暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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君は誰? そして僕は君の何?

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 冷たいタオルが額に乗せられて目を開けた。横目で見ると、ベッドの脇に膝立ちになった男の腕が見えた。スーツはどこかで脱いだらしく、ワイシャツだけになって腕まくりをしていた。ネクタイ……灰色っぽい地味な色。ワイシャツもクシャクシャに見えた。

「僕、どのくらい寝てた?」

「ああ、ほんの少しだろう。ごめん。まだ時間の間隔が掴めていない。」

 右腕を伸ばしてベッドヘッドに置いたはずのスマホを探ったけれど、そこにスマホはなかった。目が覚めてから、なぜか「嶺誠一郎」を名乗る男がそこにいても、違和感を感じなかった。

「今、何時だろう?」

「ちょっと待ってろ。」

 そう言った男が寝室を出ていった。スラックスもシワだらけ。本当に嶺さんなのだろうか? やはり信じられない。

「2時13分。朝まで寝たら?」

 男の言葉に首を横に振り、キッチンのカウンターに置いてあったはずの電波時計を受け取る。2時14分。さっきからまだ2時間ほどしか経っていない。

「ね、君のこと話して。」

「嶺誠一郎。小学6年の時に君に出会い、中学生までずっと公園で一緒に遊んだ仲間。出身は埼玉県。君のお祖母さんの家とは公園を挟んで反対側に住んでいた。君が大きくなるとたまにしか会えなかったが、公園でよく話をした。君は隣町に住んでいて夏休みや冬休み、ちょっと長い休みが来ると必ずお祖母さんの家にやってきていた。」

「嶺さんは、お母さんが亡くなってから引っ越したんだよ……。」

「さっき聞いたよ。でも俺は違うんだ。ちょっと信じられないかもしれないけど、聞いてくれ。」

 そこからは、少し長い話を聞かされた。僕が小学1年生になった夏休みまで、女の子だと思って接していたこと。それからは弟のように思って一緒に遊んでいたこと。その後誕生した嶺さんの妹を僕がめちゃくちゃ可愛がっていたこと。

「妹?」

「ああ、妹がいた。今年高校2年になったばかり。今も埼玉の自宅で両親とともに暮らしている。」

「だから……!」

 勢いよく横を向いた瞬間に額のタオルがずり落ちる。嶺さんに拾ったタオルを当てられまた上を向かされた。

「さっきの言葉で全て理解したつもりだ。涉が知っている嶺誠一郎は、母親が亡くなったんだろ? そして今、その嶺も死んだ。」

「死んでないっ!」

 思わず上半身を肘で支えながら身を起こして、男の方に向き直る。語気が荒くなる。嶺さんが、嶺さんが死んだなんて信じない。信じられない。

 男は、オールバックにした髪を後ろに何かで結び、寂しげにこちらを見ていた。太い眉。漆黒のストレートの髪。口の周りに生えた濃い髭。でも目は確かに嶺さんのもので、唇の形も、鼻の形も確かに見覚えがあるものだった。


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