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第三話
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裏庭の管理人見習いの朝は早い。
日が昇る前に薬師のデ・ヴァレスとともに薬草を探す。私が抜きまくったからもうないのでは、と思うが、もしかすると根っこや種が残っているかもしれないということで、まだまだ暗い裏庭へやってきた。
「あのぅ、暗いのに根っこやタネなんて見つかるんですか?」
弱々しいランプを持つ薬師のデ・ヴァレスは、気を悪くすることもなく答えてくれた。
「うむ、薬草の中には光るものもあってな。一部でも残っていれば、どこかしら光っているはずだ。それを探しておくれ」
「分かりました、やってみます」
私は本当にそんなものがあるのか、と半信半疑ながらも、竹のザルを片手に光る薬草を探す。
すっかり草がなくなって、粒まじりの土道と植物を育てる赤土が広がる裏庭は、星明かりだけでは手元さえまともに見えない。それでも地面に這いつくばって、光るものがないかじっと目を凝らし、進んでいく。つい先日まで私は宮廷メイドとして華やかな世界に関わる高給のお仕事に就いていたのに、今私は地面の冷たさを肌で感じて、草むらを手でかき分けている。どうしてこうなったのだろう、ため息が出てしまう。
しかし、木の根元の隙間にぽわんと光る葉っぱを見つければ、そんな気分も吹き飛ぶ。
「ありました! 光ってます!」
私はほんの葉っぱ一切れを取り、やってきた薬師のデ・ヴァレスへ見せた。
「おお、よかったよかった。庭師に頼んで、何とか生かせないか頼んでみるよ」
「お願いします! もっと探しますね!」
「ああ、日が昇るまで探してみよう」
何だか宝探しみたい、と私はすっかりしでかしたことを忘れ、光るものを探して地面に這いつくばること二時間。
私の竹のザルには、根っこ、葉っぱ、殻付きの種がずらりと揃った。山羊にも食べられず意外と残っているものだ、と本当に安心した。薬師のデ・ヴァレスは喜び、上機嫌だ。
「見つかってよかったよ。お嬢さんもそれほど深刻に捉えなくていい、何とかなるさ。日も昇ったし、一旦朝食を食べておいで」
「はい!」
薬師のデ・ヴァレスの許可を得て、私は建物の裏手を回って城壁内の宿舎へ戻る。さすがにこの土いじりの格好のまま王城内を歩くわけにはいかない、着替えて食堂にパンとスープをもらいに行こうと決めた。
しかし、宮廷メイドを辞めさせられ、王城から追放されるかと思いきや、何とか首の皮一枚繋がった。裏庭の管理人見習いという裏方仕事、それも肉体労働系の仕事に転職してしまったが、とりあえず実家の弟への仕送りは維持できる。すでに父母はおらず、弟のマークは病弱で外の仕事はできないから、近所のおばさんに世話を任せて私は給料から仕送りを続けていた。
私は宿舎への道を歩いていると、前方にメイド服の集団を見つけた。悪いことをしたわけではないが、建物の影に隠れる。
集団の中には、私の先輩だったネルもいた。みんな眠たそうにあくびをしながら、今から仕事だ。
私もあそこにいたはずなのに、運命のいたずらとはひどいものだ——そう思っているところに、話し声が聞こえてきた。
「せっかくあのどんくさいのを追い払えたんだから、今日はいい日よきっと」
「そうよそうよ。エイダの指導係なんてよくやれたわよね、ネル」
「本当よ、もう。でもクビじゃなくて、裏庭係になってさ」
「何それ? 裏庭係って、マジウケる」
「そこまでして王城に残りたいなんて、意地汚いったらありゃしないわ」
メイドたちは、甲高い声で笑いながら、歩いていく。
完全に通りすぎ、いなくなるまで、私は動けなかった。
——そっか。そういうことか。
ネルは私を辞めさせようと、ありもしない裏庭の掃除という仕事を私にやらせて、執事長に言いつけた、というわけだ。なるほど、知ってしまって後悔する。知らなければよかった、知りたくなかった。みんな、気のいいメイド仲間だと思っていたのに。
