【本編完結】役立たずと言われた「癒し」スキルで幸せになります!

ひなた

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第三十四話 データ

 アントワーヌに曲作りを依頼して三日が経った。彼は音楽系のスキルを持っていないことが不思議なくらいに、壮大かつ繊細な哀愁も感じさせる素晴らしい曲を作ってくれた。
 聞いているだけで思わずフロンドル領に行きたくなる完璧な仕上がりだ。
 これで観光客が増えてフロンドル領と隣領を繋ぐ街道が整備されたらいいなと淡い期待を抱く。

「しばらくは国内に留まるので、国中を渡り歩いて宣伝しておきます」
「ありがとう。アントワーヌ」
「ノア様のためならどこにいても必ず駆けつけますよ」
「あー、うん。感謝してる。使用人たちとちゃんと話し合ってから帰るんだよ」
「かしこまりました」

 あれだけ注意したのに、アントワーヌは三人の使用人と関係を持ったみたいだ。
 僕のそばにいるジョゼフは、どこか真剣な様子で一歩前に出て壁を作り、アントワーヌから僕を守ってくれている。

 アントワーヌにはとても感謝しているが、今後屋敷に直接呼ぶのはやめておこうと心の中で誓い、彼が去るのを見送った。

「なんだか風のように自由な人でしたね」
「悪い人ではないんだけどね。昔からトラブルがあると長兄に泣きついてたよ」
 どっと疲れが出て力が抜ける。僕の様子を見てジョゼフが「お疲れ様です」と労ってくれた。


 アントワーヌが滞在していた三日間、音楽以外でも色々とあった。その中で一番の変化は僕とポール様の関係だ。
 すっかり集会場所のようになった応接室で、いつものように談笑する。そんな僕たちの様子をアルチュールが苦笑しながら見守っていた。

「あっというまでしたね。明日には王都に戻られるのですよね?」
「ああ。おかげさまで、とても有意義な時間を過ごせた」
「そう言っていただけて何よりです」
「ノア、くん……には感謝している」
「いい加減慣れないとまた旦那様に怒られますよ」
 アルチュールがポール様をからかう。
「うるさい。君付けで呼ぶことなんて滅多にないから仕方ないだろう」

 ポール様が僕を呼び捨てにするとジェラルド様が怒るので、話し合いの結果「ノア君」と呼ばれることになった。
 ポール様からは「俺のこともポール君と呼んでいいぞ」と言ってもらえたが、さすがに遠慮した。

「それで、今日はどんな話をしますか?」
「やはり叔父上のかっこいいところだろ」
 アルチュールがうわぁ、また始まったよという顔をしているけど僕たちの話は続く。
「槍を持った時の上腕二頭筋がいいですよね」
「いきなり筋肉の話はかなりトリスタンに影響されてないか? 性格とかそういった話をしてくれ。叔父上はあの寡黙なところがいいよな」
「わかります。寡黙だけど視線とか行動が優しくて、そこがいいですよね」
「そうなんだよ。それに体術もすごいんだ。あの動きは惚れ惚れする」
「すごいですよね! あと、抱きしめた時の胸筋の厚さがもう本当かっこよくて! 逆に抱きしめられると腕の」
「すまない。自分から話を振っておいてあれだが、身内のそういう話は聞きたくない」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだろう」

 ポール様とアルチュールが呆れたような顔で僕を見る。
「まだ序章みたいなものなのに……」
「最終章まで付き合えるのは叔父上だけだと思う」
 そうなのかぁ。ジョゼフは楽しそうに聞いてくれるからどこからが惚気なのかいまいちわからない。

「楽しそうだな」
「あっ! ジェラルド様!」
 仕事が一段落ついたのかジェラルド様が来客室に来てくれた。僕はソファーの横を軽く叩き、そこに座ってほしいとアピールする。
「何の話をしてたんだ?」
「叔父上の話です」
「私の?」
 ジェラルド様が驚いた顔で向かいにいるポール様を見る。

「はい。ノア君と一緒に叔父上のかっこいいところを語り合っていました」
「聞きたいことはいろいろあるが……それは楽しいのか?」
「とても楽しいです」
 ポール様が短く答えた。ジェラルド様は渋い顔をしている。

「やはり共通の趣味があると盛り上がりますね。さらに親しくなれました」
 僕の言葉にポール様が頷く。
「まさかノア君とここまで話が合うとは思いませんでしたよ」
「なるほど趣味……趣味?」
 ジェラルド様は納得がいかない様子で首を傾げていたが、最終的に「君たちが楽しいならそれでいい」と受け入れてくれた。


