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第十七話 同じ気持ち
ジェラルド様への気持ちを自覚してから三日が経った。あの日の風景とジェラルド様の顔は僕の脳裏にしっかりと焼き付いている。
現在、僕はジョゼフとのお茶会でどうしようもない宣言をしていた。
「僕は三日三晩悩み抜いて一つの結論に達しました」
「ノア様? どうかなさいましたか?」
「告白します。そして華々しく散ります」
「最近元気がないと思ったら……いったい何の話をされているのですか?」
そうだった。ジョゼフにはジェラルド様を好きになったこと伝えてなかった。まあ、いいや。どうせ僕と行動していたらすぐ気がつくだろう。
「ちょっといろいろあって。ジョゼフ、行くよ」
「あの、どちらへ?」
「経験者に話を聞きにいこう」
玉砕覚悟とはいえ、少しでも成功する確率は上げておきたい。今後も結婚生活は続くのだから、せめて遺恨が残らないようにしなければ。
暖かい自室の扉を開けると目の前には底冷えのする廊下が待っている。その冷たさはまるで告白を諦めて部屋に篭っていろと囁いているようで、僕は胸の内に潜む恐怖を無視して一歩踏み出した。
「この屋敷、恋愛的な要素枯れてませんか?」
「僕もここまでとは思ってなかった」
ジョゼフと屋敷中を歩き回ったが収穫はほとんどなかった。僕たちは最後の既婚者を訪ねるため別棟を目指している最中だ。
ジョゼフは途中で僕がジェラルド様に好意を抱いていると気づき、使命を帯びた顔で聞き取りを頑張ってくれた。
成果を得られなかった今は、その反動から頭を抱えて唸っている。
「男所帯とはいえ、そもそも既婚者が少ないとは思わなかったです」
「予想外だったね」
話を聞いた結果、数少ない既婚者のほとんどが地元同士で結婚しており、親が話を進めるからプロポーズも曖昧ということが多かった。
一応女性の使用人も三人いるけど、忙しそうにしていたので今回は遠慮しておいた。
「まさか王都枠の料理長も地元同士の結婚とは驚きですよね」
「王都の幼馴染が辺境まで押しかけてきて逆プロポーズってすごいよね。むしろ奥さんから話聞きたいもん」
「わかります。なんだかんだ恋人がいる人も少ないですし、消化不良って感じですね。まあ、僕もいませんが。お力になれず申し訳ありません」
「こればっかりは縁もあるから。協力してくれてありがとう。いつも感謝してるよ」
露骨にがっかりしているジョゼフを慰めていたら別棟に着いた。
文官たちから話を聞いて例の人物がいる休憩室に向かう。
彼がそこを使うようになったのも、僕がせめて一時間は休憩するよう命令したからだ。貴重な時間を発令者である僕が邪魔するのは問題な気がする。近日中に必ず穴埋めしよう。
「レジス! 休憩中ごめんね!」
ノックをして扉を開けたら背筋を伸ばして座っているレジスがいた。机の上には書類が整然と並んでいる。
「あ、奥様、これは」
「レジスさん、休憩時間に仕事してるんですか!?」
「うるさいぞ、ジョセフ。書類に触っていないと落ち着かないから仕方ないだろう」
「うわー……」
ジョゼフが信じられない、という目で見ている。
今まで休憩なしに働いていたから、急に気持ちを切り替えるのが難しいのだろう。
「レジス、休憩中にやりたいことはなかったの?」
「はい、申し訳ございません」
「前に父から聞いたんだけど、目をつぶっているだけでも結構変わるらしいよ。他にやることないなら今日は僕の相談に付き合ってほしいな」
「相談、ですか?」
「うん」
ジョゼフに椅子を移動してもらい、三人で向かい合わせに座る。狭い休憩室だから膝が当たりそうだ。
ジョゼフがそわそわと視線を向けるのでさっそく本題に入る。
「レジスって、家政婦長にどうやって告白したの?」
「なっ! え、あ」
「言い難かったら家政婦長に聞くから大丈夫だよ」
「話します。彼女に任せたら何時間もかかってしまうので」
レジスが柔らかく目元を緩ませる。僕とジョゼフは続きを促すように、うんうんと頷く。
