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第三章 深海の星空
第十八話 虹の海に見送られて
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エンジェライトとアンデシンを倒した後、リオとリリィは他の『魔神の庭』メンバーを探して歩いていた。
「あーくそ、歩く度にあちこち痛ぇ。リリィは平気か?」
「うん、平気だよー。ユナちゃんの所に行ったら治してもらわなきゃね」
そう言って歩いていると、向こうの方から三つの人影が走ってくるのが見えた。
青年と少女と小さな影、それらの影は見覚えのある影だった。
少しずつ近くなって鮮明になった影は
「おーい、あんた達ーー‼ 大丈夫――!?」
「ユナちゃん‼ マリちゃん‼ ローザ君‼」
探していた仲間たちだった。
よかったと、緊張の糸が切れて崩れ落ちるリリィにユナは飛び寄って、緑色の光をかざし、『残英の対舞曲』による治療を開始する。
「皆が見つかってよかったぁ。大丈夫だった?」
「大丈夫にした、の間違いかしら。マリと私は大丈夫だったけど、そこのナヨっちいのが重傷だったわ」
ジト目で自分に振り向いてきたユナにローザは頭を掻きながら苦笑する。
ユナに傷を治してもらい全回復した様だが、所々服が破れていたり、シャツに血が沁みている。
おそらく凄まじい戦いだったのだろうと、ローザを見てリオが思っていると
「リオ君、どうかした?」
と聞いてきた。だからリオは首を横に振って
「いいや、生きててよかった。そう思っただけだ」
とそれだけ言った。すると、ユナが小さく咳払いをして
「安心してもらってる所悪いけど、まだ全員が見つかった訳じゃないって事を忘れないでくれる?」
問題が解決していない事を告げた。
ユナの言う通り、ここにいるメンバーが全員ではない。
まだ、ステラ、アルジェント、ライゼが見つかっていないのだ。
ライゼは心配しなくても大丈夫だろうが、ステラとアルジェントの近くにはベリルがいる。
背後からの不意打ちや、仲間を呼ばれ数の暴力で殴られる事も考えられる。早急に見つけて助けにいかなければ危険だ。それに
「『幻夢楽曲』所有者の『人魚姫』は、おそらく奴らの団長。どんな能力かは分からない上に、地の利があっちにある以上、全員で固まらなきゃ危険よ」
「じゃあ、私達はステラちゃん、アルジェントさん、ライゼさんを探しに行けばいいんだね?」
杖を握って気合を入れるマリにユナは頷いて
「えぇ、まずはステラとアルジェントを探しましょう。ライゼはその次よ。ところで、この中で誰かライゼを見なかったかしら?」
それから全員の顔を見回しながら問うと、ライゼならとリオが
「俺とリリィが敵と戦ってる所に現れて、シェルって奴に吹き飛ばされてどっかに行っちまった」
シェルという名に眉をひそめるユナに、リリィがそういえば、と
「エンジェライトが『海鳴騎士団』先代団長って言ってたよ」
何気なく言った言葉に、ユナが目を見開き、ローザの顔が青ざめる。
何かマズい事を言ったのかとリリィが首を傾けると、ローザが
「リ、リリィちゃん。その人、髪の色派手だった?」
「うん、凄く派手だった」
「やっぱり本物だ。『七煌の騎士』シェル=メールだ」
「その人って有名なの?」
「超有名人だよ。『七煌の騎士』シェル=メール、かつて起きた内戦で人間やその他の種族にも大きな被害を与え、『魔王軍』と並ぶ人類の脅威と言われた男だよ」
ローザの説明に、へーと分かってるのか分かってないのか曖昧な反応を見せるリリィ。
そんなリリィに、ローザはまぁ、とにかく、と。
「凄く強い人だよ。マスター大丈夫かなぁ」
「大丈夫でしょ。それよりステラ達を」
捜さないととユナが言おうとした時、ローザの胸にトライデントが突き刺さった。
突然の事に誰もが何も言えず、動く事もできず、血を吐いてローザが片膝を地面に着いた。
それから一瞬で状況を理解したユナがローザを治療しようとするが
「させないよ☆」
その場にいなかった者の声が聞こえると共に、水でできた縄に身体を縛られ海底に押し付けられる。
その一秒後、他のメンバーも縛られて海底に身体を押し付けられ、どこからか拍手の音が聞こえてきた。
「やったぁ♡ 久しぶりだけど上手くできたぁ☀︎」
子供の様に無邪気に喜ぶ声が聞こえて、全員が声がした方を向くと、そこには満面の笑みを浮かべて手を合わせる宝石の様な美女、リーベ=メールがいた。
その場にいる全員の視線が自分に向いた事に気付くと、リーベは、あっと呟いてから顔を手で覆い隠す。
「バレちゃった、どうしよう➰」
「てめぇか、あの騎士共の親玉は。てめぇの部下がいきなり人を襲ってきた事に抗議してやろうと思ったが、人をいきなり縛って這いつくばらせるあたり、部下の人間性よりも、上司の性格に問題がありそうだな」
自身を睨みつけながら言うリオに、リーベは自分の頭をコツンと叩いて
「ごめんねー。それが計画だからー㊙︎ 謝るから許してくれる?」
「許さねぇよ。こっちにはてめぇの部下の所為で死にかけた奴もいるんだ。一発ぶん殴らなきゃ気が済まねぇ」
敵意を剥き出しにして言うリオに、リーベは小さく笑う。
リオは目を鋭くするが、リーベは意に介さずその場でくるくると回りながら
「そうやってやる気があるのはいい事だと思うけどぉ。それができるだけの体力はあるのぉ?」
「あるよ」
リオ、ではなくリリィが答える。
リリィは水の束縛を無理矢理解くと、竜化してリーベに飛びかかって拳を繰り出す。
リリィが繰り出した拳はリーベには直撃しなかったものの、その頬を掠め、リーベの頬に切り傷が生じる。
「わぁ、凄い⬆︎」
感心して目を大きく見開くリーベに、リリィは更に拳を繰り出すが、そのいずれもをリーベは身を翻して躱す。
中々攻撃が当たらない事にリリィが苛立ちを覚えていると、懐にリーベが入り込み、がら空きの腹に勢い良く掌底を叩き込んだ。
「かっ――‼」
短い呻き声と共に血を吐き出したリリィの顔に、リーベはすかさず裏拳を叩きこみリリィを吹き飛ばした。
無防備な頭部に強い衝撃が加わり、脳が揺らされ、三半規管にも影響が及び、倒れて立つ事すらできなくなったリリィにリーベは近付くと、リリィの胸に手をかざして、掌から青色の光を放つ。
すると、次の瞬間、木の枝が折れる様な乾いた音が鳴り響いた
「ぐ、うあぁああああ‼」
「リリィ‼」
悲鳴を上げるリリィの名をリオが叫ぶと、リーベはふぅと息を吐く。
「これでよしっと◯」
「てめぇ‼ リリィに何しやがったぁ‼」
「この子の胸の周りの水圧を強くして肋骨を折った✖︎ それだけだよ。」
悪びれず、自分のした事を説明するリーベに、リオは憎悪を燃やして立ち上がってリーベに飛びかかろうとするが、リーベが指先を下に向けると、身体を海底に押し付けられてしまう。
