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第二十三話 相談
地に響くような声とともに兵士たちが整列する。いつ見ても圧巻の光景だ。しかし、休憩の号令が掛かると、先ほどの雰囲気が嘘のようにだらけだした。
いつもの空気感に安堵しつつ、集団の中で一番気が緩んだ様子の人物に声をかける。
「団長! ちょっといい?」
「もちろんです。ノア様のためならいくらでもお供します」
顔はけっこう怖いのに、口元に輝く白い歯が親しみやすさを感じさせる。
彼はフロンドル領私兵団の団長で、ジェラルド様の鍛練を見学するうちに仲良くなった。
フロンドル家の傍系の生まれで、レジスと同い年の幼馴染。ジェラルド様の元上官でもある。
見た目はまさに筋骨隆々の逞しい、男の中の男という印象だ。褐色の肌にところどころ傷跡が残っていて、長期に渡る壮絶な戦闘を思わせる。大盾をナイフのように振るう姿には鬼気迫るものがあり、彼に憧れている兵士も少なくない。
「そんな、大げさだって。三日後に遠出するでしょ? そのことについて相談したいだけだよ」
「何か不安なことがございましたでしょうか」
団長の顔が一気に険しくなる。そこまで真剣なものではないのですぐに否定する。
「違う、違う。あの、えっと、ジェラルド様に関する相談というか……」
恥ずかしくてどうしても声が小さくなってしまう。
「かしこまりました。腰を据えてお伺いします」
僕の態度に全てを察したのか、団長が鍛練場の一角にある休憩室を案内してくれた。
休憩室の中で一番上等なテーブルに着いた僕と団長は、兵士たちに見守られながら話をすることにした。
「三日後にさ、ジェラルド様と僕が山の方に遊びに行くでしょ? 私兵団と一緒に」
そう、なんとジェラルド様が僕をデートに誘ってくれたのだ。
ジェラルド様が僕のためにいろいろ計画してくれるなんて……スキルのことがあるから街中でデートができないのは残念だけど、初めてのことだから絶対失敗したくない。
「はい。私共は護衛として付いて行きます」
「僕が何か気をつけることある? ほら、この前のお忍びの時も迷惑かけちゃったし」
「とんでもないことでございます。その節は部下の不手際で危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございませんでした」
団長が立ち上がり頭を下げて謝罪する。僕は慌てて頭を上げるよう彼に言った。
「もう謝罪は大丈夫だよ。確認したかっただけだから。ほら、僕のスキルって護衛の邪魔になるからさ」
僕のスキルは心が和む影響なのか油断を誘いやすい。それは敵味方関係ないため、単純に警護の邪魔なのだ。
安全の確保という意味では、この前のお忍びは完全に失敗だった。相手が子供とはいえ接近を許してしまったからだ。
ジェラルド様がいない間は僕一人でもと張り切ってしまい、スキルの欠点を十分に共有できないまま話を進めたのは反省だ。
「ノア様のスキルが邪魔だなんて……あれは完全にこちらの不手際です。あいつも心を入れ替えて鍛え直していますし、むしろ感謝しているくらいですよ」
あいつとは、この前のお忍びで僕を護衛してくれた兵士のことだろう。
「そう言ってもらえると助かるよ」
「恐縮です。こちらとしては今までが油断しすぎていただけという認識なので、急ぎ兵士の再教育に励んでいます」
「油断?」
「はい。旦那様のスキルがスキルなので、兵士たちが護衛の経験を積めなかったと申しますか……」
「確かに、ジェラルド様のスキルならそうなるかも」
周囲を威圧するスキルだし、ジェラルド様自身が強いから仕方ないのかもしれない。警護もなしに二人で山に行ったこともあるし。
「他に相談したいことというのは……」
「あ、うん。実は」
今さらだけど、こんなことを団長に相談していいのかなと不安になる。でも話さないと何も始まらないから思いきって口を開いた。
「ジェラルド様の好みの服装が知りたくて」
「ん?」
「団長ってジェラルド様と昔からの知り合いだよね? 何か、こう聞いたりしてない?」
「あー、アルチュールに聞いたりは」
