【本編完結】役立たずと言われた「癒し」スキルで幸せになります!

ひなた

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番外編④海※

 宿のロビーに到着すると、慌てた様子の従業員が応接室のような部屋に案内してくれた。扉を開けたら、ジェラルド様が気まずそうに座っているのが見えた。他にも申し訳なさそうに頭を下げている男性がいる。

「ジェラルド様、大丈夫ですか?」
「私の方は問題ない」
「トラブルがあったとか」
「私がご説明いたします」
 支配人と名乗る男性が、僕とジェラルド様にもう一度頭を下げて話し始めた。


 先ほどの叫び声の主は、この宿のオーナーのご子息だった。なんでも、彼は今日ここでプロポーズする予定だったらしい。
「で、たまたまロビーでジェラルド様とすれ違ったと」
「おっしゃる通りでございます」
 ご子息は精神干渉を受けやすい体質で、ジェラルド様の威圧スキルを受けて恐怖心から叫んでしまい、その勢いで尻餅をついてしまったようだ。怪我はなかったとのことだが、念のため医者に診てもらっているらしい。

「プロポーズは間に合いそうですか?」
 僕が支配人に質問すると、彼は難しそうな顔で答えた。
「夕方に予定しておりますので問題ございません。ただ——」
 支配人の話によると、ご子息の婚姻はかなり前から話が進んでいたそうだ。今回のプロポーズも形式的なものだという。そのため、プロポーズ後に食事会を開き、さらに次の日には宿の大ホールを貸し切ってパーティーをする予定だった。

「明日は会場に近づかないとして、今日が問題ですね。僕たちが出歩いたら鉢合わせてしまう可能性があります。食事会まで宿から離れるのが確実ですが……」
「そうだな。だが今日は宿周辺で過ごす予定だったから馬車の手配もしていない」
 僕の癒しスキルがあれば問題ないと思うけど、万が一ということもある。せっかくの人生の晴れ舞台に邪魔が入るのはかわいそうだ。
 僕たちが頭を抱えていたら、支配人が恐縮した様子である提案をした。
 それは急いで馬車を手配するか、部屋で一日過ごしてもらうというものだった。どちらを選んでも特別な対応はするし、謝礼もするとまで言ってきた。
 どちらも魅力的な提案で数分ほど悩んだが、ジェラルド様と話し合った結果、部屋で過ごすことになった。


 静かなバルコニーに、グラスの氷がカランと音を立てた。柔らかい潮風が頬を撫で、遠くでは波の音がかすかに聞こえる。
「至れり尽くせりですねぇ」
「ここまでしてもらうと、むしろ申し訳ないな」
 テーブルを挟んで隣に座っているジェラルドに話しかける。テーブルの上には食べきれないくらい山盛りのフルーツに、生搾りのフルーツジュースが載っている。他にも南国ならではの食べ物や甘いデザートが所狭しとあって、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだ。

 目の前の絶景に夢中になっていると、突然ジェラルド様が「すまない」と謝罪した。
「なぜ謝るのですか?」
「私のせいで予定が台無しになってしまったから」
 気まずげに目を伏せたジェラルド様に微笑みかける。

「僕は気にしてません。これも新婚旅行の思い出ですよ」
「そう言ってもらえるとありがたいが……」
 ジェラルド様はまだ浮かない顔をしている。
「じゃあ一つだけわがままを言っていいですか?」
「何でも言ってほしい」
「椅子を移動させて僕の隣に座ってもらえませんか? もっと近くに来てほしいです」
「あ、ああ」
 ジェラルド様が軽々と椅子を持ち上げて僕の隣に下ろした。そしてそのまま隣に座る。

「手、繋ぎたいです」
「わかった」
 右手から伝わる熱は、温かいを通り越して、じんわりと焼きつくようだった。これは南の島のせいなのか。
「暑いですね」
「暑いな」
 それでも二人とも手を離すことはなかった。

