【本編完結】役立たずと言われた「癒し」スキルで幸せになります!

ひなた

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番外編②謝罪

「本当に申し訳なかった」
 あの王弟殿下が真剣な顔で謝罪している。続けてリヒャルト殿下も僕たちに謝罪の言葉を述べた。
 王族の二人にここまでされると、こちらこそ申し訳ないという気持ちが生まれる。

「許す」
 こんな時ジェラルド様は萎縮しないからすごい。
「ジェラルド!」
「というわけで一発殴らせろ」
「許すって言ったじゃん! リヒャルト、助けて!」
 王弟殿下がリヒャルト殿下の後ろに隠れる。リヒャルト殿下は嬉しそうな表情を隠すことなく、王弟殿下を庇うようにジェラルド様に向き合った。

「謝罪を受け入れたのでは?」
「今回の件は受け入れました。むしろお二方のご婚約成立の瞬間に立ち会えたことを光栄に存じます。ですが前回の分が残っておりまして」
「前回?」
「ガスパール。結婚式の進行を滅茶苦茶にした件の責任を取ってもらうぞ」

 ジェラルド様がリヒャルト殿下越しに声をかける。すると王弟殿下が、リヒャルト殿下の肩口からひょいっと顔を出した。
「いやいや、あれ俺頑張ったんだからね! 時間がなくてあんまり言い訳できなかったから言わせてもらうけど、むしろ感謝してほしいくらい!」
「二発いくか?」
 ジェラルド様が拳を握りしめる。これはすぐに止めないとリヒャルト殿下ごといくかもしれない。

「ジェラルド様、王弟殿下の話をお聞きしましょう。殴るのはそれからでも遅くないです」
「それもそうだな」
 ジェラルド様が拳を開く。王弟殿下はそんな僕たちの様子を見て「止めてくれてるようで止めてないんだよなぁ」とぼやいていた。

 夏の終わり、花々が咲き誇る豪華な庭園とは裏腹に、底冷えするような声が響く。
「で? その言い訳とやらは?」
 ジェラルド様が腕を組み、王弟殿下にゆっくりと問いかける。側から見たらどちらが王族なのかわからない。
 王弟殿下もまずいと思ったのかリヒャルト殿下から離れ、ジェラルド様と向かい合い姿勢を正している。
「兄様がさ、突然二人の結婚式に出席したいって言い始めて」
「は? なぜ陛下が?」
 ジェラルド様の疑問はもっともだ。同調するように僕も頷く。

「だから必死に止めた。周辺の領との兼ね合いもあるし止めときなよって言ってさ。それでも抵抗してきたから説得して祝辞だけ持ってきたんだって」
「祝辞を持ってきた経緯はわかった。事前報告がなかったのはどういうことなんだ?」
「それは……」

 王弟殿下が再びリヒャルト殿下の背中に隠れる。そして顔を出さないまま小さな声で言った。
「普通に忘れてました。すみませんでした」
「よし。覚悟はできたか?」
 ジェラルド様が強張った顔をして一歩踏み出す。王弟殿下も気配を察してリヒャルト殿下に抱きついた。
 他国の王族を巻き込むのはまずい。このままでは事情聴取で新婚旅行が終わってしまうかもしれない。

「そ、それにしてもなぜ陛下は僕たちの結婚式に出席したいと仰ったのでしょうか?」
「確かに。それは私も気になります」
 僕が大きな声で割り込むと、リヒャルト殿下も同調してくれた。彼は王族なのに配慮を欠かさない好人物だと思う。デレデレした顔で全て台無しになっているけど。
 ジェラルド様の動きが止まった。一先ず危機は脱したようだ。

「あー、それは……言っていいのかな」
「話せ」
 低い高圧的な声に、王弟殿下が慌てて話し出した。
「兄様がノアくんのファン?みたいな感じで。幸せを見届けたいとか何とか言ってた」
「なんで僕?」
 いきなり自分の名前が出てきて思わず聞いてしまった。

「俺もよくわからない。生き様に感動したとか言ってた」
「陛下に直接お会いしたことはありませんが」
「だよね。たぶん予言スキルの関連で知ったんだろうけど意味不明で。聞いても教えてくれないし」
「怖……」
 陛下には申し訳ないが普通に怖い。

「そろそろ代替わりを検討する頃合いではないか?」
 隣から地を這うような声が聞こえた。顔を向ける勇気が出ない。リヒャルト殿下も少しだけ顔が引き攣っている。
「えっと、ジェラルド様。それはどういう意味ですか?」
「王太子殿下は非常に優秀で人格も優れていると聞き及んでいる」
 その発言はさすがに問題があるのでは?

「待て待て待て! 槍下ろせ! さすがに俺も庇えないから!」
「フロンドル卿、落ち着いて」
 王弟殿下の言葉でやっとジェラルド様を見る勇気が出た。いつのまに取ったのか、決闘で使った模造の槍が握られている。
「ジェラルド様、不敬罪だめです」
 僕もジェラルド様を宥める流れに参加する。

「問題の芽は早めに摘んでおかないと」
「安心してくれ。兄様は見守りたいだけでそれ以上のことはしないから。俺も兄様が暴走しないように見張っておくし」
 王弟殿下が今日一番の真摯な態度でジェラルド様を説得する。
「ノア。君はいいのか?」
「僕ですか?」
「そうだ。ガスパールの話を聞いて怖がっていたから」
 ジェラルド様は僕のために怒ってくれたのか。不器用な愛情に思わず口角が上がる。僕は槍を握っている手に自分の手を重ねた。

「大丈夫です。いざとなったら守ってくださいね」
「ああ、もちろん」
 ジェラルド様の手が緩み、槍を地面に置いた。
「それにちょっと気持ち悪いだけで実害はありませんから!」
 ジェラルド様を安心させるために追加で声をかける。
「ノアくんも十分不敬では?」
 王弟殿下が何か言ってきたので強引に話題を変えることにした。

「それにしても、王太子殿下のスキルって素晴らしいですよね!」
 三人から『無理やり話変えたな』という目をされたがめげずに話を続ける。
「前から気になっていましたが、スキルが治水ってすごいですよね!」
「あれはずるい。私の国でも一時期話題になってたよ」
 リヒャルト殿下が僕の唐突な話に自然と乗ってくれた。本当にいい人だと思う。

 この国は北から南を横断するように河川が流れていて、交通の要となっている。しかし大雨が降ると川が氾濫し、甚大な被害が出てしまう。
 だが王太子殿下のスキルのおかげでそのリスクはほぼなくなり、安定した舟運が可能となった。唯一無二の素晴らしいスキルと言っていいだろう。

「すごいよね。スキルだけじゃなくて学業も優秀だし。叔父としてはもう少し肩の力を抜いてもいいと思うけど」
「普段も真面目な方なのですか?」
「真面目というか抜け目ない? 常に気を張ってる感じ」
 すっかり話題は王太子殿下のことになった。王弟殿下とリヒャルト殿下は楽しそうに話をしている。

「羨ましいな」
 ジェラルド様の小さな呟きが耳に入った。相当意識しないと聞き逃してしまうほどの小さな声だ。
「私も人々に感謝されるようなスキルだったら」
 そこまで深刻な表情ではなかった。だからこそジェラルド様の本心が読めない。
 どんな言葉をかけていいか思い浮かばなくて、僕はこれから訪れる新婚旅行先の島について話すことにした。
感想 5

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