「聞いたよ。そしたら『どんな格好でも喜びますよ。悩むだけ無駄です。旦那様のジャケットをお持ちするので羽織っていかれたらいかがですか。それだけで充分です』って言われてさ」
「ちょっと、それは雑すぎますね」
「だよね。参考にならないからレジスに相談したら、団長に聞いてみてはって提案されたんだ」
「見事な丸投げだな。申し訳ございません、考えてみますので少々お待ちください」
団長は真剣な顔で考え込みながら「レジス後で覚えとけよ」とぶつぶつ呟いていた。困らせてしまったようで申し訳ない。
「ノア様、団長には難しいかと。いつも同じような服ですし、最近の口癖が『若者のことは全然わからん』ですから」
悩んでいる様子の団長を見守っていると、私兵団の新人が話しかけてきた。周囲もうんうんと頷いている。
「お前ら、ノア様に余計なことを言うな。俺だって多少の心得はある」
団長の言葉に周囲の兵士たちは疑わしげな視線を向ける。
「思い出しました。旦那様は揃いのものに憧れていらっしゃる様子でした」
団長が晴れやかな顔で僕に教えてくれた。
「なるほど、お揃いの服ね! ありがとう。参考にする」
僕がお礼を言うと、団長は勝ち誇った顔で周囲を見回した。
「ジェラルド様とはよく話すの?」
「はい、よく話しますよ。旦那様のスキルがあるので短時間ですが」
「その短い間も団長が一方的に話しかけることが多いですけどね」
「この前話しすぎて旦那様に引かれてましたよ。筋肉を増やす方法を力説してた時ひどかったですもん」
「うるさい! 旦那様は感情を表現されるのが得意ではないだけだ」
団長と兵士たちは楽しげに言い合いを続けている。
前にジェラルド様が、団長は昔の上官だったから雑談が気まずいと言っていたけど、あの様子だと気にする必要は全くなさそうだ。
彼らのやりとりを聞いていると、ふと団長に聞きたかったことを思い出した。
「そういえば団長のスキルって何?」
「私のですか? 盾術です」
まさに想像通りのスキルだ。
「団長、嘘はいけませんよ」
「嘘はついてない」
「本当のことも言ってないじゃないですか。人伝でバレるより自分から言ったほうがいいと思いますけど」
「あ、言いにくいなら大丈夫だよ」
無理矢理聞き出すことでもないので、話題を変えようとしたら、団長が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「……を治癒するスキルです」
「うん? ごめん、よく聞こえなかった」
「痔を治癒するスキルです」
「治癒系統もあるんだ! すごいね!」
「え? それだけですか?」
団長が拍子抜けした様子で言った。
「え、うん。素晴らしいスキルだと思うけど。もしかして他にもあるの?」
「いえ、特には」
よくわからなくて首を傾げていると、兵士たちが嬉しそうな声を上げた。
「わかりますよ! すごいですよね! 俺たち団長のスキルにはいつもお世話になっていて」
「最初聞いた時は笑ってしまったのですが、今では頭が上がらないです」
「遠征の時は長時間飛竜に乗るのでけっこう深刻な問題で……団長がいなかったらと思うと恐ろしい」
「お前ら騒ぎすぎだ」
団長が照れたように部下たちを軽く睨んだ。
「ノア様は本当に団長の世話になったことがないんですか?」
「どういうこと?」
「だって旦那様のでかそう」
新人兵士が最後まで言い切ることはなかった。なぜなら瞬時に反応した団長が彼を殴り飛ばしたからだ。
「今、何つった?」
団長は凄みのある顔で新人兵士を見下ろしている。
「すみませんでした!」
「ノア様はお前のような平民が軽口を叩いていいお方ではない。身の程をわきまえろ」
「はい、すみません」
新人兵士は殴られた頬をさすりながら謝罪した。
「僕のスキルのせいだから、あまり怒らないであげて」
「ノア様、これはスキルではなく礼節の問題です。ご自身を卑下される必要はございません。侮られて黙認するのは相手をつけ上がらせるだけです」
「うん、そうだよね。ごめん」
少しだけ昔を思い出して、拳を握り締める。
「全員外周十周!」
突然の大声に肩が跳ねる。兵士たちは返事をすると急いで休憩室を出た。
