8 / 134
1:卒業式と大学合格
1
しおりを挟む
『おーい、駿也はどこの大学行くの?』
姿見で制服を確認した後、ベッドに腰掛けてメールを打つ。送信すると、また瞬時に既読がついた。
「おい、見てるなら返事よこせよ……。」
小さく呟いて溜息を溢す。スマホを閉じて、ベッドの棚に置いてある写真立てを取り出した。美久ちゃんからもらった駿也の写真。
今日は高校の卒業式。都内の2つの私立は、すでに受験が終わり、合格発表が済んだ。とりあえず、合格は貰えた。後は地元の欅藝大の2次試験を残すのみ。俺はここが第一志望。家には経済的余裕がない。母さんは専業主婦だし、私立に行くなら奨学金を取るように言われてる。それに都内でも一人暮らしはダメだとキッパリ言われた。
『バイトして生活していくにしても、それで大学の勉強が疎かになったら本末転倒でしょ?』
うん……正論だ。別に文学部であればどこでもいいと思っていたし、欅藝大は理工学部はめちゃくちゃ偏差値高いけど、文学部はそれほどではない。1番最後の模試ではB判定もらってたし……ま、大丈夫かな。
駿也は頭が良かったし……きっとそんなに遠くに行ってなければ都内だろう。スマホに返事さえもらえれば、こんなにモヤモヤした感情を引きずってないだろうに。
「バカ駿也。」
写真に向かって言ってみる。通じるわけじゃないけど……。
「望っ! 遅刻するわよっ!」
下から母さんの声が響いた。もう父さんも沙耶も出かけた後だ。俺は9時までに学校へ行けばいいからグズグズしていた。
写真立てを頭の上の引き出しにしまいこむ。たまに母さんが部屋に入ってくるから。男の写真を飾ってるなんて知られたら……やっぱりおかしいよな? しかも俺自身は女だし……顔は写ってないけどさ……。何となく机の上からポケットティッシュを取り上げてその上に乗せる。いや、隠れないけど。……何となく。
「お! 望、来たきた。久しぶり。おはよう!」
昇降口で2年の生徒会の奴らが待ち構えていた。確か会計だった可愛い女の子に造花をつけてもらっていた良太が、俺の顔を見てにっこり笑った。卒業式に出る母さんとは別行動。タクシーで一緒に行こうという母さんを振り切ってチャリで来た。
「おはよ、良太。俺たち結構早い方?」
俺も2年の男子に造花をつけてもらって、良太の隣に行く。
「いや、遅い方じゃね? 行こうぜ。」
良太の隣を歩きながら、3階へ行くべく階段を登った。
「なぁ、望。」
「ん? 何?」
ちょっぴり低いトーンの良太の声に反応して横を見る。良太は前を向いて、結構真剣な顔をしていた。
「お前、国立どこ受けんの?」
あれ……言ったことなかったっけ? 今まで欅藝大の話題はたくさん出てたから、てっきり言ったものだと思っていた。
「欅藝一本。良太は……経済学部だろ?」
願書の下書きをしていた時に、良太が言っていたような気がするけど。どうだっけ?
「うん、そう。大学でも時々会ったらさ、昼でも一緒に食べようぜ?」
途端に元気な顔を向けてきた良太にホッとする。欅藝大は地元なだけあって、知り合いも20人以上が受験する。やっぱり、俺も東京じゃなくて、欅藝に行きたいかもしれない。夏に会った駿也に似た人……もう一度会えるかな?
「うん。よろしくな?」
そんな事を考えながら階段を上りきり、廊下でたむろしているクラスメイトの輪に加わろうと、2人で歩いて行った。
姿見で制服を確認した後、ベッドに腰掛けてメールを打つ。送信すると、また瞬時に既読がついた。
「おい、見てるなら返事よこせよ……。」
小さく呟いて溜息を溢す。スマホを閉じて、ベッドの棚に置いてある写真立てを取り出した。美久ちゃんからもらった駿也の写真。
今日は高校の卒業式。都内の2つの私立は、すでに受験が終わり、合格発表が済んだ。とりあえず、合格は貰えた。後は地元の欅藝大の2次試験を残すのみ。俺はここが第一志望。家には経済的余裕がない。母さんは専業主婦だし、私立に行くなら奨学金を取るように言われてる。それに都内でも一人暮らしはダメだとキッパリ言われた。
『バイトして生活していくにしても、それで大学の勉強が疎かになったら本末転倒でしょ?』
うん……正論だ。別に文学部であればどこでもいいと思っていたし、欅藝大は理工学部はめちゃくちゃ偏差値高いけど、文学部はそれほどではない。1番最後の模試ではB判定もらってたし……ま、大丈夫かな。
駿也は頭が良かったし……きっとそんなに遠くに行ってなければ都内だろう。スマホに返事さえもらえれば、こんなにモヤモヤした感情を引きずってないだろうに。
「バカ駿也。」
写真に向かって言ってみる。通じるわけじゃないけど……。
「望っ! 遅刻するわよっ!」
下から母さんの声が響いた。もう父さんも沙耶も出かけた後だ。俺は9時までに学校へ行けばいいからグズグズしていた。
写真立てを頭の上の引き出しにしまいこむ。たまに母さんが部屋に入ってくるから。男の写真を飾ってるなんて知られたら……やっぱりおかしいよな? しかも俺自身は女だし……顔は写ってないけどさ……。何となく机の上からポケットティッシュを取り上げてその上に乗せる。いや、隠れないけど。……何となく。
「お! 望、来たきた。久しぶり。おはよう!」
昇降口で2年の生徒会の奴らが待ち構えていた。確か会計だった可愛い女の子に造花をつけてもらっていた良太が、俺の顔を見てにっこり笑った。卒業式に出る母さんとは別行動。タクシーで一緒に行こうという母さんを振り切ってチャリで来た。
「おはよ、良太。俺たち結構早い方?」
俺も2年の男子に造花をつけてもらって、良太の隣に行く。
「いや、遅い方じゃね? 行こうぜ。」
良太の隣を歩きながら、3階へ行くべく階段を登った。
「なぁ、望。」
「ん? 何?」
ちょっぴり低いトーンの良太の声に反応して横を見る。良太は前を向いて、結構真剣な顔をしていた。
「お前、国立どこ受けんの?」
あれ……言ったことなかったっけ? 今まで欅藝大の話題はたくさん出てたから、てっきり言ったものだと思っていた。
「欅藝一本。良太は……経済学部だろ?」
願書の下書きをしていた時に、良太が言っていたような気がするけど。どうだっけ?
「うん、そう。大学でも時々会ったらさ、昼でも一緒に食べようぜ?」
途端に元気な顔を向けてきた良太にホッとする。欅藝大は地元なだけあって、知り合いも20人以上が受験する。やっぱり、俺も東京じゃなくて、欅藝に行きたいかもしれない。夏に会った駿也に似た人……もう一度会えるかな?
「うん。よろしくな?」
そんな事を考えながら階段を上りきり、廊下でたむろしているクラスメイトの輪に加わろうと、2人で歩いて行った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
27
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる