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第8話 大賞受賞! ヤバい出版社へ。
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次の日。土曜日。休日のオフィス街に人は少ない。地球最後の日の1日前みたいな雰囲気。なんだそれ?
スマホの地図アプリで確認しながら街をさまようけど、どういうわけか目的地が表示されない。
「変だなあ」
住所を入力すると、おおざっぱな区画は出るんだけど、建物が出てこない。そもそもそんな番地がないみたい。
もしかして住所を間違えたのかも。何度もおなじところをグルグルまわって、いったい何周目だろう、あきらめかけたときに、せまい路地がある。
変だなあ。さっきはこんな路地、なかったはずなのに。
なんだかいやな予感がする。こういうときって、たいてい、よくないことが起こるよね。
路地に入ると暗くなる。じめっとしたアスファルト。なにかが腐った臭い。いやだなあ、やっぱり来なきゃよかった。
引き返そう。そう思ったとき、目の前に古いビルがあって、「ヘル出版 4階」とビル横の看板に書いてある。あ、ここだ。
昨日、しかばね先生の小説を郵便局に出したあと、電話が来た。それはヘル出版というところからで、小説大賞受賞のしらせだった。
うれしさ10パー、驚き90パー。だって郵便局に持ってって、まだ10分もたってないんだよ。原稿はまだ郵便局内にあるはずだし。
「え、でもさっき出したばかりで……」
疑う僕に、電話の男は、
「受賞したのは鹿羽根はじめさんの『詩学三十六景』。おたくさんですね」
低く、威圧的な声だ。
「あ、はい……」
「明日、会社まで来てください」
「え? 会社ってどこに……」
「あんたどこに応募したんだ? 住所書いただろ」
「あ、はい……」
「じゃあ明日、必ず」
電話は切れていた。うむを言わさぬ口調だった。
そうして今日、僕は不安な気持ちでビルに入る。せまい玄関から汚いエレベーターに乗る。
ボタンを押そうとすると、突然、髪の長い女の人が入ってくる。
うわっ、なんだ。
エレベーター中に腐敗臭がただよう。
口と鼻を押さえると、ポツン、ポツン……音が聞こえてくる。見ると、女の人はびしょ濡れだよ! 白い服から水がしたたってる。
やばい、これは絶対。
はやく4階に行こう、そう思ってボタンを押すと、
「4階!」
女の人が奇声をあげる。
垂れた黒髪のあいだから、女の人の目が見えた。あきらかにおびえてる。
「あの、僕――」
まだしゃべってるのに、エレベーターを飛び出していなくなってしまった。
ど、どういうこと?
ドアが閉まり、エレベーターが動きだす。アトラクションみたいな揺れ方で上昇していき、止まる。
エレベーターからでると、フロアにはドアがひとつだけ。
探偵事務所のドアみたいな、古いドア。曇りガラスの向こうがどうなってるのかはわからない。
緊張する。だって出版社に来るなんてはじめてだよ。
深呼吸して、ドアをノックする。
しばらくすると、くもりガラスの向こうに影が現れ、
「おう、来たな」
ドアが開く。ぬっと顔を出したのは、よれたスーツを着たシブい男だ。浅黒い肌で、殺し屋みたいな目をしてる。殺し屋を見たことないけど。
「入れよ」
男はくるりと背中を向ける。タバコとオーデコロンの臭いが鼻をつく。
この人、昨日の電話の人だ。威圧感におぼえがある。40代くらいだと思うけど、なんか、昭和を戦いぬいた迫力をみたいなものをプンプンさせて、やり手の編集者って感じだ。
気がつくと、男の人はいなくなってる。まずい。あわてて追いかける。ドアからなかに入ったとたん、いきなりわっと声がした。
オフィスに事務机がいくつもならんで、20人ほどが電話をしたり原稿を読んだり、いそがしくしてる。土曜日なのに大勢働いて、活気がある。
僕を招き入れた殺し屋――間違えた、出版社の男が、机と机のあいだをグイグイ歩いていくのが見える。
置いてかれないようにあとを追う。通りすぎるたびに左右から、社員が電話に話す声が聞こえる。
「おい、死ぬ気で書けよ!」
「だったら書いてから死ねよ!」
「死んだ作家に用はねえ! 死ぬ前に書きあげろ!」
「締切か死か!」
ぶっそう。とにかくぶっそう。きっと電話の向こうには作家がいて、書けないとかなんとか言ってるんだろう。それに対しての編集者の罵詈雑言!
