異世界で魔道具にされた僕は、暗殺者に愛される

雨月 良夜

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第五章 それぞれの想い

戦いの前の静寂

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「私たちは侵攻に先立って、ロイラック王国の防御結界の一部分を破壊する。そこから、私たちと一緒に潜入してほしい。……私たちが王都に着くのは2日後、レイルたちが泉に着くのは……、おそらく私たちより早い1日後だな。」


各国の国境には国を囲うように結界が施されていているそうだ。許可のない者が侵入した場合、身体に電流が走って動けなくなる。

それを、セルカ殿下は魔導士たちと協力して破壊するのだと言う。


セルカ殿下は机に広げた地図を指差して、結界を壊す場所を教えてくれた。ロイラック王国の東側で、王都からは少し離れている。ちょうど、そこにある結界の強度が弱まっていることから、起点とするらしい。


僕は、亜空間収納から事前に取り出しておいた深緑色の本を机の上に置いた。これはセレーネの楽譜だ。事前に出しておいたのは、僕が亜空間収納を使用できることを隠すため。


僕が本を広げると、瞬く間に勝手にページが捲れていった。その様子に、セリカ殿下とシュティレヴォルト隊長が目を見張る。そして、白紙のページを開いてピタリと止まると、茶色のインクが滲み文字や図形を描いていった。


僕の意思を汲み取った楽譜は、泉へと道しるべになる地図に変わる。

現在の地理が記載されている地図と見比べると、泉の部分には森のマークのみが記載されているだけだった。ロイラック王国の王都からはかなり遠いけど、結界を壊す場所には割りと近い。


「問題は……。そのサエの首輪だ。」

泉の場所を入念に確認したセルカ殿下は、楽譜から僕の首輪に視線を移した。


「サエの首輪の呪いは、レイルがほとんどを解呪してくれた。ただ首輪というのは外れない限り、主従関係が解除されない。今までは、ロイラック王国から離れていたし、ラディウス国内にいたから反応が無かったと思うが……。」


もともと、首輪という人を隷属させる魔道具は、主従関係が強固になるよう首輪の革自体に魔法を施しているのだそうだ。

確かに、人を縛り付けるのに金属の飾りだけでは不十分だろう。そのため、僕の首輪の内側にはたくさんの魔法陣や拘束の言葉が書かれているらしい。


そして、主従関係を結ぶときには主の血液と、隷属する人の血液を首輪に一滴ずつ垂らすのだそうだ。この血液と言うのが、魔力を多分に含んでいる。


「おそらく、ロイラック王国内に入れば主人として首輪に血液を登録している、宰相と首輪が共鳴する。つまり、宰相にサエの居場所がバレる。」


今までは、カレンさんの家では強固な結界によって共鳴を免れていた。そして、魔王城でもラディウス国の防御結界によって阻まれていたのだ。
ロイラック王国内に入ると、その障壁が無くなってしまう。


隠蔽魔法でどうにか隠せないかと思ったけど、血液で交わした主従関係というのはほとんど呪いに近いそうで、強力がゆえ隠し通せないという。


「……サエの居場所がバレれば、確実に宰相は動き出す。宰相は王都で采配を取るにしても、刺客を送ってくる可能性が高い。念のため変装した騎士数名を、サエたちに護衛として同行させよう。」

僕たちはロイラック王国内に侵入したら、止まってはいけない。常に居場所がバレてしまっているのだから。


そのため、セルカ殿下はロイラック王国内に潜伏している味方に連絡をして、僕たち用に馬を用意してくれた。結界内に入った後に半日馬を駆けて、その後に別の馬に乗り換えて駆ける。これで、止まることはない。


「……双子ちゃんたちの転移魔法は、最終手段として取って置いたほうが良いわね。……念のために、2人には転移魔法陣を大きな紙か布にでも書いてもらって携帯しましょう。」

カレンさんの提案に、シエルとステラは力強く頷いた。


「うん。頑張って書く!」

「……まかせて。」


本当はこのまま、双子をラディウス国の騎士たちに保護してもらおうと思っていたんだけど……。

2人は頑なに僕と一緒に来ることを願った。危険な目に遭ってほしくないと諭しても、「サエが死んだら、僕たちは生きていけないから。」と言われてしまった。

2人のことは、何がなんでも僕が守ろう。


「この1か月間は戦闘準備と、ラディウス国内の浄化をお願いしたい。それでは、解散。」

大まかな作戦が決まったところで、会議は終了となった。



僕たちはその後、セルカ殿下たちと一緒にラディウス国とロイラック王国の国境近くにある、騎士団支部へと移動した。


僕は、その日から毎日聖魔法で浄化を行った。

暗黒魔術の魔石は1日では浄化しきれなくて、1つの魔石を浄化するのに3日ほどかかった。僕の聖魔術は完全なものだけれど、魔石に直接触れるわけではないため、浄化には時間がかかるようだった。


それでも、確実に魔石を壊すことが出来ていることに安堵する。

シエルとステラは着々と転移魔法陣の作成に勤しんだ。レイルとカレンさんは、僕たちに同行する騎士さんたちと戦闘時の連携の確認をしていた。


僕は魔石の浄化をしつつ、今は空の魔石に聖魔術を流し込んでいる。この魔石は、壊れると同時に聖魔術が発動して防御結界が出現するというものだ。

結界内では治癒も発動できるように魔法を付与した。


この魔石を、とにかく作れる分だけ作っておく。

別に、ラディウス国に味方をするわけではない。
ただ、ここ数日で騎士の人たちには随分と良くしてもらった。


僕を暗黒魔術の使用できる道具として扱うのではなく、1人の人間として扱ってくれた。体調を気遣ってくれる人もいたし、中には身体が細すぎると言ってご飯を大盛で出してくれた騎士の人もいた。

世間話も良くして、みんな気さくな良い人達だった。


何よりも、嫌悪の視線を向けてくる人が一人もいなかった。


この騎士の人たちの命は、守りたい。

だから、騎士の人達に行き渡るように魔石を作っておいたのだ。もちろん、レイルやカレンさん、シエルやステラの分は忘れない。


日に日に緊迫感が増す中で、騎士さんたちの顔も強張っていった。覚悟はしているものの、死への恐怖はぬぐえない。

少しでも癒されるようにと、夜には聖魔術で癒しを皆に施した。今は、今だけは、皆が穏やかに眠れますように。


そんな日常は、あっという間に過ぎていった。


そのときが来る。



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