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第一章 祈望の芽吹き

第十一話 それでも助けたいと思った

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「やはり、ここにいたか……」

 階段から下りてきたのは、ローブの所々を血に染めた鬼面の男だった。

 どうしてここにいる?
 友恵とカリンカはどうなった?
 生体認証とパスワードの確認が無ければ扉は開かないのではなかったのか?

 その姿を見た途端に、様々な疑問が浮かび上がってきた千澄だったが

「――ぶった斬り壊す」

 それらの疑問は一旦隅に置き、即座にマーガレットに変身。
 直後、爆発的な踏み込みで鬼面の男との距離を一気にゼロにし、その首目掛けて鋏を振るった。
 振るわれた斬撃は、赤津の家で左腕を飛ばしてみせたそれよりも遥かに速く鋭いものだったが

「速度は随一だな」

 マーガレット渾身の一太刀を、鬼面の男は鉈で易々と受け止めた。
 瞬間、二つの刃がぶつかり合って生じた衝撃により、部屋中が揺れ、金属音が反響する。

 またしても仕留め損なった。
 一撃で決着を着けられなかった事を歯痒く思いつつ、マーガレットは鍔迫り合う相手を鋭く睨みつけ、問いかける。

「おい、クソ野郎。友恵ちゃんとカリンカさん……外にいた二人はどうした?」

「あぁ、あの二人か……邪魔してきたから殺した」

「は? 今、なん――ぐっっ‼︎」

 淡々と、何でもない事のように友恵とカリンカを葬った事を告げてきた鬼面の男。
 その言葉の意味をすぐに飲み込む事ができず、思わず聞き返そうとしたマーガレットだったが、最後まで言い切る前に腹に膝蹴りを叩き込まれて吹き飛ぶ。

 内臓が、破裂した。
 血を吐きながら数メートル以上後退した後、マーガレットはたまらず片膝をつき、大量の血反吐を吐く。
 その苦しげな様子を見た赤津は、思わず「千澄さん‼︎」と、変身前の名前を叫びながらマーガレットに駆け寄ろうとするが

「大っっっ丈夫‼︎ です‼︎」

 マーガレットは赤津に掌を向けて制止する。
 身振りで近付かないように言われた赤津が止まった後、マーガレットはピースサインを作り、必死に口角を上げてから赤津と目を合わせ

「大丈夫、だから……赤津さんは、隅に下がっててくれ……オレ、不死身だからよ……こんくらいの怪我、何でもねぇから。平気平気……」

 努めて明るい声で平気であると語りかけ、苦悶を顔に出さないように勢いよく立ち上がり、破裂した内臓の再生を一瞬で終わらせる。

「心配しないでくれ。こいつは、絶対ぇにオレが倒すから」

 これ以上赤津を不安にさせないために、マーガレットは口元の血を拭い、力強い口調で勝利を約束する。
 その宣言を聞いた赤津は、「はいっ……‼︎」と、目の端に涙を浮かべながら頷き、言われた通りに部屋の隅に移動する。
 ほんの僅かではあるが危険が少ない位置に赤津が移動した後、マーガレットは視線を入口へと移す。

 ――扉は閉まってるか。防弾防刃で魔法耐性もかなり高いんだよな……一撃じゃぶっ壊せねぇな。外に逃がそうとしたら、どうやったってもたついて隙ができちまう。そこを突かれたら間違いなく赤津さんは殺される。やっぱやるしかねぇが、その前に

「……お前、さっき、殺したっつったのか?」

「あぁ」
 
「何でだ?」

「何で……とは、どうゆう事だ?」

「殺す必要があったのっかっつー話してんだよボケ。どうなんだよ? つーか、テメェ……人一人と妖精一人殺しといて、罪悪感とかは」

「歩いてる時、道に邪魔なものがあったらどかすだろ。それと同じだ。あいつらが、そこにいる女を殺すのを邪魔してきたから殺した。俺は悪くない」

「――――っっ」

 一切の罪悪感を感じていない様子の鬼面の男に強い憎悪を覚えながら、奥歯を割れる程強く噛み締め、マーガレットは忌々しい魔女の最悪な一言を思い出す。


『私は、悪くない。私に、罪などない』


 家族を、友達を裏切り、数えきれない程の人を殺した魔女は、サンクローズは、己の所業を微塵も悔いていなかった。
 目の前の異常者も同じだ。
 サンクローズと同じ、救いようのない破綻者。
 どう語りかけても、どれだけ言葉を尽くしても、絶対に、何も響きはしない。故に

