魅了魔法の効かないあなたと婚約したくありません!〜麗しの侯爵令嬢、空回りする〜

ルーシャオ

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第十五話

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 これはデルフィーヌも気になっていたらしく、手を挙げてリオネルへ疑問をぶつける。

「あの、殿下を排除して、フローケ伯爵に何の利益が? せっかくご子息も親しくしているというのに」

 改まって、リオネルは咳払いし、このコシェ王国内の実情を話した。

「実は、コシェ王国の王侯貴族は併合派と独立派に分かれている。シャルトナー王国の一部になるか、一国として細々とでも存続していくか。日夜双方が激しく衝突しているんだ。今までフローケ伯爵は明確な態度を示してこなかったが、財政の赤字をよく知っているだけに併合派に傾いて、俺を始末しようとしたんだろう」

 なるほど、リオネルが暗殺を仕組まれていたことを信じたのは、そういう背景があったからか、とブランシュは納得すると同時に、街中の新聞売りと周囲の人々が話していた内容を思い出す。

『新聞いかがですか? 財務大臣と官僚の熱いバトル、場外乱闘にまで発展してますよ』
『第二王子殿下の外遊先での浪費問題? またか! けしからんな!』
『まったく、リオネル殿下を見習うべきですね。国王陛下も頭が痛いでしょう、おいたわしや』
『クエンドーニ王国と小競り合いで、外交部が使節を送るだって? あっちがやってきたんじゃないか』
『大国には逆らえないよ……シャルトナー王国も国境沿いで軍事演習ばかりしているしさ』

 正直に言って、ブランシュは政治の話など興味がなかった。しかし、コシェ王国を取り巻く現実がかなり厳しいことは何となく耳にしていたし、実際にリオネルの暗殺を厭わないほど派閥の対立が激しくなっていたことは、なかなかにショックが大きい。

 おずおずと、ブランシュはリオネルにこう尋ねた。

「殿下は、当然、独立派ですよね?」

 しかし、それに答えるリオネルの顔色は優れない。

「叶うことなら……しかし、現実的に考えて難しいだろうとも思う。シャルトナー王国だけでなくクエンドーニ王国からも睨まれて、後ろ盾のリュクレース王国は大改革中でコシェ王国に構っている暇はない」

 やっぱり。ブランシュは内心、ため息を吐く。そんな状況、婚約どころではない——というのはいいとして、国の存亡の危機を前に貴族が暗澹とした気持ちにならないわけがない。国がなくなれば、婚約どころか今後家が保つかどうかさえ怪しいのだ。

 どうにかしなくてはと思っても、ブランシュはただの貴族令嬢だ。魅了魔法は使えても、政治的な力はないに等しい。

「うーん、何か、何かできることは」

 そんなブランシュの独り言に、応えた者がいた。

 デルフィーヌだ。デルフィーヌはリオネルに、こう提案した。

「殿下、それなら私たちの魅了魔法を使いませんこと?」
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