 次の日、ポール様が王都に帰る時間が迫る中、僕たちは執務室で別れを惜しんでいた。
 部屋には僕とジェラルド様、ポール様にレジスとアルチュールがいる。
 ポール様以外の全員が「寂しくなるね」と口にして、確実に訪れる寂しさを紛らわせている。しかしポール様はうわの空で、何かを考えている様子だ。

 僕とレジス、アルチュールがジェラルド様に視線を送る。
 ジェラルド様は長い息を吐いてからポール様に声をかけた。
「ポール、何か気になることでもあるのか?」
 ポール様が顔を上げた。その目は覚悟を決めたかのように力強い。
「叔父上にお話ししなければならないことがあります」
「なんだ?」
 ポール様が一度息を吸い込み、言葉を選ぶように視線を下げた。誰もが無言のまま、次の言葉を待っている。
「ノア君の、スキルに関することです」

 僕の? 突然話題に上がり、思わずポール様を凝視した。
「ノアの?」
 ジェラルド様の表情が一瞬だけ硬直した。ポール様に向けられた瞳は、探るようにわずかに細められている。
「はい。まず俺は、叔父上と一秒でも長くお話しできるように対面した時間を記録しています。前回の帰省と今回の分だけですが、データをまとめた書類です。学院に五年分の記録を置いてきてしまって。少なくてすみません」
 ポール様が紙の束を机に置く。一番上の書類を見ただけでも、詳細なデータが取られていることが伝わった。

「これは、緻密な記録だな」
「ありがとうございます。それで、前回と今回を比べていただきたいのですが、明らかに違うのです」
 ポール様以外の全員が書類を覗き込む。
「対面できる時間が増えています。長い時は三倍も差があります」
 ポール様が言うと、ジェラルド様が僕に視線を移した。
「ノアのスキルの効果か?」
「おそらくそうです」
 自分のことなのに話が見えない。不安になってジェラルド様を見つめると、彼は僕を安心させるようにそっと背中を撫でてくれた。

「君の考察を聞きたい」
「まだデータが少ないので憶測も混じりますが……」
 そう前置きしてポール様は話し始めた。
「叔父上と対面できる時間が増えたのは、ノア君が同じ部屋にいた時か直前にノア君と話していた時だけです」
「データを見る限りそうだな」
「ノア君のスキルは癒しで、人の心を和ませる効果がありますよね」
「ああ」
「叔父上の威圧をノア君の癒しが中和している可能性があります」

 静まり返った執務室に、誰かの息を呑む音が聞こえた。

「僕のスキルが?」
「まだ憶測だが、ほとんど確実だと思う。一度調査をしてみることをお勧めする」
 ポール様が僕に優しく声をかける。きっと、僕の声がかすかに震えていたからだ。

「こちらでも調べてみよう。ポール、報告してくれてありがとう」
「いえ、俺は何も」
 ジェラルド様がお礼を言うと、ポール様は決まりが悪そうに頬をかいた。

「それにしても、叔父との対面時間を逐一記録するって……」
 ドン引きした様子のアルチュールが呟く。その声がしんとした執務室に響いて、アルチュールは慌てて謝罪した。
 もちろん礼儀に厳しいレジスが見逃すはずもなく、ものすごく低い声で怒られていた。
 そんな二人の様子にポール様は呆れながらも笑い、ジェラルド様も口元を緩めた。僕もたぶん、うまく笑えていたと思う。

 和やかな空気の中、出発の時間が来た。ポール様を見送るため玄関まで移動する。
「ノア君すまない。最後に嫌な空気にしてしまって」
「嫌な空気なんて、そんなことないですよ。全員驚いて反応が薄かっただけだと思います」
「それならいいが」
「せっかく仲良くなったのに寂しくなりますね」
「まあな。でもまた帰ってくるから」
「はい。どうかお元気で」

 ポール様は僕と挨拶を交わした後、ジェラルド様にも挨拶をした。
 その様子は最初に会った時よりも落ち着いているような気がして、今回の帰省がポール様にとって良いものであったらなと思った。


 寂しそうなジェラルド様に寄り添うため腕を組む。
「行ってしまいましたね」
「ああ。少しだけ静かになった」
「少しだけですか?」
「君がいるから」
「えー。僕ってそんな騒がしいですか?」
「いや、そこまで。君の場合は周囲が明るくなる」
 率直な評価に僕は嬉しくて笑った。

「スキルの件、どう思いますか?」
「詳しいことがわからないから何とも。一度こちらで調べてみてもいいか?」
「はい。よろしくお願いします」
 とりあえず結論を出すのは詳しく調べてからで。そう言って僕は、あの時抱いた感情に蓋をした。
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