吸血鬼に転生した俺は、人間の村を目指す

ナポ

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「何をしている?」

 ゾッとする気配に振り向けば、月明かりを背にした美しい少年が荷馬車の上に立っていた。
 闇夜に溶け込んだ漆黒の髪と、ほんのりと煌めく深紅の瞳。
 一瞬、見とれてしまった。
 はっと我に返り、ドンッと目の前の男を突き放せばあっさりと解放され、勢い余って地面に背中を打ち付ける。
 思っていたよりも、男の腕が緩んでいたらしい。

「うっ!てて」

 そんな俺を少年が目で追っている気配を感じ、視線を向けると、片眉を上げ、腕を組みふんぞり返る様な姿勢でこちらを見下ろしていた。何故か妙にその態度が板に付いていて面白いなと思いつつ、脱がされた服をいそいそと着て立ち上がる。少年がバッと飛び降りて、俺の目の前までやって来た。
 俺よりも頭ひとつ分小さな背に、可愛らしさを覚えた時、すごい剣幕で怒鳴られた。
「おい!  聞いているのか!  僕を無視するとはいい度胸じゃないか!  僕は暇じゃないんだ。同族の気配を感じて、念の為、確認しに来てやったのに。お前はなんだ?  サキュバスか?」
「た、助かりました。ありがとう?」

 何だか最後にすごい侮辱をされた気がするが……
 それにしても、もう全てが遅いと言えるこの状況。
 怒っている少年をなだめようと、とにかく謝罪を口にすれば、より機嫌を害したとばかりに背を向けてしまった。

 すると、商人の男が無謀にも少年の肩に手をついた。
 声を出す間もなくその腕が地面へと落ちる。
 ビシャッと血を大量に流し、男はのたうち回り叫ぶ。
「ぐぅあーー!!!痛いっ!!だ、誰か!治してくれーー!!俺の腕がーー!!」
「うるさい奴だな。目障りだ」
 そう呟き、簡単に男の頭を切り落とした。
 少年の回りを血が飛び回るように迂回し、小さな玉になった。
 タルドがたまに使用する吸血鬼の能力だった。
「セイ!」
「はい。お呼びでしょうか」 
 黒髪の少年が声を張り上げ従者を呼びつける。
「片付けろ」
「かしこまりました」

 セイと呼ばれた人物は、黒いマントを靡かせ膝まづくと、無表情のまま商人の男を地面へと埋め始める。
 スコップも使わずに魔法で地を掘り起こし、あっという間に元通りの地面が完成した。

「……」

 静けさを取り戻した森の中、俺は手持ち無沙汰で立ち尽くす。
 案内人を殺されてしまったのだ。これからどうするべきか。そういえばあのダンディーな男はどこへ行ったのかと振り返ると、地面で伸びていた。
 俺の力は思ったよりも強いらしい。

「帰る」
そう言い捨てて飛び立とうとする小さな背中へ、咄嗟に呼びかける。
「あの!」
「……」
「助けていただいて、ありがとうございました。……もし、分かれば、人間の村まで案内して頂けませんか……?」
「……」
少年は体を少し振り向かせて首をかしげた。
「お前は……馬鹿なのか?  」
「……え?……た、多分?」
「はぁーー。これは貸だ……高くつくが、それでもいいな?」
「はい!」
「今夜はこれ以上進むな。仕方ないから寝床くらい貸してやる。着いてこい。セイ、そこの荷馬車の中身も連れてこい」
「かしこまりました」
意外と優しいなと思い、従者の後ろ姿を見送っていると、一瞬で手首を捕まれ牙が突き刺さった。

「ふん、中の中か」

そう吐き捨てる少年はどこか嬉しそうに見えた。
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