ウィッシュマン

ウィッシュマン

『ウィッシュマシン』

ある日、都市の片隅に小さな店が現れた。店の看板には「ウィッシュマシン」と書かれており、店内には一台の奇妙な機械が鎮座していた。この機械は、願いを叶える力を持っていると噂された。

最初に店を訪れたのは、若いサラリーマンの田中だった。彼は仕事で疲れ果てており、毎日の生活に潤いを求めていた。田中は店主に訊ねた。「本当に願いを叶えてくれるのですか？」

店主はにっこりと微笑んで答えた。「もちろんです。ただし、願いを叶えるには代償が必要です。」

田中はその代償が気になったが、今の状況を打破するためには何でも試してみる価値があると思った。「どんな代償ですか？」

「それはあなたの選んだ願いに応じて変わります。」店主はウィッシュマシンの操作方法を説明し、田中は考え込んだ。

「よし、試してみます。」田中は決意し、マシンに自分の願いを書き込んだ。「もっと自由な時間が欲しい。」

マシンは静かに動き出し、田中の願いが叶えられるのを待つ。数分後、田中のスマホにメールが届いた。会社からの通知で、「田中君、明日から長期休暇に入ってもらう。業績不振のため、休業を命じる。」という内容だった。

驚いた田中は一瞬何が起こったのか理解できなかったが、すぐに思い直した。これで彼は自由な時間を手に入れたのだ。だが、休業という形で叶った願いに少し不安を感じた。

次に店を訪れたのは、裕福な実業家の佐藤だった。彼はさらに成功を収めたいと考えていた。「もっと大きな会社を手に入れたい」と願った。マシンは再び静かに動き、数日後、佐藤のライバル企業が突然の倒産を発表した。佐藤はその会社を買収し、思い通りに願いが叶ったのだ。

しかし、倒産の原因は不明瞭で、多くの従業員が職を失ったことが報道された。佐藤は成功を収めたが、その代償に多くの人々の生活が影響を受けたことを知り、胸の内に重いものを感じた。

そして、ウィッシュマシンの噂は広まり、次々と人々が願いを叶えるために訪れた。ある者は富を、ある者は名声を、またある者は愛を求めた。だが、どの願いも代償を伴い、それぞれの人生に予期せぬ影響を与えた。

ある日、貧しい青年の山田が店を訪れた。彼は病気の母親を救うためにどうしても必要なお金を願った。店主は慎重に説明し、山田も理解した上で願いをマシンに託した。

マシンはまたしても動き出し、数日後、山田は宝くじに当選した。彼は大金を手に入れ、母親の治療費を賄うことができた。だが、その代償として、山田は自分の健康を徐々に失っていった。母親は回復したが、山田自身は病に倒れてしまったのだ。

店主はその様子を静かに見守っていた。「願いには必ず代償が伴う。人はそれを理解し、受け入れる必要がある。」店主はそう呟き、ウィッシュマシンを見つめた。

ある夜、店に一人の男が訪れた。彼はかつて店主自身がウィッシュマシンに願ったことが原因で失った全てを取り戻すために来たのだった。「お前が全ての元凶だ。」男は怒りと悲しみを込めて叫んだ。

店主は静かに頷き、ウィッシュマシンの前に立った。「私も同じ過ちを犯した。願いを叶えることが全てではないことを知った。」彼はそう言い残し、マシンのスイッチを切った。

ウィッシュマシンは静かに動きを止め、店は再び静寂に包まれた。人々はそれぞれの願いの代償と向き合いながら、自分の人生を見つめ直すことになった。

そして、店主は心に決めた。今後はウィッシュマシンを使わずに、人々が自分自身の力で願いを叶える手助けをすることを。そうして彼は新たな一歩を踏み出した。