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番外編⑤解放
目に刺さるくらい赤い夕焼けは、空も海も鮮やかに染め上げている。
波音は絶え間なく続くのに、目の前に広がる景色は刻々と変わっていく。束の間の絶景は、新婚旅行最後の思い出として最高の舞台だった。
「素敵……」
「ああ、素晴らしい」
思わず出てしまった感嘆にジェラルド様が反応する。辺りは呟きすら聞こえてしまうくらい静かだ。
「まさか砂浜の一角を貸切にしてもらえるとは思わなかったです」
「こちらが一応貴族だから配慮したのだろうな」
さすがにこれ以上謝礼を受け取るのも忍びなくて、僕たちからはフロンドル領の銘酒を贈った。だけどそれがかえって相手に気を遣わせてしまったようで、少し申し訳なさが残る。
「もう見納めか」
ジェラルド様の言葉に軽く頷く。明日の朝には宿を発つため、のんびりできるのも今日が最後だ。
「はい」
寂しそうな表情をしているジェラルド様の肩に頭を預ける。これくらいの軽い接触なら、少し離れた場所にいるマルクお兄様も許してくれるだろう。
ただゆっくりと沈んでいく夕日の動きだけが時を感じさせる。南国にいると、夜が迫っても急かされる気分にならないから不思議だ。
遠くの方から聞こえていた歓声もすっかりなくなった。彼らもこの景色を目に焼き付けているのだろう。
ふと、視線の端にきらりと光るものが映った。
波打ち際の砂に、何かが埋もれているようだ。
気になって立ち上がろうとした瞬間、そっと手首を掴まれた。
「え……あ、すまない」
ジェラルド様がぎこちなく謝罪する。自分の唐突な行動に驚いている様子だ。
「いえ、お気になさらず。波打ち際の光が少し気になっただけですので」
僕が光を指差すと、ジェラルド様は長く息を吐いた。気持ちを落ち着かせようとしている姿を見て、思わず掴まれた手を強く握り返す。
波の音だけが響く空間。日も落ちて辺りは暗くなりつつある。
「つい無意識で……いなくなってしまう気がして。一番辛いのは君なのに、自分が情けない」
四年前の誘拐事件以来、ジェラルド様は僕に対して過保護になっている。これでも随分ましになったほうで、一時期は護衛がいても僕と離れることを嫌がった。
「僕は大丈夫ですよ。たまに思い出して怖くなることはありますが、ジェラルド様がそばにいてくれるので」
もう一度手を強く握り、笑いかける。不安そうに揺れていた瞳が真っ直ぐこちらを向いた。
「ありがとう。本当に、君にはいつも救われてばかりだ」
「僕のほうこそ。ジェラルド様にいつも助けられてばかりです」
ジェラルド様は一瞬信じられないといった顔をして、それから優しく微笑んだ。
本心から言ってるのになぁ。僕の褒め言葉を完全に受け入れるのはまだ難しいみたいだ。僕の心を真の意味で救ってくれたのはジェラルド様だけなのに。
「わかっているから、そんなに不満そうな顔をしないでくれ。ありがとう」
「えっと、そんなにわかりやすいですか?」
「かなり」
そう言ってジェラルド様は声を抑えながら笑った。元気になったのはよかったけど、なんか納得いかない。
夕日は地平線の彼方に沈み、闇がうっすらと顔を出す。波打ち際には淡い光がライン状に輝いていた。
「魔光貝か」
「綺麗ですね」
先ほどの光は魔光貝だったのか。昼に魔力を吸収し、夜にぼんやりと光るそれは、ルーサミル島でしか生息を確認できない珍しい生き物だ。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「どうした?」
この雰囲気ならいけるかもしれない。万が一気まずい空気が流れても、目の前の景色を見たらすぐ和やかになるだろう。
「ここに来る前、王弟殿下にお会いしたじゃないですか。話している時に、その……聞こえてしまいまして」
「王宮で? 何か言ったか?」