「やっぱ、壊すしかねぇよな……」

 一切の感情を宿さぬ冷たい声でそう呟きながら、マーガレットは鋏の空いている持ち手を握り、螺子を消して鋏を二本の剣に分離させ、構え、深く息を吐き

「楽に死ねると思うなよ、テメェ」

 そう言うや否や、凄まじい跳躍を見せ、部屋の中を縦横無尽に飛び回り始めた。







「おぉおおおぉおおらっっあぁ‼︎」

 赤津にぶつからないように部屋中を跳ね回り、銀一色の双剣を振り乱して、マーガレットは鬼面の男に連続して強襲を掛ける。
 鍛え抜かれた剛腕の力と、弾丸のような跳躍の勢いが乗せられた剣閃は、これ以上ない程に重く激しいものだが

「ふむ、大口を叩くだけの事はあるようだな……」

 面の下で涼しい顔を浮かべる鬼面の男に、それらは容易に捌かれる。

 四方八方から角度を選ばずに迫る破壊の剣撃は、いずれももう少しで当たるという所で、虫を払うかのように雑に弾かれてしまう。
 双剣が明後日の方向に向かわされ、床に叩き落とされる度に、当たりそうで当たらないもどかしさと怒りが、マーガレットの中で加速度的に募っていく。

 ただ剣を振り回していても当たらないと分かってからは、時折フェイントや蹴りを織り交ぜるようにしているが、難なく見破られ、避けられてしまう。

 己の攻撃が鬼面の男ではなく虚空を斬る度に、自分の剣は鬼面の男に届かないのではないか、そんな後ろ向きな考えが頭をよぎる。
 しかし、斬る以外に能がないマーガレットには、必殺の一太刀を届かせる為にひたすら攻め続ける以外の選択肢はない。

 故に、マーガレットはあらゆる雑念を振り払い、無心で剣を振るう事を選ぶ。

「らぁあああっっ‼︎」

 咆哮を上げながら天井を蹴りつけ、鬼面の男へと急降下。
 落下の勢いと全体重を乗せて、真上から双剣を叩きつけるも、頭を割る前に、流れるように掲げられた鉈に阻まれる。

 幅広の刃に一対の鋭利な刃が激突した途端に、硬く甲高い音が鳴り響き、衝撃を加えられた鬼面の男の両足が床にめり込む。

「くっ……‼︎」

「ふん……」

 鼓膜を掻き乱してくる音と痺れるような感触に思わず顔を歪めるマーガレットに対し、鬼面の男の反応は乏しく、武器ごと己を叩き斬ろうとしてくるマーガレットを強引に払いのけた。
 直後、平然と鉈を構え直す鬼面の男に、マーガレットは何度目かの突撃を敢行する。

「うるぁっ‼︎」

 男との間合いを一気に詰め、その顔を狙って刺突を放ち、紫電の如き一突きを鬼面の男は首だけを動かして危なげなく躱す。
 構わない。即座に次に繋げる。

「おぉらぁあっっっ‼︎」
 
 薙ぎ払い、逆袈裟の斬撃を放ち、右の回し蹴りを叩き込み、左の剣を斜めに振り上げ、逆手に持ち替えていた右の剣で半月の軌道を描き、男の胴を断ちにいく。
 サンクローズを殺す為に重ねた修練で得た剣技を全て乗せた連閃。
 それは、ほとんどの相手を沈めるに足るものだが

