チート魔王はつまらない。

碧月 晶

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147.契約 sideアメ

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全砲門に魔力を集中させる。一斉射撃されたそれらは真っ直ぐに飛んでいき──

パァン!

ドラゴンを捉えていた『封印』を破壊した。

『………どういうつもりだ』
「どうもこうもないよ」

ドラゴンさんはここに封印されてる事が外に知れるのが嫌。なら、ドラゴンさんがここからいなくなっちゃえば済む話だよね。

『…それで我にかけられていた封印を破壊したと?』
「うん」

戦闘したのは、少しの好奇心と下準備が必要だったからかな。

『下準備?』
「その封印って、かけられた対象の力が強ければ強い程強力になるって奴でしょ?」
『! 何故それを知っている』

そんなもん見りゃ分かるよ。俺を誰だと思ってるの?魔王だよ?

「って事は、対象を弱らせる程破壊できる可能性も上がるって訳」

まあ、別にそんな事しなくても壊せたけど。この方法が一番少ない労力でできそうだったからね。

『…ふ、はははははは!』

え、何でいきなり笑い出したの?ちょっとついていけないんですけど…

『魔王よ、そなた名は何という』
「雨」
『そうか、アメか』

反芻するように俺の名前を繰り返したかと思えば、突然ドラゴンの体から淡い光が放たれ始める。
その光は徐々に明るさを増していき、遂にはドラゴン全体を覆いつくし、眩い光の玉になった。

眩しっ。あまりの光量に手を翳し、目を細める。

そのまま暫く見つめていると、煌々と輝いていた光の玉は段々と光量を落としていき、最終的に直径30センチ程の光る球体となった。

そして、光の膜が剥がれ落ち、その中にいる者が姿を現す。

『気に入った。我はそなたについていこう。我があるじよ』
「…は?」

俺の視線の高さで、小さな体から生えたこれまた小さな翼をパタパタと羽ばたかせ、ドラゴン──いや小竜はそう言った。

…んんん?その前にちょっといいかな

「何で縮んでんの?」
『先の戦闘で大幅に我の力が削がれてしまったからな。この姿の方が消費量が少なくて済むのだ』

ああ、なるほど。いわゆる省エネモードって奴か。

「ていうか、主って何」
『主は主だ。我が主殿よ、ついては名を頂きたいのだが』
「名前?」
われが、主の名を魂に刻み、主がわれに名付ける事によって主従の契約は成立する』

さあ、早くと言わんばかりに詰め寄ってくる小竜──もといドラゴン(ややこしいな)に待ったをかける。

「そもそも俺、別にアンタと主従の契約結びたいとか思ってないんだけど」
『我はそなたを主と決めた。何が不満なのだ』
「………」

ええー、もしかしてこの人(?)って話通じない系?

どうしようと、ルカの方を見る。

俺の視線に気が付いたのか、ルカは直ぐに俺の傍に来てくれた。そして、今し方起きている問題を簡潔に説明すると、意外な答えが帰ってきた。

「ドラゴン殿が旅に加わってくれるというのであれば、これほど心強い事はないと思うが」

なんと、契約しちゃえよと言外に言われたのである。

「ドラゴン殿がアメの傍にいてくださるのなら、私も安心できる」
「安心って…俺は一人でも大丈夫だけど?」

子供じゃないんだし。俺は魔王だよ?

「だが、万が一という事もあるだろう。今回のように不測の事態が起こった時に私が傍にいてやれない事がこの先ないとも言い切れない」

その後もルカはあらゆる可能性を提示してきて、俺を心配してくれてるのが充分過ぎるくらいに伝わってきた。

だからなのか、気が付いた時には俺は契約を受け入れると言っていた。

『では我が主よ、名付けを』

小竜がじっと俺を見つめる。その時気付いた。その虹彩が七つの色に輝いている事に。

「…イリゼ」

言葉が自然と零れ落ちる。確か、あっちの世界のどこかの国の言葉で『虹色の』って意味だったと思う。

その瞬間、俺と小竜──イリゼの体が金色の光に包まれる。

『これで、契約は成った』

その光は優しく、柔らかく、俺たちを包み込んだ。


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