「彼女とは王都の学園で知り合いまして。フロンドル家に仕える者として早く一人前になりたいと気を張り詰めていた私に、彼女が『たまには肩の力抜いたほうがいいよ』と声をかけてくれて、それから毎日話すようになりました」
恋愛小説の朗読を聴いているようでドキドキする。
レジスはさらに優しい顔で話を続けた。
「いつしか一緒にいることが当たり前になって、自然と自分の気持ちに気づきました」
「それで、どうやって告白したの?」
僕の問いにレジスは照れくさそうに咳払いをした後答えてくれた。
「私も今の奥様のように情報を集めて考え抜いて、彼女をデートに誘いました。帰り道で告白をして……でも、あらかじめ考えていた言葉は一つも出ませんでした。彼女の目を見たら頭が真っ白になって、気がついたらただ率直な、心のままの言葉を伝えていました」
「なんて言ったの?」
「秘密とさせていただきます」
レジスがにっこりと笑う。その顔は、大切な宝物を胸に抱えているように見えた。
「レジスさんずるいです! 続きが気になります!」
「何とでも言え。それより奥様」
「どうしたの?」
「旦那様をよろしくお願いいたします」
「えっ! な、なんでわかったの?」
「お二人をずっと見ていればわかりますよ」
そんなにわかりやすかったかな。今さらながら恥ずかしくなってきた。
「頼みの綱のレジスさんもちゃんと教えてくれないなんて。これじゃあまともな情報が一つも集まらないじゃないですか」
「そんな、私に頼らなくても適任がいるだろ」
嘆くジョゼフにレジスが不思議そうな顔をする。
「アルチュールのこと?」
「さようでございます」
「僕たちも真っ先に相談しましたよ。でも逃げられました」
ジョゼフの言葉に僕も頷く。
「そうそう。ちょっと話したら『助けて、浄化される! 二人分は給金倍もらわないと無理!』って言って走って逃げたんだよ」
「悪霊かなにかの話をされてます?」
「この屋敷の執事の話をしてるけど」
レジスがこめかみを押さえてため息をついた。顔に青筋が浮かんでいる。
「奥様、申し訳ございません。休憩時間にやりたいことができたので失礼いたします」
「あ、うん。今日はありがとう」
レジスは深々と頭を下げると、足早に休憩室を出て行った。
あまりの迫力にアルチュールを庇う暇もなかった。
ジョゼフはこれからアルチュールに待ち受ける叱責を想像して、遠い目で椅子を片付けていた。
「寒っ!」
頼りない月の光が人気のない庭園を照らす。容赦なく吹き付ける風はお風呂で温まった体温を奪っていく。月を見たくなって外に出たのは失敗だったかな。
あの日、ジェラルド様と光る花を見た時の月はあんなに綺麗だったのに、少し欠けただけでこうも寂しく見えるのか。
身体は冷えていくのに思考は熱いままで、冷たいベンチに座り込む。
明日、ジェラルド様に告白する。
決意して、ジェラルド様と二人きりになる約束まで取り付けてもまだ踏ん切りがつかない。本当に今の関係を変えてもいいのだろうか。
考えては不安になり、一人になると心が折れそうになる。
それでも心のどこかで期待してしまう。この気持ちを伝えて、不器用だけど優しくて実直なジェラルド様に、伴侶としてずっと寄り添いたい。
「ノア」
「あ」
急に声をかけられて肩が跳ねる。いつのまにか、ジェラルド様が側に来ていた。
「何をしている? ここは寒いから風邪を引いてしまう」
「ごめんなさい、月を見たくなって。もう戻ります」
慌てて立ち上がると、ジェラルド様の手が僕の頬に添えられた。
「こんなに冷えてる」
冷たい風が二人の間を吹き抜ける。ジェラルド様の手の温もりが僕の頬に触れた瞬間、全身が震えた。緊張をごまかすため視線を上げると、いつもと変わらない瞳があった。
青混じりの明るい灰色は人を寄せ付けない色だと思っていたのに、今の僕にとっては暖かくてどこまでも優しい色だ。
「好きです」
自然と口が動いていた。まるで自分の意思とは関係なく、勝手に溢れ出たようだった。だけど嘘偽りのない、心からの言葉だ。