「あの、外周って」
「お気になさらず。連帯責任ですので」
「空気を悪くしてごめん」
「決してノア様のせいではございません。こちらこそ申し訳ございませんでした」
団長がまた頭を下げた。僕は何も返せず、沈黙が続く。
「昔の癖で過剰に反応してしまいまして。怖がらせてしまいましたね」
気まずそうに頭をかいた団長がぽつりと言った。
「昔の癖?」
「はい。先代の旦那様が舐められやすい方でしてね。若い頃はレジスと共に周囲を威嚇していたものです」
「そういえば、レジスもよく怒ってくれた」
「あいつは昔から真面目なやつですから」
団長の笑顔から、二人の仲の良さが伝わる。
「ジェラルド様のお兄様はどのような方だったの?」
「本当に穏やかな方でした。弓のスキル持ちでしたが、魔物を射るたびに謝るような優しい性格で、遠征中に謝罪がうるさすぎて注意をしたことがあります」
「そうなんだ。お話ししてみたかったなぁ」
僕の言葉に深々と頷いた団長の目は、遠い過去を見ているような、物悲しい雰囲気に溢れていた。
そして、話を切り替えるように団長はまた笑顔に戻った。
「あいつらは本当にどうしようもないやつらですが、ノア様さえよろしければまた遊びにいらしてください」
「いいの?」
「はい。私としてはノア様にお越しいただくのが楽しみの一つとなっていまして。旦那様との話を伺っていると昔を思い出して、あいつにも優しくなれると申しますか」
目を伏せて微笑む団長は、今日一番の穏やかな顔をしている。
「あいつって、団長もしかして恋人がいるの?」
「あー、すみません。忘れてください」
「えー、残念」
「申し訳ございません。私もそろそろ失礼いたします」
団長と一緒に休憩室を出ると、鍛練場には誰一人いなかった。
「誰もいないけど、どこに行くの?」
「連帯責任というやつです。団長として今から外周を二十周してきます」
「えっと、うん。頑張って」
僕の応援に団長は「ありがとうございます!」と力強く応えて、ものすごい速さで外に飛び出して行った。
兵を率いるって大変なことなんだなぁ。
団長を見送りながら、僕は改めて彼の凄さを実感するのだった。
いつもの空気感に安堵しつつ、集団の中で一番気が緩んだ様子の人物に声をかける。
「団長! ちょっといい?」
「もちろんです。ノア様のためならいくらでもお供します」
顔はけっこう怖いのに、口元に輝く白い歯が親しみやすさを感じさせる。
彼はフロンドル領私兵団の団長で、ジェラルド様の鍛練を見学するうちに仲良くなった。
フロンドル家の傍系の生まれで、レジスと同い年の幼馴染。ジェラルド様の元上官でもある。
見た目はまさに筋骨隆々の逞しい、男の中の男という印象だ。褐色の肌にところどころ傷跡が残っていて、長期に渡る壮絶な戦闘を思わせる。大盾をナイフのように振るう姿には鬼気迫るものがあり、彼に憧れている兵士も少なくない。
「そんな、大げさだって。三日後に遠出するでしょ? そのことについて相談したいだけだよ」
「何か不安なことがございましたでしょうか」
団長の顔が一気に険しくなる。そこまで真剣なものではないのですぐに否定する。
「違う、違う。あの、えっと、ジェラルド様に関する相談というか……」
恥ずかしくてどうしても声が小さくなってしまう。
「かしこまりました。腰を据えてお伺いします」
僕の態度に全てを察したのか、団長が鍛練場の一角にある休憩室を案内してくれた。
休憩室の中で一番上等なテーブルに着いた僕と団長は、兵士たちに見守られながら話をすることにした。
「三日後にさ、ジェラルド様と僕が山の方に遊びに行くでしょ? 私兵団と一緒に」
そう、なんとジェラルド様が僕をデートに誘ってくれたのだ。
ジェラルド様が僕のためにいろいろ計画してくれるなんて……スキルのことがあるから街中でデートができないのは残念だけど、初めてのことだから絶対失敗したくない。
「はい。私共は護衛として付いて行きます」
「僕が何か気をつけることある? ほら、この前のお忍びの時も迷惑かけちゃったし」
「とんでもないことでございます。その節は部下の不手際で危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございませんでした」