もっと平和に話しあった方が建設的なんじゃないの? そう思ったとき、悲鳴が聞こえる。
見ると窓ぎわで、ああ……作家が何人も拷問されてる。ちょっとここでは描写できないけど、とにかくひどいありさまだ。
どうして彼らを作家だと思ったのかって? だってこの会社で拷問されるのは作家以外にありえない。きっと彼らは締切を破ってしまったんだ。
男が立ち止まる。
「おい見とけ、おまえもああなるんだ」
「ああなるんですか!」
「締切を破ればな」そう言って歩きだす。「だが作家ってのは、締切を破る生きもんだからな。おまえもすぐだぞ」
男はニヤリとふり返り、
「楽しみにな」
た、大変なことになったぞ……。
僕はしかばね先生の小説を応募しただけなんだ。大賞の知らせを受けて、ノコノコやってきてしまったマヌケな学生なんだ。
なのにこの男は拷問を楽しそうに紹介して、なんだか自分でも、したそうに見えるぞ。
まずい、はやく事情を説明しないと。
「あの!」
「ここで話すぞ」
男があごでしゃくる。デスクがならんだ地帯をぬけて、パーティションで区切られた一角に出ていた。
ちょっとした会議や打ち合わせで使うんだろう、壁で仕切られたスペースがいくつかあって、テーブルとイスが置いてある。
でも、なかは血まみれだ。
うわ……。とても入れるような感じじゃない。男はニヤリと笑って、僕の様子をうかがってる。ドSまる出しじゃないか!
なすすべもなく立っていると、男は血のついてないきれいなスペースに入っていく。よかった。まともな場所があるんじゃないか。
ドッカと座った男の正面に、僕も座る。とにかく、これまでのいきさつを話さないと。
「あの、最初に言っておきたいことがあるんです!」
「いいか、俺が嫌いなものは2つ、作家とウソだ」
するどい目で僕をにらんでくる。
「あ、はい……」
「まず問答無用で作家は嫌いだ。いますぐにでも殺したい。締切を破る行為ももちろん嫌いだが……まあ、作家って言葉のなかに、『締切を破るもの』って意味がふくまれてるからな」
「はあ」
「それからウソだ。ウソは最悪だ。人をだます行為だからな。おまえ、ウソをついたら殺すぞ、わかったか」
そう言ってスーツの内ポケットに手を入れる。
「わわ、わかりました!」
男がポケットから手をぬくと、
「ひえ!」
手にはタバコがあった。火をつけ吸いはじめる。まぎらわしいよ!
「これを書いたのはおまえだな」
男はドサリと置く。原稿の束だ。
「おまえが応募したんだからな、書いたってことだろ。別人が書いてたら、ウソってことだ。なら殺す」
まずいよ、これはしかばね先生の小説だ。僕は代わりに応募しただけで。
「あ、あのですね……」
「いいか、正直に言えよ、生死がかかってると思え。これを書いたのはおまえか?」
どうしよう。書いたのは僕じゃないって言ったら、ウソをついてたから殺される。だけど、書いたのは僕ですって言ってもウソになる。つまり殺されるんだ。どっちを選んでも死あるのみなんて、そんなあ……。
「か、書いたのは僕です」
「そうか。ならいいんだ」
男は深々とタバコを吸い、煙を吐き出す。
しかたないんだ。書いたのは別人だって言えばすぐ殺される。だけど書いたのは僕ですっていうウソは、バレるまでは殺されない。どっちを言ってもウソになるなら、ひとまずこの場をしのげるウソの方がいい。そうだよね?
