Deity

第2章 目覚めと、自覚と、狙う者編

現れし者2

長い髪を一つにまとめ花かんざしを挿していた男はどこの者なのか。
そして、私の素性を知っている風だった。
カマをかけたのかもしれないが、実にあれは私の血筋を知っていた。
神の血と皇族の血を引いているということを。
目の前に眠る、春宮様の顔を見つめながら思考は先程の男、絢音の事を考えている。
本能的に彼は敵だと。嫌悪が出てきた。けして身内には入ってこない。
とてもじゃないが、あのは相容れない人だ。

『・・・姫・・・・。』
『青にぃ・・・。ありがとう、正直助かったわ。』

珍しく苦笑を浮べ、震える手を握る。
ここまで、拒否反応が出る相手は初めてだ。
全身で、彼に触れられた場所が震え出す。アレには触れてはならぬと。
この感じ、どこか昔、感じたことがある。それはいつだったのだろうか？

「姫」

武官姿で現れた青にぃは、後ろからぎゅっと抱きしめてくれた。
このぬくもりは大丈夫だと、感じれば浅くなっていた息をしっかりと吐く事が出来た。
呼吸が整ってくると、沈んでいた思考も浮上する。
大丈夫。ただ、春宮様が目を覚ましたときに傍にいたかった。
青にぃから離れると、春宮様のそばへ行き、さらりと前髪をかき揚げその顔をまじまじと見る。
倒れている時はひやりとしたが、特に外傷もなく安堵したのは確かだ。
規則正しい呼吸を繰り返す、春宮様の傍に座っていると晴明様からの式が飛んできた。
おそらく、新嘗祭の方は特に問題無く進んでいて、影響は何も出ていないということだった。

「青にぃ、少し時間を作ってもらえる？」
「・・・いくらでも。姫が望むなら。」
「ありがとう。」

春宮様の隣には、式を置いて私は青にぃと共に孫廂までやってきた。
室内で眠る春宮様がギリギリ確認できる距離だ。
まぁ式を置いているので万が一はないけれどそれでも、念の為だ。

「このタイミングでとは思ったのだけれどね、でも、昨日から決めていた事だから、先延ばしはダメだよね～って思って。青にぃだけ、愛称、真名なかったでしょう？現代むこうなら色々調べれたのだけれどね、私の直感とイメージで”蒼月あつき”蒼い月と書いてあつき。」

青にぃの手のひらに文字を書きながら伝える。

「どう、かな？」

おそるおそる青にぃを見上げ反応を伺うと、そのままぐっと抱き寄せられた。

「・・・大切にします。姫からいただいた大切な名前。あなた以外決して呼ばせない、大切名前。」
「気に入ってくれてよかった。それよりも、みんな絶対私が付けた名前では呼ばせないよね。」

ぷはっと、顔をあげる。体はしっかりと蒼月に抱きとめられているので辛くはない。

「私たちにとって主からもらう、”名”は最上級の愛情なのですから、呼ばせないのはそれぞれの独占欲の表れですよ。」
「そうなのね。そう言われれば納得。」

抱き寄せれていた体制から膝の上にきちんと座り直すと、蒼月から顎をつかまれ上へ向かされるとそのまま唇を重ねた。
触れるだけの優しいキス。

「どうせなら、そのまま神気分けたのに。」
「いえ、昨日いただいた分でまだ十分ありますから。それとも、姫は体がきついですか？」
「まだ、大丈夫かな？さて、私はこのままこの殿舎の結界を強化しようかしら？」
「お供します。」
「ふふ、ありがとう。」

すっと立上り、孫廂から春宮さまが眠る塗籠へと向け印を結びながらくるくると四方を囲っていく。
そして、春宮様と共に私が入れば、問題ないだろう。
塗籠の隅に座ると、そのまま春宮様が目を覚ますのを待つことにした。