【本編完結】役立たずと言われた「癒し」スキルで幸せになります!

ひなた

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第四十話 夜会

 豪華絢爛とはまさにこのことだ。夜会の会場である大ホールに足を踏み入れた感想だ。
 何度か通ったことがある王宮だけど、入る門が違うだけでここまで印象が変わるのかと驚いた。

 王弟殿下の挨拶で夜会が始まると、僕たちはすぐに会場中の注目を浴びた。
 滅多に姿を現さない辺境伯がいるのだから無理もない。皆がジェラルド様の動向を気にしている。ここまで視線に晒されたら、辺境伯を見ると呪われるという不名誉な噂も収束するだろう。
 一部のご婦人がジェラルド様の容姿に感嘆のため息を漏らしている。
 領内を視察した時もこんな感じだったな。最初は遠巻きに見られて、誰かが勇気を出して話しかけたらそこから人が殺到する。

 ご婦人たちも、まあしょうがないよね。ジェラルド様かっこいいから。別に気にしていない。むしろ伴侶として誇らしいくらいだ。
 念のため熱い視線を送るご婦人を全員覚えておくけど他意はない。うん、ちょっと目についたから気にしただけだ。

「ノア? 怒ってないか?」
 ジェラルド様が周りに聞こえないよう小声で話しかける。
「怒ってないです。ただちょっと、ジェラルド様は僕の伴侶なのにって思っただけです」
 僕も小声で返すと、ジェラルド様は「ああ」と納得したように頷いて、それから小さく笑った。
「私はとっくに君のものだ」
 不意に耳元で囁かれて心臓が飛び出しそうになった。なんとか深呼吸をして心を落ち着かせる。
 ジェラルド様は僕の一連の動きを目を細めて見守り、そして挨拶に来た貴族に視線を戻した。

 ずるいなぁ。ジェラルド様の余裕がある態度にいつもドキドキしてしまう。
 恨めしい気持ちになってジェラルド様の顔を見ると、耳が赤くなっていた。余裕そうに見えたけど、もしかしたらジェラルド様もドキドキしていたのかな。
 挨拶に来てくれた面々には申し訳ないけど、少しの間そのことで頭がいっぱいになっていた。

 挨拶が落ち着くと、どうしても当主同士が話す場になってしまう。
 僕はジェラルド様から少し離れたところでおしゃれな味のジュースを飲んでいた。
「おい、見ろよ」
「例の落ちこぼれだろ? うまいことやったな」

 声のした方に顔を向けると、学院の元同級生が僕を指さして笑っていた。
 周りに聞こえるか聞こえないかくらいの絶妙な声量だ。その証拠に彼らに気づいているのは一人で過ごしている人だけだ。
 彼らはジェラルド様に挨拶するわけでもなく、ただ僕を馬鹿にするためだけに近くに寄って来たらしい。
 よく観察すると彼らと同じように僕を冷めた目で見ている人が集まっていた。そのほとんどが学院で見たことある顔だ。

「一時期はなりふり構わず結婚相手を探していたのに」
「無駄なことをと思っていたが、まさか辺境伯に嫁ぐとは」
「何もできない落ちこぼれのどこがよかったんだ?」
「さあ? 取り柄なんてどこにも……よっぽど具合がよかったとか」

 心がどんどん冷えていく。昔はただやり過ごせばそれでいいと思っていたけど違った。これは僕だけでなくジェラルド様に対する侮辱でもある。
 飲み物が入ったグラスを近くのテーブルに置いて一呼吸する。声を上げて抗議しようとしたその時——

「おい、一体どういう了見だ。答えてみろ」
 怒りが滲み出るようなジェラルド様の声に、周囲の人間が圧倒された。僕を見下していた面々は、直接僕を罵っていた二人を置いて、青ざめた顔でそそくさとこの場を立ち去っていった。

 領内の視察で発覚したことであるが、僕のスキルはジェラルド様の威圧を完全に中和するものではない。
 今のようにジェラルド様が怒りを向けると、威圧の力が強まって中和できなくなる。
 その証拠に僕を侮辱した二人は、顔色が青を通り越して真っ白になっている。

「ジェラルド様」
「ノア」
 ジェラルド様の目は自分を頼ってくれと訴えかけていて、僕は辺境伯の伴侶として相応しいようにと背筋を伸ばした。
「彼らは僕たちの婚姻について何か誤解されているようです。徹底的に話し合ったほうが良いかもしれません」
「そうだな。彼らのお父上も交えてしっかりと話し合う必要がありそうだ」
 ジェラルド様が彼らを連れて歩き始めると、周囲が逃げるように道を開けた。

「ノアすまない。少しだけ席を外す。義父上のところで待っていてほしい」
「では僕も」
「私は大丈夫だ。すぐに終わらせる。頼ってもらえて嬉しかった」
 ジェラルド様はそう言って大ホールを出て行った。僕は扉が閉まるまでその背中を見送りながら、自分の中で何かが変わったのを感じた。


 お父様を見つけて歩き出そうとした時、洗練された雰囲気の婦人が声をかけてきた。
「ノア、久しぶりね」
「ギルム侯爵夫人」
「先ほどはごめんなさいね。彼らを咎めようと思ったら貴方の旦那様に先を越されてしまったわ」
「ありがとうございます」
 二人で微笑み合っていると懐かしい気持ちになった。

 彼女は学院の元同級生で、僕に優しくしてくれた数少ない人物の一人だ。よく僕のことを気にかけてくれて、一時期はお昼もご一緒していた。
 僕に対するやっかみがひどくなってからは手紙でのやり取りが中心となったが、僕が婚約破棄された直後はわざわざ会いに来てくれた心優しい方だ。

「昔みたいにミレーヌちゃんって呼んでくれてもいいのよ」
「さすがにできませんし、そもそも呼んだことないですよ」
「そうだったわね」
 彼女は僕のことを全然異性として認識していないのでとても付き合いやすい。

 人形のように整った顔立ち、ガラス玉のような紫の瞳。一見すると冷たい印象に思えるが、性格は温和でよく笑う。
 学院を卒業後すぐに十歳年上の侯爵と結婚したが、彼女のことだからうまくいっているのだろう。

「ところでノア」
「どうかなさいましたか?」
「あなたのその服、全然似合ってない。どういうこと?」
 彼女の目が厳しく光る。これは長くなりそうだ。彼女がファッションにうるさいことをすっかり忘れていた。

 遠くから心配そうにこちらを見つめるお父様に心配いらないと手で合図を送る。
 僕は「なぜその服を選んだのか」と問い詰める侯爵夫人に応えるため、半分ほど中身が入った杯を一気に傾けた。
感想 5

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