになってしまったらしいのだ。
「あのひとが出てくるには、もう少し時間がかかると思うの。ごめんね?」と、フェンリルは言った。守護龍が現れるまでの間、できることをしておいてほしい、と彼は言う。
「我々は何をすべきですか」と、陛下が尋ねた。
「まず、過去の人々が何をしたかを正しく知ること。あのひとと話すつもりでいるなら、少なくともその知識は必須だと思うの」
フェンリルが言うには、この大陸に聖女が降りなくなった直接的な原因は人間の行いにある。東大陸は龍の「お仕置き」として聖女のいない年月を過ごしているそうだ。
約千年の間に何度も王が変わっているため「当時のことを簡単に話してあげる」と彼は言った。
宰相が胸ポケットから手帳を取り出し、ペンを構えた。わたしのお隣ではアレンさんが同じポーズでメガネのフチを光らせていた。
しかし、彼のことなので、肝心な部分の説明を忘れたのかも知れない。正しく伝えたにも関わらず、伝言ゲームのように途中で話がおかしくなった可能性も否定できない。
王宮に着いてみると、フェンリルのことを「恐ろしい生き物」だと勘違いしている人たちがいた。近衛騎士団の皆さんだ。
何かあったら守らなくてはと思っていたのだろう。彼らは陛下と宰相、そしてお義父様の前に、緊張した面持ちでズラリと立っていた。しかし、わたしの後ろから小さなフェンリルを抱っこした神獣番の男性が歩いてくるのを見て、気の毒なくらい虚をつかれた顔をしていた。
それもこれも、すべては「人喰いオオカミ」なる都市伝説のせいだ。
以前聞いた話では、神狼は悪人を食べる恐ろしい生き物。しかし、これは大ウソだ。
フェンリルは普通の温かい手作りご飯や高級カリカリフードが好きだし、ミルクをかけたフルーツなど甘いデザートも好物だ。彼は人なんか食べない。
陛下に小さなムクムクを紹介した。
「子犬のようにカワイイ」と伝えてあるはずなのに、陛下の第一声は「なんちゅうこっちゃ!」だった。
王家には、彼がどういう姿をしているかが書かれた文献があるそうだ。そこには「銀毛で長い差し尾を持つ、体長二メートルほどの巨大オオカミで、つり上がった目ににらまれると足がすくみ上がって動けなくなる」と書かれていたらしい。
「どう見ても三十五センチくらいだな」と、陛下は言った。
「ええ。差し尾ではなく巻き尾ですし、丸い顔に丸いおめめ、見つめられると愛くるしさでとろけはしますが、すくみ上ることはないかと……」
「もう先祖が信じられん」と、イケオジは首を振った。
フェンリルに関する情報は、王家で伝わる話も、民間で伝わる話も、ことごとく間違えている。まるで、ここをオチにするために千年かけて長い長い前フリでもやっていたかのようだ。
王宮には「誰かが意図的に情報をゆがめたのではないか」と深読みしている人もいるらしい。
陛下がフェンリルと会うために選んだ部屋は、国賓をお迎えするときなどに使われている立派な応接室だった。
ふかふかの大きなソファーに座り、膝の上にフェンリルお気に入りのクッションを乗せると、彼はその上にぴょんと飛び乗ってリラックスした。
「やっぱりね、聖女なしで千年は無理があったと思うの」と、フェンリルは言った。
彼は近衛騎士を退出させることを条件に、オルランディア語で話していた。
「ボクだって、こんなに小さくなってしまうとは思わなかったもの。リアに会えなかったら死んでいたかも知れないし」
昔はもっと大きかったと主張するフェンリルは、千年前まで聖女と互いの神力をつなげることで、支え合って生きていたと言う。単体でも生きられないことはないけれども、自分の力が最大限は発揮できない。小さくて弱い存在になってしまうと言った。
約千年、聖女なしで生きてみたが正直しんどかったということらしい。
事実、出会ったときはひどく弱々しかった彼だったけれども、神力をつなげて以来、見違えるほど元気になっていた。
「我々は『聖都』を宣言しても構わないのでしょうか」と、陛下が尋ねた。
陛下がフェンリルに会いたがっていた理由は、まさにそれを確認したいからだった。
このオルランディア王都が正式に『聖都』を名乗っても良いのか、わたしの後にも聖女は降りるのか、そういった確認事項がいくつもある。
わたしはてっきり聖女の降りた場所が無条件で聖都になるのだと思っていた。しかし、そうではないらしい。
報道もそれに関しては妙に慎重だった。どの新聞を読んでも、聖都になったかどうかは「判明次第、詳報する」と書くに留めていた。
現時点でオルランディア王都は公式な聖都ではない。
「ごめんね。それはちょっと事情があって無理なんだよねぇ」と、フェンリルは言った。
彼が言うには、そもそもの順序が違っているそうだ。
聖女を降ろす場所を決めるのは守護龍であり、聖女降臨までの正しい手続きはこうだ。
①守護龍が聖都の場所を宣言する
②聖女様がパンパカパーンと降りてくる(この時点では聖女候補の状態)
③降りてきた聖女様を守護龍とフェンリルがお迎えする。神力をつなげて、正式な聖女様誕生
それに対して、今回わたしたちが踏んだ順序は、このようなものだった。
①力尽きそうになったフェンリルが守護龍に助けを求めていた
②近くで元祖ノルを食べてはしゃいでいた神薙が声を聞きつけ助けに行った
③ふたりしかいないけど、もう死んじゃいそうなので神力をつなげた
④神獣とつながっているので「聖女様」爆誕です、パンパカパーン
⑤ここが聖都ってことでいいですか?
とてもイレギュラーな状態だ。手順①からしてまったく違う。
まだ守護龍は現れていないし、聖都の宣言もなされていない。神獣側の事情で順番がメチャクチャになってしまったらしいのだ。
「あのひとが出てくるには、もう少し時間がかかると思うの。ごめんね?」と、フェンリルは言った。守護龍が現れるまでの間、できることをしておいてほしい、と彼は言う。
「我々は何をすべきですか」と、陛下が尋ねた。
「まず、過去の人々が何をしたかを正しく知ること。あのひとと話すつもりでいるなら、少なくともその知識は必須だと思うの」
フェンリルが言うには、この大陸に聖女が降りなくなった直接的な原因は人間の行いにある。東大陸は龍の「お仕置き」として聖女のいない年月を過ごしているそうだ。
約千年の間に何度も王が変わっているため「当時のことを簡単に話してあげる」と彼は言った。
宰相が胸ポケットから手帳を取り出し、ペンを構えた。わたしのお隣ではアレンさんが同じポーズでメガネのフチを光らせていた。
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