ジェラルド様は何のことなのかよくわからないようで、首を傾げて話の続きを促す。
「リヒャルト殿下との決闘を終えて、スキルの話題が出た時に『羨ましい、私も人々に感謝されるようなスキルだったら』と……そのようなことを呟かれていたので気になってしまって」
「ああ、確かに言った気がするな」
「もしかしたら何かお悩みがあるのかと心配で」
僕が恐る恐る尋ねると、ジェラルド様は「あー、それはだな……」と落ち着きなく視線を彷徨わせ、言いにくそうに口を開いた。
「まず私は、自身のスキルを誇りに思っている。辛いこともあったが、それはもう過去のことだ」
「はい」
揺らぎのない真っ直ぐな声。その言葉が嘘だとは思えない。
「それで……いや、その前に笑わないと約束してほしい」
「笑わない、ですか? えっと、頑張ります」
しまった。この返しはよくなかったか。ジェラルド様が一瞬だけ不安そうな顔になって、顔を逸らしてしまった。
「……ましくて」
「ん? あの、ごめんなさい。もう一度」
ジェラルド様は僕から少しだけ身体を離して、先ほどよりはっきりした声で言った。
「君が王太子殿下のスキルを手放しで誉めたものだから羨ましくて……」
「え?」
「リヒャルト殿下に負けていいところを見せられなかったから余計に、その」
「えっと、それって」
「これ以上は言わないでくれ」
ジェラルド様は僕の口元に手をやって、そこで口を塞いだ。吐いた息が熱い。一方的に持ちかけられたとはいえ、約束は守らないといけないのに。
でも耐えられない。だって、嫉妬したってことだよね。あのいつも落ち着いているジェラルド様が。僕が子供っぽい発言をするたびに慈愛の目で受け入れてくれる大人な男性が。
「笑わないと約束したはずだが」
「だって……だって」
気持ちが溢れて、胸が締め付けられるようで、笑わないとこの感情を処理できなくなってしまう。
「ジェラルド様可愛い」
抱きしめようとしたら、勢い余ってジェラルド様を押し倒してしまった。
「砂が……いや、その前に護衛もいるから離れないと。それと私は可愛くない」
起きあがろうとしたジェラルドが僕の口元から手を外す。
「大好き!」
大きな声で気持ちを伝えると、ジェラルド様は驚いたように目を見開いて、それから少し笑った。
「私もだ」
もう我慢できなかった。顔を近づけると、自然と唇が重なった。しばらくしたら唇を離して、また重ねてを繰り返す。
きっと、遠くの方で護衛たちが頭を抱えているだろう。振り返れば魔光貝が神秘的な光景を見せてくれるはずだ。
だけど今はただ、愛しい人と触れ合いたい。それだけしか見えない。
これが解放ってやつなのかな。今なら砂浜にいた恋人たちの気持ちが手に取るようにわかる。
何度も響くリップ音が波音を遠ざける。もう僕の世界はジェラルド様だけだ。
こうして、僕たちの新婚旅行は幸せに包まれたまま終わりを迎えた。
窓の外を見れば灰色の空が広がっている。フロンドル領は今日も相変わらず寒い。半年前に訪れたルーサミル島の青い空が恋しい。
暖かい部屋で一人寂しく紅茶を飲む。ジェラルド様は春の討伐遠征に向けて、私兵団と鍛練中だ。
僕もポール様に頼まれた仕事を終わらせないと。正式に当主となったポール様は、僕とジェラルド様に仕事を振るようになった。こちらも毎回快く引き受けてしまうくらい絶妙な量で、頼もしい限りだ。
書類を取るため立ちあがろうとしたら、ノック音がした。
「ノア様、お手紙です。新婚旅行で訪れた宿屋から届いています」
「あの宿屋から? ジョゼフよく覚えてたね」
僕がそう言うと、侍従のジョゼフが満面の笑みを浮かべる。
「ノア様がよくお話しして下さるので」
「そんなに?」
「二週間に一度くらいの頻度ですかね。直近だと一週間前に伺ってます」
急に恥ずかしくなってきた。そういえば三日前にジェラルド様と思い出話をしたばかりだ。
「ごめんね、いつも」
