暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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もうどこにも行かないで? 僕を独りぼっちにしないで?

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「だって、だって!」

「だって何だ? ん?」

 僕の鼻水や涙がセイちゃんの白いシャツに吸い取られていく。セイちゃんの大きな手が僕の頭を撫でてくれるのが分かった。でも、僕の涙は一向に止まろうとしなかった。

「このばま、会えないかもって……!」

「ぷっ! このばまって……。あはははははっ!」

 軽快な笑い声とは裏腹に、僕を囲む腕にぎゅっと力が入るのが分かった。足音がする。僕たちの近くで止まって、やがて扉が開く音。このマンションの住人だ。僕は急に恥ずかしくなって、息を止めて足音が通り過ぎるのを待った。

「涉、心配させてごめんな? 中に入ろう?」

「……。」

 無言で頷き、今出したばかりの部屋の鍵をセイちゃんの肩のあたりに持ち上げた。でもセイちゃんはそれを取ろうとはしなかった。

「大丈夫。」

 僕の頭に回した右手はそのままに、少し後ろに歩かされた。セイちゃんが左手で何か操作する。マンションのエントランスの扉が開くのが分かった。

「セイちゃん!」

 驚きのあまり、ドロドロの顔を上げてセイちゃんを見上げる。セイちゃんは僕の肩に手を当てて、誘導するように歩き出した。

「ここに住むことにした。」

「セイちゃん!!」

 えっ? ここ? ぼ、ぼ、僕の部屋に? でもセイちゃんは穏やかな微笑みを浮かべて黙って僕を中に誘った。

 エレベーターを通り過ぎる。通路が左右に長く伸び、部屋が並んでいる。このマンションは1つのフロアごとに10戸程の部屋があるはずだ。

 セイちゃんに連れられて行ったそこは、西の奥にある107号室だった。

「俺の城に初めて上げるな。と言っても今日引っ越してきたばかり。」

「セイちゃん!」

 扉を開くセイちゃんに手を繋がれているのにも気づかず、何を言ったらいいか分からなかった。でも、ドアは僕のところと同じ、クリーム色をしていることが分かった。重いドアが開く。

「おいで。」

 玄関に上がると、僕の部屋とは違う造りであることに気づいた。僕のところにはない通路が右に伸びている。

「こっち。」

 手を引かれて真っ直ぐ続く廊下のドアを開けると、対面式のキッチンと僕のところより広いリビングに通された。

 あちらこちらに段ボールが置いてある。本当に引っ越してきたばかりのように。

「この荷物は?」

「全部買ったもの。大型のものは明日届く。インフラは全部手続き済みだが、まだまだ生活できそうにない。」

 だろうな。驚きのあまり、涙が止まったことに気づいた。はな、鼻を拭きたい。

「ほら。」

 僕の思考を読んだかのように、段ボールから箱ティッシュを出したセイちゃんが、蓋を開けて僕に差し出してきた。

 セイちゃんの白いシャツは僕の涙や鼻水で濡れたところが透けて肌に張り付いていた。

「し、下着ぐらい着てよっ!」

 濡らしたのは僕なのに、何故か顔が熱くなるのを感じた。

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