【本編完結】役立たずと言われた「癒し」スキルで幸せになります!

ひなた

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第三十二話 調査

 いつもの食堂に人が一人増えただけで、なんだか狭く感じる。そう思ってしまうほど、ジェラルド様と二人きりで食事をするのが当たり前になっていた。
 いつもは向かい合わせに食事をしているが、今日はジェラルド様と横並びだ。ポール様は向かいのややジェラルド様寄りの位置に座っている。

 ジェラルド様とポール様が楽しそうに会話している。内容は近況や槍術の話が中心で、僕が入り込めそうにない。
 見聞きしているだけで楽しいから別にいいけど。ポール様の前だとジェラルド様はこんな顔を見せるんだという新たな発見に胸が躍る。

「すまない。私たちだけで話し込んでしまったな」
「いえ。久しぶりの再会ですから、お気になさらず」
 申し訳なさそうに謝るジェラルド様に僕は笑顔で答える。ポール様は素知らぬ顔だ。

「そろそろポールも辛いと思うから私はここで失礼する。ノア、また後で」
「はい。お待ちしております」
 ジェラルド様が控えめに手を振った。今のは二人の特別な合図っぽくて嬉しい。

 静かになった食堂は、ジェラルド様が抜けただけで広々としている。
 ポール様は一言も喋らず食事を続けている。冷たい態度を取られるとわかっていても、寂しくて話しかけてしまう。

「ポール様の好きな食べ物は何ですか?」
「見ればわかるだろ」
「え、ああ、はい」
 好きな食べ物を聞いてこんな返しをされたのは初めてだ。戸惑って上手く話を繋げられなかった。
「お前は、脂身が少ない肉とフルーツか? 机に載っているのを見れば大体予想がつきそうなものだが」
「それはそうですけど、聞くのに意味があると申しますか……」
「そういうものなのか?」
「そういうものです」

 ちょっとアルチュールの気持ちがわかってしまった。余計なお世話だけど婚約者とうまくいっているのか気になってしまう。聞いたら最後、二度と口をきいてくれないと思うからやめておくけど。

「ジェラルド様が楽しそうに鍛練の話をしているのを初めて見ました」
「えっ! そうなのか? いや、俺じゃなくてもトリスタンがいるだろう」
「団長はすぐ筋肉の話を始めるので、鍛練話で盛り上がっているのを見たのは本当に初めてです」
「そうか、俺が……いつも緊張して叔父上の表情がわからないから」

 ポール様は嬉しさを隠せない様子で口角を上げている。
 こういうところは年相応の青年だよなぁと微笑ましい気持ちで見守る。このまま仲良くなれたらと思うけど、そう簡単にはいかない。
 ポール様は一頻り喜んだ後、真面目な顔に戻って口を開いた。

「俺は発言を撤回するつもりはない」
「はい」
 数時間前、フロンドル領の利益に繋がる行動をしなければ僕のことを認めないとポール様は言った。
「だが貴重な情報感謝する。これからも気づいたことがあれば教えてほしい」
「あ、はい。喜んで」
「では、これで失礼する」
 ポール様が立ち上がり、食堂から出て行った。

 彼の背中を見送りながら、一人になった食堂で複雑な気持ちを覚える。
 伝え方が不器用なだけで、悪い子ではないんだよなぁ。たぶん。けっこう失礼なこと言われたけど。
 最初に会った頃のジェラルド様を思い出す。そう考えるとジェラルド様とポール様は似ているのかもしれない。
 僕はポール様と仲良くなる方法を探るため、情報を収集することに決めた。



「というわけで、ポール様について教えてほしいな」
「なぜ私が? 他にも適任はいるでしょう。レジスとか、アルチュールとか」
 ポール様と仲良くなると決意した翌日、僕は鍛練場の休憩室にいた。

「ポール様と昔から親交があって、ほどほどの距離感で話せる人ってなると団長が適任かなって」
「否めませんね。レジスは過保護ですから」
 団長の表情が緩んだ。この様子だと話してくれそうだ。

 団長はポール様についての簡単な質問にいくつか答えてくれた。
 几帳面で真面目、不器用なところもあるが社交は問題なくできる。そして叔父であるジェラルド様を熱心に慕っている。
 僕が抱いた印象と概ね変わらないことがわかった。
 そして僕は、一番気になっていることを質問した。

