美月 ~芸能界の物語~

鎌倉結希

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第三章 初デート

10 早朝に美月のメッセージが来る

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客足がなくなる七時頃になると店を片付けたおばあちゃんは、八時前には家に帰れるが、いつも九時に帰るのは店でテレビを見るからだった。ドラマやもっと面白い番組があるのかと思ったら、おばあちゃんはただニュースを見ていたことがわかった。ある夜『ラッキーランスロット』にいてだらだらとテレビを眺めるおばあちゃんの姿を見ると、多分彼女は疲れているのだと思った。

おばあちゃんは運転する。彼女のスズキのエコカーは、赤い色でなぜか一回聞いてみるとおばあちゃんは答えた。「赤なら通常の三倍の速度と聞いたから?」
「え?」
おばあちゃんは笑った。「ごめん、ごめん。若者はこう言うのが好きだから、彰くんに伝わらないかもしれないね」

そのあとおばあちゃんは赤いフェラーリみたいなスポーツカーに憧れるからだと聞いたけど。

夕食に母と私だけで一緒に食べたけど、九時におばあちゃんが帰ると私たちはリビングでテレビを見ながらしゃべっていた。浅井さんの家から帰った日、母は仕事があるので少し離れた食卓で働きながら、美月に関する質問に、私は偶然に会った中一の女の子だと答えると、おばあちゃんは言った。「まあ、友だちができてよかったね……志緒、その子はどう?かわいい?」
母は見ずに答えた。「かわいいよ」
「あー、いいじゃない」

なにそれ。

そのときテレビのバラエティ番組にあるお笑い芸人が花束を脇に挟んで、相手が嗅ぐとスタジオの笑い声が聞こえた。あまり聞き取れない私はおばあちゃんに聞くとそれはフェロモンのコントだとわかったが、そんなに面白いかと思った。騒がしいこの番組は、おばあちゃんが好きそうだった。そしてその笑い声が静かになったときか、私は携帯から見上げると男のゲストがステージに登場して、しばらく他の番組のゲストとしゃべるとスタッフから日本の楽器らしいものをもらって、その楽器の前にすわると、『竹の葉』と曲名を言って、弾きはじめた。

この楽器は、横に長くて十弦以上あって難しそうだが、カメラはズームして彼の手の動きを映すと楽に弾いてるようだった。バラエティ番組だからか、ちょっと曲の頂点に早く着いても、風に吹かれる竹の葉もそんなに速いイメージじゃないかと思った。するとおばあちゃんは言った。「彰くん、これは琴だ。知ってる?」

私は頭を振った。

「なんかこれはね、中国から?」
おばあちゃんは母を見ると、母は手を止めて言った。「そうだけど、すごく遠くからね。日本の楽器だと言えるかも」
「うーん、そんな感じ。昔は女の人はうまく弾けたら魅力だったけど、今の彼を見たらそうね」おばあちゃんはテレビの演奏のことを言った。
「そうですか」
「うん!この前長唄を唄ったこともあるね」

京猿きょうえん照荘しょうそうという名の彼は、三十代後半くらいで、髪の毛がちゃんとして、テレビ番組にカジュアルなTシャツとジャケット姿で琴を弾く姿はやわらかくて格好よく見えた。名門の出身だとおばあちゃんは言って、彼のお兄さんは政治家の道に進んで将来性があるけど、違う道をえらんだ彼は、子どもの頃からいろんな日本の芸術に興味があって彼の人生に影響を与えた。楽器以外に歌舞伎も評判になったし、最近人気の『波の歌』というテレビドラマにも出演した。京都のお坊さんというマイナーな役だったが、主人公と寺の森を散歩したシーンは注目されたみたい。

音楽が終わってスタジオに大きな拍手が起こると、京猿きょうえん照荘しょうそうは名歌舞伎役者の荒岡紅之助こうのすけとも仲が良いとおばあちゃんは追加した。「まあ、今の若者はこんなのを見ないかもね」
「……伝統的な演奏ですか」
「今は便利ならいいみたいね。昔からのものごと、いいえ、美しいことはさ遅くて、面白くないから人は見逃したんだ。急いで取らなきゃいけないものなんてよく幸せとみんなは言うんだけど、私にはね、そんなに急いで取りに行くのは雨が降ったときの洗濯物以外なにも想像できないの」

そして番組はあるお笑い芸人の家に突然に訪れて、いろんな話のなかで棚にある多くの缶詰を見せて、それらを混ぜて独特な料理をした。食卓から私たちを見た母は、してみようかと聞くとおばあちゃんは笑った。その時、私の携帯の通知が鳴って、こっそり見ると期待通り本当に美月からのメッセージだった。

『今日、大変だったごめんね』のメッセージに、日本語を打つのは時間がかかるので私はバスルームに入って打った。いつ返信が来るかと思いながらリビングに戻り、何回も携帯を確認した。十時に自分の部屋に戻ってからもまだ来なかった。

通知が鳴った……

え?

携帯を見ると美月だった。今回、彼女は結構早く返信した。彼女は髪の毛を乾かしていると言って、お風呂上りのときか。しばらくやり取りして、寝るというメッセージをもらった。『明日私は学校だからね。おやすみ』

『うん、おやすみ』

彼女、寝たか。

携帯をいじりながらたまに彼女との会話を見た。気づくと私の最後のメッセージが既読になった。それからもう十分、二十分、経っても次のメッセージは来なかったが。

美月か……



彼女にすぐ連絡しない方がいいと思いながら、八時くらいに起きて携帯を見ると二通のメッセージがあった。『おはよう』と『もう学校に行くよ』それは、どう見ても美月からじゃないか。

カーテンの隙間から光が見えた。早く送ったんだ。

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