王子の執念と騎士の花

うどんの裏側

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王太子殿下が私に跪いて懇願する1週間前、私に辞令が下った。
何故か第五騎士隊の、しかも女である私に名誉ある王太子殿下の護衛の命が下ったのだ。
確かに男ばかりでむさ苦しい中に殿下を置いておくのも精神衛生上よくないのかな?と思ったりはするが、女騎士は私だけではない。
第二聖騎士隊には10名程の強さ、美貌、知的さ、あと地位も名誉も持ったお姉様方がいらっしゃる。
というか第二だけでなく、第三、第四、そもそも第五騎士隊にだって私より優秀な女性の騎士が数名だけどいる。
ちなみに『聖』がつくのは第一と第二だけで、その他の騎士隊にはつかない。
基本第二聖騎士隊は王女殿下付きがメインだから調整が難しいのかもしれないけど、他の騎士隊のお姉様方は断られたのかな?
いやいや、名誉なことだから断る以前に拒否権などないはず。
謎だわ。謎過ぎる。
いくら忙しくても一人くらい王太子殿下につけられるでしょ。未来の王様なのよ?なのに何故。
比較的王太子殿下と年齢が近いからというのも考えたが、そんなことで護衛を選ぶほど野営訓練は甘くない。
そう、よりにもよって何故野営訓練の護衛に私なのか。胃がキリキリする。
能力がどうこうというわけでなく、傍で立っていれば良いということ?
悩んだところで私には拒否権もなければ発言権すらないけれど。
私はモヤモヤとしながらも命令に従い、王太子殿下の野営訓練に同行することになった。


訓練出発までの一週間は吐きそうな程忙しかった。
王太子殿下につくにあたっての礼儀作法や所属隊以上の厳しい訓練を一気に詰め込まれた。
そんな無駄なことするくらいなら私じゃなくて他の人にしてくれと隊長に訴えてみたものの、”王太子殿下の意向だ”ときつめに突き放された。
正直王太子殿下のことは殆ど知らない。
年齢は私より二歳年下の15歳で、髪色はアッシュグレー、目の色は王族特有で日中は深緑、夜は深紅の瞳になるそうだ。
外見の特徴と年齢くらいしかわからない。
第五騎士隊は中級騎士ではあるけれど、王族に謁見出来る程の地位もないから遠目でお姿を拝見するくらいが精一杯だ。
ちなみに私は貴族は貴族でも下級貴族である。
王立学園でも遭遇すらしていないから、目の色が本当かどうかもわからない。


野営訓練当日、王太子殿下はぞろぞろと騎士を引き連れ私の前にやってきた。
私はすぐさま跪き、右手を胸に当て、俯いて瞳を閉じた。

「リセンティカだね、今回の訓練では私の我が儘で護衛をお願いすることになってすまない。だけどよろしく」

思いがけず名前を呼ばれ、王太子殿下を見上げると、深緑の瞳は細められ、優しく微笑まれた。

「・・・・は、はいっ!申し遅れました!第五騎士隊所属、リセンティカ・アヤナスピネルです。この度の任務、身に余る光栄にございます」

王太子殿下の美しい微笑みに、私は一瞬息をすることを忘れてしまうほどに深緑の瞳に視線が釘付けとなり、私は微笑み一つで王太子殿下に心を奪われた。
しかしこの美しく微笑む殿下の期待に応えられるのか、お守り出来るのか、恐怖で仕方ない。
まだ未熟である私に何が出来るかわからない。選んでくださった殿下に、何をお返しできるかもわからない。だけど全てを捧げてお仕えし、お守りすると心に誓おう。
そう、私はこの時心に誓ったのだ。王太子殿下に全てを捧げると。
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