 しばらく無言で手を繋ぎ、僕はふと思ったことを聞いてみた。
「そういえば、忘れ物って何だったんですか?」
「これを君に渡したくて」
 ジェラルド様が服のポケットから何かを取り出して僕に差し出した。繋いでいた手を離し、両手で受け取る。

「え、これって」
 渡された物は丸く加工された魔石だった。深い青色に金色の粒が散りばめられている。
「露天市で悩んでいたように見えたから……受け取ってくれると嬉しい」
 確かに昨日市場で見て買おうか悩んでいた物だ。
「ありがとうございます。嬉しいです」
 手のひらに収まる魔石を大事に握り締める。ジェラルド様に買ってもらった物だと思うと、それだけで胸がいっぱいになった。

「宝物がまた増えました」
 そう呟いて、魔石をもう一度握りしめる。それからジェラルド様に笑いかけた。
「喜んでもらえてよかった」
 顔が自然に近づき、そっと唇が重なる。そのまま角度を変えて何度も軽い口付けを交わした。
 触れたところから伝わる熱は心地よくて、外の暑さと一体化したかのような錯覚を覚える。

「あっ……」
 唇が離れると寂しくて思わず声を出してしまった。
「どうした?」
 ジェラルド様が僕の髪を優しく撫でる。気持ちよくて目を瞑ったら再びキスをされた。嬉しくて身体を密着させるように抱き着くと、ジェラルドが大きな手で僕の背中を撫でてくれた。

 時間も忘れて触れ合いながら静かに過ごしていたら、空がオレンジ色に染まっていた。
「美しいな」
 ジェラルド様が率先して景色の感想を述べるのは珍しい。
「はい」
 海に沈む夕陽に目を奪われて返事が単調になってしまった。ジェラルド様に寄り添いながら太陽の行く末を見守る。

「あの……今夜」
 僕がジェラルド様に声をかけたタイミングで護衛がこちらにやって来た。宿の従業員が夕食を運んできたから部屋にあげてもいいか、という確認だった。ジェラルド様が頷くと、数名の従業員が入室し、テーブルのセッティングを始める。
「何か言いかけてなかったか?」
「いえ、なんでもないです」
 改めて伝えるのが恥ずかしくなり、ジェラルド様の手を引いて部屋に戻った。


「美味しかったけどすごい量でした……」
「あれを二人分というのは無理がある」
 特別な対応をすると言われていたが、ここまでとは思わなかった。南国らしい海産物を使った料理がずらっと並べられて、滞在中に食べた中で間違いなく一番豪華な食事だった。

 しばらく休憩してからジェラルドと一緒にお風呂に入った。部屋の中にある浴室は広く、二人で入っても余裕がある。ここも特別な対応なのか湯船に薔薇の花が浮かんでいた。
「いい香りですね」
「……落ち着かない」
 僕は甘い香りと華やかな見た目に癒されたが、ジェラルド様はそうでもなかったらしい。居心地が悪そうな顔に思わず笑ってしまった。

「もう少し浸かりたいので先に上がっていてください」
「わかった」
 少ししてジェラルド様が脱衣所を出た。僕は脱衣所に隠しておいた小瓶を取り、再び浴室に戻る。

 普段はジェラルド様に任せきりだから少し怖いけど、最高の新婚旅行にするためだ。
 一日目と二日目は早めに寝てしまった。最終日である五日目は朝から移動のためほとんど自由時間がない。つまり夜中まで起きていられるのは三日目である今日だけだ。
 いつも通り誘えばジェラルド様が丁寧に優しく慣らしてくれることはわかっている。これは特別な夜にしたいという僕のわがままだ。
 小瓶の蓋を開け、中の液体を手のひらに出す。嗅ぎ慣れた香油の香りが薔薇の香りに混ざる。豊潤な空気と緊張感で身体はすっかり熱くなっていた。


「寝てる」
 準備を終えて寝室に入ると、ジェラルド様が眠っていた。ベッドに上がり頬をつついてみたけど起きる気配はない。
 うっすら思っていたが、ジェラルド様は暑さに弱いみたいだ。フロンドル領は夏が短いから慣れていないのだろう。
 起こすのは可哀想だけど、このまま朝を迎えるのも悲しい。