団長が立ち上がり頭を下げて謝罪する。僕は慌てて頭を上げるよう彼に言った。
「もう謝罪は大丈夫だよ。確認したかっただけだから。ほら、僕のスキルって護衛の邪魔になるからさ」
僕のスキルは心が和む影響なのか油断を誘いやすい。それは敵味方関係ないため、単純に警護の邪魔なのだ。
安全の確保という意味では、この前のお忍びは完全に失敗だった。相手が子供とはいえ接近を許してしまったからだ。
ジェラルド様がいない間は僕一人でもと張り切ってしまい、スキルの欠点を十分に共有できないまま話を進めたのは反省だ。
「ノア様のスキルが邪魔だなんて……あれは完全にこちらの不手際です。あいつも心を入れ替えて鍛え直していますし、むしろ感謝しているくらいですよ」
あいつとは、この前のお忍びで僕を護衛してくれた兵士のことだろう。
「そう言ってもらえると助かるよ」
「恐縮です。こちらとしては今までが油断しすぎていただけという認識なので、急ぎ兵士の再教育に励んでいます」
「油断?」
「はい。旦那様のスキルがスキルなので、兵士たちが護衛の経験を積めなかったと申しますか……」
「確かに、ジェラルド様のスキルならそうなるかも」
周囲を威圧するスキルだし、ジェラルド様自身が強いから仕方ないのかもしれない。警護もなしに二人で山に行ったこともあるし。
「他に相談したいことというのは……」
「あ、うん。実は」
今さらだけど、こんなことを団長に相談していいのかなと不安になる。でも話さないと何も始まらないから思いきって口を開いた。
「ジェラルド様の好みの服装が知りたくて」
「ん?」
「団長ってジェラルド様と昔からの知り合いだよね? 何か、こう聞いたりしてない?」
「あー、アルチュールに聞いたりは」
「聞いたよ。そしたら『どんな格好でも喜びますよ。悩むだけ無駄です。旦那様のジャケットをお持ちするので羽織っていかれたらいかがですか。それだけで充分です』って言われてさ」
「ちょっと、それは雑すぎますね」
「だよね。参考にならないからレジスに相談したら、団長に聞いてみてはって提案されたんだ」
「見事な丸投げだな。申し訳ございません、考えてみますので少々お待ちください」
団長は真剣な顔で考え込みながら「レジス後で覚えとけよ」とぶつぶつ呟いていた。困らせてしまったようで申し訳ない。
「ノア様、団長には難しいかと。いつも同じような服ですし、最近の口癖が『若者のことは全然わからん』ですから」
悩んでいる様子の団長を見守っていると、私兵団の新人が話しかけてきた。周囲もうんうんと頷いている。
「お前ら、ノア様に余計なことを言うな。俺だって多少の心得はある」
団長の言葉に周囲の兵士たちは疑わしげな視線を向ける。
「思い出しました。旦那様は揃いのものに憧れていらっしゃる様子でした」
団長が晴れやかな顔で僕に教えてくれた。
「なるほど、お揃いの服ね! ありがとう。参考にする」
僕がお礼を言うと、団長は勝ち誇った顔で周囲を見回した。
「ジェラルド様とはよく話すの?」
「はい、よく話しますよ。旦那様のスキルがあるので短時間ですが」
「その短い間も団長が一方的に話しかけることが多いですけどね」
「この前話しすぎて旦那様に引かれてましたよ。筋肉を増やす方法を力説してた時ひどかったですもん」
「うるさい! 旦那様は感情を表現されるのが得意ではないだけだ」
団長と兵士たちは楽しげに言い合いを続けている。
前にジェラルド様が、団長は昔の上官だったから雑談が気まずいと言っていたけど、あの様子だと気にする必要は全くなさそうだ。
彼らのやりとりを聞いていると、ふと団長に聞きたかったことを思い出した。
「そういえば団長のスキルって何?」
「私のですか? 盾術です」
まさに想像通りのスキルだ。
「団長、嘘はいけませんよ」
「嘘はついてない」
「本当のことも言ってないじゃないですか。人伝でバレるより自分から言ったほうがいいと思いますけど」
「あ、言いにくいなら大丈夫だよ」