私は少しの間だけ、建物の影に小さくなってうずくまり、目を閉じて泣くのを我慢した。
日が昇る前に薬師のデ・ヴァレスとともに薬草を探す。私が抜きまくったからもうないのでは、と思うが、もしかすると根っこや種が残っているかもしれないということで、まだまだ暗い裏庭へやってきた。
「あのぅ、暗いのに根っこやタネなんて見つかるんですか?」
弱々しいランプを持つ薬師のデ・ヴァレスは、気を悪くすることもなく答えてくれた。
「うむ、薬草の中には光るものもあってな。一部でも残っていれば、どこかしら光っているはずだ。それを探しておくれ」
「分かりました、やってみます」
私は本当にそんなものがあるのか、と半信半疑ながらも、竹のザルを片手に光る薬草を探す。
すっかり草がなくなって、粒まじりの土道と植物を育てる赤土が広がる裏庭は、星明かりだけでは手元さえまともに見えない。それでも地面に這いつくばって、光るものがないかじっと目を凝らし、進んでいく。つい先日まで私は宮廷メイドとして華やかな世界に関わる高給のお仕事に就いていたのに、今私は地面の冷たさを肌で感じて、草むらを手でかき分けている。どうしてこうなったのだろう、ため息が出てしまう。
しかし、木の根元の隙間にぽわんと光る葉っぱを見つければ、そんな気分も吹き飛ぶ。
「ありました! 光ってます!」
私はほんの葉っぱ一切れを取り、やってきた薬師のデ・ヴァレスへ見せた。
「おお、よかったよかった。庭師に頼んで、何とか生かせないか頼んでみるよ」
「お願いします! もっと探しますね!」
「ああ、日が昇るまで探してみよう」
何だか宝探しみたい、と私はすっかりしでかしたことを忘れ、光るものを探して地面に這いつくばること二時間。
私の竹のザルには、根っこ、葉っぱ、殻付きの種がずらりと揃った。山羊にも食べられず意外と残っているものだ、と本当に安心した。薬師のデ・ヴァレスは喜び、上機嫌だ。
「見つかってよかったよ。お嬢さんもそれほど深刻に捉えなくていい、何とかなるさ。日も昇ったし、一旦朝食を食べておいで」
「はい!」
薬師のデ・ヴァレスの許可を得て、私は建物の裏手を回って城壁内の宿舎へ戻る。さすがにこの土いじりの格好のまま王城内を歩くわけにはいかない、着替えて食堂にパンとスープをもらいに行こうと決めた。
しかし、宮廷メイドを辞めさせられ、王城から追放されるかと思いきや、何とか首の皮一枚繋がった。裏庭の管理人見習いという裏方仕事、それも肉体労働系の仕事に転職してしまったが、とりあえず実家の弟への仕送りは維持できる。すでに父母はおらず、弟のマークは病弱で外の仕事はできないから、近所のおばさんに世話を任せて私は給料から仕送りを続けていた。
私は宿舎への道を歩いていると、前方にメイド服の集団を見つけた。悪いことをしたわけではないが、建物の影に隠れる。
集団の中には、私の先輩だったネルもいた。みんな眠たそうにあくびをしながら、今から仕事だ。
私もあそこにいたはずなのに、運命のいたずらとはひどいものだ——そう思っているところに、話し声が聞こえてきた。
「せっかくあのどんくさいのを追い払えたんだから、今日はいい日よきっと」
「そうよそうよ。エイダの指導係なんてよくやれたわよね、ネル」
「本当よ、もう。でもクビじゃなくて、裏庭係になってさ」
「何それ? 裏庭係って、マジウケる」
「そこまでして王城に残りたいなんて、意地汚いったらありゃしないわ」
メイドたちは、甲高い声で笑いながら、歩いていく。
完全に通りすぎ、いなくなるまで、私は動けなかった。
——そっか。そういうことか。
ネルは私を辞めさせようと、ありもしない裏庭の掃除という仕事を私にやらせて、執事長に言いつけた、というわけだ。なるほど、知ってしまって後悔する。知らなければよかった、知りたくなかった。みんな、気のいいメイド仲間だと思っていたのに。
私は少しの間だけ、建物の影に小さくなってうずくまり、目を閉じて泣くのを我慢した。
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