 起きてくれないかなと期待を込めて顔の輪郭をなぞる。
「ん……」
 思ったより眠りが深いようだ。身じろぐだけで目が開く気配はない。
「起きてほしいなー」
 ちょっと楽しくなって首筋に触れる。それでも起きそうにないから完全に諦めて、ジェラルド様を観察することにした。

 うん、やっぱり僕の旦那様はかっこいい。直線的な鼻梁、切れ長の瞳は閉じられていても意思の強さが伝わるし、長いまつげは影を落としている。でも、それと同じくらい可愛いとも感じてしまうから不思議だ。
 好きだなぁと思う。想いが通じ合った直後の激しさではないが、自分の根幹に深く染み渡るような感覚だ。もしもジェラルド様がいなくなったら、自分の一部が欠けてしまうような、そんな恐ろしい錯覚がある。

「好き、好きです」
 唇に軽く口付ける。全然足りない。ジェラルド様はいつもどうしてたっけ。
 シャツのボタンを外していくと、鍛えられた上半身が表れる。
「ジェラルド様、だいすき」
 鎖骨に唇を落とし、吸い付く。いつものお返しだ。
「あれ? 全然つかないや」
 ジェラルド様がやると簡単に赤い痕がつくのに。もう一度挑戦しようと同じ場所に唇を付けた瞬間——

「もっと肌と唇を密着させるんだ」
 低い声が耳元で震えた。それは感情を抑えた硬い響きなのに、かすかな甘さが含まれているように思えた。
「ジェラルド様、あの、これは」
 ジェラルド様は何も言わない。じっと僕を見つめている。

「やめるのか?」
 まごついていたらジェラルド様が問いかけてきた。眉がわずかに寄っていて、その表情は寂しそうだ。
 答えるより先に身体が動く。ジェラルド様の鎖骨に唇を密着させ、吸い付いた。
 先ほど挑戦した時よりもジェラルド様の匂いを感じて、心臓が破裂しそうだ。

 そっと唇を離す。そこには赤い印が堂々と存在を主張していた。
「うまくできました!」
 妙な達成感で明るく声をかけてしまったことを後悔した。
 ジェラルド様の表情に、出来の悪い生徒を見守るような温かさはなかった。ひたすら僕を求める、喰らい尽くすような熱だけがあった。

「ノア」
 身震いするような熱情。名前で呼ばれることは慣れている。なのに彼の口から紡がれるだけで特別なものになるのはなぜだろう。
「ジェラルド様」
 名前を呼んだだけなのに口の中がカラカラに乾く。
 僕は指先に力を込めてシャツのボタンに手をかけた。見せつけるようにゆっくりと脱いでいく。両肩が空気に触れた時、僕の中で何かが変わった気がした。


 ベッドに仰向けになったジェラルド様の足の間に入り、屹立を口に含む。
「ノアっ、もう……」
「きもちい、ですか?」
 返答を待つことなく、再びジェラルド様の陰茎を迎え入れる。初めてだからどうしていいのかよくわかってない。以前ジェラルド様にしてもらったことを思い出しながら、歯を立てないように注意深く頭を上下に動かす。時折裏筋や鈴口を舌の腹で刺激すると、ジェラルド様かは漏れる吐息が大きくなって、僕は夢中でそれを続けた。
 じゅぷっ、じゅぷと口淫の音が部屋に響いている。いやらしい音に興奮を煽られ、ストロークがさらに深くなる。亀頭が喉奥に到達すると、カウパーの味が口いっぱい広がり鼻に抜けた。

「んっ……ふ……」
 しょっぱいだけなのに、ジェラルド様のだと思うと癖になりそうだ。興奮を煽られて後孔が勝手にひくつく。そのせいですっかり体温で温まった香油がとろとろと溢れ出した。

