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第四話
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◇◇◇◇キサラギ視点1◇◇◇◇
誰かを騙すということは、誰かに騙されることと表裏一体であると肝に銘じなくてはならない。
キサラギは今まで多くの人々を見てきた。騙す権力者、騙される民衆、騙して暴利を貪る商人に、騙されて死を選ぶ家族。洋の東西を問わず、みな、騙す輩はきわめて悪どいものである。
とはいえ、馬鹿正直に騙される謂れはない。抵抗できるときはしておく、まあやりすぎたって自業自得で済む話である。何があっても気にすることはない。
ベルグランド侯爵家従者は仮の姿であり、その実、ベルグランド侯爵直々に東の国からスカウトされた東国三大烈女の一人『義賊の鬼』にとっては、この程度の仕返し、児戯にも等しいのである。
◇◇◇◇
マイネへルン伯爵家嫡男アルフレッドが舞踏会で婚約破棄し、ジャカール子爵家令嬢クラウディアと婚約を結んだある晩のこと。
クラウディアはアルフレッドの求めにより、マイネへルン伯爵家屋敷に移り住んでいた。新しく、正しい婚約者であることを公に認めさせるため、アルフレッドはすぐに同居するよう強く要望したのだ。ジャカール子爵は二つ返事で娘のクラウディアを送り出し、両家の絆の強さを証明しようとした。
だが、肝心のクラウディアが乗り気ではなかった。それもそのはずで、彼女は父親の命令もあって「偉そうなベルグランド侯爵家の娘をぎゃふんと言わせるためには、婚約者を奪うくらいしてやろう」と子供のように考えていたにすぎず、別にアルフレッドのことが好きなわけではなかった。適当にしなを作ってお淑やかなふりをしているだけでアルフレッドはクラウディアに入れあげて、勝手に婚約へとことを進めたのだ。
急な同居、婚約とあっては、クラウディアは自室にこもってため息を吐くばかりだ。
「はー、あの男、また鏡を見ているんじゃない? お金があって顔がよくても、ナルシストって……もっとまともな男と結婚したかったわ」
クラウディアがジャカール子爵家から連れてきた若いメイドが、クラウディアをほんの少したしなめる。
「姫様、そのくらいで。結婚さえしてしまえば、外にお出になられればいいのです。いくらでも同衾しない理由は作れますわ」
「そうね。白い結婚なんて犯罪じみた不名誉なこと、私がやるとは思わなかったわ。でもあんなのと一緒にいるくらいなら、外に愛人を作ったほうがマシよ」
主従揃って結婚に対する篤実さや誠実さなどかけらも信じていない。クラウディアの母もそうだった、ジャカール子爵と儲けた子は申し訳程度にクラウディア一人、あとは自由奔放に屋敷の外でたびたび入れ替わる愛人と暮らし、クラウディア自身異父弟妹が何人いるかなど知る由もない。貴族の結婚とは大半がそうである、当然ながらそこに愛はない。世間知らずで恋愛に夢見る貴族の子女を、クラウディアは鼻で嘲笑える。アルフレッドもどうやらその一人であるように思えてならず、ますますクラウディアのため息は深くなるばかりだ。
とにかく、クラウディアはアルフレッドとともに過ごす気はない、ということは明らかで、マイネへルン伯爵家の使用人たちはすぐにそれを察知し、好き放題噂をする。
壁に耳あり障子に目あり、それを使用人に紛れてマイネへルン伯爵家屋敷に潜入していたキサラギは聞きつけ、瞬時に考えついた嫌がらせを実行した。
誰かを騙すということは、誰かに騙されることと表裏一体であると肝に銘じなくてはならない。
キサラギは今まで多くの人々を見てきた。騙す権力者、騙される民衆、騙して暴利を貪る商人に、騙されて死を選ぶ家族。洋の東西を問わず、みな、騙す輩はきわめて悪どいものである。
とはいえ、馬鹿正直に騙される謂れはない。抵抗できるときはしておく、まあやりすぎたって自業自得で済む話である。何があっても気にすることはない。
ベルグランド侯爵家従者は仮の姿であり、その実、ベルグランド侯爵直々に東の国からスカウトされた東国三大烈女の一人『義賊の鬼』にとっては、この程度の仕返し、児戯にも等しいのである。
◇◇◇◇
マイネへルン伯爵家嫡男アルフレッドが舞踏会で婚約破棄し、ジャカール子爵家令嬢クラウディアと婚約を結んだある晩のこと。
クラウディアはアルフレッドの求めにより、マイネへルン伯爵家屋敷に移り住んでいた。新しく、正しい婚約者であることを公に認めさせるため、アルフレッドはすぐに同居するよう強く要望したのだ。ジャカール子爵は二つ返事で娘のクラウディアを送り出し、両家の絆の強さを証明しようとした。
だが、肝心のクラウディアが乗り気ではなかった。それもそのはずで、彼女は父親の命令もあって「偉そうなベルグランド侯爵家の娘をぎゃふんと言わせるためには、婚約者を奪うくらいしてやろう」と子供のように考えていたにすぎず、別にアルフレッドのことが好きなわけではなかった。適当にしなを作ってお淑やかなふりをしているだけでアルフレッドはクラウディアに入れあげて、勝手に婚約へとことを進めたのだ。
急な同居、婚約とあっては、クラウディアは自室にこもってため息を吐くばかりだ。
「はー、あの男、また鏡を見ているんじゃない? お金があって顔がよくても、ナルシストって……もっとまともな男と結婚したかったわ」
クラウディアがジャカール子爵家から連れてきた若いメイドが、クラウディアをほんの少したしなめる。
「姫様、そのくらいで。結婚さえしてしまえば、外にお出になられればいいのです。いくらでも同衾しない理由は作れますわ」
「そうね。白い結婚なんて犯罪じみた不名誉なこと、私がやるとは思わなかったわ。でもあんなのと一緒にいるくらいなら、外に愛人を作ったほうがマシよ」
主従揃って結婚に対する篤実さや誠実さなどかけらも信じていない。クラウディアの母もそうだった、ジャカール子爵と儲けた子は申し訳程度にクラウディア一人、あとは自由奔放に屋敷の外でたびたび入れ替わる愛人と暮らし、クラウディア自身異父弟妹が何人いるかなど知る由もない。貴族の結婚とは大半がそうである、当然ながらそこに愛はない。世間知らずで恋愛に夢見る貴族の子女を、クラウディアは鼻で嘲笑える。アルフレッドもどうやらその一人であるように思えてならず、ますますクラウディアのため息は深くなるばかりだ。
とにかく、クラウディアはアルフレッドとともに過ごす気はない、ということは明らかで、マイネへルン伯爵家の使用人たちはすぐにそれを察知し、好き放題噂をする。
壁に耳あり障子に目あり、それを使用人に紛れてマイネへルン伯爵家屋敷に潜入していたキサラギは聞きつけ、瞬時に考えついた嫌がらせを実行した。
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