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[ヴィル]
世代間格差
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しばし俺達は咀嚼に夢中になった。
ニッコロが「オレもリア様と結婚したいなぁ」と言って沈黙を破ると、俺とクリスは同時に口を開いた。
「ダメだ」「ダメだな」
「なんでそれだけは常にハモるんスか?」
「冗談だよ。なりたければ頑張れ。お前はアレンの代わりになれるかな?」と、俺は言った。
「あー……護衛はできるかもッスね。でもぉ」
「でも?」
「あの『溺愛』みたいなのはできないかも……」
「安心しろ。あれは誰にも真似できない」
「っていうか、あれは、なんなんスか? 『あーん、おいしい?』みたいなやつ」
「見たまんまだよ」と、俺は返した。
クリスが眉をピクリと動かす。
「まさか、また『あーん』をやったのか!」
「やったも何も、もうあれは日常的な光景だ」
「なに?! 蜜イチゴの話だけじゃなかったのか!」
「いやいや団長、ケーキっすよ。小っちゃいのが何種類も皿にあって、二人で分けて食うんスよ。『リア様、あーん』『おいしいですか? もっと?』って。つーかね? そもそも料理も二人で分けて食ってからの、それッスよ? イッチャイチャのラッブラブっすよ?」
クリスがサバサンドを片手にガックリと項垂れた。
「あれは小食な彼女が、色々な種類の料理を食べられるようにと、アレンが気配りでやっているのだ。ついでに言うと『あーん』はフィデルもよくやる」
「そこだけ別世界なんスよ。お花畑みたいな。周りも食うの忘れてボーーっと見てる人とかいて」
言われてみると、確かにこちらをボーっと見ている奴らがいた。あれは二人を見ていたのか。
「あれ気にならないんスか? 婚約者的に」と、ニッコロが言った。
「毎日あんな感じだしな。甘やかされているリアは可愛いし、俺はむしろアレンを応援している。いずれ夫仲間が欲しいから」
「ヴィル先輩、大物すぎ。尊敬するマジで」
「ありがとう」
クリスが頭を抱えて「羨ましい」と呟いた。
「俺だって彼が羨ましいぞ」
「ヴィルはいくらでもできるだろうが」
「いや、俺にはそもそも彼女が喜ぶ食べ物を選べないという致命的な欠陥がある」
「そこは頑張れよ……まあ面白いがな」
「真面目な話、不得意分野を助けてもらえるのは有り難い。美味そうに食べる可愛いリアを正面から見られるのも俺としては嬉しいし」
「あー……俺は何もかもが羨ましいぜ」と、クリスは肩を落とした。
クリスがリアと急接近を果たすには、やはり異動だ。第一騎士団に来るのが一番だと俺は思っている。
「早く次の夜会へ行け」と、クリスが急かした。
「まあまあ団長、落ち着いて?」
「お前が言うなッ!!」
「何も収穫がなかったわけじゃないッスよ」
「本当だろうな……」
「ほら、このサバサンド。大収穫でしょ? オレのおかげですよ?」
「キーサーマー……」
「いやいやいやいや! すぐにどうこうってのは無理ッスけど、ちゃんとしますから! ねっ?」
俺達の都合はさて置き、ニッコロも危機感が足りない。
この調子でモタモタしていれば、あっという間に下が追い上げてきて、追い抜かれることになる。
かつて俺とクリスも、先輩や上官から尻を叩かれながら上まで駆け上がった。
当時は上官が鬼にしか見えなかったが、俺の将来のことを考えてやってくれていたことだった。俺はそんな立派な上官になれるタイプではないが、多少は彼の人生を良くする手伝いがしたいと思っている。
「ニッコロ、クリスの気持ちも分かってやってくれ。彼はお前に仕事を引き継ぎたいのだ」
「え? 何の仕事ッスか?」
「全部だ、全部」
「全部って、それ団長の仕事じゃないッスか」
「そうだよ」
「いやいや。だってオレ、まだ副隊長ッスよ? ペーペーだもん」
なにがペーペーだ。
分かっていないなぁ……。
「お前は地元に戻っていた期間がある分、出遅れている。同期の出世株はもう隊長だろう?」
「そうッスね。上司の隊長も騎士科の同学年だし」
「皆、副団長への出世が視野に入っている中で、しのぎを削っているのだぞ?」
「あー、はい……。そうッスね。いやー、そうッスよねぇ。そうかぁ……皆そういうのを意識してんのかぁ」
ニッコロは手に付いた白ソースをぺろんと舐めながら言った。
「そんな中で、クリスから大きな期待をかけられているのがお前だ。爆速で上まで駆け抜けられるのは、ごく一握りの人間だけなのだぞ?」
「うっ……」
「その幸運な一群の中にいながら、お前はたかだか『色の試験』のせいで足踏みをしている」
「そ、そうッスねぇ。そっか、あれを通らないと隊長になれないし……うーん……」
よし。いいぞ、俺。
上手い感じで彼の意識を出世に向けられている。もう一押しして、彼の競争心に火をつけてやろう。
「お前の出世が遅れるのであれば……」
「はい」
「うちのフィデル・ジェラーニを一時的に第三騎士団長にすることも考えなければならない」
どうだ、ニッコロ。
お前以外にも候補となる者がいるのだぞ?
