15 / 22
第十五話
これはデルフィーヌも気になっていたらしく、手を挙げてリオネルへ疑問をぶつける。
「あの、殿下を排除して、フローケ伯爵に何の利益が? せっかくご子息も親しくしているというのに」
改まって、リオネルは咳払いし、このコシェ王国内の実情を話した。
「実は、コシェ王国の王侯貴族は併合派と独立派に分かれている。シャルトナー王国の一部になるか、一国として細々とでも存続していくか。日夜双方が激しく衝突しているんだ。今までフローケ伯爵は明確な態度を示してこなかったが、財政の赤字をよく知っているだけに併合派に傾いて、俺を始末しようとしたんだろう」
なるほど、リオネルが暗殺を仕組まれていたことを信じたのは、そういう背景があったからか、とブランシュは納得すると同時に、街中の新聞売りと周囲の人々が話していた内容を思い出す。
『新聞いかがですか? 財務大臣と官僚の熱いバトル、場外乱闘にまで発展してますよ』
『第二王子殿下の外遊先での浪費問題? またか! けしからんな!』
『まったく、リオネル殿下を見習うべきですね。国王陛下も頭が痛いでしょう、おいたわしや』
『クエンドーニ王国と小競り合いで、外交部が使節を送るだって? あっちがやってきたんじゃないか』
『大国には逆らえないよ……シャルトナー王国も国境沿いで軍事演習ばかりしているしさ』
正直に言って、ブランシュは政治の話など興味がなかった。しかし、コシェ王国を取り巻く現実がかなり厳しいことは何となく耳にしていたし、実際にリオネルの暗殺を厭わないほど派閥の対立が激しくなっていたことは、なかなかにショックが大きい。
おずおずと、ブランシュはリオネルにこう尋ねた。
「殿下は、当然、独立派ですよね?」
しかし、それに答えるリオネルの顔色は優れない。
「叶うことなら……しかし、現実的に考えて難しいだろうとも思う。シャルトナー王国だけでなくクエンドーニ王国からも睨まれて、後ろ盾のリュクレース王国は大改革中でコシェ王国に構っている暇はない」
やっぱり。ブランシュは内心、ため息を吐く。そんな状況、婚約どころではない——というのはいいとして、国の存亡の危機を前に貴族が暗澹とした気持ちにならないわけがない。国がなくなれば、婚約どころか今後家が保つかどうかさえ怪しいのだ。
どうにかしなくてはと思っても、ブランシュはただの貴族令嬢だ。魅了魔法は使えても、政治的な力はないに等しい。
「うーん、何か、何かできることは」
そんなブランシュの独り言に、応えた者がいた。
デルフィーヌだ。デルフィーヌはリオネルに、こう提案した。
「殿下、それなら私たちの魅了魔法を使いませんこと?」
「あの、殿下を排除して、フローケ伯爵に何の利益が? せっかくご子息も親しくしているというのに」
改まって、リオネルは咳払いし、このコシェ王国内の実情を話した。
「実は、コシェ王国の王侯貴族は併合派と独立派に分かれている。シャルトナー王国の一部になるか、一国として細々とでも存続していくか。日夜双方が激しく衝突しているんだ。今までフローケ伯爵は明確な態度を示してこなかったが、財政の赤字をよく知っているだけに併合派に傾いて、俺を始末しようとしたんだろう」
なるほど、リオネルが暗殺を仕組まれていたことを信じたのは、そういう背景があったからか、とブランシュは納得すると同時に、街中の新聞売りと周囲の人々が話していた内容を思い出す。
『新聞いかがですか? 財務大臣と官僚の熱いバトル、場外乱闘にまで発展してますよ』
『第二王子殿下の外遊先での浪費問題? またか! けしからんな!』
『まったく、リオネル殿下を見習うべきですね。国王陛下も頭が痛いでしょう、おいたわしや』
『クエンドーニ王国と小競り合いで、外交部が使節を送るだって? あっちがやってきたんじゃないか』
『大国には逆らえないよ……シャルトナー王国も国境沿いで軍事演習ばかりしているしさ』
正直に言って、ブランシュは政治の話など興味がなかった。しかし、コシェ王国を取り巻く現実がかなり厳しいことは何となく耳にしていたし、実際にリオネルの暗殺を厭わないほど派閥の対立が激しくなっていたことは、なかなかにショックが大きい。
おずおずと、ブランシュはリオネルにこう尋ねた。
「殿下は、当然、独立派ですよね?」
しかし、それに答えるリオネルの顔色は優れない。
「叶うことなら……しかし、現実的に考えて難しいだろうとも思う。シャルトナー王国だけでなくクエンドーニ王国からも睨まれて、後ろ盾のリュクレース王国は大改革中でコシェ王国に構っている暇はない」
やっぱり。ブランシュは内心、ため息を吐く。そんな状況、婚約どころではない——というのはいいとして、国の存亡の危機を前に貴族が暗澹とした気持ちにならないわけがない。国がなくなれば、婚約どころか今後家が保つかどうかさえ怪しいのだ。
どうにかしなくてはと思っても、ブランシュはただの貴族令嬢だ。魅了魔法は使えても、政治的な力はないに等しい。
「うーん、何か、何かできることは」
そんなブランシュの独り言に、応えた者がいた。
デルフィーヌだ。デルフィーヌはリオネルに、こう提案した。
「殿下、それなら私たちの魅了魔法を使いませんこと?」
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。
夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。
真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。
そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。
数量は合っている。
だが、なぜか中身の重量だけが減っている。
違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。
そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。
しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。
それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。
「では、正式な監査をお願いいたします」
やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり――
隠されていた不正はすべて暴かれる。
そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。
これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、
“正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。
子爵令嬢にとんでもないもの背負わせないでください
ルーシャオ
恋愛
ヘリナス子爵令嬢アリアーヌはもうじき処刑される——生まれつき豊穣の女神の紋章を持つアリアーヌは、異種族から熱烈に求婚されてきた。しかしやがてそれは過激化し、アリアーヌの住むセサニア王国への脅迫という形になってしまう。事態を重く見た宰相によりアリアーヌは偽装処刑となるが、状況がどうにもおかしい。まるで今まで何度も処刑されたかのように——そして何度も助けられ、何度も死んだかのようだった。
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
第一王子と見捨てられた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。
お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。