メルギゾーク~The other side of...~

江村朋恵

文字の大きさ
2 / 66
第1話プロローグ

(001)プロローグ・砂の都

しおりを挟む
 ──風の渡る回廊に、一人佇む。
 他に人の姿はない。
 二千年も前であれば、競うように華やかな衣服と装飾品で着飾った貴族達が、囁きあいながらこの回廊を渡ったかもしれない。
 全周囲、半ば砂に埋もれ、屋根部も穴だらけ。
 時々、凄みのある彫刻が原形を保ち、まれに訪れる旅人を威嚇する。
 ここに都があったのだ。
 ここが国の中心だったのだ。
 ただ、国が滅んで二千年以上経っている。
 水が枯れゆくかのように人通りは失せ、皆、新しい都市に移っていった。
 滅び行くのを、止める事は出来なかった。
 それでも、威風堂々と立ち並ぶ、既に遺跡と呼ばれる宮殿群。
 砂に埋もれた都を、空を、雲を、大地を、地平線ギリギリに落ちていく夕日が、紅く紅く染める。
 ただ一人、訪れていた者もまた、風になびくローブとともに紅く滲む。
 延々と広がる荒野――ただ静かに長い時を眠りつづける忘れられた都。
「旧《ふる》き場所には魔物が棲むという」
 旅人ははっきりした口調でつぶやくと、回廊から宮殿内部へと足を向けた。
 ところどころ瓦礫に道を塞がれていた。が、その程度の障害はこの旅人にとって大きな問題ではなかった。
 歩みを進める度、腰に下げた長剣の鞘と腰当てがぶつかり、カコチャキカコチャキと軽妙な音を立てる。また、その靴音もやけに響いた。
 ローブが風にたなびき、その後を追うように夕日を受けて紅く煌く艶やかな長い黒髪が、サラサラと流れる。
 足の運びは舞うように優雅だ。
 舞踊と武術にはごく近い流れがある。人が体を使う事に違いはないのだから、思想が異なったとしても真理は同じなのかもしれない。
 宮殿入り口に程近く、さぞや堂々、立派に訪れる人々を迎えていたであろう石造りのゲートがある。今は、閉ざされた扉のように崩れ落ちて人を通さない。
 巨大な壁が行く手を塞いでいるようでもあった。
 旅人は意に介した風もなくスラリと剣を抜き放ち、口元で小さく短い言葉を呟いた。同時に、空いた手を刃の付け根にかざし、指を走らせて何がしかの文字を書いた。指の通り過ぎた場所には青白い光の軌跡が残る。
 空気を震わせる低い声に応え、剣は鳴動する。
 軌跡は剣に吸い込まれ、薄ら蒼い光を帯びた。
 剣に鋭さが増したように見えるのは、錯覚ではない。
 魔術のきらめき。
 気合一閃。
 旅人は長剣を大段に構え、一気に振り下ろした。
 慣れた態で剣を鞘に収めた時、ゲートは両断され、ずんと重い音を轟かせて左右に割れた。あっさりと旅人に道を開いたのだ。
 旅人は、魔術操る剣士、通称魔法剣士と呼ばれる人種だった。
 これから、旅人は封印された歴史の中へと足を踏み入れる。
 なぜ、滅んだか。
 誰が滅ぼしたか。
 逃げた民は何を思ったか。
 ──最後の王は、何を望んだか。

 

 ──旅人が夕日に紅く染め上げられていた頃、荒野を超え、大きな山を三つばかりまたいだ先の街で、とある少女の絶叫が響き渡った。
「なんでぇえっ!?」
 物語の始まりを告げる声は高らかに──不満をぶち撒けた。
「なんで、なんでまた、不合格なのよっ!!」
 拳を振り上げ、紫紺の瞳を紅く揺らめく落日に向けた。夕日だけは、落胆した少女を遥かなる遺跡と同じように染める。
 微かに滲む悔し涙。
 情けなさに笑みの形に歪む口元。
 同じ空の下、物語は幕を開ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

処理中です...