ジェラルド様は目を丸くして呆然と僕を見ている。頬に添えられた手がそのままなのが衝撃を物語っていた。
この場で伝えるつもりはなかった。だけど、もう後には引けない。息苦しさで胸が締め付けられたが、必死で言葉を紡いだ。
「僕は、ジェラルド様が好きです」
ジェラルド様は未だ現実を受け入れきれない様子で立ちすくんでいる。
「ごめんなさい。困らせることはわかっていたのに、抑えられなくて。どうしようもなく願ってしまったんです。ジェラルド様も僕と同じ気持ちだったらいいなって……そんな、想いを」
声が震えて、視界もぼやけてきた。手を伸ばせば届く距離なのに、気持ちだけが遠くにあるように感じた。少しでも繋ぎ止めるために、僕はジェラルド様の顔から目を離さなかった。
「ごめんなさ」
「謝るな!」
僕の言葉を遮るように、ジェラルド様が叫んだ。
「謝らないでくれ。悪いのは曖昧な態度を取っていた私の方だ」
初めて聞く弱々しい声だった。動揺している間に、ジェラルド様が僕の両肩に手を置いていた。距離が近くなったおかげで表情がはっきりと見える。
「スキルのせいで人々から避けられていた私を、君はありのまま受け入れてくれた。そんな天真爛漫な姿に惹かれていたのに、いつしか君に拒絶されることが何よりも怖くなっていた。君を離したくなかった」
ジェラルド様の声が震えている。その瞳には様々な感情が宿っているように見えた。不安、苦悩、諦念、そしてほんの少しの期待。
そっか。そうなんだ。僕とジェラルド様はきっと——
「教えてください」
「え」
「ジェラルド様の気持ち、知りたいです」
心臓の音がうるさいのに、時間はゆっくりと流れている。
永遠かと思うほどの静寂の中、ジェラルド様は覚悟を決めた様子で口を開いた。
「好きだ。ノア、君を愛してる」
熱のこもった視線が僕を貫く。僕も同じ熱量でジェラルド様を見つめ返す。
どちらからともなく顔を近づけて唇が重なった。触れ合ったところからお互いの気持ちが溢れてきて、それ以上の言葉はいらなかった。
現在、僕はジョゼフとのお茶会でどうしようもない宣言をしていた。
「僕は三日三晩悩み抜いて一つの結論に達しました」
「ノア様? どうかなさいましたか?」
「告白します。そして華々しく散ります」
「最近元気がないと思ったら……いったい何の話をされているのですか?」
そうだった。ジョゼフにはジェラルド様を好きになったこと伝えてなかった。まあ、いいや。どうせ僕と行動していたらすぐ気がつくだろう。
「ちょっといろいろあって。ジョゼフ、行くよ」
「あの、どちらへ?」
「経験者に話を聞きにいこう」
玉砕覚悟とはいえ、少しでも成功する確率は上げておきたい。今後も結婚生活は続くのだから、せめて遺恨が残らないようにしなければ。
暖かい自室の扉を開けると目の前には底冷えのする廊下が待っている。その冷たさはまるで告白を諦めて部屋に篭っていろと囁いているようで、僕は胸の内に潜む恐怖を無視して一歩踏み出した。
「この屋敷、恋愛的な要素枯れてませんか?」
「僕もここまでとは思ってなかった」
ジョゼフと屋敷中を歩き回ったが収穫はほとんどなかった。僕たちは最後の既婚者を訪ねるため別棟を目指している最中だ。
ジョゼフは途中で僕がジェラルド様に好意を抱いていると気づき、使命を帯びた顔で聞き取りを頑張ってくれた。
成果を得られなかった今は、その反動から頭を抱えて唸っている。
「男所帯とはいえ、そもそも既婚者が少ないとは思わなかったです」
「予想外だったね」
話を聞いた結果、数少ない既婚者のほとんどが地元同士で結婚しており、親が話を進めるからプロポーズも曖昧ということが多かった。
一応女性の使用人も三人いるけど、忙しそうにしていたので今回は遠慮しておいた。
「まさか王都枠の料理長も地元同士の結婚とは驚きですよね」
「王都の幼馴染が辺境まで押しかけてきて逆プロポーズってすごいよね。むしろ奥さんから話聞きたいもん」