「疑って悪かったな」
あ、はじめてやさしげな声を出してくれた。まあ、目は笑ってないけど。
「だ、大丈夫です」
少しだけホッとする。もしかしたら、やさしい面もあるかもしれないよ。
「いやな、この原稿から死の臭いがプンプンするからよ。でも見たところおまえ、全然死にそうにねえし、おかしいと思ってよ」
「はあ、そうですか……でもあんがいポックリ逝くかもしれませんし」
などと言って僕は、あはあはと笑った。でも内心はビクビクしっぱなし。だって小説を書いたしかばね先生は、つねに死にかけなわけだから、この人はその死の臭いを感じとったんだ。すごいぞ。
「手はじめに自己紹介からはじめるか」
男はなにか出し、ぽいっと投げる。机の上をすべってきたのは名刺で、
「ヘル出版 編集者 卸屋定」
そう書いてある。社名もそうだけど、名前もすごい。
「お、おろしや、さん……?」
「ああ、人によっては『恐ろしや』とか『殺し屋』って呼ぶけどな」
殺し屋! やっぱり! 僕の第一印象は間違ってなかったよ。人は見た目がなんパーセントだっけ。とにかく見た目どおりのあだ名だ。
「おまえの名前は、」編集者は原稿を見る。「鹿羽根はじめ、か」
「あ、それなんですけど、ペンネームです……」
「なるほど、そういうことか」
「はい、本名は――」
「白滝オサム」
「知ってるんですか?」
「とっくに調べた。マンションの409号室、いい番号だ、そこに両親とかわいいネコと住んでいる」
ザムザのことだ! かわいいってことまで調査ずみとは!
「応募者の住所に別の名前で住んでるから、それでおまえを作者じゃないと疑ったわけだ。で、どっちで呼ぶ? 鹿羽根先生か、白滝先生か」
「えっと、白滝でお願いします」
さすがにしかばね先生と呼ばれるのは恥ずかしい。なにより死んでしまった先生にもうしわけないよ。
「わかった」
編集者は机の隅にあった灰皿でタバコを消し、2本目に火をつける。
「じゃあ白滝先生、いよいよ本題だ」
「はい……」
「ハッキリ言っておく、おまえの小説は大賞をとったが、出版はできない」
「え!」
スマホの地図アプリで確認しながら街をさまようけど、どういうわけか目的地が表示されない。
「変だなあ」
住所を入力すると、おおざっぱな区画は出るんだけど、建物が出てこない。そもそもそんな番地がないみたい。
もしかして住所を間違えたのかも。何度もおなじところをグルグルまわって、いったい何周目だろう、あきらめかけたときに、せまい路地がある。
変だなあ。さっきはこんな路地、なかったはずなのに。
なんだかいやな予感がする。こういうときって、たいてい、よくないことが起こるよね。
路地に入ると暗くなる。じめっとしたアスファルト。なにかが腐った臭い。いやだなあ、やっぱり来なきゃよかった。
引き返そう。そう思ったとき、目の前に古いビルがあって、「ヘル出版 4階」とビル横の看板に書いてある。あ、ここだ。
昨日、しかばね先生の小説を郵便局に出したあと、電話が来た。それはヘル出版というところからで、小説大賞受賞のしらせだった。
うれしさ10パー、驚き90パー。だって郵便局に持ってって、まだ10分もたってないんだよ。原稿はまだ郵便局内にあるはずだし。
「え、でもさっき出したばかりで……」
疑う僕に、電話の男は、
「受賞したのは鹿羽根はじめさんの『詩学三十六景』。おたくさんですね」
低く、威圧的な声だ。
「あ、はい……」
「明日、会社まで来てください」
「え? 会社ってどこに……」
「あんたどこに応募したんだ? 住所書いただろ」
「あ、はい……」
「じゃあ明日、必ず」
電話は切れていた。うむを言わさぬ口調だった。
そうして今日、僕は不安な気持ちでビルに入る。せまい玄関から汚いエレベーターに乗る。
ボタンを押そうとすると、突然、髪の長い女の人が入ってくる。
うわっ、なんだ。
エレベーター中に腐敗臭がただよう。
口と鼻を押さえると、ポツン、ポツン……音が聞こえてくる。見ると、女の人はびしょ濡れだよ! 白い服から水がしたたってる。
やばい、これは絶対。
はやく4階に行こう、そう思ってボタンを押すと、
「4階!」
女の人が奇声をあげる。
垂れた黒髪のあいだから、女の人の目が見えた。あきらかにおびえてる。
「あの、僕――」
まだしゃべってるのに、エレベーターを飛び出していなくなってしまった。
ど、どういうこと?
