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10分以上は歩いていると思う。
私は殿下に手を握られた状態で王宮へ向かって歩いているようだ。
景色がどんどん美しくなっていく。王族や聖騎士以外が足を踏み入れることは許されないであろう、綺麗に整えられた庭を突き進んでいく。
「あの、殿下、どちらにいかれるのですか?」
詰め所を出てから殿下は無言のままだ。何故?
美しい庭を通り抜けた先に、小さな建物が現れた。
華美な建物ではないが、何となく落ち着く雰囲気のある。王宮にもこんな所があるのね。
建物に着いた時には、後ろを歩いていたお付きの方々は既に姿を消していた。一体どこで?
「ティア、今日からここが私と君が住む家だよ」
玄関のドアを殿下自ら開けると、微笑んで言った。
今何と?
「なるべく二人だけで過ごしたいから、家の大きさも限りなく小さくしたし、侍女や執事は最低限の人数しかいないから、少し不便をさせるかもしれないね」
「えっ?」
殿下が私を屋敷の中に引き入れる。パタリと玄関の扉を閉めると、玄関ホールの中央まで連れて行かれ、殿下は私の両手を持ったまま跪いた。
「殿下っ!」
「本当は君に良い返事を貰ってから案内しようと思ってたんだ。また順番が逆になってしまったな」
殿下は跪いたままブツブツ何かを言っている。
昨晩もですが、一介の騎士に跪くとか本当にやめてください。立ってください。
「改めて君に求婚する。リセンティカ・アヤナスピネル男爵令嬢、貴女のことを愛しています。必ず幸せにします。どうか私と結婚してください」
小さく息を吐くと上目遣いで殿下が懇願するように言った。
心臓がドクドクと大きな音を立てる。
いや、ちょっと待って。
まず殿下は私のお父様から求婚の許しをもらっていませんよね?
そして何故当たり前のように二人で住む家が準備されてるのですか?
先程は部屋だと仰っていましたが、グレードアップして屋敷ですか?
それに殿下のことを知ってからお返事すると言いましたよね?
場所が野営地から王宮に変わっただけで、逃さないつもりですか?
しかし明日までに結論を出さないと結局皆殺しですよね…まぁ結論はもう出てますけど。
出てますけど…美しい王太子殿下に求められて嬉しくない訳無いじゃない!
殿下が王太子でなく、婚約者様も居らず、私がもう少し身分が高く美しければ、返事も違っていたかもしれません。
ですが目の前にある現実から目を背けることは出来ません。
私が返事をしないまま黙っていると、殿下は眉尻を下げながら言う。
「もちろん、返事は"はい"以外は受け付けないし、それ以外の返事をどうしてもするというならば、どうなると思う?」
「ど、どうなるのです…か?」
心臓が先刻の時とは違う意味でドッドッドッと大きな音をたてる。
「そんなの、決まっているだろ?」
殿下が極上の笑みを向ける。目が笑っていませんよ。
決まってるって何が?どうなるの?
王族には一般庶民が知らないルールがあるの?
「ということで、何も心配事などないから、早く頷いてくれると嬉しいな」
多分初めから断ることなど許されていない。
おそらく野営訓練をする前から、殿下にとって私の返事は決定済みだったのだろう。
だけど、この際側妃だろうが愛妾だろうが決定していることは覆せないけど、実家の男爵家にだけは迷惑をかけられない。
「1つお願いをきいていただけますか?」
「何?愛人を持つとか以外ならきいてあげるよ?」
殿下の深緑の瞳が一瞬鋭くなる。
愛人なんか要りませんよ。
むしろ私が愛人なのでしょう?私を誰かと共有なさるおつもりですか?泣いてもいいですか?
「…実家の男爵家には、どうか不利益にならないように配慮していただきたいのです」
そこだけは譲れないと、殿下を見ると、殿下はポカンと口を開けている。
「で、殿下?」
「そんなこと…」
えっ…駄目ですか?配慮さえしてくれないの?
