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3:田崎駿也

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ピロリン

『あ、駿也?』
俺はショッピングモールの駐車場のそばにあるバス停に自転車を置き、備え付けてあるベンチに座った。スマホを取り出して開いてみる。

『帰った?』
「駿也のメールを見るのに忙しくてまだ辿り着いてないって。」
独り言を言いながら、顔が弛むのを感じた。これで7回目。今まで音信不通だったのが嘘のように駿也からメールが届き始めた。

『今モールの近く。もうすぐ家。』
返信を送って画面を見つめる。田崎さんのトーク画面から送られてきたメールが、駿也が田崎さんである事の証明になっている。9時過ぎに『バイト終わった?』とメールが来た時には、自分の目を疑ってしまった。

『気をつけて。明日の授業は何コマめ?』
『2と3。水曜日は2つ。』
そういえば、駿也は前期の試験は受けなかったんだよな? 単位は大丈夫なの?

さっきバイトに行くときには、そんな話に一切ならなかった。1時間ぐらい、高校の時の話や友だちのその後の進路のことを話しているうちに時間がヤバくなっていた。

「望、後ろに乗って。」
俺が「時間やばいかな。」と呟いた途端に、駿也がそれまで引いていた自転車に跨って言った。

「2人乗りって……ダメだろ?」
「いいから。裏道通る。しっかり捕まって。」
俺の自転車には荷物置きなんてついてなかったから、後輪の中心に出ている突起に足を乗せて立ち乗りでバランスを保った。道を歩く人たちが嫌そうな目で見てたけど、気にならないぐらいワクワクしていた。

『唐揚げ作ってく。お昼は一緒に食べよう。』
「やった! 唐揚げっ!」
駿也のメールで、一気に高校2年の秋が戻ってきたような気がした。




「望! 学食行くだろ? 一緒に行こ。」
浩己と美久ちゃん、友希と歩いていると、後ろから肩に腕が回された。伸一だ。俺たちと合流した伸一の脇には雅人や良太も歩いていた。

「あ? 行くよ。」
駿也と学食で待ち合わせをしている。別に一緒に行くのは問題ないけど……何だかこのまま行くのはちょっと嫌だった。肩から手を離して欲しい……。

「何食べる? 唐揚げ? イテ、イテテテっ。」
伸一の声が聞こえたかと思うと、肩から腕が外された。

「おい、伸一、そこは俺の場所だって言ったろ?」
「駿也!」
そこには、伸一の腕を捻り上げた駿也が立っていた。突然の登場にみんな目を丸くしている。俺もその中の一人だった。

「えっ? へっ? あれっ? どこかで会ったな。誰だっけ?」
「田崎駿也。」
駿也が俺と伸一の間に割り込むと、みんなの顔をグルリと見渡した。

「悪いけど、望には触れないでくれ。」
俺の隣を平然と歩く駿也の姿に、みんなの心の声が聞こえてくるようだった。

『はあああ? 何で?』




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