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第十二話 お城は怖い件 後編
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ナオとアリサが黙って身を引く。三人で話し合って、城側から何かあればリオに窓口を一本化しておけば面倒がない、ということになっているのだ。
リオは精一杯の愛想笑いをして、男性へ問いかける。
「俺がリオですが、何でしょう?」
「実は、貴殿に頼みがある。これを近隣の、魔物の生息地中心に植えてきてほしいのだ。手順はこの封筒の中に書いてあるとおりで、植えて三日ほど観察してほしい」
これ、と男性が指差したのは、足元に置かれていた三つの大きめの布の袋だ。上には封筒が載っており、手順書と書かれている。
魔物の生息地中心に、という言葉に我慢ならなかったのか、苛ついた様子のナオが男性へと叫ぶ。
「そんな、魔物のいるど真ん中に行って、しかも居座れって!? 冗談じゃないっての、殺されるじゃん!」
「だが、重要な実験だ。無論、報酬は弾む」
「報酬って……!」
「やめろ、ナオ」
リオはすっと割って入り、ナオを引き下がらせる。
あくまで冷静に、リオは考えを巡らせるために、とりあえずは依頼の内容を確認することとした。
「開けてもいいですか?」
「ああ」
快諾を得てリオは布の袋を一つ、口を結んだ紐を引っ張って開く。
すると、中からは——充満していた爽やかな香りが押し寄せてきた。思わず咳き込み、リオはその正体を探ろうと袋の口を広げる。中身が露わになったところで、離れた位置から鼻を押さえるナオとアリサがその正体を見破った。
「何、この匂い。ミント?」
「だよね。すっごい爽やか」
「それ植えて何になるの? 魔物が嫌うとか?」
「虫じゃあるまいし」
袋の中身は、非常にいきいきとした大量のミントの苗と土だった。
リオとしては、デザートのアイスクリームに飾りとして乗るミントの一葉が思い浮かんだのだが、どうも袋の中のミントと思しき苗たちは、葉っぱが人間の手のひらよりも大きい。下手すると顔ほどもあるのではないか。それに、とても生命力に満ち溢れた鮮やかな緑色をしていて、ただものではないと一目で分かるほどだ。
ようやく、男性は依頼の内容について一歩踏み込んだ説明を始めた。
「その薬草はとある魔物研究者が生育したもので、魔物を寄せ付けない効果があるそうだ。だが、魔物研究者が実地に赴いて実験するには危険すぎる。なので、貴殿らに頼みたいのだ。これを植えるだけで魔物を避けられるとなれば、魔物による被害を食い止める一歩となる。それと、なるべく手間がかからないよう肥えた土と生育に必要な養分をセットにし、日当たりのいい場所へ置いて水をかけるだけでいいように最大限手順を簡略化してあるから、と言伝も受け取っている。どうか、受けてはもらえないだろうか」
そんな都合のいいものがあるのなら、どうしてもっと早く与えられなかったものか。
リオのそんな思いは胸にしまわれ、愛想笑いのままリオは男性の頼みを承諾する。
「分かりました。すぐに出発します」
「おお、よろしく頼む。必要なものがあれば言ってくれ、できるかぎり用意しよう。私はルシウス大臣の秘書官を務めている、リシャールという。城の南側三階にあるルシウス大臣の執務室隣にいるから、いつでも声をかけてほしい」
リシャールは三つの布の袋と手順書を置いて、にこやかに帰って行った。
リシャールの上司であるルシウスという大臣の名前は、リオも聞いたことだけはある。ただ会ったことはなく、あくまで大臣たちの中でも年長の、足が不自由なため職務の第一線から退いている老人だ、と聞いていた。
そのルシウス大臣が、わざわざリオを罠に嵌めるような行動を取る、というのも考えづらかった。この依頼でリオに何かあれば王女派が黙ってはいないだろうし、もし何かする気ならリオよりもよっぽど嵌めやすいクラスメイトたちが大勢いる。
とはいえ、リオの思考はそこが限界だった。それ以上のことはよく知らない上に、もし本当にこのミントのようなものに魔物を遠ざけるような効果があって実験を依頼してきたのだとすれば、やはり善意からかその期待に応えたい気持ちはある。
実質的に三人のリーダーであるリオの言葉を待つナオとアリサへ、リオは鬱々とした気持ちを消してにぎやかな仮面を被り、音頭を取る。
「とにかく、やってみるしかない。隠密行動だ、気を引き締めていくぞ!」
「あー、やりたくないなぁ……」
「隠密行動ならあーりんに任せろー!」
こうして、リオ、ナオ、アリサの三人組は実験のため、その日のうちに魔物のいる西方へと出立した。