「いえ、こちらも幸せな気持ちになるので好きですよ。あ、でもこの前ジェラルド様とアルチュールさんが揉めてました」
「何で?」
「ジェラルド様が毎日のように話をするから参ってしまったみたいで……これ以上新婚旅行の話をするなら給料上げてくれと喧嘩してました」
「あの二人仲良いよね」
丁寧に封筒された便箋から手紙を取り出し目を通す。
「えっ!」
「ノア様? いかがなさいましたか?」
内容はごく一般的な挨拶と近況が書かれたものだった。
「一年先まで予約が埋まるくらい盛況だって」
「すごいですねぇ。もともと人気の宿だったと聞き及んでおりますが」
ジョゼフの言う通り、ルーサミル島の中でも有名な高級宿だった。だがそこまで予約が埋まっているということはなかった。
「オーナーの息子さんと騒動になった話は覚えてる?」
「はい。プロポーズ直前に騒動になったと……その後特に揉めることはなかったと伺っていましたが」
「なんでかわからないけど、オーナーの息子さんがプロポーズをした話と、僕たちが浜辺の一角を貸し切った話が混ざった噂が出たみたい」
「えーっと、それはどういう」
「誰もいない浜辺で夕焼けをバックにプロポーズしたら必ず成功するって噂が一気に広まったって。恋人の聖地として観光名所になってるらしいよ」
ジョゼフが口をぽかんと開ける。僕だって信じられない。どうしてそうなってしまったのか。
「オーナーさんがすごく感謝してて、僕たちなら無理にでも部屋を空けるからぜひまた来てほしいって書いてある」
「なんとも不思議な……でもよかったですね!」
「うん!」
大忙しみたいだからしばらくは遠慮するけど、またいつか、あの宿に泊まらせてもらおうと思う。
「ジェラルド様に伝えてくる!」
「あっ! ノア様、走ったら危ないですよ!」
少しでも早くこの話を伝えたい。ジェラルド様はどんな顔をするのだろう。驚いて、そして今の僕みたいに笑顔を浮かべるはずだ。
扉を開けて一歩踏み出す。底冷えのする廊下からは、かすかに潮風の匂いがした。
波音は絶え間なく続くのに、目の前に広がる景色は刻々と変わっていく。束の間の絶景は、新婚旅行最後の思い出として最高の舞台だった。
「素敵……」
「ああ、素晴らしい」
思わず出てしまった感嘆にジェラルド様が反応する。辺りは呟きすら聞こえてしまうくらい静かだ。
「まさか砂浜の一角を貸切にしてもらえるとは思わなかったです」
「こちらが一応貴族だから配慮したのだろうな」
さすがにこれ以上謝礼を受け取るのも忍びなくて、僕たちからはフロンドル領の銘酒を贈った。だけどそれがかえって相手に気を遣わせてしまったようで、少し申し訳なさが残る。
「もう見納めか」
ジェラルド様の言葉に軽く頷く。明日の朝には宿を発つため、のんびりできるのも今日が最後だ。
「はい」
寂しそうな表情をしているジェラルド様の肩に頭を預ける。これくらいの軽い接触なら、少し離れた場所にいるマルクお兄様も許してくれるだろう。
ただゆっくりと沈んでいく夕日の動きだけが時を感じさせる。南国にいると、夜が迫っても急かされる気分にならないから不思議だ。
遠くの方から聞こえていた歓声もすっかりなくなった。彼らもこの景色を目に焼き付けているのだろう。
ふと、視線の端にきらりと光るものが映った。
波打ち際の砂に、何かが埋もれているようだ。
気になって立ち上がろうとした瞬間、そっと手首を掴まれた。
「え……あ、すまない」
ジェラルド様がぎこちなく謝罪する。自分の唐突な行動に驚いている様子だ。
「いえ、お気になさらず。波打ち際の光が少し気になっただけですので」
僕が光を指差すと、ジェラルド様は長く息を吐いた。気持ちを落ち着かせようとしている姿を見て、思わず掴まれた手を強く握り返す。
波の音だけが響く空間。日も落ちて辺りは暗くなりつつある。
「つい無意識で……いなくなってしまう気がして。一番辛いのは君なのに、自分が情けない」
