3 / 49
第一章 淫魔の王と淫夢《ゆめ》みる聖女
╰U╯Ⅱ.淫魔の王と淫夢《ゆめ》見る聖女(1)
しおりを挟む
地下通路は下水道へと繋がっていた。追ってくる気配はもう感じられないし、おそらくは追手を撒けたのだろう。
地上の様子を探りたいが、別の兵士が少女を捜しているかもしれない。ウォルフスは少女に尋ねた。
「おい。この水道はどこまで繋がってんだ?」
「チェレステ=ラクイアの……、聖都の郊外までと聞いたわ」
「ならそこまで行ったほうがいいな。……もう歩けるだろう、降ろすぞ」
少女を地面に降ろす際、ウォルフスの手がスカートに引っかかった。
暗い地下道に、仄白く輝く太腿が露わになる。
「わりぃ……ん? この痣……」
小さな真珠粒が縫い付けられたスカートを直してやりながら、ウォルフスは確信する。
先ほど、通路を駆けながら思い出したのだ。少女はウォルフスの名前を知っていたし、ウォルフスの記憶の中にある子供の姿も、淡い金髪に水色の瞳だった。
――彼女は間違いなく、ウォルフスの『契約者』だ。
「お前、あの時の……えーと、何年前だ? 社で泣いてた嬢ちゃんか」
ウォルフスが尋ねると、少女はぱっと表情を明るくした。
「思い出してくれた?」
「ああ。確か……ミ、ミオ……」
「ミオリ」
「そうだったな。……でかくなったなぁ」
ウォルフスは懐かしさに破顔一笑する。
ウォルフスが少女――ミオリと出逢った頃、彼女はまだほんの子供だった。それからゆうに、十年は経っているのだろう。
しかしミオリは頬を赤らめて反論した。
「もう、子供ではありません」
その口ぶりにはわずかに不満がにじみ出ている。子供は、子供だと指摘されると決まってそう言うものだ。
「お前、聖女になったんだよな。どうしてこんな地下道を逃げてるんだ」
ウォルフスはミオリの不平を軽く流して、疑問を口にした。
「それは……わたしが下着を濡らしてしまったから」
「は? ……ああ、おねしょか?」
「違います!」
ミオリは頬を紅潮させて抗議する。
「淫夢を見て、下着が濡れてしまうんです!」
ウォルフスの表情が固まった。
彼はそっと息を吐き、気を取り直す。とりあえず、問題発言は無視することに決めた。
「それで、どうして兵士に追われることになるんだ」
「下着を濡らしたことがカサハに……女官長に知られて、神殿内で騒ぎになったの。誰か、男の人を招き入れてると思われたみたい」
「……それで?」
ウォルフスは努めて表情を変えないようにしながら、ミオリに先を促した。
「反神殿派に騒ぎを聞きつけられて、今朝、彼らが神殿に攻めて来たの」
「えーと……つまり、お前の失態を口実に、反神殿派とやらは神殿に弓引いた、そういうことか?」
「たぶん、そう……」
サウラ=ウルは政教一致の宗教国家だ。神殿に攻め入るということは、すなわち王権への叛逆となる。
なんとも話が大きくなってきたものだ。
「それで俺を喚んだのか」
「ええ。兵士に追いかけられて、転んでしまったの。その時、太腿の痣が光って……」
「なるほどな」
やっと得心がいった。
ウォルフスは過去、ミオリと契約を交わしている。ウォルフスがどこに居ても、ミオリが呼べば駆け付ける――そういう術の込められた契約だ。
「わたし、あなたが現れて確信したの」
「何をだ?」
ミオリは瞳を輝かせ、ウォルフスを見上げた。そして、満面の笑みを浮かべて言ったのだ。
「あなたこそが、わたしの夢見ていた肉の棒の持ち主だって……!!」
「……」
ウォルフスは脱力すべきか、それとも怒るべきなのか判断がつかずに沈黙した。
それをどう受け取ったのか、ミオリはさらに言い募る。
「ねぇ、ずっと欲しかったの。あなたの肉の棒……」
「おい、それ以上やめろ」
「え?」
気まぐれではあるが、契約まで交わした相手だ。その相手が口をつけば肉の棒だの、そんな現実は御免蒙りたい。
「聖女ってのは世間知らずだよな。何を勘違いしてるのか知らねぇが、これはそんなにいいモンじゃねぇぞ」
「嘘。カサハがあんなに恐れてるんだもの。リュート様が言ってたわ、カサハが肉の棒を恐れるのは、本当は肉の棒が好きで堪らないからだって……」
カサハというのは女官長か。だがリュートとは何者だ。
「リュートって誰だ」
「サウラ=ウル第一王子。以前、神殿騎士をしていたの」
ウォルフスは頭を抱えたくなった。
「とんでもねえ王子だな……」
「そんなことないわ。リュート様はとても物知りなの。わたしが淫夢を見るのも、肉の棒を求めているからだって教えてくれて……」
……頭痛がしてきそうだ。だが、引っかかることがある。
「そいつはお前に手を出したのか?」
「手?」
ミオリは意味がわからないというように、自らの手を見つめた。