ドアが閉まり、エレベーターが動きだす。アトラクションみたいな揺れ方で上昇していき、止まる。
エレベーターからでると、フロアにはドアがひとつだけ。
探偵事務所のドアみたいな、古いドア。曇りガラスの向こうがどうなってるのかはわからない。
緊張する。だって出版社に来るなんてはじめてだよ。
深呼吸して、ドアをノックする。
しばらくすると、くもりガラスの向こうに影が現れ、
「おう、来たな」
ドアが開く。ぬっと顔を出したのは、よれたスーツを着たシブい男だ。浅黒い肌で、殺し屋みたいな目をしてる。殺し屋を見たことないけど。
「入れよ」
男はくるりと背中を向ける。タバコとオーデコロンの臭いが鼻をつく。
この人、昨日の電話の人だ。威圧感におぼえがある。40代くらいだと思うけど、なんか、昭和を戦いぬいた迫力をみたいなものをプンプンさせて、やり手の編集者って感じだ。
気がつくと、男の人はいなくなってる。まずい。あわてて追いかける。ドアからなかに入ったとたん、いきなりわっと声がした。
オフィスに事務机がいくつもならんで、20人ほどが電話をしたり原稿を読んだり、いそがしくしてる。土曜日なのに大勢働いて、活気がある。
僕を招き入れた殺し屋――間違えた、出版社の男が、机と机のあいだをグイグイ歩いていくのが見える。
置いてかれないようにあとを追う。通りすぎるたびに左右から、社員が電話に話す声が聞こえる。
「おい、死ぬ気で書けよ!」
「だったら書いてから死ねよ!」
「死んだ作家に用はねえ! 死ぬ前に書きあげろ!」
「締切か死か!」
ぶっそう。とにかくぶっそう。きっと電話の向こうには作家がいて、書けないとかなんとか言ってるんだろう。それに対しての編集者の罵詈雑言!
もっと平和に話しあった方が建設的なんじゃないの? そう思ったとき、悲鳴が聞こえる。
見ると窓ぎわで、ああ……作家が何人も拷問されてる。ちょっとここでは描写できないけど、とにかくひどいありさまだ。
どうして彼らを作家だと思ったのかって? だってこの会社で拷問されるのは作家以外にありえない。きっと彼らは締切を破ってしまったんだ。
男が立ち止まる。
「おい見とけ、おまえもああなるんだ」
「ああなるんですか!」
「締切を破ればな」そう言って歩きだす。「だが作家ってのは、締切を破る生きもんだからな。おまえもすぐだぞ」
男はニヤリとふり返り、
「楽しみにな」
た、大変なことになったぞ……。
僕はしかばね先生の小説を応募しただけなんだ。大賞の知らせを受けて、ノコノコやってきてしまったマヌケな学生なんだ。
なのにこの男は拷問を楽しそうに紹介して、なんだか自分でも、したそうに見えるぞ。
まずい、はやく事情を説明しないと。
「あの!」
「ここで話すぞ」
男があごでしゃくる。デスクがならんだ地帯をぬけて、パーティションで区切られた一角に出ていた。
ちょっとした会議や打ち合わせで使うんだろう、壁で仕切られたスペースがいくつかあって、テーブルとイスが置いてある。
でも、なかは血まみれだ。
うわ……。とても入れるような感じじゃない。男はニヤリと笑って、僕の様子をうかがってる。ドSまる出しじゃないか!
