暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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僕は君の趣味じゃないし、君は僕の趣味じゃない

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「いや、あるね。俺が知ってから彼氏何人変えたよ? ん?」
「おっ、それは言わない約束だろ?」
 
 2人の会話を聞きながら、僕はこの情報を頭の中で消化しようとしていた。

『ゲイ? 伊東さんが? タチ……って何だろ。』

 もちろん「ゲイ」という言葉は知っている。同性愛の人たちを表す言葉だ。でも僕の周りには全くいなかったし、興味もなかった。僕が好きになるのは、好きになるのは……。

 ここまで考えたとき、「しょこちゃん」と誰かに呼ばれたような気がした。

「おいレイ、渡良瀬君が引いてるだろ。」

 伊東さんの声に我に返る。慌てて言葉を繋げた。

「『タチ』って何ですか?」

 僕の言葉を聴いた途端、伊東さんと嶺さんが顔を見合わせて同じタイミングでプッと吹き出した。

「はははははっ! もしかして渡良瀬君『経験』ないわけ?」
「し、失礼なっ! あ、あ、あります!」

 高2の夏、半ば奪われるようにして初体験を済ませてしまったことを思い出す。放送部の一つ上の先輩。あの時の放送室の蒸し暑さと、強烈な香水の香りが漂ってくるようだった。慌ててビールを喉に流し込む。

 あれ以来、セ・クスというものに臆病になった自分がいる。付き合ってたわけではなかった。好きだと告られたわけでもない。いきなり部屋に鍵をかけて「しよ?」と乗ってこられてしまった。

「へえ、あるんだ。じゃあゲイの世界を知らないだけか。どう? 体験してみる?」

 丸メガネを取った伊東さんが、身を乗り出すようにして話しかけてきた。メガネを外すと、今まで隠れていた大きな鋭い目が現れてきて驚く。まるで別人みたいだ。

「おいシュウ、やめろよ。 今日は彼氏の家でお泊まりなんだろ?」

 嶺さんがワイシャツの後ろを引っ張りながら、僕から伊東さんを遠ざけてくれた。思わず身を後ろに引いていた自分に気がつく。僕は男には興味はない。……女の子にも興味があるわけじゃないけど。

 大学の時に彼女はできた。2回付き合ったことがある女の子とはどちらも、体の関係を持たなかった。セ・クスしたくて付き合うわけじゃない。好きだから……好きだと言ってくれたから付き合っただけ。

「ま、酒の上での冗談ということで。ああ、会社では皆知ってるから誰に話しても大丈夫だ。今日は、渡良瀬君にも教えようと思ってたところだし。」

「嶺、嶺さんは?」

 何故聞いてしまったのか分からない。でもこれまでの話の様子だと、嶺さんもゲイの世界に詳しいみたいだ。単なる好奇心? いや違う、何だろう? 言葉にできない……何か期待感。

「俺? 俺は女の子専門。」

 その言葉を聴いた途端に、何かは分からない別の感情が生まれてくるのを感じた。

 
 

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