「ポール様のスキルについて聞きたいんだけど」
「本人がいないところでお答えしてもよろしいのでしょうか」
「お願い! どうしても知りたくて。後でポール様に謝るから」
「……調べればいずれわかることですしね」

 団長の言う通り、次期当主ともなるとスキルの情報はわりとすぐに入手できる。
 スキルについての情報が全く出回っていないジェラルド様がむしろ特殊なのだ。

「ポール様のスキルは?」
「投擲と高速思考です」
「高速思考?」
「敵の動作を予測して先行を取ることができるスキルです。使いどころが難しいらしく、主に投擲の軌道を予測するのに使っているみたいです」
「すごいスキルだね」
「ええ、素晴らしいスキルだと思います。ポール様は飛竜も乗りこなしているので、投擲による攻撃力は凄まじいものです」

 槍の重さと落下の力が加わるから本当に強そうだ。こんなにすごいスキルなのに、昨日のポール様の態度からは強烈な劣等感が伝わってきた。

「ポール様は自身のスキルについて何か言ってなかった?」
「ああ、ポール様は昔からご自身のスキルに対していい感情をお持ちでないのです」
「なんでそうなったのか団長はわかる?」
「おそらく、対人戦闘において有用性を見出せないスキルだからでしょう」
「有用性?」
「はい。投擲はルールのある試合だと禁止されていて、そもそも使えないことが多いです。敵を屠るには有用ですが、試合だと活かせません。兵の稽古も同じです」
 たしかに、投擲は実戦の場でないと活用するのは難しいかもしれない。

「高速思考は? 先手を取れるってかなり有利になると思うけど」
「発動するのに時間がかかるのと、仮に高速思考を使っても剣術などのスキル持ちに後れを取ることが多いです。あと身体強化系にも体力差で押し切られます。騎士や兵士はだいたいどちらかのスキル持ちなので」
「稽古や試合の場ではスキルが活かせず負けてしまう、と」
「はい。それが原因で自分では兵の士気を保てない、先導することもできないと自信を失くされてしまい……王都の学院に入学されてから、さらにひどくなったように思います」

 話を聞いて、先日のポール様の発言に合点がいった。
 彼がジェラルド様を過度に慕うのも、スキルが一因かもしれない。育て親への感謝と尊敬もあるが、怪力や威圧というスキルを持ったジェラルド様への強烈なコンプレックスがあるのだろう。

「ありがとう、団長。今後の参考になったよ」
「少しでもお役に立てたようであれば光栄です」
 僕は団長にお礼を言って、休憩室を後にした。



 夜になり夫婦の寝室でくつろいでいると、執務室から帰ってきたジェラルド様が僕の隣に座った。広いソファーなのに詰めて座るから、スペースがかなり余っていて面白い。
「疲れていないか?」
 ジェラルド様が僕の髪を指に絡めながら心配そうに囁く。
「はい。ポール様のことでしたら、大丈夫ですよ」
 同じように囁いて返すと、ジェラルド様はほっと安堵の息をついた。

「無理だけはしないでほしい」
「ありがとうございます。じゃあちょっとだけ。ぎゅーってしてください」
「ちょっとでいいのか?」
 ジェラルド様が僕の背中に腕を回して、包み込むように抱きしめる。
 ジェラルド様の腕の中は温かくていつでも僕に安心感を与えてくれる。

 ポール様と気まずい関係であることに気付かれたのかもしれない。きっと僕がこの場で辛いと言ったらジェラルド様は「無理をするな」と優しく労わってくれるだろう。

 でも僕は、団長から話を聞いてポール様と仲良くなれるかもしれないと思った。
 自分のスキルにコンプレックスを持つ苦しみは痛いほどわかるからだ。

「眠たくなってきました」
「早くないか?」
「ジェラルド様が温かいから悪いんです」
「君もけっこう温かいけどな」
「じゃあ一緒に寝ます?」
「そうしよう」

 ジェラルド様が僕を抱いてベッドまで運ぶ。最初は重くないのかなと思っていたけど、慣れてきた今はされるがままだ。
 ベッドの中でも手を繋ぎながら話を続けて、それでいつのまにか眠りに落ちるのだろう。
 幸せな展開を思い浮かべて笑顔になる。期待を込めてジェラルド様の服をそっと摘むと、ベッドに優しく下され、唇に触れるような口付けをされた。
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