「無駄だよ。君達を縛ってる水の縄は、重さも硬さも私の思うがまま。縛る事ができた時点で私の勝ち」
「てめぇ・・・」
「うふふふふ~。じゃ、行こっか。あなた達の魔法も、宝石にしてあげる♡」
この世には、どうしても気に入らない相手というものが必ず一人はいる。
容姿が気に入らない、性格が気に入らない、態度が気に入らない、あるいはそれら以外の理由で気に入らない、なんらかの要素が癇に障る、そんな相手が必ずいる。
もしも、そういう相手と喧嘩したり戦ったりする場合
「はぁ~っあ、面倒臭いなぁ・・・」
などと言って目の前で寝転がれでもしようものなら、腹が立つのは必然である。
シェルに吹き飛ばされ、リオとリリィがエンジェライトとアンデシンと戦っていた場所から離れた場所に移動したライゼは、シェルの前でふて寝していた。
「はぁ~あ、最悪・・・」
「おい」
「なんであの時・・・」
「おい」
「本当無いわぁ、シェル君無いわぁ・・・」
「おいって言ってんだろうが‼」
ダルそうにするライゼにシェルが怒鳴ると、ライゼはようやく反応する。
「なぁ~にぃ~シェル君、僕今やる気ないから帰ってくんない?」
「は?」
「君があの時邪魔した所為で、僕がリオ君とリリィちゃんをかっこよーく助けて、二人からちやほやされて、なんやかんやで他のメンバーからもちやほやされる計画が台無しになったんだよ? 君が僕を吹き飛ばした所為で、リオ君とリリィちゃんとは離れ離れ、あの二人なら自分達で敵をなんとかするだろうから僕の活躍は無し。本当、君って最悪だよねー」
はぁ、と溜息を吐くライゼに、シェルは苛立ちを募らせる。
――これだ、こいつのこういう所が気に食わない。
一切動く様子の無いライゼの腕を掴んでシェルは持ち上げる、しかし、それでもライゼは動く様子が無い。
「なぁーに? 僕戦う気無いんだけど」
「いいや、関係無い。お前に戦う気が無くても俺はお前をフルボッコにするぞ」
「あぁ、そう。それは恐い」
欠伸をしながらそう言うと、ライゼはシェルの腕を振り解いて短剣を錬成し、切っ先をシェルに突き付ける。
「フルボッコは嫌だから、少しだけやる気出そうかな」
「少しだけ、か・・・そうやって相手を舐めてる所が気に入らんな」
「そっか」
ライゼは笑顔でそう言うと、シェルに短剣による刺突を放つ。
シェルは刺突を回避しようとはせず、ライゼをトライデントで薙ぎ払おうとするが、ライゼは短剣の軌道を変えて、トライデントを易々と受け止める。
短い得物でトライデントを受け止められ、シェルは一瞬驚きで硬直する。その一瞬の隙に
「それっ‼︎」
ライゼはシェルの鳩尾に蹴りを入れ、シェルを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたシェルは、体勢を立て直し反撃をしなければと考えるが、それとほぼ同時に背後から悪寒が走り、振り向くと、刃が顔に迫っていた。
自身の顔に迫る刃をシェルは顔を動かして躱し、後ろに飛んでライゼとの距離を取る。
「へぇ」
冷笑を浮かべるライゼにシェルは突きを放つが、ライゼはそれをトライデントよりも小さく、脆い短剣の切っ先で受け止める。
精密な動作と武器の扱い、ミリ単位の緻密な力加減があって初めて可能な業。ライゼはそれをいとも容易くやってみせる。
「さっきの反応は凄く良かった。力も衰えてない。けど、動きが大雑把になってる。歳は取りたくないものだね」
「おま、まじ鬼ウザだわ。ガチめにぶっ殺す」
「うん。やってみな。僕死なないから」
次の刹那、シェルがライゼの頭部にトライデントを振り下ろし、ライゼがそれを短剣で受け止め、ライゼの両足が海底にめり込んだ。
しかし、海底に両足がめり込む程の重圧をかけられてもライゼの表情は一切崩れる事は無く
「なんだ、この程度か」
と挑発さえしてみせた。
シェルは腕に力を入れてライゼを押し潰そうとするが
「無駄だよ。力押しで僕は殺せない。もっと工夫しなくちゃ」
ライゼはまだ余裕の様子だ。
――分かったっしょ、マジでやってやるわ。
トライデントを持ってない方の手で、シェルはライゼの腹に拳を叩きこむが、ライゼは短剣でいとも容易くシェルの拳を防ぎ、笑顔を浮かべたままシェルの顔を見る。
「惜しいね。もっと工夫を」
「なら、これはどうだ。虹の灯篭」
シェルの身体から七色の極光が放たれ、眩さにライゼは目を瞑る。
ライゼが目を瞑るのとほとんど同じタイミングで、シェルはトライデントでライゼの腹を貫いた。
「ぐっ‼」
肉を貫き、内臓を抉る巨大な刃にライゼは呻く。
苦しむライゼにシェルは追い打ちとばかりに掌を向けて虹色の波動を放つが、ライゼは魔神の特性、魔力無効化を発動して波動を掻き消す。
波動が消えるとライゼの腹からトライデントの刃が抜けていて、シェルの姿も消えていた。
「ど、こに―――」
周囲にシェルの姿が無いか確認しようとした時、背後から殺気を感じ取り、ライゼはその場から咄嗟に跳躍した。
その直後、ライゼがいた海底にシェルがトライデントを深々と突き刺したのを見て、ライゼはぞっとする。
「危なかった。そっか、君達人魚って海に気配を溶かす事が出来たんだっけ」
「海と共に生きる人魚ならこれぐらいまじ余裕」
「流石は『七煌の騎士』。さっきは歳がどうとか言っちゃってごめんね。あ、そうだ、一つ聞きたいんだけど良いかな?」
あの娘が
「リーベちゃんが魔法を宝石を宝石に変える理由はなんだい?」
空を見ていた。
見えもしない空を、横たわって眺めていた。
深海から空を眺めても何も見えなくて、見えるのはどこまでも広がる暗闇だけだ。だけどそれは空も同じなんだって、あの人はそう言っていた。
空から海を眺めても、海の底の底にいる私達を見つける事は誰にもできないんだって、あの人はそう言っていた。
だから、空にも届く位の光を私が灯すんだって、あの人はそう言っていた。
どうやって、そんな大きな光をこの暗い海の中に灯すのかと聞いたら、あの人はこう言った。
『星空。海の中に星空を作ればいいんだよ。そしたらきっと、空からでもここを見つけられるでしょ?』
って、疑いもせずそう言って、笑っていたあの人の為に、私は――・・・
「ルベライト、よね・・・」
誰かが名前を呼びながら、私の顔を見てきた。
意識が未だに朦朧としていて、視界が霞んでいる所為で姿はよく見えないが、声からして、ステラ=アルフィリアだろう。
「いくつか聞きたい事があるから、聞かせてもらうわよ」
「・・・なんだ。」
「あんたらの目的は何、どうしてこんな事をするの?」
「さぁな、自分で考えろ」
「そう、じゃあ、あんたらが言う財宝っていうのが、今回の件と関係があるの?」
「さぁな、それも自分で考えろ」
「・・・分かった。じゃあね。」
そう言って、ステラ=アルフィリアはアルジェント=ヴォルフローザに肩を貸して歩き出した。
一体何をしている? 何故、何もしない?