 陰茎から口を離す。まだこの先も行為が続くのに名残惜しくなって、鈴口から溢れたカウパーに吸い付いた。
「僕、上手にできてました?」
「すごくよかった」
 ジェラルド様は寝転がったまま僕に優しい目線を送る。いつもの流れならジェラルド様が僕を押し倒して、丁寧に抱いてくれる。新婚旅行にふさわしい交わりだ。でもそれだけじゃ足りない。

「ジェラルド様、そのままで」
「どうした?」
「今日は僕が全部するから」
 ジェラルド様が不思議そうな顔で寝転んでいる。僕は彼のお腹に跨って、それからジェラルド様の屹立を後ろ手で掴んだ。

「ノア、待て。まだ準備が」
 焦ったような声。手に持った陰茎はガチガチに硬くて射精寸前だって伝わるのに、こんな時でも一番に僕を気遣ってくれる。
「大丈夫です。お風呂でほぐしてきたので」
 彼が欲しい。その思いだけで自分でも信じられないくらい大胆になっていく。
 ジェラルド様の陰茎を手で支えながら後孔の縁にあてる。そこはもうぐしょぐしょに濡れていて、ジェラルド様の先端が触れるとくちゅりと水音を立てた。

 そのままゆっくりと腰を下ろす。ジェラルド様の大きくて太いものが内壁を割り開いていく。
「あっ……あっ」
「ノア、一度抜いて」
「やだっ。抜か、ない」
 いつもと違って自分の指で慣らしたから拡がりきってなかったみたいだ。圧迫感に息が詰まりそうになる。

「はぁっ……んんっ」
 ゆっくり息を吐いてじわじわと中に埋めていく。硬い先端でこじ開けられる感覚がたまらない。あと少しで亀頭が全部入りそうだ。
「辛そうだな。少し手伝ってやろう」
「んんっ! ぅあ……あぁー」
 ジェラルド様の手が尻肉を左右に割り開いた。空気に触れた後孔が収縮し、内襞が奥へ誘うように蠢く。

「あっ、だめ。これ……すご」
「くっ……締め付けが」
 ジェラルド様は一切腰を動かしていない。ただ両手で僕の腰をゆるゆると撫でているだけ。それなのに貪欲になった内壁がどんどん飲み込んでいく。

「あっ、あん……あぅ」
 亀頭が前立腺に到達して、そこで止まる。気持ちいいから強く締め付けてしまい、締め付けた圧迫感でさらに気持ちよくなる。止まらないループに足がガクガクと震え、重心が後ろにいく。ジェラルド様の太ももに手をついてバランスを取ると、重力に従って腰が落ちていった。

「あっ、ああっ!! んぅ!」
 ジェラルド様の屹立が僕の中を暴く。ごりごりと抉りながら進んだ先端は、最奥に到達した。
「ノア」
 ああ、ジェラルド様の顔がよく見える。獰猛な、僕の全てを喰らい尽くしたいと言いたげな目。

「そろそろ」
「は、い」
 お互いに限界が近いのだと悟る。僕は彼の太ももに置いた手に力を入れて、ゆっくりと腰を浮かせた。

「ん……あ、あっ……」
「大丈夫か? 腰が抜けそうになっているが」
「んっ、掴むのやめっ。僕が動くから……気持ちよく、してあげ……んっ」
 ずるりと抜けていく感覚は、腰が抜けそうなくらいに気持ちいい。実際に腰が抜けて一気に最奥まで突かれたら、僕はどうなってしまうのだろう。
 一番太いところが容赦なく前立腺を圧迫している。そこを思いっきり擦ったら――止めどがない想像に息を荒げる。

 ふいにジェラルド様と目が合った。彼は僕の行動を咎めることもなく、じっと僕を見つめていた。
「あぁっ、見ないで……!」
 本当は今すぐにでも下から激しく突き上げたいと目が語っている。理性のギリギリのところで僕のわがままを受け入れてくれているのだろう。