「変わり映えしないな」

 鬼面の男を斬るには至らない。

 首を刈りにきた刃は後退して躱され、右肩から左脇腹にかけてを斬り裂こうとした刃と鞭のようにしなる蹴りを鉈と腕で受け止められ、最速の斬り上げと横一文字の一閃は難なく弾かれた。
 
「なっ……」
 
 これまでで一番の集中力を発揮した状態で振るった、最も研ぎ澄まされた剣閃の数々が掠りもしなかった事に、マーガレットは思わず動揺し、呻き声に似た声を漏らす。

 無心で剣を振る。そう決めた矢先に心が乱れた。
 それを自覚した後、マーガレットは直ちに心を落ち着かせ、次の一撃を放とうして

「大体分かった」

 突如として走った無数の銀閃に全身を斬り刻まれ、噴き出した血に視界を真っ赤に染められた。

「――――は?」

 強い灼熱感と驚愕がマーガレットを襲う。
 一瞬、何をされたのか分からなかった。 
 攻撃の機先が全く見えず、刃を目で追う事すらできなかった。
 一気に大量の血を失い、意識が薄れかけたマーガレットは、思わず前のめりに倒れそうになる。

 
 それが、命取りになった。


「砕けろ」

 この上なく不安定な状態になったマーガレットの横っ面を、鬼面の男は鉈の峰でぶち抜く。
 鋼の殴打による追い打ちを食らったマーガレットはそのまま壁に叩きつけられ、またも倒れそうになるが、鬼面の男はそれを許さない。
 崩れ落ちようとしていたマーガレットの腹を投擲した鉈で刺し貫き、壁に縫いつける。

「ゔっ‼︎ がはっ、ば……‼︎」

 幾多もの切創の痛みを更に上回る燃えるような痛みに、マーガレットは苦鳴と血を吐き出す。
 その途端に、マーガレットの思考の大半が熱と痛みと息苦しさで占められるが、そのお陰で飛びそうになっていた意識を何とか保つ事ができた。

 気絶しなければ、何の問題もない。
 意識があれば、再生の速度を格段に早める事も、赤津を守る事もできる。

 まだ、負けてはいない。
 倒れない限り逆転の目はある。そう考えながら、マーガレットは一度両手の剣を消して、腹に刺さる鉈を引き抜き、投げ捨てる。
 そして、不死の力を最大限に引き出し、即座に傷の再生を――

「――あ?」

 傷の再生を、行おうとした。
 普段やっているように、頭の中で、傷を負った箇所が立ち所に癒えていく様子をイメージして、一刻も早く全快の状態に戻ろうとする、が

「治ら、ねぇ……?」

 再生が、一向に始まらない。
 夥しい数の切り傷も、深い刺し傷も塞がる気配がない。
 一体、何故? と己の掌を見つめながら混乱するマーガレットに

「目を逸らすとは、余裕だな」

 鬼面の男は瞬きの間に距離を無にして、いつの間にやら拾った鉈を振り上げる。

「ばっ……‼︎」

 白い鬼面が顔の近くまでやってきた瞬間、マーガレットの生存本能が警鐘を轟かせた。
 絶対に、避けるか防御するかしなければ一撃が、来る。

 だが、どちらも不可能だ。
 鬼面の男の剣速は至高の域に達している。マーガレットでは見切れない。
 仮に見切る事ができていたとしても、双剣を消してしまっている今、防御も間に合わない。
 それ故、次の刹那に訪れた結末は、必然だった。
 
「終わりだ」

 無慈悲な宣告と共に斜めに降り注いだ雷霆のような斬撃が、肉も骨も断ち切り、赤々とした鮮血が一気に迸発ほうはつする。
 絶対的な強さと技巧が込められた剣撃に、マーガレットは完膚なきまでに壊された。







 
 不完全な不死者となってから、ほんの少しだけ遠い存在となっていた死。
 それが久々に迫ってきた事で極限状態となり、感覚が鋭敏になったからだろう。
 一太刀だけ、かろうじて目で追う事ができた。