じゃあ私が殿下の求婚を受ける意味なんてないじゃない。
断っても受け入れても不利益にしかならないなんて…
「そんな…そんなことで良いの?君の生まれ育った男爵家は大切にするに決まってるじゃないか」
「えっ?」
「君が私の元へきてくれるのならば、私の権力全てを使って男爵家をバックアップすることは大前提だよ!お義父上と義兄上とも仲良くしたいと思ってるんだ」
殿下はパァっと花が咲くように嬉しそうに言う。
あれ?
「ティア、お願いごとはそれだけ?他に不安は?」
「あ、いえ、とりあえず実家のことが心配でしたので…」
「後でも思い付いたら言ってくれて良いからね。ティアのお願い事は出来る限りこたえるからさ」
ど、どうしよう。下手に殿下の後ろ盾が出来ても、男爵家が他家から疎まれないか心配だ。
でも何かあれば対処…してくれるんですよね?ね?
「ティア?」
「あ、えと…あ、あの、私、まだ殿下のことをよくわかっておりません。お心を頂いても、同じだけ返せるかもわかりません」
「それはこれからの私の努力次第だから、気にしなくても良いよ」
「でも…」
「愛してる」
「本当に…」
「…私のことが嫌い?生理的に無理?」
「そんなこと!…ありえません」
むしろ小汚い格好をしている私の方が生理的に受け付けられないとか言われてしまいそうですよ。
「じゃあお願いだ…私の求婚を受けてほしい…」
こんなの、断れる人いる?存在する?
昨日初めて会ったばかりですよね。ずっと言ってますが、こんなにまで求めてくださる理由が全くわかりません。
だけど…私は騎士だ。
殿下のお望みを叶えお守りすることも使命か…
こうなってしまったらお受けしましょう。
いつ冗談でしたと言われても良いように、心の準備だけはしっかりしておこう。
「殿下、何事も至らない私ですが、慎んでお受け致します!!」
「ほんと?本当にほんと?もう取り消せないからね!ティア、愛してる!!」
殿下はそう言うと私の両手を持ったまま立ち上がり、とろけるような笑みで私を見つめると、17年守ってきた(?)ファーストキスを風のように奪っていった。
私は殿下に手を握られた状態で王宮へ向かって歩いているようだ。
景色がどんどん美しくなっていく。王族や聖騎士以外が足を踏み入れることは許されないであろう、綺麗に整えられた庭を突き進んでいく。
「あの、殿下、どちらにいかれるのですか?」
詰め所を出てから殿下は無言のままだ。何故?
美しい庭を通り抜けた先に、小さな建物が現れた。
華美な建物ではないが、何となく落ち着く雰囲気のある。王宮にもこんな所があるのね。
建物に着いた時には、後ろを歩いていたお付きの方々は既に姿を消していた。一体どこで?
「ティア、今日からここが私と君が住む家だよ」
玄関のドアを殿下自ら開けると、微笑んで言った。
今何と?
「なるべく二人だけで過ごしたいから、家の大きさも限りなく小さくしたし、侍女や執事は最低限の人数しかいないから、少し不便をさせるかもしれないね」
「えっ?」
殿下が私を屋敷の中に引き入れる。パタリと玄関の扉を閉めると、玄関ホールの中央まで連れて行かれ、殿下は私の両手を持ったまま跪いた。
「殿下っ!」
「本当は君に良い返事を貰ってから案内しようと思ってたんだ。また順番が逆になってしまったな」
殿下は跪いたままブツブツ何かを言っている。
昨晩もですが、一介の騎士に跪くとか本当にやめてください。立ってください。
「改めて君に求婚する。リセンティカ・アヤナスピネル男爵令嬢、貴女のことを愛しています。必ず幸せにします。どうか私と結婚してください」
小さく息を吐くと上目遣いで殿下が懇願するように言った。
心臓がドクドクと大きな音を立てる。
いや、ちょっと待って。
まず殿下は私のお父様から求婚の許しをもらっていませんよね?
そして何故当たり前のように二人で住む家が準備されてるのですか?
先程は部屋だと仰っていましたが、グレードアップして屋敷ですか?
それに殿下のことを知ってからお返事すると言いましたよね?