「あ……はぁっ、んっ……」
 一度動き出せば止められなくなり、僕は激しく腰を上下させる。気持ちいいとこを擦るように、自分のいいところに当たるように動くと、自然と声が漏れた。
「あっ、あー……すごい……」
 ずっとこの時間が続けばいいのに。頭の中がパチパチと弾け、口元がだらしなく緩む。
「……ふ」
 ジェラルド様の息が乱れている。いつも僕のペースでリードしてくれるから、こんなに余裕のない表情をしているのは初めて見たかもしれない。

「……っ、はぁ」
 ジェラルド様は僕の腰を掴むと、下から思い切り突き上げた。
「ああぁっ!」
 あまりの衝撃に僕は達してしまったが、それでもジェラルド様は動きを止めなかった。何度も激しく突き上げられ、僕はもう訳が分からなくなる。
「あっ、だめっ……イってる、イってるからぁ!」
「まだいけるだろう?」
「んんんっ!!」
 奥、当たって気持ちいい。力が抜けてジェラルド様の胸に倒れ込む。

 汗の匂いだ。お風呂に入ったばかりだったなのに、我を忘れて求め合って絡み合って。欲望の証拠を突きつけられた気がして、そこに舌を這わせる。するとジェラルド様が小さく身体を震わせた。
「ノアっ。私も、もう」
「あっ! 僕も、また……イっ」
 後頭部を掴まれ、引き寄せられるようにキスをする。舌が重なり口粘膜が触れ合うと、腰の打ち付けが一層激しくなり、そのままほぼ同時に絶頂した。

「はぁー……ノア、大丈夫か?」
「んぅ……まだ動けないです」
「無理をさせた」
 ジェラルド様は労わるような手つきで僕の頭を撫でてくれた。大きくて安心感を与えてくれる手に甘えて頭を擦り付ける。
 結局、新婚旅行の特別な夜ということで二人とも盛り上がってしまい、終わったのは空が白み始めた頃だった。


「見てくれ。素晴らしい景色だ」
 気だるさに流されてうとうとしていたら、ジェラルド様が立ち上がりカーテンを開けて海の様子を見せてくれた。
「すごい……綺麗ですねぇ」
 夜は息を潜め、空には薄い光が広がっている。その光を受けた水面は、静かな輝きを放っていた。

 上半身を起こし、外の景色に見入る。
「海ってすごいですね」
「ん?」
「だって同じ海なのに、時間によって感じ方が違うから。昼に見た時はもっと眩しくて惹きつけられる感じなのに、今はとっても穏やかで」
 夢中で話していると、ジェラルド様が今の海と同じような目でこちらを見ていることに気づいた
「あっ、ごめんなさい。よくわからないことをペラペラと」

「君に似ているな」
「僕に?」
 ジェラルド様がカーテンを閉めてベッドに上がった。二人並んで寝転がり、顔を寄せる。
「同じ笑顔でも、こちらまで明るくなるような笑顔の時もあれば、心の傷に寄り添うような慈悲の笑みを浮かべる時もあって……私にとって君は海のような存在だ」
 思わずぽかんと口を開けてしまった。海の話をしていたはずなのに、こんな、僕のことすごく好きみたいな話になるなんて。

「らしくないことを言った。忘れてくれ」
 ジェラルド様はぽつりと呟くと、僕の視線から逃れるように身体の向きを天井に向けた。

「無理です。忘れられません」
「もう寝るぞ」
 必死に話を終わらせようとするジェラルド様が愛おしくて、くすくす笑う。すると大きな手が僕の目元を包んだ。

「わ、びっくりした」
「早く寝なさい」
「わかりました。今のことは忘れるので、一つだけお願いしてもいいですか?」
「なんだ?」
「起きたらキスがしたいです。いつもより、ちょっと情熱的なやつ」
「承知した」
 ジェラルド様が動きベッドが揺れたと思ったら、こめかみにキスをされた。目元は覆われたまま、少しカサついた唇の感触が髪に伝わる。

 横にいる彼には言えないけど、忘れられない夜になった。かすかな潮の匂いにジェラルド様の匂いが混じって、海に抱かれてるような気分だ。
 胸から溢れる安らぎと幸福に浸りながら、僕はゆっくり目を閉じた。
 
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