 一太刀だけ。
 そう述べたのは、マーガレットの目では鬼面の男は鉈を一度振り下ろしたようにしか見えなかったが、胴に刻まれた切創の数が九つだったから。つまり、鬼面の男がほぼ同時に九回鉈を振るったからだ。

 ――あぁ、そうか……こいつの、鉈……あれでできて……だから……治らねぇのか……

 規格外の速度の斬撃に沈められ、血溜まりの中にうつ伏せで倒れた後、マーガレットはようやく傷が治らない原因に思い当たったが、今更それが分かった所で意味はない。

「壊れたのはお前の方だったな」

 冷たくマーガレットを見下ろす鬼面の男は、独り言を口にするかのようにそう呟くと、瀕死の魔法少女から部屋の隅で震える赤津に振り向き

「ようやく、お前を殺せる」

 血に濡れた鉈を強く握りしめ、赤津へと飛びかかった。

「ひっ……‼」

 鬼面の男に狙いを定められた赤津は恐怖に顔を引きつらせ、膝を大きく震わせる。
 逃げ場も勝ち目もない。まさしく絶体絶命の状況。
 一度は破れた夢を諦めきれず、前に進みたいと願っていた心優しい妖精が、悪辣な異常者の凶刃の餌食になる。



 ――そんな最悪の結末を、マーガレットは認めない。



「――――っっ‼︎」

 痛み以外の感覚を失った身体を無理矢理動かして、双剣を振りかざしながら、マーガレットは鬼面の男に背後から襲いかかる。
 不意打ちを狙い、可能な限り音を立てずに接近したが

「まだ動くか」

 鬼面の男はすぐにマーガレットの気配を感じ取り、足を止めて勢いよく振り向いた。
 目と目が合った瞬間、マーガレットは二つの刃を全力で縦に振り下ろす。

「うぅあっっ‼」

 文字通り血を吐くような叫びを上げながら放たれた、無造作だが死に体とは思えない程に力強い剣撃。
 起死回生を狙って放たれたそれは、しかし、横に飛んだ鬼面の男には当たらず床を砕く。 

 全身が強く軋み、より多くの血が流れ出る。
 気を抜くと意識を失いそうになるのを歯を食い縛って堪え、追撃を放つ。

 呼気を吐きながら、刃を斜めに跳ね上げ、突き、膝を斬りつける。
 続け様に繰り出される鋭い切れ味の追撃。
 いずれも紙一重で躱されてしまうが、挫けている暇はない。

「おぉおおぉおぉっっ‼︎」

 腹の底から叫びを上げて、マーガレットは鬼面の男の間合に侵入し、双剣を振り回す。
 唸る双剣。応じる鉈。
 次々と叩き込まれる斬撃を、鬼面の男は正面から捻じ伏せていく。
 
 やはり、遠い。遠すぎる。
 マーガレットと鬼面の男とでは、剣士として立っている領域があまりに違いすぎる。
 たった一撃当てる事が、刃を掠めるだけの事が不可能に思える程に、鬼面の男は強い。
 
 赤津の家で左手を落とせたのは、間違いなくまぐれだ。
 今思えば、あの時が鬼面の男を仕留められる最大にして最後の好機だったのだろう。
 あの時、完璧に壊せていれば、友恵も、カリンカも、殺される事は――

 ――いや、後にしろ‼︎

 湧き上がる後悔をマーガレットは必死に押し殺す。
 悔やんでいる暇も今はない。

 双剣を握る手に力を込め、剣速を限界まで引き上げる。
 格段に勢いと数が増した斬撃が、波濤はとうのように鬼面の男に押し寄せる。
 
 何が何でも斬ってみせる。
 一度、ほんの少しでも斬れれば、逆転できる。
 全魔力を費やして身体の内外を破壊し尽くし、再生できないように徹底的に

「もういいだろう」

 打ち込んだ斬撃の数が数十を超えた時、鬼面の男は目にも留まらぬ速度で鉈を横に振り切った。
 凄まじい剣圧に前髪を揺らされたマーガレットの背に、悪寒が駆け巡った次の刹那
 