場所が野営地から王宮に変わっただけで、逃さないつもりですか?
しかし明日までに結論を出さないと結局皆殺しですよね…まぁ結論はもう出てますけど。
出てますけど…美しい王太子殿下に求められて嬉しくない訳無いじゃない!
殿下が王太子でなく、婚約者様も居らず、私がもう少し身分が高く美しければ、返事も違っていたかもしれません。
ですが目の前にある現実から目を背けることは出来ません。
私が返事をしないまま黙っていると、殿下は眉尻を下げながら言う。
「もちろん、返事は"はい"以外は受け付けないし、それ以外の返事をどうしてもするというならば、どうなると思う?」
「ど、どうなるのです…か?」
心臓が先刻の時とは違う意味でドッドッドッと大きな音をたてる。
「そんなの、決まっているだろ?」
殿下が極上の笑みを向ける。目が笑っていませんよ。
決まってるって何が?どうなるの?
王族には一般庶民が知らないルールがあるの?
「ということで、何も心配事などないから、早く頷いてくれると嬉しいな」
多分初めから断ることなど許されていない。
おそらく野営訓練をする前から、殿下にとって私の返事は決定済みだったのだろう。
だけど、この際側妃だろうが愛妾だろうが決定していることは覆せないけど、実家の男爵家にだけは迷惑をかけられない。
「1つお願いをきいていただけますか?」
「何?愛人を持つとか以外ならきいてあげるよ?」
殿下の深緑の瞳が一瞬鋭くなる。
愛人なんか要りませんよ。
むしろ私が愛人なのでしょう?私を誰かと共有なさるおつもりですか?泣いてもいいですか?
「…実家の男爵家には、どうか不利益にならないように配慮していただきたいのです」
そこだけは譲れないと、殿下を見ると、殿下はポカンと口を開けている。
「で、殿下?」
「そんなこと…」
えっ…駄目ですか?配慮さえしてくれないの?
じゃあ私が殿下の求婚を受ける意味なんてないじゃない。
断っても受け入れても不利益にしかならないなんて…
「そんな…そんなことで良いの?君の生まれ育った男爵家は大切にするに決まってるじゃないか」
「えっ?」
「君が私の元へきてくれるのならば、私の権力全てを使って男爵家をバックアップすることは大前提だよ!お義父上と義兄上とも仲良くしたいと思ってるんだ」
殿下はパァっと花が咲くように嬉しそうに言う。
あれ?
「ティア、お願いごとはそれだけ?他に不安は?」
「あ、いえ、とりあえず実家のことが心配でしたので…」
「後でも思い付いたら言ってくれて良いからね。ティアのお願い事は出来る限りこたえるからさ」
ど、どうしよう。下手に殿下の後ろ盾が出来ても、男爵家が他家から疎まれないか心配だ。
でも何かあれば対処…してくれるんですよね?ね?
「ティア?」
「あ、えと…あ、あの、私、まだ殿下のことをよくわかっておりません。お心を頂いても、同じだけ返せるかもわかりません」
「それはこれからの私の努力次第だから、気にしなくても良いよ」
「でも…」
「愛してる」
「本当に…」
「…私のことが嫌い?生理的に無理?」
「そんなこと!…ありえません」
むしろ小汚い格好をしている私の方が生理的に受け付けられないとか言われてしまいそうですよ。
「じゃあお願いだ…私の求婚を受けてほしい…」
こんなの、断れる人いる?存在する?
昨日初めて会ったばかりですよね。ずっと言ってますが、こんなにまで求めてくださる理由が全くわかりません。
だけど…私は騎士だ。
殿下のお望みを叶えお守りすることも使命か…
こうなってしまったらお受けしましょう。
いつ冗談でしたと言われても良いように、心の準備だけはしっかりしておこう。
「殿下、何事も至らない私ですが、慎んでお受け致します!!」
「ほんと?本当にほんと?もう取り消せないからね!ティア、愛してる!!」
殿下はそう言うと私の両手を持ったまま立ち上がり、とろけるような笑みで私を見つめると、17年守ってきた(?)ファーストキスを風のように奪っていった。
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