「待て」
なんとか声を絞り出し、ステラ=アルフィリアとアルジェント=ヴォルフローザを引き留める。
「何も、しないのか? トドメを刺すなら、今しかないぞ。今トドメを刺さなければ、私は」
「後悔するって言いたいの?」
「そうだ。動けるようになったら、私はお前達を再び襲うかもしれないぞ」
「あんたにそのつもりがあるなら、そんな事わざわざ言わないでしょう? もしあんたがまた襲ってきても、今度は二人で倒す。それだけよ」
そう言って、ステラ=アルフィリアとアルジェント=ヴォルフローザは去っていった。
団長、私は、負けてしまいました。
許してください、でも、言い訳もさせてください。
私にはあの二人を止める事はできません。
『赤ずきん』と『狼』、お伽話で敵同士の二人が手を組んでいるんです。
そんなの、最強じゃないですかーー・・・
リーベの目的、他のメンバーの居場所、敵の数、気になる事は多くあるが、ステラはまずユナを探しに行く事にした。
アルジェントの傷をユナに治してもらい、それから他のメンバーを探してリーベを倒す。
『幻夢楽曲』は、そのいずれもが強力な魔法であり、その所有者は絶大な強さを誇る。
自分と同じ位の年齢のルナにあれだけ苦しめられたのだ。百余年の戦闘経験値があるリーベを相手にするのなら、自分一人では到底勝てない。
だからアルジェントを治して、それから全員で戦う。
「そうすれば、きっと勝てる」
一刻も早くメンバーを見つけなければ、ステラがそう思っていると、目の前に緑髪の人魚が立ちはだかった。
それは、ステラが打ち倒した海鳴騎士団の騎士見習い、ベリルだった。
「行かせ、ませんよ」
「ベリル・・・」
「あなたは、私が倒します。団長の元へは、行かせません」
立つのもやっとのふらふらの状態で、自身に折れたトライデントの先を向けてきたベリルに、ステラは一歩踏み込む。
「その怪我で、私と戦うつもりですか?」
「えぇ、あなたが邪魔するなら」
「それで私に勝って、その後は団長を倒すつもりですか?」
「そのつもりよ」
「本気で勝てると、思ってるんですか?」
ベリルの問いかけに、ステラはゆっくりと首を横に振る。
「一人じゃ無理でしょうね。でも、私の横にはアルがいる。どこかに皆がいる。皆で戦えば、きっと勝てる」
断固たる確信を持って言ったステラに、ベリルは奥歯を強く噛み、そして
「無理ですよ‼」
声を荒げて叫んだ。
突然の豹変に目を見開くステラをベリルは睨みつけて
「団長は聖騎士を遥かに上回る実力者、騎士の中の騎士、たとえ『幻夢楽曲』の所有者だろうと、『紅瞳』だろうと、敵う相手じゃありません‼ 『魔神の庭』全員で挑んだとしても、為す術無く殺されてしまいますよ‼」
鋭い言葉を投げつけた、そんなベリルを見て、ステラは笑みをこぼす。
「やっぱり、ベリルは優しいわね」
「は? 何言って」
「私達の事を心配してくれてるんでしょ? ありがとね」
「は? ば、馬鹿ですか!? 私は、あなた達を殺そうとしたんですよ‼ そんな相手があなた達の心配なんてすると思いますか!?」
「普通なら、そんな事するとは思えないって言う所なんでしょうね」
でも
「私達はあなたに二度助けられた。私達を殺そうとしたあなたよりも、私達を助けようとしたあなたを、私は信じる」
「なんですか、それ・・・?」
「やっぱり、変かしら?」
変に決まってます。
やっぱり馬鹿ですね。
ふざけるのも大概にしてください。
敵を信じるなんて正気ですか?
口に出す言葉の候補はいくらでも浮かぶのに、そのどれもをベリルは声に出す事が出来ない。なのに
「くっ・・・」
涙は、とめどなく溢れてくる。
それがステラ達を殺そうとした事への罪悪感から来るものなのか、ステラを殺そうとした自分を、それでも信じると、ステラがそう言った事に心を打たれたからなのか、それは分からなかった。
けれど、涙が止まらない。止められない、だから
「もう、いいです。早く、行ってください」
これ以上泣き顔を見られないように下を向いて、早く行く様に促した。
「・・・ありがとう。」
自分の横を通り過ぎて、リーベの元へ歩き出したステラ達をベリルは見過ごした。
一歩、二歩、三歩、ステラ達が自分から遠ざかって行くのを足音で確認して、ベリルは少ししてから顔を上げて
「もしも、もしも、生きてたら‼︎ ちゃんと、ちゃんと謝りますから‼︎ 死んだりしたら、許しませんからね‼」
と、自分でも訳の分からない事を口走ったベリルに、ステラは
「えぇ、分かったわ」
ただそれだけ言って、去っていった。
――ごめんなさい団長、団長の望みを叶える事、できませんでした。
背後から突き刺す機会はいくらでもあった。今だって、戦おうと思えばステラなら殺せたかもしれない。
けれど、そうしなかったのは、それができなかったのは、情が移ったからか、ステラの言葉が原因か、そのどちらか、それ以外の理由があるのか、それはベリルにも分からない。ただ一つだけ言えるのは
「私には、あの人達を殺す事は、もう、できません・・・‼︎」
自分はもう、『魔神の庭』に刃を向ける事ができないという事、ただそれだけだ。
「けほっ・・・」
咳をするのが聞こえた。
聞き覚えのある声で、何度も耳にした声で、その声の主は咳をしてから次に、ステラと自分を担ぐ少女の名前を呼び、名前を呼ばれた少女は、自分の名を呼んだ青年の方を勢いよく振り向いた。
「アル‼ 声、喉は大丈夫なの!?」
「う、うん。あまり大きな声は出せないけど、喋れる程度には、回復した。心配してくれて、ありがとね。自分で歩ける、から肩を貸さなくても、大丈夫、だよ」
「駄目。しばらく私の肩借りてなさい」
「いや、でも」
「いいから言う通りにしなさい。」
凄まじい迫力を含んだ声で言われ、アルジェントは閉口する。
「あんたはいつも頑張ってるんだから、こういう時位、ていうか、普段からもっと周りを、私を頼りなさい。頼りないかもしれないけど、頑張ってあんたの力になるから」
「・・・うん、ありがとう。」
「さて、皆を探したい所だけど、どこを探しましょうか」
深海都市『エクラン』は広い。
海域一つが都市の規模だというのだから、それ程広大な土地で他のメンバーを探すのは骨が折れる。
だが、手掛かりが全くない訳ではない。
「皆が僕達と同じように敵と戦っていたとしたら、戦闘の跡が残っている筈だ。そこを中心に探す範囲を徐々に広げていけば」
「皆も見つかるかもしれない、そうゆう事ね。じゃあ、戦いの跡があった場所を探しに」
その時、遠くの方から二つの影が猛スピードで飛んでくるのが見えた。
それらが何なのかを確認する前に、二つの影はアルジェントの頭部に激突し、アルジェントはその場に倒れた。
「ア、アルゥウウゥウウウ‼」
思わぬアクシデントで倒れたアルジェントを揺すって、ステラはその名を叫ぶ。
すると、飛んできた影、その内一つがむくりと立ち上がってらアルジェントに飛びついた。
それは、掌から緑の光を放ちアルジェントにかざす小人だった。
「ユナ‼」
『魔神の庭』唯一の回復魔法の使い手、探していたメンバーに出会えた事にステラはホッとするが、ユナの表情は焦燥に染まっていた。一体どうしたのか、ステラが聞こうとすると
「ごめんなさい」
誰かが何かを言うより早く、ユナは謝罪をして唇を噛んだ。
それだけで、何があったのか、大体の事情をステラとアルジェントは察した、分かってしまった。そして、その想像は
「他のメンバーが、リーベに捕まった」
最悪の想像は、見事に的中していた。間を置いてから事の顛末をユナは述べ始める。
ライゼとステラ達以外のメンバーが合流した所にリーベが現れ、一網打尽にされて捕らえられてしまった事、リーベの目的が魔導士の魔法を宝石に変えて集める事、メンバーの現状と敵の目的を告げられ、そして
「ごめんなさい。私が、全員の傷をすぐに治していれば、こんな事には・・・っ‼」
唇を噛んで、血を流し、俯きながら叫ぶユナの姿に二人は何も、慰める事も、責める事も出来ない。
全員を回復する事が、全快に戻す事が出来たユナが、ほぼ何もできずにメンバーが捕らわれてしまったのだ。その悔しさは計り知れない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ」
「諦めるのはまだ早い」
「アル?」
ユナの声を遮ったアルジェントに、ステラが振り向くと、治療が終わり全快したアルジェントが立ち上がる。
「人の魔法を宝石に変える魔法に、『愚かな願い事』という魔法がある。リーベが魔法を宝石に変える時に使う魔法はおそらくそれだろう」
「それって」
「ユナ様は知っているでしょう。私がかつて戦った『ハーメルン事件』の首謀者であるファラーシャ=コロルが使っていた魔法の一つです」
『ハーメルン事件』にファラーシャ=コロル、聞いた事が無い事件と名前にステラは困惑するが、アルジェントは無視して進める。
「『愚かな願い事』はファラーシャが生み出した奴オリジナルの魔法で、唯一無二の魔力を宝石に変える魔法だと言われている。奴を信仰する魔術教団や魔術師もこの魔法を会得しようとしたが、それは誰一人できなかった」
「どうして?」
「奴オリジナルの魔法だから術式が分からなかったんだ。それを抜きにしても魔力物質化、他者の魔力への干渉、物質化した魔力の維持、この魔法には多くの技術が求められるからね」
「じゃあ、なんでそれをリーベが使えるの?」
「ファラーシャが『エクラン』に訪れた記録が文献に残ってる。おそらくその際に『愚かな願い事』がリーベに伝わったんだろう。だが、さっきも言った様に『愚かな願い事』は術式が複雑かつ高難易度の技術が多数求められる。ファラーシャ以外の者が発動しようとすれば相当の時間が掛かる。彼女が捕らえたメンバーは五人、全員の魔法を宝石に変えるのには数日以上掛かるだろう。そして、それだけ複雑な魔法を使う際は途中で邪魔されると術式を一から構築しなければいけなくなるから」
「リーベが私達の魔法を宝石に変えるのは、私達を倒した後って事?」
そういう事、とアルジェントは頷く。
「つまり、僕達がやるべき事はリーベを見つけ出して倒す事、なんだけ、ど」
後半になるにつれてアルジェントは声を小さくし、ユナの隣をちらりと見て
「あの、ユナ様、それ、なんですか?」
「え?」
アルジェントに問われ、ユナが横を見てみると、青いボールに粒の様な黒い目を落書きして、ヒレをくっつけた、子供の工作の様な見た目をした生物がいた。
「あ、あなたは‼」
「ステラ、知ってるのかい?」
「えぇ、皆で遊んだ時と、マリと海を見た時に見たわ。なんでこんな所に・・・・」
ステラが謎の生物に触れようとしたその時、世界が光で包まれた。
「うわっ、何⁉︎」
「眩しっ・・・‼」
薄目を開けて外界の状況を確認するが、数十秒経っても光は消えない。
少しずつ光は弱まっていき、やがて目を開けられる様になると、世界は文字通り一変していた。
「何、これ・・・・」
暗い深海が、一瞬で七色の星空へと変わった。
青を黒で塗りつぶした海の色が、虹色に変わり、辺りに無数の星が浮かぶ幻想的な景色にステラは一瞬息をする事を忘れて、それからある事に気付く。
「ねぇ、あれ、あの星って」
「宝石?」
海に浮かぶ星の正体が、色とりどりの宝石である事に。
その宝石は天然のものではなく、リーベが魔導士から奪った魔法でできている宝石だ。
「これだけの数の魔導士の魔法が、宝石に変えられたっていうの?」
犠牲になったであろう魔導士の数に、ステラは驚きと憤りを覚える。
――こんな宝石の為に、沢山の魔導士を・・・‼
拳を強く握るステラの足に、ボールの様な生物が軽く体当たりをする。
「あっ、えっと、どうしたの?」
下を向いてボールの様な生物と目を合わせると、ボールの様な生物はヒレで何かを指し示していた。
ボールの様な生物が指し示す方を見ても何も無い、ただひたすら道が続いていて
「もしかして、進めって事?」
「―――ー」
「進んだら、何かあるの?」
「――――」
ボールの様な何度も頷く様な動作を見せた。だから、ステラは
「・・・この子が指し示す方に向かいましょう」
ボールの様な生物を信じる事にした。その判断にアルジェントが
「ステラ、本気かい? そんな得体の知れない生物を信じるなんて、とてもじゃないけど」
と異を唱えるが、ユナが
「言い忘れてたけど私がリーベから逃げる事が出来たのは、そのボールのお陰よ」
先程飛んできた経緯の補足をする。
それを聞いて驚いたアルジェントを見ながら、ユナはボールの様な生物を撫でて
「こいつが何か企んでるとは思えないし、信じてもいいんじゃない?」
「私もそう思うわ。もし『海鳴騎士団』と関係があるなら、ユナを助けたりしないと思うし、リーベがどこにいるかも分からない。もしかしたら、この子が何かの手掛かりかもしれない。」
「確かに、それもそうだね。じゃあ、そのボールちゃんを信じて行こう。その先にリーベがいるかもしれない」
「えぇ、行きましょう」
そして、ステラ達はボールの様な生物の指し示す方向に歩き出した。
リーベを倒し仲間を助ける為に。
いつもの日常に戻って皆でまた笑い合う為に。
戦いに決着を着ける為に歩き出して、すぐにステラは立ち止まった。
「ステラ、どうしたの?」
「そのボールみたいな生き物、名前無いと不便だなって思って」
「そんな事? とりあえずボールちゃんで良いんじゃない?」
ユナが適当に出した名前に、ステラはう~んと腕を組んで唸ってから、はっと目を見開いて
「ブルーハワイなんてどう!? 海っぽくてよくない!?」
と、名案とばかりとに叫ぶ。そんなステラの肩をアルジェントはぽんと叩いて
「とりあえず、行こっか」
そう言うとステラは我に返って冷静になり、小さく咳払いをする。それから何事も無かったかの様に前を向いて
「そうね、今度こそ行きましょう」
少し照れ臭そうに言って、再び歩き出した。
「あーくそ、歩く度にあちこち痛ぇ。リリィは平気か?」
「うん、平気だよー。ユナちゃんの所に行ったら治してもらわなきゃね」
そう言って歩いていると、向こうの方から三つの人影が走ってくるのが見えた。
青年と少女と小さな影、それらの影は見覚えのある影だった。
少しずつ近くなって鮮明になった影は
「おーい、あんた達ーー‼ 大丈夫――!?」
「ユナちゃん‼ マリちゃん‼ ローザ君‼」
探していた仲間たちだった。
よかったと、緊張の糸が切れて崩れ落ちるリリィにユナは飛び寄って、緑色の光をかざし、『残英の対舞曲』による治療を開始する。
「皆が見つかってよかったぁ。大丈夫だった?」
「大丈夫にした、の間違いかしら。マリと私は大丈夫だったけど、そこのナヨっちいのが重傷だったわ」
ジト目で自分に振り向いてきたユナにローザは頭を掻きながら苦笑する。
ユナに傷を治してもらい全回復した様だが、所々服が破れていたり、シャツに血が沁みている。
おそらく凄まじい戦いだったのだろうと、ローザを見てリオが思っていると
「リオ君、どうかした?」
と聞いてきた。だからリオは首を横に振って
「いいや、生きててよかった。そう思っただけだ」
とそれだけ言った。すると、ユナが小さく咳払いをして
「安心してもらってる所悪いけど、まだ全員が見つかった訳じゃないって事を忘れないでくれる?」
問題が解決していない事を告げた。
ユナの言う通り、ここにいるメンバーが全員ではない。
まだ、ステラ、アルジェント、ライゼが見つかっていないのだ。
ライゼは心配しなくても大丈夫だろうが、ステラとアルジェントの近くにはベリルがいる。
背後からの不意打ちや、仲間を呼ばれ数の暴力で殴られる事も考えられる。早急に見つけて助けにいかなければ危険だ。それに
「『幻夢楽曲』所有者の『人魚姫』は、おそらく奴らの団長。どんな能力かは分からない上に、地の利があっちにある以上、全員で固まらなきゃ危険よ」
「じゃあ、私達はステラちゃん、アルジェントさん、ライゼさんを探しに行けばいいんだね?」
杖を握って気合を入れるマリにユナは頷いて
「えぇ、まずはステラとアルジェントを探しましょう。ライゼはその次よ。ところで、この中で誰かライゼを見なかったかしら?」
それから全員の顔を見回しながら問うと、ライゼならとリオが
「俺とリリィが敵と戦ってる所に現れて、シェルって奴に吹き飛ばされてどっかに行っちまった」
シェルという名に眉をひそめるユナに、リリィがそういえば、と
「エンジェライトが『海鳴騎士団』先代団長って言ってたよ」
何気なく言った言葉に、ユナが目を見開き、ローザの顔が青ざめる。
何かマズい事を言ったのかとリリィが首を傾けると、ローザが
「リ、リリィちゃん。その人、髪の色派手だった?」
「うん、凄く派手だった」
「やっぱり本物だ。『七煌の騎士』シェル=メールだ」
「その人って有名なの?」
「超有名人だよ。『七煌の騎士』シェル=メール、かつて起きた内戦で人間やその他の種族にも大きな被害を与え、『魔王軍』と並ぶ人類の脅威と言われた男だよ」
ローザの説明に、へーと分かってるのか分かってないのか曖昧な反応を見せるリリィ。
そんなリリィに、ローザはまぁ、とにかく、と。
「凄く強い人だよ。マスター大丈夫かなぁ」
「大丈夫でしょ。それよりステラ達を」
捜さないととユナが言おうとした時、ローザの胸にトライデントが突き刺さった。
突然の事に誰もが何も言えず、動く事もできず、血を吐いてローザが片膝を地面に着いた。
それから一瞬で状況を理解したユナがローザを治療しようとするが
「させないよ☆」
その場にいなかった者の声が聞こえると共に、水でできた縄に身体を縛られ海底に押し付けられる。
その一秒後、他のメンバーも縛られて海底に身体を押し付けられ、どこからか拍手の音が聞こえてきた。
「やったぁ♡ 久しぶりだけど上手くできたぁ☀︎」
子供の様に無邪気に喜ぶ声が聞こえて、全員が声がした方を向くと、そこには満面の笑みを浮かべて手を合わせる宝石の様な美女、リーベ=メールがいた。
その場にいる全員の視線が自分に向いた事に気付くと、リーベは、あっと呟いてから顔を手で覆い隠す。
「バレちゃった、どうしよう➰」
「てめぇか、あの騎士共の親玉は。てめぇの部下がいきなり人を襲ってきた事に抗議してやろうと思ったが、人をいきなり縛って這いつくばらせるあたり、部下の人間性よりも、上司の性格に問題がありそうだな」
自身を睨みつけながら言うリオに、リーベは自分の頭をコツンと叩いて
「ごめんねー。それが計画だからー㊙︎ 謝るから許してくれる?」
「許さねぇよ。こっちにはてめぇの部下の所為で死にかけた奴もいるんだ。一発ぶん殴らなきゃ気が済まねぇ」
敵意を剥き出しにして言うリオに、リーベは小さく笑う。
リオは目を鋭くするが、リーベは意に介さずその場でくるくると回りながら
「そうやってやる気があるのはいい事だと思うけどぉ。それができるだけの体力はあるのぉ?」
「あるよ」
リオ、ではなくリリィが答える。
リリィは水の束縛を無理矢理解くと、竜化してリーベに飛びかかって拳を繰り出す。
リリィが繰り出した拳はリーベには直撃しなかったものの、その頬を掠め、リーベの頬に切り傷が生じる。
「わぁ、凄い⬆︎」
感心して目を大きく見開くリーベに、リリィは更に拳を繰り出すが、そのいずれもをリーベは身を翻して躱す。
中々攻撃が当たらない事にリリィが苛立ちを覚えていると、懐にリーベが入り込み、がら空きの腹に勢い良く掌底を叩き込んだ。
「かっ――‼」
短い呻き声と共に血を吐き出したリリィの顔に、リーベはすかさず裏拳を叩きこみリリィを吹き飛ばした。
無防備な頭部に強い衝撃が加わり、脳が揺らされ、三半規管にも影響が及び、倒れて立つ事すらできなくなったリリィにリーベは近付くと、リリィの胸に手をかざして、掌から青色の光を放つ。
すると、次の瞬間、木の枝が折れる様な乾いた音が鳴り響いた
「ぐ、うあぁああああ‼」
「リリィ‼」
悲鳴を上げるリリィの名をリオが叫ぶと、リーベはふぅと息を吐く。
「これでよしっと◯」
「てめぇ‼ リリィに何しやがったぁ‼」
「この子の胸の周りの水圧を強くして肋骨を折った✖︎ それだけだよ。」
悪びれず、自分のした事を説明するリーベに、リオは憎悪を燃やして立ち上がってリーベに飛びかかろうとするが、リーベが指先を下に向けると、身体を海底に押し付けられてしまう。
「無駄だよ。君達を縛ってる水の縄は、重さも硬さも私の思うがまま。縛る事ができた時点で私の勝ち」
「てめぇ・・・」
「うふふふふ~。じゃ、行こっか。あなた達の魔法も、宝石にしてあげる♡」
この世には、どうしても気に入らない相手というものが必ず一人はいる。
容姿が気に入らない、性格が気に入らない、態度が気に入らない、あるいはそれら以外の理由で気に入らない、なんらかの要素が癇に障る、そんな相手が必ずいる。
もしも、そういう相手と喧嘩したり戦ったりする場合
「はぁ~っあ、面倒臭いなぁ・・・」
などと言って目の前で寝転がれでもしようものなら、腹が立つのは必然である。
シェルに吹き飛ばされ、リオとリリィがエンジェライトとアンデシンと戦っていた場所から離れた場所に移動したライゼは、シェルの前でふて寝していた。
「はぁ~あ、最悪・・・」
「おい」
「なんであの時・・・」
「おい」
「本当無いわぁ、シェル君無いわぁ・・・」
「おいって言ってんだろうが‼」
ダルそうにするライゼにシェルが怒鳴ると、ライゼはようやく反応する。
「なぁ~にぃ~シェル君、僕今やる気ないから帰ってくんない?」
「は?」
「君があの時邪魔した所為で、僕がリオ君とリリィちゃんをかっこよーく助けて、二人からちやほやされて、なんやかんやで他のメンバーからもちやほやされる計画が台無しになったんだよ? 君が僕を吹き飛ばした所為で、リオ君とリリィちゃんとは離れ離れ、あの二人なら自分達で敵をなんとかするだろうから僕の活躍は無し。本当、君って最悪だよねー」
はぁ、と溜息を吐くライゼに、シェルは苛立ちを募らせる。
――これだ、こいつのこういう所が気に食わない。
一切動く様子の無いライゼの腕を掴んでシェルは持ち上げる、しかし、それでもライゼは動く様子が無い。
「なぁーに? 僕戦う気無いんだけど」
「いいや、関係無い。お前に戦う気が無くても俺はお前をフルボッコにするぞ」
「あぁ、そう。それは恐い」
欠伸をしながらそう言うと、ライゼはシェルの腕を振り解いて短剣を錬成し、切っ先をシェルに突き付ける。
「フルボッコは嫌だから、少しだけやる気出そうかな」
「少しだけ、か・・・そうやって相手を舐めてる所が気に入らんな」
「そっか」
ライゼは笑顔でそう言うと、シェルに短剣による刺突を放つ。
シェルは刺突を回避しようとはせず、ライゼをトライデントで薙ぎ払おうとするが、ライゼは短剣の軌道を変えて、トライデントを易々と受け止める。
短い得物でトライデントを受け止められ、シェルは一瞬驚きで硬直する。その一瞬の隙に
「それっ‼︎」
ライゼはシェルの鳩尾に蹴りを入れ、シェルを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたシェルは、体勢を立て直し反撃をしなければと考えるが、それとほぼ同時に背後から悪寒が走り、振り向くと、刃が顔に迫っていた。
自身の顔に迫る刃をシェルは顔を動かして躱し、後ろに飛んでライゼとの距離を取る。
「へぇ」
冷笑を浮かべるライゼにシェルは突きを放つが、ライゼはそれをトライデントよりも小さく、脆い短剣の切っ先で受け止める。
精密な動作と武器の扱い、ミリ単位の緻密な力加減があって初めて可能な業。ライゼはそれをいとも容易くやってみせる。
「さっきの反応は凄く良かった。力も衰えてない。けど、動きが大雑把になってる。歳は取りたくないものだね」
「おま、まじ鬼ウザだわ。ガチめにぶっ殺す」
「うん。やってみな。僕死なないから」
次の刹那、シェルがライゼの頭部にトライデントを振り下ろし、ライゼがそれを短剣で受け止め、ライゼの両足が海底にめり込んだ。
しかし、海底に両足がめり込む程の重圧をかけられてもライゼの表情は一切崩れる事は無く
「なんだ、この程度か」
と挑発さえしてみせた。
シェルは腕に力を入れてライゼを押し潰そうとするが
「無駄だよ。力押しで僕は殺せない。もっと工夫しなくちゃ」
ライゼはまだ余裕の様子だ。
――分かったっしょ、マジでやってやるわ。
トライデントを持ってない方の手で、シェルはライゼの腹に拳を叩きこむが、ライゼは短剣でいとも容易くシェルの拳を防ぎ、笑顔を浮かべたままシェルの顔を見る。
「惜しいね。もっと工夫を」
「なら、これはどうだ。虹の灯篭」
シェルの身体から七色の極光が放たれ、眩さにライゼは目を瞑る。
ライゼが目を瞑るのとほとんど同じタイミングで、シェルはトライデントでライゼの腹を貫いた。
「ぐっ‼」
肉を貫き、内臓を抉る巨大な刃にライゼは呻く。
苦しむライゼにシェルは追い打ちとばかりに掌を向けて虹色の波動を放つが、ライゼは魔神の特性、魔力無効化を発動して波動を掻き消す。
波動が消えるとライゼの腹からトライデントの刃が抜けていて、シェルの姿も消えていた。
「ど、こに―――」
周囲にシェルの姿が無いか確認しようとした時、背後から殺気を感じ取り、ライゼはその場から咄嗟に跳躍した。
その直後、ライゼがいた海底にシェルがトライデントを深々と突き刺したのを見て、ライゼはぞっとする。
「危なかった。そっか、君達人魚って海に気配を溶かす事が出来たんだっけ」
「海と共に生きる人魚ならこれぐらいまじ余裕」
「流石は『七煌の騎士』。さっきは歳がどうとか言っちゃってごめんね。あ、そうだ、一つ聞きたいんだけど良いかな?」
あの娘が
「リーベちゃんが魔法を宝石を宝石に変える理由はなんだい?」
空を見ていた。
見えもしない空を、横たわって眺めていた。
深海から空を眺めても何も見えなくて、見えるのはどこまでも広がる暗闇だけだ。だけどそれは空も同じなんだって、あの人はそう言っていた。
空から海を眺めても、海の底の底にいる私達を見つける事は誰にもできないんだって、あの人はそう言っていた。
だから、空にも届く位の光を私が灯すんだって、あの人はそう言っていた。
どうやって、そんな大きな光をこの暗い海の中に灯すのかと聞いたら、あの人はこう言った。
『星空。海の中に星空を作ればいいんだよ。そしたらきっと、空からでもここを見つけられるでしょ?』
って、疑いもせずそう言って、笑っていたあの人の為に、私は――・・・
「ルベライト、よね・・・」
誰かが名前を呼びながら、私の顔を見てきた。
意識が未だに朦朧としていて、視界が霞んでいる所為で姿はよく見えないが、声からして、ステラ=アルフィリアだろう。
「いくつか聞きたい事があるから、聞かせてもらうわよ」
「・・・なんだ。」
「あんたらの目的は何、どうしてこんな事をするの?」
「さぁな、自分で考えろ」
「そう、じゃあ、あんたらが言う財宝っていうのが、今回の件と関係があるの?」
「さぁな、それも自分で考えろ」
「・・・分かった。じゃあね。」
そう言って、ステラ=アルフィリアはアルジェント=ヴォルフローザに肩を貸して歩き出した。
一体何をしている? 何故、何もしない?
「待て」
なんとか声を絞り出し、ステラ=アルフィリアとアルジェント=ヴォルフローザを引き留める。
「何も、しないのか? トドメを刺すなら、今しかないぞ。今トドメを刺さなければ、私は」
「後悔するって言いたいの?」
「そうだ。動けるようになったら、私はお前達を再び襲うかもしれないぞ」
「あんたにそのつもりがあるなら、そんな事わざわざ言わないでしょう? もしあんたがまた襲ってきても、今度は二人で倒す。それだけよ」
そう言って、ステラ=アルフィリアとアルジェント=ヴォルフローザは去っていった。
団長、私は、負けてしまいました。
許してください、でも、言い訳もさせてください。
私にはあの二人を止める事はできません。
『赤ずきん』と『狼』、お伽話で敵同士の二人が手を組んでいるんです。
そんなの、最強じゃないですかーー・・・
リーベの目的、他のメンバーの居場所、敵の数、気になる事は多くあるが、ステラはまずユナを探しに行く事にした。
アルジェントの傷をユナに治してもらい、それから他のメンバーを探してリーベを倒す。
『幻夢楽曲』は、そのいずれもが強力な魔法であり、その所有者は絶大な強さを誇る。
自分と同じ位の年齢のルナにあれだけ苦しめられたのだ。百余年の戦闘経験値があるリーベを相手にするのなら、自分一人では到底勝てない。
だからアルジェントを治して、それから全員で戦う。
「そうすれば、きっと勝てる」
一刻も早くメンバーを見つけなければ、ステラがそう思っていると、目の前に緑髪の人魚が立ちはだかった。
それは、ステラが打ち倒した海鳴騎士団の騎士見習い、ベリルだった。
「行かせ、ませんよ」
「ベリル・・・」
「あなたは、私が倒します。団長の元へは、行かせません」
立つのもやっとのふらふらの状態で、自身に折れたトライデントの先を向けてきたベリルに、ステラは一歩踏み込む。
「その怪我で、私と戦うつもりですか?」
「えぇ、あなたが邪魔するなら」
「それで私に勝って、その後は団長を倒すつもりですか?」
「そのつもりよ」
「本気で勝てると、思ってるんですか?」
ベリルの問いかけに、ステラはゆっくりと首を横に振る。
「一人じゃ無理でしょうね。でも、私の横にはアルがいる。どこかに皆がいる。皆で戦えば、きっと勝てる」
断固たる確信を持って言ったステラに、ベリルは奥歯を強く噛み、そして
「無理ですよ‼」
声を荒げて叫んだ。
突然の豹変に目を見開くステラをベリルは睨みつけて
「団長は聖騎士を遥かに上回る実力者、騎士の中の騎士、たとえ『幻夢楽曲』の所有者だろうと、『紅瞳』だろうと、敵う相手じゃありません‼ 『魔神の庭』全員で挑んだとしても、為す術無く殺されてしまいますよ‼」
鋭い言葉を投げつけた、そんなベリルを見て、ステラは笑みをこぼす。
「やっぱり、ベリルは優しいわね」
「は? 何言って」
「私達の事を心配してくれてるんでしょ? ありがとね」
「は? ば、馬鹿ですか!? 私は、あなた達を殺そうとしたんですよ‼ そんな相手があなた達の心配なんてすると思いますか!?」
「普通なら、そんな事するとは思えないって言う所なんでしょうね」
でも
「私達はあなたに二度助けられた。私達を殺そうとしたあなたよりも、私達を助けようとしたあなたを、私は信じる」
「なんですか、それ・・・?」
「やっぱり、変かしら?」
変に決まってます。
やっぱり馬鹿ですね。
ふざけるのも大概にしてください。
敵を信じるなんて正気ですか?
口に出す言葉の候補はいくらでも浮かぶのに、そのどれもをベリルは声に出す事が出来ない。なのに
「くっ・・・」
涙は、とめどなく溢れてくる。
それがステラ達を殺そうとした事への罪悪感から来るものなのか、ステラを殺そうとした自分を、それでも信じると、ステラがそう言った事に心を打たれたからなのか、それは分からなかった。
けれど、涙が止まらない。止められない、だから
「もう、いいです。早く、行ってください」
これ以上泣き顔を見られないように下を向いて、早く行く様に促した。
「・・・ありがとう。」
自分の横を通り過ぎて、リーベの元へ歩き出したステラ達をベリルは見過ごした。
一歩、二歩、三歩、ステラ達が自分から遠ざかって行くのを足音で確認して、ベリルは少ししてから顔を上げて
「もしも、もしも、生きてたら‼︎ ちゃんと、ちゃんと謝りますから‼︎ 死んだりしたら、許しませんからね‼」
と、自分でも訳の分からない事を口走ったベリルに、ステラは
「えぇ、分かったわ」
ただそれだけ言って、去っていった。
――ごめんなさい団長、団長の望みを叶える事、できませんでした。
背後から突き刺す機会はいくらでもあった。今だって、戦おうと思えばステラなら殺せたかもしれない。
けれど、そうしなかったのは、それができなかったのは、情が移ったからか、ステラの言葉が原因か、そのどちらか、それ以外の理由があるのか、それはベリルにも分からない。ただ一つだけ言えるのは
「私には、あの人達を殺す事は、もう、できません・・・‼︎」
自分はもう、『魔神の庭』に刃を向ける事ができないという事、ただそれだけだ。
「けほっ・・・」
咳をするのが聞こえた。
聞き覚えのある声で、何度も耳にした声で、その声の主は咳をしてから次に、ステラと自分を担ぐ少女の名前を呼び、名前を呼ばれた少女は、自分の名を呼んだ青年の方を勢いよく振り向いた。
「アル‼ 声、喉は大丈夫なの!?」
「う、うん。あまり大きな声は出せないけど、喋れる程度には、回復した。心配してくれて、ありがとね。自分で歩ける、から肩を貸さなくても、大丈夫、だよ」
「駄目。しばらく私の肩借りてなさい」
「いや、でも」
「いいから言う通りにしなさい。」
凄まじい迫力を含んだ声で言われ、アルジェントは閉口する。
「あんたはいつも頑張ってるんだから、こういう時位、ていうか、普段からもっと周りを、私を頼りなさい。頼りないかもしれないけど、頑張ってあんたの力になるから」
「・・・うん、ありがとう。」
「さて、皆を探したい所だけど、どこを探しましょうか」
深海都市『エクラン』は広い。
海域一つが都市の規模だというのだから、それ程広大な土地で他のメンバーを探すのは骨が折れる。
だが、手掛かりが全くない訳ではない。
「皆が僕達と同じように敵と戦っていたとしたら、戦闘の跡が残っている筈だ。そこを中心に探す範囲を徐々に広げていけば」
「皆も見つかるかもしれない、そうゆう事ね。じゃあ、戦いの跡があった場所を探しに」
その時、遠くの方から二つの影が猛スピードで飛んでくるのが見えた。
それらが何なのかを確認する前に、二つの影はアルジェントの頭部に激突し、アルジェントはその場に倒れた。
「ア、アルゥウウゥウウウ‼」
思わぬアクシデントで倒れたアルジェントを揺すって、ステラはその名を叫ぶ。
すると、飛んできた影、その内一つがむくりと立ち上がってらアルジェントに飛びついた。
それは、掌から緑の光を放ちアルジェントにかざす小人だった。
「ユナ‼」
『魔神の庭』唯一の回復魔法の使い手、探していたメンバーに出会えた事にステラはホッとするが、ユナの表情は焦燥に染まっていた。一体どうしたのか、ステラが聞こうとすると
「ごめんなさい」
誰かが何かを言うより早く、ユナは謝罪をして唇を噛んだ。
それだけで、何があったのか、大体の事情をステラとアルジェントは察した、分かってしまった。そして、その想像は
「他のメンバーが、リーベに捕まった」
最悪の想像は、見事に的中していた。間を置いてから事の顛末をユナは述べ始める。
ライゼとステラ達以外のメンバーが合流した所にリーベが現れ、一網打尽にされて捕らえられてしまった事、リーベの目的が魔導士の魔法を宝石に変えて集める事、メンバーの現状と敵の目的を告げられ、そして
「ごめんなさい。私が、全員の傷をすぐに治していれば、こんな事には・・・っ‼」
唇を噛んで、血を流し、俯きながら叫ぶユナの姿に二人は何も、慰める事も、責める事も出来ない。
全員を回復する事が、全快に戻す事が出来たユナが、ほぼ何もできずにメンバーが捕らわれてしまったのだ。その悔しさは計り知れない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ」
「諦めるのはまだ早い」
「アル?」
ユナの声を遮ったアルジェントに、ステラが振り向くと、治療が終わり全快したアルジェントが立ち上がる。
「人の魔法を宝石に変える魔法に、『愚かな願い事』という魔法がある。リーベが魔法を宝石に変える時に使う魔法はおそらくそれだろう」
「それって」
「ユナ様は知っているでしょう。私がかつて戦った『ハーメルン事件』の首謀者であるファラーシャ=コロルが使っていた魔法の一つです」
『ハーメルン事件』にファラーシャ=コロル、聞いた事が無い事件と名前にステラは困惑するが、アルジェントは無視して進める。
「『愚かな願い事』はファラーシャが生み出した奴オリジナルの魔法で、唯一無二の魔力を宝石に変える魔法だと言われている。奴を信仰する魔術教団や魔術師もこの魔法を会得しようとしたが、それは誰一人できなかった」
「どうして?」
「奴オリジナルの魔法だから術式が分からなかったんだ。それを抜きにしても魔力物質化、他者の魔力への干渉、物質化した魔力の維持、この魔法には多くの技術が求められるからね」
「じゃあ、なんでそれをリーベが使えるの?」
「ファラーシャが『エクラン』に訪れた記録が文献に残ってる。おそらくその際に『愚かな願い事』がリーベに伝わったんだろう。だが、さっきも言った様に『愚かな願い事』は術式が複雑かつ高難易度の技術が多数求められる。ファラーシャ以外の者が発動しようとすれば相当の時間が掛かる。彼女が捕らえたメンバーは五人、全員の魔法を宝石に変えるのには数日以上掛かるだろう。そして、それだけ複雑な魔法を使う際は途中で邪魔されると術式を一から構築しなければいけなくなるから」
「リーベが私達の魔法を宝石に変えるのは、私達を倒した後って事?」
そういう事、とアルジェントは頷く。
「つまり、僕達がやるべき事はリーベを見つけ出して倒す事、なんだけ、ど」
後半になるにつれてアルジェントは声を小さくし、ユナの隣をちらりと見て
「あの、ユナ様、それ、なんですか?」
「え?」
アルジェントに問われ、ユナが横を見てみると、青いボールに粒の様な黒い目を落書きして、ヒレをくっつけた、子供の工作の様な見た目をした生物がいた。
「あ、あなたは‼」
「ステラ、知ってるのかい?」
「えぇ、皆で遊んだ時と、マリと海を見た時に見たわ。なんでこんな所に・・・・」
ステラが謎の生物に触れようとしたその時、世界が光で包まれた。
「うわっ、何⁉︎」
「眩しっ・・・‼」
薄目を開けて外界の状況を確認するが、数十秒経っても光は消えない。
少しずつ光は弱まっていき、やがて目を開けられる様になると、世界は文字通り一変していた。
「何、これ・・・・」
暗い深海が、一瞬で七色の星空へと変わった。
青を黒で塗りつぶした海の色が、虹色に変わり、辺りに無数の星が浮かぶ幻想的な景色にステラは一瞬息をする事を忘れて、それからある事に気付く。
「ねぇ、あれ、あの星って」
「宝石?」
海に浮かぶ星の正体が、色とりどりの宝石である事に。
その宝石は天然のものではなく、リーベが魔導士から奪った魔法でできている宝石だ。
「これだけの数の魔導士の魔法が、宝石に変えられたっていうの?」
犠牲になったであろう魔導士の数に、ステラは驚きと憤りを覚える。
――こんな宝石の為に、沢山の魔導士を・・・‼
拳を強く握るステラの足に、ボールの様な生物が軽く体当たりをする。
「あっ、えっと、どうしたの?」
下を向いてボールの様な生物と目を合わせると、ボールの様な生物はヒレで何かを指し示していた。
ボールの様な生物が指し示す方を見ても何も無い、ただひたすら道が続いていて
「もしかして、進めって事?」
「―――ー」
「進んだら、何かあるの?」
「――――」
ボールの様な何度も頷く様な動作を見せた。だから、ステラは
「・・・この子が指し示す方に向かいましょう」
ボールの様な生物を信じる事にした。その判断にアルジェントが
「ステラ、本気かい? そんな得体の知れない生物を信じるなんて、とてもじゃないけど」
と異を唱えるが、ユナが
「言い忘れてたけど私がリーベから逃げる事が出来たのは、そのボールのお陰よ」
先程飛んできた経緯の補足をする。
それを聞いて驚いたアルジェントを見ながら、ユナはボールの様な生物を撫でて
「こいつが何か企んでるとは思えないし、信じてもいいんじゃない?」
「私もそう思うわ。もし『海鳴騎士団』と関係があるなら、ユナを助けたりしないと思うし、リーベがどこにいるかも分からない。もしかしたら、この子が何かの手掛かりかもしれない。」
「確かに、それもそうだね。じゃあ、そのボールちゃんを信じて行こう。その先にリーベがいるかもしれない」
「えぇ、行きましょう」
そして、ステラ達はボールの様な生物の指し示す方向に歩き出した。
リーベを倒し仲間を助ける為に。
いつもの日常に戻って皆でまた笑い合う為に。
戦いに決着を着ける為に歩き出して、すぐにステラは立ち止まった。
「ステラ、どうしたの?」
「そのボールみたいな生き物、名前無いと不便だなって思って」
「そんな事? とりあえずボールちゃんで良いんじゃない?」
ユナが適当に出した名前に、ステラはう~んと腕を組んで唸ってから、はっと目を見開いて
「ブルーハワイなんてどう!? 海っぽくてよくない!?」
と、名案とばかりとに叫ぶ。そんなステラの肩をアルジェントはぽんと叩いて
「とりあえず、行こっか」
そう言うとステラは我に返って冷静になり、小さく咳払いをする。それから何事も無かったかの様に前を向いて
「そうね、今度こそ行きましょう」
少し照れ臭そうに言って、再び歩き出した。
応援ありがとうございます!
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