なすすべもなく立っていると、男は血のついてないきれいなスペースに入っていく。よかった。まともな場所があるんじゃないか。
ドッカと座った男の正面に、僕も座る。とにかく、これまでのいきさつを話さないと。
「あの、最初に言っておきたいことがあるんです!」
「いいか、俺が嫌いなものは2つ、作家とウソだ」
するどい目で僕をにらんでくる。
「あ、はい……」
「まず問答無用で作家は嫌いだ。いますぐにでも殺したい。締切を破る行為ももちろん嫌いだが……まあ、作家って言葉のなかに、『締切を破るもの』って意味がふくまれてるからな」
「はあ」
「それからウソだ。ウソは最悪だ。人をだます行為だからな。おまえ、ウソをついたら殺すぞ、わかったか」
そう言ってスーツの内ポケットに手を入れる。
「わわ、わかりました!」
男がポケットから手をぬくと、
「ひえ!」
手にはタバコがあった。火をつけ吸いはじめる。まぎらわしいよ!
「これを書いたのはおまえだな」
男はドサリと置く。原稿の束だ。
「おまえが応募したんだからな、書いたってことだろ。別人が書いてたら、ウソってことだ。なら殺す」
まずいよ、これはしかばね先生の小説だ。僕は代わりに応募しただけで。
「あ、あのですね……」
「いいか、正直に言えよ、生死がかかってると思え。これを書いたのはおまえか?」
どうしよう。書いたのは僕じゃないって言ったら、ウソをついてたから殺される。だけど、書いたのは僕ですって言ってもウソになる。つまり殺されるんだ。どっちを選んでも死あるのみなんて、そんなあ……。
「か、書いたのは僕です」
「そうか。ならいいんだ」
男は深々とタバコを吸い、煙を吐き出す。
しかたないんだ。書いたのは別人だって言えばすぐ殺される。だけど書いたのは僕ですっていうウソは、バレるまでは殺されない。どっちを言ってもウソになるなら、ひとまずこの場をしのげるウソの方がいい。そうだよね?
「疑って悪かったな」
あ、はじめてやさしげな声を出してくれた。まあ、目は笑ってないけど。
「だ、大丈夫です」
少しだけホッとする。もしかしたら、やさしい面もあるかもしれないよ。
「いやな、この原稿から死の臭いがプンプンするからよ。でも見たところおまえ、全然死にそうにねえし、おかしいと思ってよ」
「はあ、そうですか……でもあんがいポックリ逝くかもしれませんし」
などと言って僕は、あはあはと笑った。でも内心はビクビクしっぱなし。だって小説を書いたしかばね先生は、つねに死にかけなわけだから、この人はその死の臭いを感じとったんだ。すごいぞ。
「手はじめに自己紹介からはじめるか」
男はなにか出し、ぽいっと投げる。机の上をすべってきたのは名刺で、
「ヘル出版 編集者 卸屋定」
そう書いてある。社名もそうだけど、名前もすごい。
「お、おろしや、さん……?」
「ああ、人によっては『恐ろしや』とか『殺し屋』って呼ぶけどな」
殺し屋! やっぱり! 僕の第一印象は間違ってなかったよ。人は見た目がなんパーセントだっけ。とにかく見た目どおりのあだ名だ。
「おまえの名前は、」編集者は原稿を見る。「鹿羽根はじめ、か」
「あ、それなんですけど、ペンネームです……」
「なるほど、そういうことか」
「はい、本名は――」
「白滝オサム」
「知ってるんですか?」
「とっくに調べた。マンションの409号室、いい番号だ、そこに両親とかわいいネコと住んでいる」
ザムザのことだ! かわいいってことまで調査ずみとは!
「応募者の住所に別の名前で住んでるから、それでおまえを作者じゃないと疑ったわけだ。で、どっちで呼ぶ? 鹿羽根先生か、白滝先生か」
「えっと、白滝でお願いします」
さすがにしかばね先生と呼ばれるのは恥ずかしい。なにより死んでしまった先生にもうしわけないよ。
「わかった」
編集者は机の隅にあった灰皿でタバコを消し、2本目に火をつける。
「じゃあ白滝先生、いよいよ本題だ」
「はい……」
「ハッキリ言っておく、おまえの小説は大賞をとったが、出版はできない」
「え!」
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