無理矢理聞き出すことでもないので、話題を変えようとしたら、団長が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「……を治癒するスキルです」
「うん? ごめん、よく聞こえなかった」
「痔を治癒するスキルです」
「治癒系統もあるんだ! すごいね!」
「え? それだけですか?」
団長が拍子抜けした様子で言った。
「え、うん。素晴らしいスキルだと思うけど。もしかして他にもあるの?」
「いえ、特には」
よくわからなくて首を傾げていると、兵士たちが嬉しそうな声を上げた。
「わかりますよ! すごいですよね! 俺たち団長のスキルにはいつもお世話になっていて」
「最初聞いた時は笑ってしまったのですが、今では頭が上がらないです」
「遠征の時は長時間飛竜に乗るのでけっこう深刻な問題で……団長がいなかったらと思うと恐ろしい」
「お前ら騒ぎすぎだ」
団長が照れたように部下たちを軽く睨んだ。
「ノア様は本当に団長の世話になったことがないんですか?」
「どういうこと?」
「だって旦那様のでかそう」
新人兵士が最後まで言い切ることはなかった。なぜなら瞬時に反応した団長が彼を殴り飛ばしたからだ。
「今、何つった?」
団長は凄みのある顔で新人兵士を見下ろしている。
「すみませんでした!」
「ノア様はお前のような平民が軽口を叩いていいお方ではない。身の程をわきまえろ」
「はい、すみません」
新人兵士は殴られた頬をさすりながら謝罪した。
「僕のスキルのせいだから、あまり怒らないであげて」
「ノア様、これはスキルではなく礼節の問題です。ご自身を卑下される必要はございません。侮られて黙認するのは相手をつけ上がらせるだけです」
「うん、そうだよね。ごめん」
少しだけ昔を思い出して、拳を握り締める。
「全員外周十周!」
突然の大声に肩が跳ねる。兵士たちは返事をすると急いで休憩室を出た。
「あの、外周って」
「お気になさらず。連帯責任ですので」
「空気を悪くしてごめん」
「決してノア様のせいではございません。こちらこそ申し訳ございませんでした」
団長がまた頭を下げた。僕は何も返せず、沈黙が続く。
「昔の癖で過剰に反応してしまいまして。怖がらせてしまいましたね」
気まずそうに頭をかいた団長がぽつりと言った。
「昔の癖?」
「はい。先代の旦那様が舐められやすい方でしてね。若い頃はレジスと共に周囲を威嚇していたものです」
「そういえば、レジスもよく怒ってくれた」
「あいつは昔から真面目なやつですから」
団長の笑顔から、二人の仲の良さが伝わる。
「ジェラルド様のお兄様はどのような方だったの?」
「本当に穏やかな方でした。弓のスキル持ちでしたが、魔物を射るたびに謝るような優しい性格で、遠征中に謝罪がうるさすぎて注意をしたことがあります」
「そうなんだ。お話ししてみたかったなぁ」
僕の言葉に深々と頷いた団長の目は、遠い過去を見ているような、物悲しい雰囲気に溢れていた。
そして、話を切り替えるように団長はまた笑顔に戻った。
「あいつらは本当にどうしようもないやつらですが、ノア様さえよろしければまた遊びにいらしてください」
「いいの?」
「はい。私としてはノア様にお越しいただくのが楽しみの一つとなっていまして。旦那様との話を伺っていると昔を思い出して、あいつにも優しくなれると申しますか」
目を伏せて微笑む団長は、今日一番の穏やかな顔をしている。
「あいつって、団長もしかして恋人がいるの?」
「あー、すみません。忘れてください」
「えー、残念」
「申し訳ございません。私もそろそろ失礼いたします」
団長と一緒に休憩室を出ると、鍛練場には誰一人いなかった。
「誰もいないけど、どこに行くの?」
「連帯責任というやつです。団長として今から外周を二十周してきます」
「えっと、うん。頑張って」
僕の応援に団長は「ありがとうございます!」と力強く応えて、ものすごい速さで外に飛び出して行った。
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※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。