「わかります。なんだかんだ恋人がいる人も少ないですし、消化不良って感じですね。まあ、僕もいませんが。お力になれず申し訳ありません」
「こればっかりは縁もあるから。協力してくれてありがとう。いつも感謝してるよ」
露骨にがっかりしているジョゼフを慰めていたら別棟に着いた。
文官たちから話を聞いて例の人物がいる休憩室に向かう。
彼がそこを使うようになったのも、僕がせめて一時間は休憩するよう命令したからだ。貴重な時間を発令者である僕が邪魔するのは問題な気がする。近日中に必ず穴埋めしよう。
「レジス! 休憩中ごめんね!」
ノックをして扉を開けたら背筋を伸ばして座っているレジスがいた。机の上には書類が整然と並んでいる。
「あ、奥様、これは」
「レジスさん、休憩時間に仕事してるんですか!?」
「うるさいぞ、ジョセフ。書類に触っていないと落ち着かないから仕方ないだろう」
「うわー……」
ジョゼフが信じられない、という目で見ている。
今まで休憩なしに働いていたから、急に気持ちを切り替えるのが難しいのだろう。
「レジス、休憩中にやりたいことはなかったの?」
「はい、申し訳ございません」
「前に父から聞いたんだけど、目をつぶっているだけでも結構変わるらしいよ。他にやることないなら今日は僕の相談に付き合ってほしいな」
「相談、ですか?」
「うん」
ジョゼフに椅子を移動してもらい、三人で向かい合わせに座る。狭い休憩室だから膝が当たりそうだ。
ジョゼフがそわそわと視線を向けるのでさっそく本題に入る。
「レジスって、家政婦長にどうやって告白したの?」
「なっ! え、あ」
「言い難かったら家政婦長に聞くから大丈夫だよ」
「話します。彼女に任せたら何時間もかかってしまうので」
レジスが柔らかく目元を緩ませる。僕とジョゼフは続きを促すように、うんうんと頷く。
「彼女とは王都の学園で知り合いまして。フロンドル家に仕える者として早く一人前になりたいと気を張り詰めていた私に、彼女が『たまには肩の力抜いたほうがいいよ』と声をかけてくれて、それから毎日話すようになりました」
恋愛小説の朗読を聴いているようでドキドキする。
レジスはさらに優しい顔で話を続けた。
「いつしか一緒にいることが当たり前になって、自然と自分の気持ちに気づきました」
「それで、どうやって告白したの?」
僕の問いにレジスは照れくさそうに咳払いをした後答えてくれた。
「私も今の奥様のように情報を集めて考え抜いて、彼女をデートに誘いました。帰り道で告白をして……でも、あらかじめ考えていた言葉は一つも出ませんでした。彼女の目を見たら頭が真っ白になって、気がついたらただ率直な、心のままの言葉を伝えていました」
「なんて言ったの?」
「秘密とさせていただきます」
レジスがにっこりと笑う。その顔は、大切な宝物を胸に抱えているように見えた。
「レジスさんずるいです! 続きが気になります!」
「何とでも言え。それより奥様」
「どうしたの?」
「旦那様をよろしくお願いいたします」
「えっ! な、なんでわかったの?」
「お二人をずっと見ていればわかりますよ」
そんなにわかりやすかったかな。今さらながら恥ずかしくなってきた。
「頼みの綱のレジスさんもちゃんと教えてくれないなんて。これじゃあまともな情報が一つも集まらないじゃないですか」
「そんな、私に頼らなくても適任がいるだろ」
嘆くジョゼフにレジスが不思議そうな顔をする。
「アルチュールのこと?」
「さようでございます」
「僕たちも真っ先に相談しましたよ。でも逃げられました」
ジョゼフの言葉に僕も頷く。
「そうそう。ちょっと話したら『助けて、浄化される! 二人分は給金倍もらわないと無理!』って言って走って逃げたんだよ」
「悪霊かなにかの話をされてます?」
「この屋敷の執事の話をしてるけど」
レジスがこめかみを押さえてため息をついた。顔に青筋が浮かんでいる。
「奥様、申し訳ございません。休憩時間にやりたいことができたので失礼いたします」
「あ、うん。今日はありがとう」
