異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜

ルーシャオ

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第二十八話 祝福の差がえぐい件

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 ぐうの音も出ない正論だ。魔物に住んでいる土地を追われ、避難の長旅の末にヴィセア王国からの支援でようやく余っている住処や食料を与えられた人々はあまりにも多く、リオがこの短い間旅して目にしただけでも万を超える数だっただろう。

 異世界から召喚されたばかりだからといって、自分たちばかり安穏と、何もせずに広い家や美味しい食事、綺麗な衣服をもらうわけにはいかない。苦しみ、喘いでいる人々に対し、何もせずにいていいわけがない。

 今現在、リオたちはあくまで自分たちの立場を確保するために動いている。生きていくために必要ではある、しかし建前としてどうなのか。人として、英雄としてどうなのか。そう問われたとき、リオはバツが悪い顔をするか、無視するかしかなかった。

 ルシウスはひょこっと動いて、ソファに座り込んだ。

「まあ、そう身構えなくてもいい。幸いにして、君たちのうち数人とカツキは十分に働いてくれている。特にカツキ、彼は多くの人々が何の対処もできない重大な危機を、未然に防いでくれた」
「……『M-エム・Originオリジン』のことですか」
「そうだ。彼は自分の分野で、きちんと仕事をしている。英雄は戦うだけが能ではない、人々を守り、育み、時代を切り拓くからこそ英雄なのだ」

 深くソファに腰を沈めたルシウスは、すぐにリオの感情を読み取った。カツキに対するリオたちの思いは複雑だろう、だからこそ利用すべきだ、と老獪なルシウスは躊躇うことがない。

 リオへ、ルシウスは身の丈以上の仕事を受けさせる。カツキならできるほどの仕事をお前はできないのか、とばかりに。

「堂上リオ。人類と魔王との交渉テーブルを築いてほしい。手段は問わぬ。それに関してはできるかぎり支援を約束する」
「それと、俺たちの身分の保証を約束してください」
「それはできかねる」
「どうしてですか!?」
「まるで役に立たぬ者まで、英雄として扱うことはできないからだ。君と数人は違う、しかしだからといって全員同じ扱いをすることはできない。これは、困難に陥っている人類に対し、示しがつかないからだ」

 それを聞いたリオは、反射的に開きかけた口を閉じるために、奥歯を噛み締める。口答えしたところで、自分たちの立場はよくならないと見抜いたのだろう。リオは大人しく首を縦に振った。

「分かりました。自分たちで有用性を示せということなら、そうします。ですが、それなら俺たち全員の祝福ギフトや能力をあなたたちに開示はしません。俺が仕事を受けて、皆の中から最適な人材を選んで結果を出す。このスタイルを崩す気はありません」
「ならば、今はそうするといい。君や数人がしっかりと多数を養うのであれば、軍部にさえ文句はつけさせぬよ」
「ありがとうございます」
「もちろん、その能力の訓練や知識が必要であれば、それは援助する。そこは君たちを呼び出した者としての最低限の責務だ、恩を感じる必要はないから存分に我々を利用したまえ。カツキに場所と協力者を提供したことと同じ、いくら優秀な祝福ギフトがあろうとも活かす方法や場がなければ意味がないからな」

 何度となくルシウスが英雄の象徴のごとく上げるカツキの名前を、今ばかりはリオも警戒せざるをえない。

(また、カツキ……特別扱いというより、カツキがあれだけ画期的なものを生み出して、貢献しているからこそだろうが……皆に知られるとまずいな。事情が分からないうちからカツキを妬む声が出そうだ)

 嫉妬は容易に人間関係に亀裂を生む。ただでさえやっとまとまってきたクラスメイトたちをこれ以上分断されるわけにはいかないリオは、クラスメイトたちにはカツキのことを黙っていた。それを知っていながら、ルシウスはそれをたしなめることも、情報を漏らすこともない。

 利用されているのだ、とリオは実感した。この大臣の手のひらの上で、リオは駒のように扱われつつある。それが正しい行いだとしても、駒扱いは気分がよくない。

 無論、ルシウスとしては常識的に考えて、英雄などという存在を自由勝手にさせるべきではないと認識しているのだろう。祝福ギフト持ちがわんさか増えて、王女やその一派が暗躍しているこれだけ危機的な状況の国を掻き回すことだけは政務の中枢に携わる者として許してはおけないはずだ。

 そこへ、ルシウスが一つ、リオへ要求を提示した。

「さて、堂上リオ。一つだけ明らかにしておいてほしいことがある」
「何でしょうか」
「君の祝福ギフトだ。それだけはきちんと、我々にどのようなものであるかを教えてほしい。でなければ、英雄たちの代表であるはずの君を信用することはできぬよ」

 リオは、何だそんなこと、と思いつつも、裏があるように感じて仕方がなかった。

 だが、ルシウスの言い分も道理だ。お前に英雄たちを率いるだけの理由があるのか、と暗に尋ねているのだ。

 ならば、それに応えるしかない。

「分かりました。俺の祝福ギフトは」

 リオは、自身が持つ唯一にして最高の手札を明かす。

「『英雄タケルの武能』、おそらく……個人では最強の祝福ギフトでしょう」
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