数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎

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特別の終わりと日常と

忘れた頃にやってくる

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朝の通勤。電車の揺れに合わせて、浅見は軽く体を支えた。
車内はいつも通りの混雑。吊り広告が揺れ、隣の乗客がイヤホン越しに音漏れをしている。
カタン、カタンと一定のリズムを刻む車輪の音が、眠気の残る頭にやけに心地よく響く。

片手で吊革を掴み、もう片方の手でスマホを開く。
ホーム画面の通知を確認し、自然と指が止まる──“城崎”の名前。

《おはようございます。今日もこれから会議です…》

数秒後、短い返信が届く。

《頑張れ》

たった三文字。それでも胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
続けて指を滑らせる。

《そっちは?》
《現場。天気悪いから足場面倒だ》

淡々としたやり取り。
だけど、その一行一行が、浅見にとっては“今日も繋がっている”という確かな証のようで。
スマホを閉じると、自然と表情が柔らかくなっていた。

窓の外では、薄曇りの空の下、街がゆっくりと流れていく。
通勤ラッシュの喧騒の中で、浅見だけが少しだけ違う世界にいるような気がした。

―――――

午前の会議が終わり、デスクに戻る頃には、肩のあたりがすっかり重くなっていた。
書類の山と、資料作成の依頼メール。モニターの光がやけに眩しい。
カタカタとキーボードの音が響き、プリンターが紙を吐き出す音が絶え間なく続く。

浅見はコーヒーを一口飲み、ひと息ついてからスマホをそっと取り出した。
通知には既読マークと、見慣れた名前。
そこには、新しいメッセージが一件。

《昼、食ったか?》

一瞬だけ唇が緩む。
指先で画面をなぞり、素直に返信を打った。

《はい。お弁当です。相変わらず地味ですけど》

送信を押すと、ほとんど間を置かずに返ってきた。

《体に入ればいい》

思わずくすっと笑い声が漏れそうになって、慌てて咳払いで誤魔化す。
近くの席の同僚が首をかしげたが、浅見は気づかないふりをした。

──素っ気ないのに、優しい。
そんな城崎の言葉の端々が、いつも不思議と胸に残る。

パソコンのモニターを見つめ直しながら、浅見はそっと心の中で呟く。

「(……ちゃんと、気にしてくれてる)」

外では昼休みのチャイムが鳴り、社員たちの雑談と笑い声が広がっていく。
浅見の小さな世界の中でだけ、スマホの画面が静かに光を放っていた。
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