レジスは深々と頭を下げると、足早に休憩室を出て行った。
あまりの迫力にアルチュールを庇う暇もなかった。
ジョゼフはこれからアルチュールに待ち受ける叱責を想像して、遠い目で椅子を片付けていた。
「寒っ!」
頼りない月の光が人気のない庭園を照らす。容赦なく吹き付ける風はお風呂で温まった体温を奪っていく。月を見たくなって外に出たのは失敗だったかな。
あの日、ジェラルド様と光る花を見た時の月はあんなに綺麗だったのに、少し欠けただけでこうも寂しく見えるのか。
身体は冷えていくのに思考は熱いままで、冷たいベンチに座り込む。
明日、ジェラルド様に告白する。
決意して、ジェラルド様と二人きりになる約束まで取り付けてもまだ踏ん切りがつかない。本当に今の関係を変えてもいいのだろうか。
考えては不安になり、一人になると心が折れそうになる。
それでも心のどこかで期待してしまう。この気持ちを伝えて、不器用だけど優しくて実直なジェラルド様に、伴侶としてずっと寄り添いたい。
「ノア」
「あ」
急に声をかけられて肩が跳ねる。いつのまにか、ジェラルド様が側に来ていた。
「何をしている? ここは寒いから風邪を引いてしまう」
「ごめんなさい、月を見たくなって。もう戻ります」
慌てて立ち上がると、ジェラルド様の手が僕の頬に添えられた。
「こんなに冷えてる」
冷たい風が二人の間を吹き抜ける。ジェラルド様の手の温もりが僕の頬に触れた瞬間、全身が震えた。緊張をごまかすため視線を上げると、いつもと変わらない瞳があった。
青混じりの明るい灰色は人を寄せ付けない色だと思っていたのに、今の僕にとっては暖かくてどこまでも優しい色だ。
「好きです」
自然と口が動いていた。まるで自分の意思とは関係なく、勝手に溢れ出たようだった。だけど嘘偽りのない、心からの言葉だ。
ジェラルド様は目を丸くして呆然と僕を見ている。頬に添えられた手がそのままなのが衝撃を物語っていた。
この場で伝えるつもりはなかった。だけど、もう後には引けない。息苦しさで胸が締め付けられたが、必死で言葉を紡いだ。
「僕は、ジェラルド様が好きです」
ジェラルド様は未だ現実を受け入れきれない様子で立ちすくんでいる。
「ごめんなさい。困らせることはわかっていたのに、抑えられなくて。どうしようもなく願ってしまったんです。ジェラルド様も僕と同じ気持ちだったらいいなって……そんな、想いを」
声が震えて、視界もぼやけてきた。手を伸ばせば届く距離なのに、気持ちだけが遠くにあるように感じた。少しでも繋ぎ止めるために、僕はジェラルド様の顔から目を離さなかった。
「ごめんなさ」
「謝るな!」
僕の言葉を遮るように、ジェラルド様が叫んだ。
「謝らないでくれ。悪いのは曖昧な態度を取っていた私の方だ」
初めて聞く弱々しい声だった。動揺している間に、ジェラルド様が僕の両肩に手を置いていた。距離が近くなったおかげで表情がはっきりと見える。
「スキルのせいで人々から避けられていた私を、君はありのまま受け入れてくれた。そんな天真爛漫な姿に惹かれていたのに、いつしか君に拒絶されることが何よりも怖くなっていた。君を離したくなかった」
ジェラルド様の声が震えている。その瞳には様々な感情が宿っているように見えた。不安、苦悩、諦念、そしてほんの少しの期待。
そっか。そうなんだ。僕とジェラルド様はきっと——
「教えてください」
「え」
「ジェラルド様の気持ち、知りたいです」
心臓の音がうるさいのに、時間はゆっくりと流れている。
永遠かと思うほどの静寂の中、ジェラルド様は覚悟を決めた様子で口を開いた。
「好きだ。ノア、君を愛してる」
熱のこもった視線が僕を貫く。僕も同じ熱量でジェラルド様を見つめ返す。
どちらからともなく顔を近づけて唇が重なった。触れ合ったところからお互いの気持ちが溢れてきて、それ以上の言葉はいらなかった。
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