 両腕が、宙を舞った。


「え……?」

 肩から切り離された腕の断面から、血が溢れ出る。
 痛みを感じる暇はなかった。
 それより早く鉄塊を左脇にぶち込まれ、吹っ飛ばされた。

「ぶっ、がっっは――‼︎」

 マーガレットの頬骨を砕き、複数本の歯をへし折った鉈の峰による殴打。
 それが、今度は肋骨を粉々に砕いた。
 身体の右側から壁に激突し、大きな窪みと亀裂を生じさせた後、マーガレットはゆっくりと膝をついた。
 最後の意地で倒れる事だけは避けたが、無駄な悪足掻きに過ぎない。
 
「あ……う、あぁ……うゔ……ぁ……」

 口から大量の血を垂らし、呻き声を漏らすマーガレット――いや、ダメージが限界を超え、変身を維持できなくなった千澄の目は虚ろで、一切の生気が感じられないものとなっていた。
 今度こそ戦闘不能に陥ったであろう敵の姿を見つめながら、鬼面の男は深く息を吐き

「次は、お前がこうなる番だ」

 そう口にして、赤津へと駆け出した。
 

 変身は解けた。
 両腕は落とされ、夥しい量の血が流れ出た。立つこともままならない。
 千澄にできる事は、もう、何もない。でも

『なりたい、です……なりたい。また……また、警察官になりたい……‼︎』

 でも

『痛くて、苦しくて、泣いてる誰かがいたら、助けて、あげてほしいの』
 
 それでも


 それでも、助けたいと思った。


 気が付いた時には、身体が勝手に動いていた。
 意志の力が、消える事のない約束が、千澄を走らせた。
 鬼面の男と赤津の間に割り込み、千澄は牙を剥き出しにして、鬼面の男を睨みつける。

 変身もできず腕も使えないのなら噛み殺してやる。
 どんな手を使ってでも、赤津を助けてみせる。
 人の心がない悪には、もう二度と、これ以上は、何一つ

「何一つ奪わせねぇぞ‼ かかってこぉい‼」

 大気が震えるほどの叫び声を上げて、千澄は両足に力を込める。
 そして、そのまま跳躍して、喉笛を喰い千切ろうとした――直前に、距離を詰めてきた鬼面の男の鉈が、左側頭部へと迫る。

 やけにうるさく聞こえる風切り音に、全身の毛が逆立つ。
 受ければ終わる。終わるが、避けられないし防げない。なら、どうする?
 
 ――噛んで止める‼︎
 
 常軌を逸した選択肢を迷わず選んだ千澄は、頭部を裂かれる前に顔を左側に向け、口を大きく開く。腹を括る。
 勝てば生存、負ければ即死亡の一か八かの大勝負。
 絶対に勝ってみせると自らを奮い立たせた千澄だったが


 超級の破壊力を秘めた鉈は、千澄の口内に突っ込む前にぴたりと止まり、煙のようにふっと消えた。


「は?」

 予想外の事態に混乱し、千澄は思わず間抜けな声を漏らす。
 すると、鬼面の男は「お前をみくびっていた」と言いながら面を外した。

 その瞬間、千澄は更なる衝撃に襲われる事となる。
 白い鬼面の下に隠された素顔は、ここ数日で見慣れた顔だった。
 赤津を付け狙い、友恵とカリンカを殺めた異常者の正体は――



「――ドラちゃん、さん……?」



 継ぎ接ぎの女傑――ドラセナ・ハートフェルトだった。
 その澄んだ緑色の瞳を見ながら、千澄は唇を震わせる。
 言いたい事、問いたい事はいくつもあるが、ありすぎて、何から言うべきか分からない。

 何で? どうして?
 声が変わっていたのは、面の裏にボイスチェンジャーを付けていたからか。
 お人好しのジュギィの仲間が、真犯人だとは、とても――と目まぐるしく思考を巡らせる千澄に

「さて、結果発表といくか」

 ドラセナは、淡々とした口調でそう言った。
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