四年前の誘拐事件以来、ジェラルド様は僕に対して過保護になっている。これでも随分ましになったほうで、一時期は護衛がいても僕と離れることを嫌がった。
「僕は大丈夫ですよ。たまに思い出して怖くなることはありますが、ジェラルド様がそばにいてくれるので」
もう一度手を強く握り、笑いかける。不安そうに揺れていた瞳が真っ直ぐこちらを向いた。
「ありがとう。本当に、君にはいつも救われてばかりだ」
「僕のほうこそ。ジェラルド様にいつも助けられてばかりです」
ジェラルド様は一瞬信じられないといった顔をして、それから優しく微笑んだ。
本心から言ってるのになぁ。僕の褒め言葉を完全に受け入れるのはまだ難しいみたいだ。僕の心を真の意味で救ってくれたのはジェラルド様だけなのに。
「わかっているから、そんなに不満そうな顔をしないでくれ。ありがとう」
「えっと、そんなにわかりやすいですか?」
「かなり」
そう言ってジェラルド様は声を抑えながら笑った。元気になったのはよかったけど、なんか納得いかない。
夕日は地平線の彼方に沈み、闇がうっすらと顔を出す。波打ち際には淡い光がライン状に輝いていた。
「魔光貝か」
「綺麗ですね」
先ほどの光は魔光貝だったのか。昼に魔力を吸収し、夜にぼんやりと光るそれは、ルーサミル島でしか生息を確認できない珍しい生き物だ。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「どうした?」
この雰囲気ならいけるかもしれない。万が一気まずい空気が流れても、目の前の景色を見たらすぐ和やかになるだろう。
「ここに来る前、王弟殿下にお会いしたじゃないですか。話している時に、その……聞こえてしまいまして」
「王宮で? 何か言ったか?」
ジェラルド様は何のことなのかよくわからないようで、首を傾げて話の続きを促す。
「リヒャルト殿下との決闘を終えて、スキルの話題が出た時に『羨ましい、私も人々に感謝されるようなスキルだったら』と……そのようなことを呟かれていたので気になってしまって」
「ああ、確かに言った気がするな」
「もしかしたら何かお悩みがあるのかと心配で」
僕が恐る恐る尋ねると、ジェラルド様は「あー、それはだな……」と落ち着きなく視線を彷徨わせ、言いにくそうに口を開いた。
「まず私は、自身のスキルを誇りに思っている。辛いこともあったが、それはもう過去のことだ」
「はい」
揺らぎのない真っ直ぐな声。その言葉が嘘だとは思えない。
「それで……いや、その前に笑わないと約束してほしい」
「笑わない、ですか? えっと、頑張ります」
しまった。この返しはよくなかったか。ジェラルド様が一瞬だけ不安そうな顔になって、顔を逸らしてしまった。
「……ましくて」
「ん? あの、ごめんなさい。もう一度」
ジェラルド様は僕から少しだけ身体を離して、先ほどよりはっきりした声で言った。
「君が王太子殿下のスキルを手放しで誉めたものだから羨ましくて……」
「え?」
「リヒャルト殿下に負けていいところを見せられなかったから余計に、その」
「えっと、それって」
「これ以上は言わないでくれ」
ジェラルド様は僕の口元に手をやって、そこで口を塞いだ。吐いた息が熱い。一方的に持ちかけられたとはいえ、約束は守らないといけないのに。
でも耐えられない。だって、嫉妬したってことだよね。あのいつも落ち着いているジェラルド様が。僕が子供っぽい発言をするたびに慈愛の目で受け入れてくれる大人な男性が。
「笑わないと約束したはずだが」
「だって……だって」
気持ちが溢れて、胸が締め付けられるようで、笑わないとこの感情を処理できなくなってしまう。
「ジェラルド様可愛い」
抱きしめようとしたら、勢い余ってジェラルド様を押し倒してしまった。
「砂が……いや、その前に護衛もいるから離れないと。それと私は可愛くない」
起きあがろうとしたジェラルドが僕の口元から手を外す。
