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2 side C
しおりを挟む「おはよう、千秋くん!」
逞との会話に割り込むように発せられたその声に、逞もいるのになと思いながら振り返る。
「おはよう、藤原」
藤原愛生。
クラスメイトとしてそれなりに言葉は交わしてきたけれど、この前つずきくんと出掛けた日を境によく話し掛けられるようになった。
それ自体は別に問題はないけれど、それと同時期につずきくんが暫くお昼を一緒に出来ないと言ってきた事が気にかかる。
理由は文化祭に向けてクラスで昼休みを使って準備を進める事になったからだと言っていたけど…
「…やっぱ、あんな事言ったからかなー」
「何がだ」
「あれ、藤原は?」
「さっき早々に追い返しただろう」
「んー…そだっけ?」
「……お前、あんなに朗らかな顔して半強制的に会話終了させといて…」
はて、何のことやら。
「まあいい。そんな事より」
「逞も何気に酷いよね」
「…あの甲高い声が苦手なんだ」
「ああ」
確かに。女の子の声は男より高い。子供が叫ぶような声とまではいかないけれど、演歌が好きな逞にはちょっと金切り声は合わないんだろう。
まあ俺は弟妹で慣れちゃったんだけどね。泣いちゃった時のあの声、あれは一種の凶器だね。何度鼓膜が破れるかと思った事か。
「それで、何なんだあんな事って」
「うーん。ストレートに聞けちゃう所が逞らしいよね」
逞は唯一、俺がつずきくんに恋愛感情を抱いている事を知っている人物だ。
好きな人が出来たと報告した時はおめでとうと言ってくれたし、相手が男だと明かした後も偏見なく受け入れてくれた上に頑張れと相談にまで乗ってくれるようになった。
「何て言うか、やらかしちゃった感があるっていうか」
「今更じゃないのか」
「それはそうなんだけどー」
いつものように戯れに抱き付いただけな訳じゃない。
「あれはダメだよねー…あーもうミスったなぁ」
「そうか、分からん。が、そんなに気になるなら直接本人に聞けばいいんじゃないのか」
目から鱗が落ちた気分だった。
「それだ!」
さすがお父さん。頼りになる。
まだ避けられてると決まった訳じゃないんだ。
早速、昼休みに行ってみよう。
少し話すくらいはできるだろう。
*********
なんて、意気込んで迎えた昼休みだったけれど…
「風邪?」
「はい。今朝、山本先生がそう仰られてました」
つずきくんは居なかった。
「あ、いたいた。千秋くーん、もぉ探したんだよ?」
「げっ」
げっ、て。仮にも女の子にそれはちょっと失礼だよ、逞。
腕を掴もうとしてきたその手をやんわりと制し、つずきくんのクラスメイト──もとい琉生くんに向き直る。
「そっか。ありがとうね」
「いえいえ。あ、泉水先輩」
「ん?」
「これ、午前に配られた課題プリントです。…西条に宜しく言っといて下さいね」
数枚のプリントを俺に渡しながら耳打ちされる。
「あ、姉さんちょうど良い所に。朝ドライヤー出しっぱなしで行ったでしょ。芽生姉さんが凄く怒ってたよ」
「あっ…わ、忘れてた…どーしよ琉生くんっ!」
その意味を俺が問おうとするよりも早く、琉生くんは藤原と俺の間にさり気なく体を滑り込ませた。
「…千秋、今のうちに行こう」
「…そうだね」
告げられた内容に焦る藤原と琉生くんを尻目に、俺達はそっとその場から離脱した。
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