3 / 12
2
しおりを挟む
目覚めると、そこは牢屋だった。
状況は分からないが、取り敢えず板張りの床から体を起こす。
その時、俺は自分の着物が白い女物の着物ではなくなっている事に気が付いた。
柄の入った、まるで裕福な町人が着るような灰色の着流し。生地も普段自分が着ていた物と比べればかなり上等だ。
何故こんな上等なものを着せられているのだろうかと、首を傾げていると、複数の人が近付いてくる気配がした。
そちらへと目を向けると、程なくして三つの人影が現れた。
薄暗い中、三つの人影は灯りを携えて足音を響かせながらこちらへと近付き、俺がいる牢屋の前で止まった。三人共、随分と背が高い。
「目が覚めたか」
顔はよく見えないが、落ち着いた低い声だった。
そこには敵意も憎悪も感じられなくて。初めてそんな穏やかな声で話しかけられて、俺は少し面食らってしまった。
「貴様!蒼月様が直々にお言葉をかけて下さったのだぞ!早く答えぬか!」
すると、声をかけてくれた──蒼月と呼ばれた男性の後ろに控えていた二つの人影の内、向かって左にいた男が声を荒げてそう言った。どうやら驚いて無言でいた俺が気に食わなかったらしい。
けれど、ようやっと聞き慣れた敵意を含んだ声をかけられた事で俺は平静を取り戻した。
「失礼いたしました。ご無礼をお許しください」
にこりと笑って深々と頭を下げると、今度は男性の向かって右後ろに控えていた男が口を開いた。
「最初からそうしておれば良いものを」
蔑むような、侮蔑の意思を孕んだ声。おかげで完全に冷静になれた。
「…顔を上げよ」
「はい」
落ち着いた男性の声に一瞬動揺しそうになったが、直ぐに消し去り、言われた通り顔を上げた俺は緩く口角を上げて見せる。
「単刀直入に聞く。どうやってこの屋敷に侵入したのだ?」
「侵入…と申されましても、俺はここがどこなのか分かりません。そもそも──」
「何だと!貴様、そのような見え透いた嘘を──」
「やめよ」
声を荒げた左隣りにいた男を落ち着いた声の男性が右手を上げて制する。
「済まなかったな。続けてくれ」
未だに顔は見えないが、声からして怒っていない事は分かる。
「…そもそも、あなた方はどなたなのでしょうか?身分ある方だとはお見受けしますが、何分俺は学がありません。宜しければ、教えて頂けないでしょうか?」
笑顔を絶やさずにそう言い切ると、男性は暫く思案するように無言だったが、やがて口を開いた。
「…確認するが、本当にここがどこなのか分からないのだな?」
「はい」
「…そうか。分かった。その言葉、信じよう」
「蒼月様!?」
驚いたように自身の名を呼んだ右隣りの男には構わずに、男性はゆっくりと俺と目線を合わせるように膝を折った。
すると、漸く男性の顔が灯りに照らされ、はっきりと視認できた。けれど…
「私は蒼月。この鬼の里の頭領だ」
その男性の額には二本の角が生えていた。
状況は分からないが、取り敢えず板張りの床から体を起こす。
その時、俺は自分の着物が白い女物の着物ではなくなっている事に気が付いた。
柄の入った、まるで裕福な町人が着るような灰色の着流し。生地も普段自分が着ていた物と比べればかなり上等だ。
何故こんな上等なものを着せられているのだろうかと、首を傾げていると、複数の人が近付いてくる気配がした。
そちらへと目を向けると、程なくして三つの人影が現れた。
薄暗い中、三つの人影は灯りを携えて足音を響かせながらこちらへと近付き、俺がいる牢屋の前で止まった。三人共、随分と背が高い。
「目が覚めたか」
顔はよく見えないが、落ち着いた低い声だった。
そこには敵意も憎悪も感じられなくて。初めてそんな穏やかな声で話しかけられて、俺は少し面食らってしまった。
「貴様!蒼月様が直々にお言葉をかけて下さったのだぞ!早く答えぬか!」
すると、声をかけてくれた──蒼月と呼ばれた男性の後ろに控えていた二つの人影の内、向かって左にいた男が声を荒げてそう言った。どうやら驚いて無言でいた俺が気に食わなかったらしい。
けれど、ようやっと聞き慣れた敵意を含んだ声をかけられた事で俺は平静を取り戻した。
「失礼いたしました。ご無礼をお許しください」
にこりと笑って深々と頭を下げると、今度は男性の向かって右後ろに控えていた男が口を開いた。
「最初からそうしておれば良いものを」
蔑むような、侮蔑の意思を孕んだ声。おかげで完全に冷静になれた。
「…顔を上げよ」
「はい」
落ち着いた男性の声に一瞬動揺しそうになったが、直ぐに消し去り、言われた通り顔を上げた俺は緩く口角を上げて見せる。
「単刀直入に聞く。どうやってこの屋敷に侵入したのだ?」
「侵入…と申されましても、俺はここがどこなのか分かりません。そもそも──」
「何だと!貴様、そのような見え透いた嘘を──」
「やめよ」
声を荒げた左隣りにいた男を落ち着いた声の男性が右手を上げて制する。
「済まなかったな。続けてくれ」
未だに顔は見えないが、声からして怒っていない事は分かる。
「…そもそも、あなた方はどなたなのでしょうか?身分ある方だとはお見受けしますが、何分俺は学がありません。宜しければ、教えて頂けないでしょうか?」
笑顔を絶やさずにそう言い切ると、男性は暫く思案するように無言だったが、やがて口を開いた。
「…確認するが、本当にここがどこなのか分からないのだな?」
「はい」
「…そうか。分かった。その言葉、信じよう」
「蒼月様!?」
驚いたように自身の名を呼んだ右隣りの男には構わずに、男性はゆっくりと俺と目線を合わせるように膝を折った。
すると、漸く男性の顔が灯りに照らされ、はっきりと視認できた。けれど…
「私は蒼月。この鬼の里の頭領だ」
その男性の額には二本の角が生えていた。
11
あなたにおすすめの小説
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる