農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

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はじまりの夏

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 気付けば、目の前の美人さんは消えていて。

 残るのはザワザワとした喧騒と、町長の閉会宣言の声。
 僕はどうして良いのかわからなくて、ぼんやりとそこに立っていた。

 さっきの人は、一体誰だったんだろうか? 
 僕のことを知っている風だったけれども、僕にはさっぱり覚えがなくて。
「いたーーーー!」
「うぐぅ!」
 首を傾げていると、どーんと何かがぶつかってきた。
「ちょっとあんた、ラストダンスを私一人にするってどういうこと!?」
「え、あ、いやそれが……」
「言い訳はいらないわよ! 言い訳よりも謝罪しなさい、謝罪! ほら、ごめんなさいは!?」
「あ、あの……ごめんなさい」
 勢いに負けて謝れば、ふんっと鼻を鳴らしてキョウちゃんはそっぽを向いてしまう。
「最後までエスコートしてくれたら許してあげるわ。そうね、遠回りして雑貨屋まで送っていきなさい。あ、ついでにオードのことも送ってあげて。それこそ遠回りだけど、罰としては丁度いいでしょ?」
「え? 私はいいよ。だってすぐそこだし……」
「オードにも罰だから良いの。私のエスコートなのに、ノルズのこと奪っていったんだから、そのくらいしてもらわないとね」
「ぼ、僕はそのくらいならいいけど……」
 ちらりとオードちゃんを見れば、オードちゃんは困惑したような表情でキョウちゃんを見ていて。
「とにかく! それで今日のダンスまつりは終わり! 良いわね!?」
「は、はい!」
 二人揃ってそう返事をすれば、ふんっと鼻を鳴らしてキョウは手を差し出す。
 あ、エスコートってまたあれやるんだと手を差し伸べれば、手をギュッと握られた。
「最後まで、きちんとエスコートするのよ。ほら、オードも反対側の手、握って」
「え、私は……」
「いいから! いい? あんたもこいつからエスコートされた側なんだから最後まできちんと握っておくのよ!?」
「え、エスコートなんて別に……!」
「正式に踊ってくださいってされてたじゃない。全く、本当に両手に花とはノルズもやってくれたわよね」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「そんなつもりじゃなくてもそうなのよ! ほら、さっさと帰るわよ!」
 そう言ってぐいっと手を引いてキョウはずんずんと歩き始める。
「わ、わかったからそんなに急がないでー!」
 そう言うのがやっとで、オードちゃんの手を引いて歩き出せば、キョウが向かったのは教会のある方の道だった。
 たしかにこの道から行けば雑貨屋まで大回りになるし、酒場までも遠回りになるだろう。

 そうして教会まで辿り着くと、大きな銅像から出迎えられる。
 二人は手を離してから、その手を組むとその銅像へと祈りを捧げ始めた。
「ほら、ノルズもやって。今日のお祭りの神様なんだから、今日くらいはこうしてお祈りしておくのよ」
「え、え? じゃ、じゃあ僕も……」
 二人に倣って手を組んでその大きな銅像に祈りをささげる。
 そういえば銅像のことなんて気にしたことがなかったなとちらりとその像を見上げれば、容姿は先程一緒に踊った美人さんに驚くほど似ていた。
「え……」
「なに? どうしたのよ、急に」
「いや、さっき踊った人に妙に似てる気がして……」
「神様が? この人、生命全般を司る神様なのよ? ああこの辺りでは収穫の神って呼ばれてるけど。あるわけないじゃない」
「ノルズくん、こんな美人さんと最後踊ってたんだね」
 キョウから鼻で笑われ、オードちゃんからもそう言ってからかわれてしまった。
「いや、でも……」
 とはいえ、神様と踊りましたなんて確かにありえなくて。
 だからこれ以上は何もいえなくて、祈りを捧げ終わった二人の手を取る。
「じゃあ、行きましょうか」
 そうしてまた歩き始めた三人の後ろ姿を見守る影があったとか、なかったとか……。
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