数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎

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子供と大人

伊達に修羅場超えてないので

▼「どうぞ」
「ありがとうございます」

未だに刺々しい視線を受けながら、川端は浅見から躊躇なくお水を受け取る。川端はグラスの水面を軽く揺らしながら、さも何気ない風を装って口を開いた。

「二人とも、よく此処には来るんですか?」

声色は軽やか。だが視線の端には、露骨に不機嫌を隠そうともしない城崎の顔が映っていた。腕を組み、テーブルの一点を睨みつける横顔。明らかに「余計なことを言うな」と言わんばかりの空気。

浅見は曖昧に笑って「たまにです」と答える。
その小さな声が、かえって場の緊張を際立たせる。

川端はその空気さえ楽しむように、口元にかすかな笑みを浮かべた。
──そう、彼女にとっては城崎の苛立ちすら、愉快な材料でしかないのだ。

その横で、城崎は露骨に顔をしかめる。

「(あら……分かりやすい)」

不機嫌を隠そうともしないその表情に、川端の内心はふっと愉快にほころんだ。
自分がここに現れたこと自体が、彼にとって“歓迎されないこと”なのだと、一瞬で理解できたからだ。

「いいお店ですよね。私、最近知って……とても気に入っちゃったんです」
さらりと付け加えながら、川端はグラスを唇に運ぶ。

笑顔の裏で、伊藤から聞いた言葉が脳裏に蘇る。
──「ここ、城崎に教えてもらった店なんだ」

つまりここは、彼のテリトリー。
偶然を装って踏み込んだからこそ、この分かりやすい不機嫌を引き出せた。

「(さて……どう動くかしら)」

浅見の曖昧な笑みと、城崎の冷えた視線。
その温度差を愉しむように、川端はさらに微笑を深めた。


▼「お待たせいたしました」

そんな空気が未だに晴れない中、先程浅見と城崎が頼んでいた料理がテーブルに並ぶ。お皿がが軽く触れ合う音、置かれた時になる木製特有のコトリ、という音と共に香ばしい匂いがふわりと広がった。

「わぁ……美味しそう」

川端が身を乗り出して、覗き込むように料理を見つめる。声色は心底楽しそうで、傍から見ればただの感嘆にしか聞こえない。だが、その視線が浅見をかすめてから城崎に向かう一瞬の間に、妙な意図が潜んでいるのを感じさせた。

城崎は黙って取り皿を引き寄せる。慣れた仕草で、目の前の料理を取り分けようと箸を伸ばす。浅見にとっては見慣れた、当たり前の気遣い。

「──あっ」

その刹那、川端の口から弾けるような声が飛び出した。

「気遣いありがとうございます、美味しそうですね」

にっこりと笑みを浮かべ、取り皿を両手で受け取ろうとする。あたかも自分に差し出されたかのように。

……カチリ。

空気が硬直する音がした気がした。
城崎は箸を止め、顔を上げる。無言のまま、鋭い視線を川端に突き刺す。その眼差しは「何を当然のように受け取ろうとしてんだ」と言外に告げていた。

「…は?」

まるで自分に向けられたものかのように受け取ろうとする川端に、城崎は素っ気なく吐き捨てる。
険しい視線を投げられても、川端は気づかないふりをしてにこやかに水を口にした。


▼「………はぁー……」

その張り詰めた空気に、耐えかねるように口を開いたのは浅見だった。本人は素だったのだろうが、隣にいた城崎の耳には聞こえた、呆れたようなため息。

「……そうですね、私も頼みます」

初めて聞いた浅見のその声のトーンに一瞬身震いする。

城崎は横目に彼女の様子を確認すると、ため息まじりの声色と共に、さっきまでの柔らかさが嘘のように消えていた。

淡々とした調子で、まるで仕事で気を遣う時のように。
川端の言葉を受けて、彼女は迷う素振りも見せず、すぐさま店員を呼ぶ。

「同じものをお願いします」
「…」

その声音は淡々としていて、笑みも浮かべない。
店員を呼ぶ仕草までが落ち着き払っていて、城崎は思わず目を瞬いた。

──いつもの浅見じゃない。

さっきまで柔らかく笑っていた彼女が、まるで仕事の場に立つかのように冷静に切り替わっている。
川端の余計な一言にも揺らがず、ただ場を処理するように動く姿に、城崎は言葉を失った。

「……(こんな顔もするんだな)」

苛立ちに任せて睨みつける自分とは違うやり方。
笑顔を作るわけでもなく、ただ場を滞らせないための処理。

逆に初めて見た浅見のその姿に、恐ろしさよりも新鮮さの方が勝って、城崎は一つ一つの動作をつい目で追ってしまう。

浅見の凛とした横顔、不思議な新鮮さ、自分より大人びた態度…そんな浅見を目に、城崎の胸の奥で何かが燻った。
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