悔しがれ。そして、食らいついてこい。
「いいや、団長になるのはオレだ」と言ってみろ。
「おおっ!」
「ん?」
「筋肉集団からオシャレ集団への大改革って感じじゃないスか?!」
「は?」
「ヤバいっすね、ジェラーニ軍団……いや、マジで!」
奴はなぜかフルフルと震えている。
「オレ、弟子入りしたいッス!」
「なんだと?」
「あのダンディーなカッコ良さ! マジで男の憧れッスよ! オシャレ番長に、オレはなるッ!」
「……っ!?」
クリスが天井を扇いで目を閉じた。
「……き、聞いたかクリス、こいつ、悔しがりもしないぞ!」
なんなんだこの新人類は! どうしたら、こいつのやる気を刺激できるのだ! もう、俺にはサッパリ分からん。誰かこいつの取扱説明書をくれ!!
俺が肩を落としていると、クリスがため息をついて「時代の変化をひしひし感じるよな」と言った。
「こいつから見たフィデル・ジェラーニは、ライバルどころか雲の上のオッサンだものな」
「やめろクリス。フィデルがオッサンなら、俺達だってオッサン予備軍じゃないか」
「俺はヒゲのオジサンと呼ばれたぞ」
「俺は金色のオッサンだった……残酷すぎる」
激ウマのサバサンドが俺のしょっぱい心を癒してくれた。
はああぁ、リア、あっちでもこっちでもオッサン呼ばわりされている哀れな俺に慈悲をくれ。
「俺、一生このまま第一騎士団長だったらどうしよう」と呟いた。
すると、咀嚼で忙しいニッコロは「んえー? カッコイーじゃないッスかぁ」と、ものすごくテキトーに言った。
俺とクリスは頭を抱えた。
こういうのを諸先輩方が「世代間格差」と呼んでいるのだろうなぁ……。
ニッコロが「オレもリア様と結婚したいなぁ」と言って沈黙を破ると、俺とクリスは同時に口を開いた。
「ダメだ」「ダメだな」
「なんでそれだけは常にハモるんスか?」
「冗談だよ。なりたければ頑張れ。お前はアレンの代わりになれるかな?」と、俺は言った。
「あー……護衛はできるかもッスね。でもぉ」
「でも?」
「あの『溺愛』みたいなのはできないかも……」
「安心しろ。あれは誰にも真似できない」
「っていうか、あれは、なんなんスか? 『あーん、おいしい?』みたいなやつ」
「見たまんまだよ」と、俺は返した。
クリスが眉をピクリと動かす。
「まさか、また『あーん』をやったのか!」
「やったも何も、もうあれは日常的な光景だ」
「なに?! 蜜イチゴの話だけじゃなかったのか!」
「いやいや団長、ケーキっすよ。小っちゃいのが何種類も皿にあって、二人で分けて食うんスよ。『リア様、あーん』『おいしいですか? もっと?』って。つーかね? そもそも料理も二人で分けて食ってからの、それッスよ? イッチャイチャのラッブラブっすよ?」
クリスがサバサンドを片手にガックリと項垂れた。
「あれは小食な彼女が、色々な種類の料理を食べられるようにと、アレンが気配りでやっているのだ。ついでに言うと『あーん』はフィデルもよくやる」
「そこだけ別世界なんスよ。お花畑みたいな。周りも食うの忘れてボーーっと見てる人とかいて」
言われてみると、確かにこちらをボーっと見ている奴らがいた。あれは二人を見ていたのか。
「あれ気にならないんスか? 婚約者的に」と、ニッコロが言った。
「毎日あんな感じだしな。甘やかされているリアは可愛いし、俺はむしろアレンを応援している。いずれ夫仲間が欲しいから」
「ヴィル先輩、大物すぎ。尊敬するマジで」
「ありがとう」
クリスが頭を抱えて「羨ましい」と呟いた。
「俺だって彼が羨ましいぞ」
「ヴィルはいくらでもできるだろうが」
「いや、俺にはそもそも彼女が喜ぶ食べ物を選べないという致命的な欠陥がある」
「そこは頑張れよ……まあ面白いがな」
「真面目な話、不得意分野を助けてもらえるのは有り難い。美味そうに食べる可愛いリアを正面から見られるのも俺としては嬉しいし」
「あー……俺は何もかもが羨ましいぜ」と、クリスは肩を落とした。
クリスがリアと急接近を果たすには、やはり異動だ。第一騎士団に来るのが一番だと俺は思っている。
