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君は誰? そして僕は君の何?
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寝た。ぐっすり。今は何時だ? ベッドヘッドにあるスマホに手を伸ばす。時刻は午前7時48分。
『!!』
声にならない声を上げてベッドから飛び起きる。6時には起きるはずだったのに! 今から急いでも、確実に遅刻だ。その途端に頭がフラついた。眩暈がする。
「んーー、どうするかなあ。」
今まで会社を休んだことがない。でも昨夜は確実に熱があったような気がする。体温計を使ってないから分からないけど。
『休むか……。』
僕はその日、初めて会社を休むために電話を入れることにした。
『今電話をかけても誰も出ないだろうな。』
スマホを片手に寝室を出る。そうっとドアを開けると、リビングの真ん中の敷布団の上で寝息を立てているセイちゃんがいた。
ドアを閉める音が鳴っても、僕の足音が響いても起きる気配がない。ぐっすりと寝ているようだ。
『夢じゃなかった。』
使っていない敷布団を出し、愛用のタオルケットも貸して眠りについたのは3時間前。そりゃあ、何か月も現実とは違う世界に行っていたとしたら疲れているだろう。
信じたくないような出来事も、徐々に信じている自分に気づいた。この人は嶺誠一郎。セイちゃん。幼かった頃の経験を共有している。
でも、自分が知っている嶺さんとは違う人物で。このセイちゃんは今も自分とは違う世界にいるわけで。
『嶺さん……。』
夕べこの人は「死んだ」と言った……。分かるものなの? どうして? 聞いてみたいような気もする。でもそう考えただけで、身震いした。いや、聞きたくない。信じたくない。
「涉。」
いきなり手が伸びてきてしゃがみ込んでいた膝が床を打った。それと同時にセイちゃんが起き上がる。
「……今何時?」
胸に抱え込まれてめちゃくちゃ焦った。目の前のセイちゃんを見ていたはずなのに、意識が嶺さんに飛んでいてよく見ていなかった。
「は、は、離して。」
手をどうしたら良いか分からない。僕の頭に顔を埋めた男が「もう少し。」と言うのが聞こえた。僕は左手を床について何とか姿勢を保っていた。
「8時になる。ぼ、僕、会社に行かなくちゃ。」
「俺も行く。」
「どうやって!?」
えっ? 嶺誠一郎として会社に行くってこと? 絶対に無理がある。僕だって違和感が拭えないのに、長年勤めてきた同僚たちが気がつかない訳がない。
「……離れたくない……。」
セイちゃんの体から、どこかで嗅いだことのあるような体臭と僕と同じ柔軟剤の香りがする。いや、僕が貸したものを着ているのだから、当たり前なんだけど。
「ちょっと、ちょっと待って。ちょっとだけ離して。」
「やだ。」
セイちゃんの拘束が強くなる。左腕が痺れてきた。これ、どう言う状況なんだろ? 次第に鼓動が速くなる。
「セイちゃん……。今日は僕、会社を休もうと思うんだ。電話するから離して?」
胸に向かって呟いてみる。その途端に、セイちゃんの腕からそうっと力が緩んでいくのを感じた。
『!!』
声にならない声を上げてベッドから飛び起きる。6時には起きるはずだったのに! 今から急いでも、確実に遅刻だ。その途端に頭がフラついた。眩暈がする。
「んーー、どうするかなあ。」
今まで会社を休んだことがない。でも昨夜は確実に熱があったような気がする。体温計を使ってないから分からないけど。
『休むか……。』
僕はその日、初めて会社を休むために電話を入れることにした。
『今電話をかけても誰も出ないだろうな。』
スマホを片手に寝室を出る。そうっとドアを開けると、リビングの真ん中の敷布団の上で寝息を立てているセイちゃんがいた。
ドアを閉める音が鳴っても、僕の足音が響いても起きる気配がない。ぐっすりと寝ているようだ。
『夢じゃなかった。』
使っていない敷布団を出し、愛用のタオルケットも貸して眠りについたのは3時間前。そりゃあ、何か月も現実とは違う世界に行っていたとしたら疲れているだろう。
信じたくないような出来事も、徐々に信じている自分に気づいた。この人は嶺誠一郎。セイちゃん。幼かった頃の経験を共有している。
でも、自分が知っている嶺さんとは違う人物で。このセイちゃんは今も自分とは違う世界にいるわけで。
『嶺さん……。』
夕べこの人は「死んだ」と言った……。分かるものなの? どうして? 聞いてみたいような気もする。でもそう考えただけで、身震いした。いや、聞きたくない。信じたくない。
「涉。」
いきなり手が伸びてきてしゃがみ込んでいた膝が床を打った。それと同時にセイちゃんが起き上がる。
「……今何時?」
胸に抱え込まれてめちゃくちゃ焦った。目の前のセイちゃんを見ていたはずなのに、意識が嶺さんに飛んでいてよく見ていなかった。
「は、は、離して。」
手をどうしたら良いか分からない。僕の頭に顔を埋めた男が「もう少し。」と言うのが聞こえた。僕は左手を床について何とか姿勢を保っていた。
「8時になる。ぼ、僕、会社に行かなくちゃ。」
「俺も行く。」
「どうやって!?」
えっ? 嶺誠一郎として会社に行くってこと? 絶対に無理がある。僕だって違和感が拭えないのに、長年勤めてきた同僚たちが気がつかない訳がない。
「……離れたくない……。」
セイちゃんの体から、どこかで嗅いだことのあるような体臭と僕と同じ柔軟剤の香りがする。いや、僕が貸したものを着ているのだから、当たり前なんだけど。
「ちょっと、ちょっと待って。ちょっとだけ離して。」
「やだ。」
セイちゃんの拘束が強くなる。左腕が痺れてきた。これ、どう言う状況なんだろ? 次第に鼓動が速くなる。
「セイちゃん……。今日は僕、会社を休もうと思うんだ。電話するから離して?」
胸に向かって呟いてみる。その途端に、セイちゃんの腕からそうっと力が緩んでいくのを感じた。
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旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
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