少しずつだが、運命の歯車が噛み合っていく。悪い未来ばかりではなく、よい未来もリオたちには残されていた。
リオは精一杯の愛想笑いをして、男性へ問いかける。
「俺がリオですが、何でしょう?」
「実は、貴殿に頼みがある。これを近隣の、魔物の生息地中心に植えてきてほしいのだ。手順はこの封筒の中に書いてあるとおりで、植えて三日ほど観察してほしい」
これ、と男性が指差したのは、足元に置かれていた三つの大きめの布の袋だ。上には封筒が載っており、手順書と書かれている。
魔物の生息地中心に、という言葉に我慢ならなかったのか、苛ついた様子のナオが男性へと叫ぶ。
「そんな、魔物のいるど真ん中に行って、しかも居座れって!? 冗談じゃないっての、殺されるじゃん!」
「だが、重要な実験だ。無論、報酬は弾む」
「報酬って……!」
「やめろ、ナオ」
リオはすっと割って入り、ナオを引き下がらせる。
あくまで冷静に、リオは考えを巡らせるために、とりあえずは依頼の内容を確認することとした。
「開けてもいいですか?」
「ああ」
快諾を得てリオは布の袋を一つ、口を結んだ紐を引っ張って開く。
すると、中からは——充満していた爽やかな香りが押し寄せてきた。思わず咳き込み、リオはその正体を探ろうと袋の口を広げる。中身が露わになったところで、離れた位置から鼻を押さえるナオとアリサがその正体を見破った。
「何、この匂い。ミント?」
「だよね。すっごい爽やか」
「それ植えて何になるの? 魔物が嫌うとか?」
「虫じゃあるまいし」
袋の中身は、非常にいきいきとした大量のミントの苗と土だった。
リオとしては、デザートのアイスクリームに飾りとして乗るミントの一葉が思い浮かんだのだが、どうも袋の中のミントと思しき苗たちは、葉っぱが人間の手のひらよりも大きい。下手すると顔ほどもあるのではないか。それに、とても生命力に満ち溢れた鮮やかな緑色をしていて、ただものではないと一目で分かるほどだ。
ようやく、男性は依頼の内容について一歩踏み込んだ説明を始めた。
「その薬草はとある魔物研究者が生育したもので、魔物を寄せ付けない効果があるそうだ。だが、魔物研究者が実地に赴いて実験するには危険すぎる。なので、貴殿らに頼みたいのだ。これを植えるだけで魔物を避けられるとなれば、魔物による被害を食い止める一歩となる。それと、なるべく手間がかからないよう肥えた土と生育に必要な養分をセットにし、日当たりのいい場所へ置いて水をかけるだけでいいように最大限手順を簡略化してあるから、と言伝も受け取っている。どうか、受けてはもらえないだろうか」
そんな都合のいいものがあるのなら、どうしてもっと早く与えられなかったものか。
リオのそんな思いは胸にしまわれ、愛想笑いのままリオは男性の頼みを承諾する。
「分かりました。すぐに出発します」
「おお、よろしく頼む。必要なものがあれば言ってくれ、できるかぎり用意しよう。私はルシウス大臣の秘書官を務めている、リシャールという。城の南側三階にあるルシウス大臣の執務室隣にいるから、いつでも声をかけてほしい」
リシャールは三つの布の袋と手順書を置いて、にこやかに帰って行った。
リシャールの上司であるルシウスという大臣の名前は、リオも聞いたことだけはある。ただ会ったことはなく、あくまで大臣たちの中でも年長の、足が不自由なため職務の第一線から退いている老人だ、と聞いていた。
そのルシウス大臣が、わざわざリオを罠に嵌めるような行動を取る、というのも考えづらかった。この依頼でリオに何かあれば王女派が黙ってはいないだろうし、もし何かする気ならリオよりもよっぽど嵌めやすいクラスメイトたちが大勢いる。
とはいえ、リオの思考はそこが限界だった。それ以上のことはよく知らない上に、もし本当にこのミントのようなものに魔物を遠ざけるような効果があって実験を依頼してきたのだとすれば、やはり善意からかその期待に応えたい気持ちはある。
実質的に三人のリーダーであるリオの言葉を待つナオとアリサへ、リオは鬱々とした気持ちを消してにぎやかな仮面を被り、音頭を取る。
「とにかく、やってみるしかない。隠密行動だ、気を引き締めていくぞ!」
「あー、やりたくないなぁ……」
「隠密行動ならあーりんに任せろー!」
こうして、リオ、ナオ、アリサの三人組は実験のため、その日のうちに魔物のいる西方へと出立した。
少しずつだが、運命の歯車が噛み合っていく。悪い未来ばかりではなく、よい未来もリオたちには残されていた。
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