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第二十九話
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「エミー、本が欲しい」
朝食後、意を決したようにアレクがそう言いました。私は少し悩んで、店の在庫を思い出しつつ答えます。
「何を見繕いましょう? ワグノリス王国文学の本は先日いくらか仕入れましたが」
「いや、その……買いに行かないか」
「では、古本市場へ」
「そうじゃなくて、俺が言いたいのは」
アレクは大きく息を吸い込んで、吐きました。深呼吸が必要なほど、大事なことを言うようです。
そして、私のその推測は当たっていました。
「帝都に行かないか、と言いたかった」
非常に遠回しでしたが、アレクは帝都、つまりアスタニア帝国の中心の都アスタナへ私を誘っている、そのようでした。
「アレク、そう言ってもらわなくては分かりません。帝都へ本を買いに行くだけではないでしょう?」
「成人の儀の前に、宮殿に来いと言われたんだ。父に」
心底嫌そうに、アレクはため息を吐きました。
アレクの父は、当然ですがこの国の皇帝です。その要請とあれば、断ることはできないでしょう。
「皇帝陛下から、ですか。それは断れませんね」
「そうだ。ただ、俺は行きたくない。本を買って帰りたいだけなんだ」
「お会いしたくないのですか?」
「今まで一度も会ったことがないんだ」
私は少し驚きました。アスタニア帝国はそこまで徹底して皇帝と皇子皇女の繋がりを成人まで隠すのか、と。
成人まで会ったこともない男性を、いきなり父と慕うことなどできないでしょう。ましてやアレクは気難しいところがあります、素直に皇帝を父と呼ぶことはできないに違いありません。
「正直、本当に血が繋がっているのかと疑ってしまう。周りがそう言うし、母上がそう言ってきたからそうなんだろうが……直接、父と言われている人物に会うとなると、どうしても気が引けるというか、面倒だろうなと思って嫌だ」
完全にアレクはやる気がありません。もうすぐ皇子となるその義務感でやっと喋っている、そんなふうです。
「それに、どうせ第一皇子の兄とも会わなければならないだろうし、なおさら気が重い。やらなくてはならないことだと分かっていても」
だんだん、私はアレクがかわいそうになってきました。感動の対面など望むべくもなく、相争うであろう肉親とも会わなければならない。呼ばれている以上無視することもできず、はるばるカルタバージュから帝都アスタナまで行かなければならない。
せめて、気を紛らわせることはできないか——そう思って、私はこう提案しました。
「お会いする前にこっそり様子を見る、ということはできないのですか?」
突然のことに、アレクは目を白黒させていました。しばし悩み、うーんと唸ります。
「いや、できなくはないだろうが……」
「信頼の置ける方に相談して、手筈を整えていただいてはいかがでしょう。まずどんな方かを知らなくては、不安が勝ってしまうだけですから」
アスタニア帝国のしきたりも何も知らない私がそう言うのは無責任かもしれませんが、他に言えることが思いつきません。だめならアレクはだめだと言うでしょうから、大丈夫とは思いますが、どうなのでしょう。
朝食後、意を決したようにアレクがそう言いました。私は少し悩んで、店の在庫を思い出しつつ答えます。
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「いや、その……買いに行かないか」
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「皇帝陛下から、ですか。それは断れませんね」
「そうだ。ただ、俺は行きたくない。本を買って帰りたいだけなんだ」
「お会いしたくないのですか?」
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「正直、本当に血が繋がっているのかと疑ってしまう。周りがそう言うし、母上がそう言ってきたからそうなんだろうが……直接、父と言われている人物に会うとなると、どうしても気が引けるというか、面倒だろうなと思って嫌だ」
完全にアレクはやる気がありません。もうすぐ皇子となるその義務感でやっと喋っている、そんなふうです。
「それに、どうせ第一皇子の兄とも会わなければならないだろうし、なおさら気が重い。やらなくてはならないことだと分かっていても」
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「信頼の置ける方に相談して、手筈を整えていただいてはいかがでしょう。まずどんな方かを知らなくては、不安が勝ってしまうだけですから」
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