「大好き!」
大きな声で気持ちを伝えると、ジェラルド様は驚いたように目を見開いて、それから少し笑った。
「私もだ」
もう我慢できなかった。顔を近づけると、自然と唇が重なった。しばらくしたら唇を離して、また重ねてを繰り返す。
きっと、遠くの方で護衛たちが頭を抱えているだろう。振り返れば魔光貝が神秘的な光景を見せてくれるはずだ。
だけど今はただ、愛しい人と触れ合いたい。それだけしか見えない。
これが解放ってやつなのかな。今なら砂浜にいた恋人たちの気持ちが手に取るようにわかる。
何度も響くリップ音が波音を遠ざける。もう僕の世界はジェラルド様だけだ。
こうして、僕たちの新婚旅行は幸せに包まれたまま終わりを迎えた。
窓の外を見れば灰色の空が広がっている。フロンドル領は今日も相変わらず寒い。半年前に訪れたルーサミル島の青い空が恋しい。
暖かい部屋で一人寂しく紅茶を飲む。ジェラルド様は春の討伐遠征に向けて、私兵団と鍛練中だ。
僕もポール様に頼まれた仕事を終わらせないと。正式に当主となったポール様は、僕とジェラルド様に仕事を振るようになった。こちらも毎回快く引き受けてしまうくらい絶妙な量で、頼もしい限りだ。
書類を取るため立ちあがろうとしたら、ノック音がした。
「ノア様、お手紙です。新婚旅行で訪れた宿屋から届いています」
「あの宿屋から? ジョゼフよく覚えてたね」
僕がそう言うと、侍従のジョゼフが満面の笑みを浮かべる。
「ノア様がよくお話しして下さるので」
「そんなに?」
「二週間に一度くらいの頻度ですかね。直近だと一週間前に伺ってます」
急に恥ずかしくなってきた。そういえば三日前にジェラルド様と思い出話をしたばかりだ。
「ごめんね、いつも」
「いえ、こちらも幸せな気持ちになるので好きですよ。あ、でもこの前ジェラルド様とアルチュールさんが揉めてました」
「何で?」
「ジェラルド様が毎日のように話をするから参ってしまったみたいで……これ以上新婚旅行の話をするなら給料上げてくれと喧嘩してました」
「あの二人仲良いよね」
丁寧に封筒された便箋から手紙を取り出し目を通す。
「えっ!」
「ノア様? いかがなさいましたか?」
内容はごく一般的な挨拶と近況が書かれたものだった。
「一年先まで予約が埋まるくらい盛況だって」
「すごいですねぇ。もともと人気の宿だったと聞き及んでおりますが」
ジョゼフの言う通り、ルーサミル島の中でも有名な高級宿だった。だがそこまで予約が埋まっているということはなかった。
「オーナーの息子さんと騒動になった話は覚えてる?」
「はい。プロポーズ直前に騒動になったと……その後特に揉めることはなかったと伺っていましたが」
「なんでかわからないけど、オーナーの息子さんがプロポーズをした話と、僕たちが浜辺の一角を貸し切った話が混ざった噂が出たみたい」
「えーっと、それはどういう」
「誰もいない浜辺で夕焼けをバックにプロポーズしたら必ず成功するって噂が一気に広まったって。恋人の聖地として観光名所になってるらしいよ」
ジョゼフが口をぽかんと開ける。僕だって信じられない。どうしてそうなってしまったのか。
「オーナーさんがすごく感謝してて、僕たちなら無理にでも部屋を空けるからぜひまた来てほしいって書いてある」
「なんとも不思議な……でもよかったですね!」
「うん!」
大忙しみたいだからしばらくは遠慮するけど、またいつか、あの宿に泊まらせてもらおうと思う。
「ジェラルド様に伝えてくる!」
「あっ! ノア様、走ったら危ないですよ!」
少しでも早くこの話を伝えたい。ジェラルド様はどんな顔をするのだろう。驚いて、そして今の僕みたいに笑顔を浮かべるはずだ。
扉を開けて一歩踏み出す。底冷えのする廊下からは、かすかに潮風の匂いがした。
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