「早く次の夜会へ行け」と、クリスが急かした。
「まあまあ団長、落ち着いて?」
「お前が言うなッ!!」
「何も収穫がなかったわけじゃないッスよ」
「本当だろうな……」
「ほら、このサバサンド。大収穫でしょ? オレのおかげですよ?」
「キーサーマー……」
「いやいやいやいや! すぐにどうこうってのは無理ッスけど、ちゃんとしますから! ねっ?」
俺達の都合はさて置き、ニッコロも危機感が足りない。
この調子でモタモタしていれば、あっという間に下が追い上げてきて、追い抜かれることになる。
かつて俺とクリスも、先輩や上官から尻を叩かれながら上まで駆け上がった。
当時は上官が鬼にしか見えなかったが、俺の将来のことを考えてやってくれていたことだった。俺はそんな立派な上官になれるタイプではないが、多少は彼の人生を良くする手伝いがしたいと思っている。
「ニッコロ、クリスの気持ちも分かってやってくれ。彼はお前に仕事を引き継ぎたいのだ」
「え? 何の仕事ッスか?」
「全部だ、全部」
「全部って、それ団長の仕事じゃないッスか」
「そうだよ」
「いやいや。だってオレ、まだ副隊長ッスよ? ペーペーだもん」
なにがペーペーだ。
分かっていないなぁ……。
「お前は地元に戻っていた期間がある分、出遅れている。同期の出世株はもう隊長だろう?」
「そうッスね。上司の隊長も騎士科の同学年だし」
「皆、副団長への出世が視野に入っている中で、しのぎを削っているのだぞ?」
「あー、はい……。そうッスね。いやー、そうッスよねぇ。そうかぁ……皆そういうのを意識してんのかぁ」
ニッコロは手に付いた白ソースをぺろんと舐めながら言った。
「そんな中で、クリスから大きな期待をかけられているのがお前だ。爆速で上まで駆け抜けられるのは、ごく一握りの人間だけなのだぞ?」
「うっ……」
「その幸運な一群の中にいながら、お前はたかだか『色の試験』のせいで足踏みをしている」
「そ、そうッスねぇ。そっか、あれを通らないと隊長になれないし……うーん……」
よし。いいぞ、俺。
上手い感じで彼の意識を出世に向けられている。もう一押しして、彼の競争心に火をつけてやろう。
「お前の出世が遅れるのであれば……」
「はい」
「うちのフィデル・ジェラーニを一時的に第三騎士団長にすることも考えなければならない」
どうだ、ニッコロ。
お前以外にも候補となる者がいるのだぞ?
悔しがれ。そして、食らいついてこい。
「いいや、団長になるのはオレだ」と言ってみろ。
「おおっ!」
「ん?」
「筋肉集団からオシャレ集団への大改革って感じじゃないスか?!」
「は?」
「ヤバいっすね、ジェラーニ軍団……いや、マジで!」
奴はなぜかフルフルと震えている。
「オレ、弟子入りしたいッス!」
「なんだと?」
「あのダンディーなカッコ良さ! マジで男の憧れッスよ! オシャレ番長に、オレはなるッ!」
「……っ!?」
クリスが天井を扇いで目を閉じた。
「……き、聞いたかクリス、こいつ、悔しがりもしないぞ!」
なんなんだこの新人類は! どうしたら、こいつのやる気を刺激できるのだ! もう、俺にはサッパリ分からん。誰かこいつの取扱説明書をくれ!!
俺が肩を落としていると、クリスがため息をついて「時代の変化をひしひし感じるよな」と言った。
「こいつから見たフィデル・ジェラーニは、ライバルどころか雲の上のオッサンだものな」
「やめろクリス。フィデルがオッサンなら、俺達だってオッサン予備軍じゃないか」
「俺はヒゲのオジサンと呼ばれたぞ」
「俺は金色のオッサンだった……残酷すぎる」
激ウマのサバサンドが俺のしょっぱい心を癒してくれた。
はああぁ、リア、あっちでもこっちでもオッサン呼ばわりされている哀れな俺に慈悲をくれ。
「俺、一生このまま第一騎士団長だったらどうしよう」と呟いた。
すると、咀嚼で忙しいニッコロは「んえー? カッコイーじゃないッスかぁ」と、ものすごくテキトーに言った。
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