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第1話プロローグ
(001)プロローグ・砂の都
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──風の渡る回廊に、一人佇む。
他に人の姿はない。
二千年も前であれば、競うように華やかな衣服と装飾品で着飾った貴族達が、囁きあいながらこの回廊を渡ったかもしれない。
全周囲、半ば砂に埋もれ、屋根部も穴だらけ。
時々、凄みのある彫刻が原形を保ち、まれに訪れる旅人を威嚇する。
ここに都があったのだ。
ここが国の中心だったのだ。
ただ、国が滅んで二千年以上経っている。
水が枯れゆくかのように人通りは失せ、皆、新しい都市に移っていった。
滅び行くのを、止める事は出来なかった。
それでも、威風堂々と立ち並ぶ、既に遺跡と呼ばれる宮殿群。
砂に埋もれた都を、空を、雲を、大地を、地平線ギリギリに落ちていく夕日が、紅く紅く染める。
ただ一人、訪れていた者もまた、風になびくローブとともに紅く滲む。
延々と広がる荒野――ただ静かに長い時を眠りつづける忘れられた都。
「旧《ふる》き場所には魔物が棲むという」
旅人ははっきりした口調でつぶやくと、回廊から宮殿内部へと足を向けた。
ところどころ瓦礫に道を塞がれていた。が、その程度の障害はこの旅人にとって大きな問題ではなかった。
歩みを進める度、腰に下げた長剣の鞘と腰当てがぶつかり、カコチャキカコチャキと軽妙な音を立てる。また、その靴音もやけに響いた。
ローブが風にたなびき、その後を追うように夕日を受けて紅く煌く艶やかな長い黒髪が、サラサラと流れる。
足の運びは舞うように優雅だ。
舞踊と武術にはごく近い流れがある。人が体を使う事に違いはないのだから、思想が異なったとしても真理は同じなのかもしれない。
宮殿入り口に程近く、さぞや堂々、立派に訪れる人々を迎えていたであろう石造りのゲートがある。今は、閉ざされた扉のように崩れ落ちて人を通さない。
巨大な壁が行く手を塞いでいるようでもあった。
旅人は意に介した風もなくスラリと剣を抜き放ち、口元で小さく短い言葉を呟いた。同時に、空いた手を刃の付け根にかざし、指を走らせて何がしかの文字を書いた。指の通り過ぎた場所には青白い光の軌跡が残る。
空気を震わせる低い声に応え、剣は鳴動する。
軌跡は剣に吸い込まれ、薄ら蒼い光を帯びた。
剣に鋭さが増したように見えるのは、錯覚ではない。
魔術のきらめき。
気合一閃。
旅人は長剣を大段に構え、一気に振り下ろした。
慣れた態で剣を鞘に収めた時、ゲートは両断され、ずんと重い音を轟かせて左右に割れた。あっさりと旅人に道を開いたのだ。
旅人は、魔術操る剣士、通称魔法剣士と呼ばれる人種だった。
これから、旅人は封印された歴史の中へと足を踏み入れる。
なぜ、滅んだか。
誰が滅ぼしたか。
逃げた民は何を思ったか。
──最後の王は、何を望んだか。
──旅人が夕日に紅く染め上げられていた頃、荒野を超え、大きな山を三つばかりまたいだ先の街で、とある少女の絶叫が響き渡った。
「なんでぇえっ!?」
物語の始まりを告げる声は高らかに──不満をぶち撒けた。
「なんで、なんでまた、不合格なのよっ!!」
拳を振り上げ、紫紺の瞳を紅く揺らめく落日に向けた。夕日だけは、落胆した少女を遥かなる遺跡と同じように染める。
微かに滲む悔し涙。
情けなさに笑みの形に歪む口元。
同じ空の下、物語は幕を開ける。
他に人の姿はない。
二千年も前であれば、競うように華やかな衣服と装飾品で着飾った貴族達が、囁きあいながらこの回廊を渡ったかもしれない。
全周囲、半ば砂に埋もれ、屋根部も穴だらけ。
時々、凄みのある彫刻が原形を保ち、まれに訪れる旅人を威嚇する。
ここに都があったのだ。
ここが国の中心だったのだ。
ただ、国が滅んで二千年以上経っている。
水が枯れゆくかのように人通りは失せ、皆、新しい都市に移っていった。
滅び行くのを、止める事は出来なかった。
それでも、威風堂々と立ち並ぶ、既に遺跡と呼ばれる宮殿群。
砂に埋もれた都を、空を、雲を、大地を、地平線ギリギリに落ちていく夕日が、紅く紅く染める。
ただ一人、訪れていた者もまた、風になびくローブとともに紅く滲む。
延々と広がる荒野――ただ静かに長い時を眠りつづける忘れられた都。
「旧《ふる》き場所には魔物が棲むという」
旅人ははっきりした口調でつぶやくと、回廊から宮殿内部へと足を向けた。
ところどころ瓦礫に道を塞がれていた。が、その程度の障害はこの旅人にとって大きな問題ではなかった。
歩みを進める度、腰に下げた長剣の鞘と腰当てがぶつかり、カコチャキカコチャキと軽妙な音を立てる。また、その靴音もやけに響いた。
ローブが風にたなびき、その後を追うように夕日を受けて紅く煌く艶やかな長い黒髪が、サラサラと流れる。
足の運びは舞うように優雅だ。
舞踊と武術にはごく近い流れがある。人が体を使う事に違いはないのだから、思想が異なったとしても真理は同じなのかもしれない。
宮殿入り口に程近く、さぞや堂々、立派に訪れる人々を迎えていたであろう石造りのゲートがある。今は、閉ざされた扉のように崩れ落ちて人を通さない。
巨大な壁が行く手を塞いでいるようでもあった。
旅人は意に介した風もなくスラリと剣を抜き放ち、口元で小さく短い言葉を呟いた。同時に、空いた手を刃の付け根にかざし、指を走らせて何がしかの文字を書いた。指の通り過ぎた場所には青白い光の軌跡が残る。
空気を震わせる低い声に応え、剣は鳴動する。
軌跡は剣に吸い込まれ、薄ら蒼い光を帯びた。
剣に鋭さが増したように見えるのは、錯覚ではない。
魔術のきらめき。
気合一閃。
旅人は長剣を大段に構え、一気に振り下ろした。
慣れた態で剣を鞘に収めた時、ゲートは両断され、ずんと重い音を轟かせて左右に割れた。あっさりと旅人に道を開いたのだ。
旅人は、魔術操る剣士、通称魔法剣士と呼ばれる人種だった。
これから、旅人は封印された歴史の中へと足を踏み入れる。
なぜ、滅んだか。
誰が滅ぼしたか。
逃げた民は何を思ったか。
──最後の王は、何を望んだか。
──旅人が夕日に紅く染め上げられていた頃、荒野を超え、大きな山を三つばかりまたいだ先の街で、とある少女の絶叫が響き渡った。
「なんでぇえっ!?」
物語の始まりを告げる声は高らかに──不満をぶち撒けた。
「なんで、なんでまた、不合格なのよっ!!」
拳を振り上げ、紫紺の瞳を紅く揺らめく落日に向けた。夕日だけは、落胆した少女を遥かなる遺跡と同じように染める。
微かに滲む悔し涙。
情けなさに笑みの形に歪む口元。
同じ空の下、物語は幕を開ける。
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