改変アリとキリギリス

tentenpoo

文字の大きさ
1 / 1

改変アリとキリギリス

しおりを挟む
夏の終わりが近づくころ、アリの働き者のアキオは、ひたすら巣の中に食料を運び込んでいた。汗を流し、休むことなく働くアキオの姿は、まさに他のアリたちの模範だった。

一方、キリギリスのギンジは、草の上で楽器を奏で、気ままに歌い続けていた。アキオはそんなギンジを見て、いつも「冬が来たら困るだろうに」と心配していた。しかし、ギンジは「音楽が僕の食べ物さ」と笑って取り合わなかった。

ある日、アキオはふと立ち止まり、疲れた体を休めるために木陰に座った。そこで目にしたのは、ギンジが楽しそうに新しい曲を作っている姿だった。アキオはその音楽に引き込まれ、しばらくの間、心地よいリズムに身を委ねていた。

「ギンジ、どうしてそんなに自由に生きていられるんだ?」アキオは思わず尋ねた。

「アキオ、君も一度やってみたらどうだい?」ギンジは笑顔で答えた。「働くことも大事だけど、楽しむことも大切なんだよ。」

アキオはその言葉に少し心を動かされ、試しにギンジの楽器を借りてみた。ぎこちない手つきで弾き始めると、意外にも楽しい気分になった。少しずつリズムに乗って、アキオは自然と笑顔になっていた。

その晩、アキオは巣に帰っても、ギンジの言葉が頭から離れなかった。翌日も、仕事の合間に少しずつ楽器を弾く時間を作るようになった。アリの仲間たちは最初こそ驚いていたが、やがてアキオの楽しそうな様子に影響を受け、彼らも少しずつ音楽に触れるようになった。

やがて冬が訪れた。アリたちは食料が豊富な巣の中で安全に過ごしていたが、アキオは心にぽっかりと穴が空いたような気持ちだった。食料は十分にあるが、何かが足りない。そう、それは自由な時間と音楽の楽しさだった。

一方、ギンジは相変わらず外で音楽を奏でていた。寒さの中でも、彼の音楽は周囲の心を温めていた。そして驚いたことに、彼の演奏を聴きに、多くの動物たちが集まってくるようになった。彼らは食べ物を持ち寄り、ギンジの音楽を楽しむために一緒に時間を過ごすようになったのだ。

アキオもその噂を聞きつけ、ギンジの元を訪れた。「ギンジ、君の音楽は本当に素晴らしい。僕ももっと音楽を楽しみたいと思うんだ。でも、どうしてこんなに多くの動物たちが集まってくるんだろう?」

ギンジは微笑んで答えた。「アキオ、音楽はみんなの心をつなげるんだよ。食べ物だけではなく、心の豊かさも大切なんだ。」

その瞬間、アキオは何か大切なことに気づいた。彼は巣に戻り、仲間たちにギンジの話を伝えた。しかし、アリたちはそれに耳を傾けることなく、働くことに忙殺されていた。

冬の寒さが一層厳しくなり、巣の中でも冷気が忍び込んできた。アキオは音楽の楽しさを知ってしまったために、働くことへの意欲を失っていた。食料はあるが、心は満たされない。仲間たちも次第に彼から距離を置くようになった。

一方、ギンジは周囲の動物たちと共に、暖かい場所で音楽を楽しんでいた。彼の音楽は、動物たちの心を温め、みんなが互いに助け合うきっかけとなっていた。食べ物も十分に集まり、ギンジは寒さを感じることなく、幸福な時間を過ごしていた。

やがて、アキオは孤立し、心身ともに疲れ果ててしまった。彼はもう一度ギンジの元を訪れたが、ギンジは彼に言った。「アキオ、君が本当に必要としているのは、働くだけではなく、心の豊かさなんだ。でも、それを見つけるのは自分自身なんだよ。」

アキオはその言葉を胸に刻みつつ、再び巣に戻った。しかし、心の中にはギンジの音楽と自由への憧れが残り続けた。彼は再び働くことに専念するが、その心は決して満たされることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
過去に戻って恋愛をやり直そうとした男が恋愛する相手の女性になってしまった物語

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...