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第三章『王子様、現る!?』

第61話 魔女っ娘リルム

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 仕切りの外から聞こえるユーマの声。
 驚いた拍子に、精液は残らず手から床へ零れてしまった。

「こら、れでぃーの湯浴みを邪魔しちゃだめよん」

 さらに知らない女の子の声。

「へっ?」

「誰? どうしたの?」

 慌てて仕切りのカーテンから顔だけを覗かせると、ユーマが慌てふためいていた。

「い、いやその! 覗こうとしてたワケじゃなくてですね! 追加のガーゼを取りに、たまたま近くを通りかかっただけで。それと、ヒミカさんが具合悪そうだったので心配で」

「大丈夫よ。もう上がるから。久しぶりの温かいシャワーだったから、つい長居しちゃった。あ、もうすぐ夕飯の時間だよね? 先、行ってて。私もすぐに行くから」

「分かりました。お腹、空きましたもんね。僕も終わらせたらすぐ戻りますので、一緒に食べましょう!」

 そういえばしばらくの間、安宿と野宿の日々だった。
 だから、温かいご飯を食べられることが相当嬉しいのだろう。
 張り切って救護部隊の元へ戻っていった。

「あれ、もう一人の女の子は?」
 
 声がしたはずなのに、忽然と姿が消えていた。

「まぁいいわ。それより──」

「ふぅ。バレなくてよかったぜ」

 心臓を撫で下ろすクライドをジト目で睨む。

「どうすんのよ」

「どうすんのって、続きでもするか?」

「へっ、続き!? し、しないわよ。クライドの変態!」

「悪い悪い。俺もスッキリしたし、出るか。あ、でも一緒に上がったら他の兵士達に見られちまうよな」

「それもそうだし、一緒に着替えるのも嫌。テントをすり抜けて出てって」

「それは無理でしょ……って言いたいけど、できちゃうんだな、コレが。ヒミカ、着替え取って」

「え? はい」

 クライドは口で着替えを咥えると、テントの接合部分の僅かな隙間を見つける。

「じゃあな、ヒミカ。またあとでゆっくりと」

 あざといウインク。
 片手を挙げてさよならしたと思ったら、柱を弄って隙間を広げ、器用に身体を滑らせて出ていった。
 テントの裏側は資材置き場になっているから、全裸のまま他の兵士と遭遇する可能性は低いだろう。

 シャワーテントに久方ぶりの静寂が戻った。

(はぁ……危なかった。なんだか、逆に疲れた、かも)

 精液でべとべとのままの手の平を見つめると、再び指ごと口に含みたい衝動に駆られる。

(本当に、クライドなんだ…………って、ダメダメ。そろそろ私も出ないと、怪しまれちゃう)

 素早く念入りに身体全体を洗い流し、そそくさと脱衣所へ向かった。

「安心しーよ。ヒミカは妊娠しとらんから」

「っ!?」

 驚き過ぎて魂が口から飛び出そうになった。
 だって、まるで何もない虚空から突然現れたように見えたから。

「ふっふっふ。きみがヒミカね。さっきはごめんよ。あの少年がこわーい顔して、しゃわーてんとに突撃するものだから、同じ女として注意してやったのよ」

「きみ、お名前は? もしかして迷子かな?」

「安心せい。ヒミカよりもウチの方が圧倒的に頭くればーだから──ってやめて反射的に殴りかからないで! 暴力反対!」

 泣きじゃくる様子はまさに子供そのものだけど、【踊り子】とはいえ成人しているヒミカの拳をひらりと躱した。

(箒に乗って空を飛んでる……?)

 アンティークな黒い箒。背丈をすっぽり包むこれまた黒のワンピース。
 その見た目は【魔法士】そのものだ。

「【魔法士】は賢くないと慣れないの。ウチみたいなろりがこんな格好して、こんな【適正センス】持ってちゃおかしい?」
 
 間髪入れずに首を横に振った。

(でも、自分でロリって言っちゃうんだ……)

「よかった。ヒミカは優しいね」

 糸目で笑う姿は可愛らしいが、子供の無邪気な笑みとは少し違った雰囲気を纏っていた。

「ところで、さっき言ってた、その……妊娠してないって、どういうこと?」

「うん? そうそう。ヒミカはじゃいあんとおーくに襲われて、種付けされちゃったんだってね。大丈夫よ、ヒミカは汚れてなんかない」

「どうして?」

「だって、ヒミカは、強い生命体のすぺるまじゃないと子は為せないよ。弱い生命の精子は全部魔力に変換されちゃうから」

「え……?」

「あ、自己紹介がまだだったね。ウチは魔女っ娘リルム。よろしくねん」
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