「あー……、肉の棒……を、お前にくれたのか?」
地上の様子を探りたいが、別の兵士が少女を捜しているかもしれない。ウォルフスは少女に尋ねた。
「おい。この水道はどこまで繋がってんだ?」
「チェレステ=ラクイアの……、聖都の郊外までと聞いたわ」
「ならそこまで行ったほうがいいな。……もう歩けるだろう、降ろすぞ」
少女を地面に降ろす際、ウォルフスの手がスカートに引っかかった。
暗い地下道に、仄白く輝く太腿が露わになる。
「わりぃ……ん? この痣……」
小さな真珠粒が縫い付けられたスカートを直してやりながら、ウォルフスは確信する。
先ほど、通路を駆けながら思い出したのだ。少女はウォルフスの名前を知っていたし、ウォルフスの記憶の中にある子供の姿も、淡い金髪に水色の瞳だった。
――彼女は間違いなく、ウォルフスの『契約者』だ。
「お前、あの時の……えーと、何年前だ? 社で泣いてた嬢ちゃんか」
ウォルフスが尋ねると、少女はぱっと表情を明るくした。
「思い出してくれた?」
「ああ。確か……ミ、ミオ……」
「ミオリ」
「そうだったな。……でかくなったなぁ」
ウォルフスは懐かしさに破顔一笑する。
ウォルフスが少女――ミオリと出逢った頃、彼女はまだほんの子供だった。それからゆうに、十年は経っているのだろう。
しかしミオリは頬を赤らめて反論した。
「もう、子供ではありません」
その口ぶりにはわずかに不満がにじみ出ている。子供は、子供だと指摘されると決まってそう言うものだ。
「お前、聖女になったんだよな。どうしてこんな地下道を逃げてるんだ」
ウォルフスはミオリの不平を軽く流して、疑問を口にした。
「それは……わたしが下着を濡らしてしまったから」
「は? ……ああ、おねしょか?」
「違います!」
ミオリは頬を紅潮させて抗議する。
「淫夢を見て、下着が濡れてしまうんです!」
ウォルフスの表情が固まった。
彼はそっと息を吐き、気を取り直す。とりあえず、問題発言は無視することに決めた。
「それで、どうして兵士に追われることになるんだ」
「下着を濡らしたことがカサハに……女官長に知られて、神殿内で騒ぎになったの。誰か、男の人を招き入れてると思われたみたい」
「……それで?」
ウォルフスは努めて表情を変えないようにしながら、ミオリに先を促した。
「反神殿派に騒ぎを聞きつけられて、今朝、彼らが神殿に攻めて来たの」
「えーと……つまり、お前の失態を口実に、反神殿派とやらは神殿に弓引いた、そういうことか?」
「たぶん、そう……」
サウラ=ウルは政教一致の宗教国家だ。神殿に攻め入るということは、すなわち王権への叛逆となる。
なんとも話が大きくなってきたものだ。
「それで俺を喚んだのか」
「ええ。兵士に追いかけられて、転んでしまったの。その時、太腿の痣が光って……」
「なるほどな」
やっと得心がいった。
ウォルフスは過去、ミオリと契約を交わしている。ウォルフスがどこに居ても、ミオリが呼べば駆け付ける――そういう術の込められた契約だ。
「わたし、あなたが現れて確信したの」
「何をだ?」
ミオリは瞳を輝かせ、ウォルフスを見上げた。そして、満面の笑みを浮かべて言ったのだ。
「あなたこそが、わたしの夢見ていた肉の棒の持ち主だって……!!」
「……」
ウォルフスは脱力すべきか、それとも怒るべきなのか判断がつかずに沈黙した。
それをどう受け取ったのか、ミオリはさらに言い募る。
「ねぇ、ずっと欲しかったの。あなたの肉の棒……」
「おい、それ以上やめろ」
「え?」
気まぐれではあるが、契約まで交わした相手だ。その相手が口をつけば肉の棒だの、そんな現実は御免蒙りたい。
「聖女ってのは世間知らずだよな。何を勘違いしてるのか知らねぇが、これはそんなにいいモンじゃねぇぞ」
「嘘。カサハがあんなに恐れてるんだもの。リュート様が言ってたわ、カサハが肉の棒を恐れるのは、本当は肉の棒が好きで堪らないからだって……」
カサハというのは女官長か。だがリュートとは何者だ。
「リュートって誰だ」
「サウラ=ウル第一王子。以前、神殿騎士をしていたの」
ウォルフスは頭を抱えたくなった。
「とんでもねえ王子だな……」
「そんなことないわ。リュート様はとても物知りなの。わたしが淫夢を見るのも、肉の棒を求めているからだって教えてくれて……」
……頭痛がしてきそうだ。だが、引っかかることがある。
「そいつはお前に手を出したのか?」
「手?」
ミオリは意味がわからないというように、自らの手を見つめた。
「あー……、肉の棒……を、お前にくれたのか?」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる