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第二十四話 デート
ついにこの日が来た。待ちに待ったデートの日、僕はジェラルド様と共に屋敷にある広場にいた。広場には、角にリボンを付けたハナコと私兵団がすでに待機している。
「今日はハナコに山の中腹まで連れて行ってもらって、そこから徒歩で移動する予定だ」
「はい!」
意気込んで返事をすると、ジェラルド様は忍び笑いをしていた。
「ジェラルド様、今日の僕どうですか?」
「どうって……いつも通り可愛らしいが」
「ありがとうございます。この服、どう思いますか?」
「服? 灰色のシャツは初めて見たが、似合っていると思う」
ジェラルド様が真剣に答えてくれた。嬉しくなった僕は早速ネタバラシをする。
「実はお揃いの服にしたかったのですが、ジェラルド様が着ているような服を持っていなくて」
「確かに、系統が違うからな」
今日のジェラルド様の服は黒を基調としていて、シャツにスラックス、ジャケットというかっちりした着こなしだ。
対する僕は少し大きめのシャツを着ていて緩めの格好だ。
「だからジェラルド様の瞳と同じ色のシャツにしてみたんです。お揃いの気分が味わえて満足してます!」
両手を広げてジェラルド様に笑いかけると、いきなり抱きしめられた。
「ジェラルド様? いかがなさいましたか?」
「誰にも見せたくない……」
包み込まれるような抱擁に身動きができない。普段見せない彼の様子に胸がときめいてにやけてしまう。
「これじゃあどこにも行けないですよ」
「それも嫌だ」
駄々っ子みたいだなぁと思っていると、大きな咳払いが聞こえた。ジェラルド様の腕の力が緩んだので身体越しに覗き込むと、気まずそうに苦笑いしている団長がいて、慌てて離れる。
ジェラルド様は少し残念そうな顔をしながら手を差し伸べてくれて、こうして初めてのデートが始まった。
山の中腹に降り立つと、爽やかな風が出迎えてくれた。
「気持ちいい風です」
「天気に恵まれてよかった。ここから少し歩くぞ」
「はい」
ジェラルド様と並んで歩く。もちろん手は繋いでいる。
「綺麗な花ですねぇ」
「そうだな」
下から見てもかっこいいなんてずるい。
「ジェラルド様はどんな花が好きですか?」
「そこの黄色の花は、ノアっぽくていいと思う」
花にまで僕を連想しているのが面白いけど、ジェラルド様らしいとも思う。
しばらく一緒に歩いていて気づいたことがある。
けっこう会話が難しい。普段はあまり意識しない身長差の悪い面が出ている。
ジェラルド様に声を届けるため首を思いっきり上げないといけない。そうすると僕の目にはジェラルド様の顔と空しか映らなくなる。
あ、鳥が飛んでる。あそこにいるのは警護担当の飛竜かな。
「ジェラルド様」
ジェラルド様の手をぎゅっとにぎって呼びかける。
「ん? どうした?」
わざわざ屈んで目を合わせてくれるジェラルド様が好きだ。
「今すごく楽しいです」
「それはよかった」
視線を少し下げれば綺麗に咲き誇る花々が見られるのに、僕の視界に映るのは優しく笑うジェラルド様の顔と、ぼやけた春の空だった。
「ここで休憩しよう」
「わかりました。いい眺めですね」
「そうだな」
目の前に広がる湖に感嘆の声を上げる。湖は透き通った緑色で、周囲の木々と溶け込むような佇まいだ。
シートの上に座り、ジェラルド様と昼食を共にする。
「二人でのんびり過ごすのは久しぶりだな」
「ええ、本当に」
冬の間ジェラルド様はほとんど屋敷で仕事をしていたし、最近は遠征で離れていたので本当に久しぶりだ。
湖に目を移すと、悠々とした滞在を歓迎してくれたのか水面が静かに揺らいでいた。
用意された食事は料理長特製のサンドイッチで、シンプルな具材は外でも食べやすいようになっており、彼の気遣いが感じられる。
ジェラルド様と味の感想を言い合いながらの食事は楽しい。いつもと変わらない感じがするけど、デートという特別な状況に気持ちが高揚する。ジェラルド様も普段より口数が多いから、きっと僕と同じ気持ちだろう。
食事を終えた後もシートに座ったまま肩を寄せ合う。少しだけ寄りかかると、ジェラルド様のジャケットに膨らみがあることに気づいた。
「箱、ですか?」
「ああ。これはなんでもない」
ジェラルド様があからさまに目を逸らす。わかりやすい態度に笑ってしまいそうになる。
「もしかして僕へのプレゼントだったり」
「そうだが……見たほうが早いか」
ジェラルド様は気が進まない様子でポケットから箱を取り出した。僕はお礼を言ってそれを受け取る。
「これは、ネックレスでしょうか?」
銀色の鎖を持つと、その先には不思議な紋様の描かれた、小指ほどの大きさの飾りがあった。
「これは竜笛だ」
「初めて聞きました。どういったものなんですか?」
「竜を呼ぶための笛だ。ハナコだけが反応する仕組みになっている」
「ありがとうございます! 大切にします!」
ジェラルド様がこれをどんな思いで選んでくれたのかを考えると胸がいっぱいになる。
ジェラルド様はそんな僕の様子を見て、複雑そうな表情を浮かべた。
「実は遠征前に団長や兵士たちに贈り物について相談していたんだ」
「そうだったのですね」
「いろいろ候補は出たが結局形に残る、揃いのものにしたらどうかと言われてな」
「揃いの?」
ジェラルド様が胸元に手を入れ、鎖を引っ張って飾りを出した。僕が持っている竜笛と全く同じものだ。
「形に残るものがこれしか思い当たらなくてな。数日前に団長たちに報告したら『普通は指輪とかだろう』と呆れられた」
「そうなんですか?」
「だから買い直そうかと悩んでいて……」
ジェラルド様の言葉で、反射的に竜笛を胸に抱いた。
「やだ。これがいい」
「ノア?」
「僕はこの竜笛がいいんです」
ジェラルド様が驚いたように目を見開く。そして竜笛ごと抱きしめられた。
「嬉しいものだな……とても」
「ジェラルド様?」
「よければ大切にしてほしい」
「はい、もちろんです」
ジェラルド様の腕の中はとても温かくて、幸せな気持ちになれる。手の中にある宝物も温かくなった気がして、僕はそっと竜笛を握った。
「今日はハナコに山の中腹まで連れて行ってもらって、そこから徒歩で移動する予定だ」
「はい!」
意気込んで返事をすると、ジェラルド様は忍び笑いをしていた。
「ジェラルド様、今日の僕どうですか?」
「どうって……いつも通り可愛らしいが」
「ありがとうございます。この服、どう思いますか?」
「服? 灰色のシャツは初めて見たが、似合っていると思う」
ジェラルド様が真剣に答えてくれた。嬉しくなった僕は早速ネタバラシをする。
「実はお揃いの服にしたかったのですが、ジェラルド様が着ているような服を持っていなくて」
「確かに、系統が違うからな」
今日のジェラルド様の服は黒を基調としていて、シャツにスラックス、ジャケットというかっちりした着こなしだ。
対する僕は少し大きめのシャツを着ていて緩めの格好だ。
「だからジェラルド様の瞳と同じ色のシャツにしてみたんです。お揃いの気分が味わえて満足してます!」
両手を広げてジェラルド様に笑いかけると、いきなり抱きしめられた。
「ジェラルド様? いかがなさいましたか?」
「誰にも見せたくない……」
包み込まれるような抱擁に身動きができない。普段見せない彼の様子に胸がときめいてにやけてしまう。
「これじゃあどこにも行けないですよ」
「それも嫌だ」
駄々っ子みたいだなぁと思っていると、大きな咳払いが聞こえた。ジェラルド様の腕の力が緩んだので身体越しに覗き込むと、気まずそうに苦笑いしている団長がいて、慌てて離れる。
ジェラルド様は少し残念そうな顔をしながら手を差し伸べてくれて、こうして初めてのデートが始まった。
山の中腹に降り立つと、爽やかな風が出迎えてくれた。
「気持ちいい風です」
「天気に恵まれてよかった。ここから少し歩くぞ」
「はい」
ジェラルド様と並んで歩く。もちろん手は繋いでいる。
「綺麗な花ですねぇ」
「そうだな」
下から見てもかっこいいなんてずるい。
「ジェラルド様はどんな花が好きですか?」
「そこの黄色の花は、ノアっぽくていいと思う」
花にまで僕を連想しているのが面白いけど、ジェラルド様らしいとも思う。
しばらく一緒に歩いていて気づいたことがある。
けっこう会話が難しい。普段はあまり意識しない身長差の悪い面が出ている。
ジェラルド様に声を届けるため首を思いっきり上げないといけない。そうすると僕の目にはジェラルド様の顔と空しか映らなくなる。
あ、鳥が飛んでる。あそこにいるのは警護担当の飛竜かな。
「ジェラルド様」
ジェラルド様の手をぎゅっとにぎって呼びかける。
「ん? どうした?」
わざわざ屈んで目を合わせてくれるジェラルド様が好きだ。
「今すごく楽しいです」
「それはよかった」
視線を少し下げれば綺麗に咲き誇る花々が見られるのに、僕の視界に映るのは優しく笑うジェラルド様の顔と、ぼやけた春の空だった。
「ここで休憩しよう」
「わかりました。いい眺めですね」
「そうだな」
目の前に広がる湖に感嘆の声を上げる。湖は透き通った緑色で、周囲の木々と溶け込むような佇まいだ。
シートの上に座り、ジェラルド様と昼食を共にする。
「二人でのんびり過ごすのは久しぶりだな」
「ええ、本当に」
冬の間ジェラルド様はほとんど屋敷で仕事をしていたし、最近は遠征で離れていたので本当に久しぶりだ。
湖に目を移すと、悠々とした滞在を歓迎してくれたのか水面が静かに揺らいでいた。
用意された食事は料理長特製のサンドイッチで、シンプルな具材は外でも食べやすいようになっており、彼の気遣いが感じられる。
ジェラルド様と味の感想を言い合いながらの食事は楽しい。いつもと変わらない感じがするけど、デートという特別な状況に気持ちが高揚する。ジェラルド様も普段より口数が多いから、きっと僕と同じ気持ちだろう。
食事を終えた後もシートに座ったまま肩を寄せ合う。少しだけ寄りかかると、ジェラルド様のジャケットに膨らみがあることに気づいた。
「箱、ですか?」
「ああ。これはなんでもない」
ジェラルド様があからさまに目を逸らす。わかりやすい態度に笑ってしまいそうになる。
「もしかして僕へのプレゼントだったり」
「そうだが……見たほうが早いか」
ジェラルド様は気が進まない様子でポケットから箱を取り出した。僕はお礼を言ってそれを受け取る。
「これは、ネックレスでしょうか?」
銀色の鎖を持つと、その先には不思議な紋様の描かれた、小指ほどの大きさの飾りがあった。
「これは竜笛だ」
「初めて聞きました。どういったものなんですか?」
「竜を呼ぶための笛だ。ハナコだけが反応する仕組みになっている」
「ありがとうございます! 大切にします!」
ジェラルド様がこれをどんな思いで選んでくれたのかを考えると胸がいっぱいになる。
ジェラルド様はそんな僕の様子を見て、複雑そうな表情を浮かべた。
「実は遠征前に団長や兵士たちに贈り物について相談していたんだ」
「そうだったのですね」
「いろいろ候補は出たが結局形に残る、揃いのものにしたらどうかと言われてな」
「揃いの?」
ジェラルド様が胸元に手を入れ、鎖を引っ張って飾りを出した。僕が持っている竜笛と全く同じものだ。
「形に残るものがこれしか思い当たらなくてな。数日前に団長たちに報告したら『普通は指輪とかだろう』と呆れられた」
「そうなんですか?」
「だから買い直そうかと悩んでいて……」
ジェラルド様の言葉で、反射的に竜笛を胸に抱いた。
「やだ。これがいい」
「ノア?」
「僕はこの竜笛がいいんです」
ジェラルド様が驚いたように目を見開く。そして竜笛ごと抱きしめられた。
「嬉しいものだな……とても」
「ジェラルド様?」
「よければ大切にしてほしい」
「はい、もちろんです」
ジェラルド様の腕の中はとても温かくて、幸せな気持ちになれる。手の中にある宝物も温かくなった気がして、僕はそっと竜笛を握った。
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