湖に刻まれた記憶 失われた叡智を求めて-生成AIと綴る物語-

Kai

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- 4 - 月の花

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──馬車は緩やかに街の中心部へ向かって進んでいた。途中、屋台の準備や旗の装飾が施された通りを抜けながら、テオが陽気に口を開く。



「おっ、やっぱり祭りが近いからか、賑わってますね」



レンが窓の外を眺めながら、やや重い口調で応じる。



「ああ。あの忌まわしき『モイラ』が消えて250年だったか。

この時期はそうじゃなくても、どこの国でも祈りと祝いの祭りでごった返すが今年はすごいな。」



ネイトも頷き、静かだが確かな声で続けた。



「うん。

かつて世界の三分の一を飲み込み、我々の世界を滅亡寸前にまで追いやった、あの恐ろしい現象がまるで嘘のように消え去った日だからね。


生き残った祖先から続く大事な、まさに奇跡の日だ。

それを祝うのは世界共通だよ。」




──モイラ(Moira)──


それは、250年前の大戦末期、突如として各国の湖から現れ、世界を未曾有の混乱に陥れた正体不明の現象。


一度現れれば、周囲を瞬く間に火の海に変え、あらゆるものを飲み込んでいったという。


のちにモイラと呼ばれるあれが具体的に何だったのか、なぜ現れたのか、そしてなぜ消えたのか、その全てが謎のままだった。


大戦後、多くの研究者がその正体と原因を突き止めようとしたが、確たる証拠は何一つ見つかっていない。


神が大戦を終結させるために降した天災であるとか、あるいは、時を同じくして歴史から忽然と姿を消した魔導大国レオントポディウムが関与した暴発現象だったのではないかとか、様々な憶測が飛び交ったが、真相は未だ深い謎に包まれたままだ。


ただ一つ確かなことは、世界中を恐怖の底に突き落としたモイラが、ある日忽然と消え去ったということ。


そして、それと時を同じくして、長きにわたる大戦もまた終わりを告げた。


人々はこの日を奇跡として記憶し、モイラが消え去った日から一週間を祝祭の期間とするようになったのだ。




ネイトが笑みを浮かべながら話を振る。



「エオス嬢の育った国では、モイラ祭はどんな感じだったかな?」



エオスは少し考えた後、慎重に言葉を選んだ。



「……はい。華やかではありましたが、どちらかというと貴族たちの政治的な催しに近い部分もありまして…。

一般市民向けの行事と、上層階級向けの催しは、ほとんど分かれていたように記憶しています。」



「なるほどね」



ケイリーが穏やかに相槌を打つ。



そこから、自然とエオスの過去に触れる流れになった。



「……その…申し訳ありません。

私の母は、私が幼い頃に亡くなってしまいまして――

その後すぐに父に再婚の話が持ち上がり……

あまり、そういった社交の場に出ることが、私には必要なくなってしまいましたので…


その……あまり詳しくなくて、ごめんなさい」



エオスは短く言葉を切り、少しだけ俯いた。

ネイトは無理に続きを促さず、ただ静かに隣で待った。


ケイリーも同様に、静かに彼女の言葉を受け止めた。



「……えっと、あの、その後色々ございまして、遠縁にあたるこちらの宰相閣下のお家に養女として引き取られましたので、その、えっと……」



「生家とは──縁切り、ってことか」



レンが低い、感情の読めない声で言った。


エオスは小さく頷いた。




「はい。後妻の方に男の子が生まれ、家を継ぐから……と」





──馬車の中に、少しだけ静寂が落ちた。




それを破ったのは、ケイリーだった。


彼女は努めて明るい声を出した。




「あらでも、今は好きな魔道具に囲まれて、毎日充実しているんでしょう? 


でしたら、結果的によくなってるのであれば"それはそれ"ってことでいいじゃないかしら!」



エオスは、ふっと口元を緩めた。




「……はい、ケイリー様。おっしゃる通りです」




気づけば、彼女の肩からは緊張がすっかり抜け落ちていた。











街路を進む五人の姿は、祭りの準備で賑わう人々に紛れて目立たなかった。


屋台が並ぶ細い通りを歩いていた時、ふと、露天の一つに飾られた髪飾りがレンの視界に入った。




足が止まる。




ネイトも、レンの動きに気づいて歩を止め、興味を引かれたように視線を向けた。



それを見たケイリーが、「あらあら」とでも言いたげな楽しそうな顔をしながら近寄る。




「ふふ、殿方お二人が、こういう可愛らしいものに引き寄せられるなんて……珍しいこともあるものですわね」



テオも「本当ですね。サイラスにも報告しないと」と面白そうに笑い、エオスは少しだけ首を傾げていた。




──だが、レンは恋愛的なものではないと即座に否定する。




「違う。……この花が、気になっただけだ」



レンは無表情に言いながら、飾りにあしらわれた花のデザインを指差した。



「これ、何の花か知ってるか? ケイリー」



ケイリーは、じっと眺めながら首をひねった。



「あら、マクロフィラに似ているけれど、少し違うかしら?

 あまり見たことがない花ですわね」



そこへ店員が気さくに声をかけてきた。




「ああ、お客さん!
 それ、セラタって言うんですよ。

大戦よりも前にあった国の花だったみたいでね、北東の島々じゃ、今でもとっても人気がある花なんですよ」




「セラタ……」


レンが低く呟く。

さらに店員は続けた。



「昔、光の海連邦になる前の光の大陸だった時代に存在していた国だったらしいですよ――我が国の北に、そりゃあもう、かなり行ったあたりにあったとか。


ほら、うちの国の国名も国花もアナベルって言うでしょ?


 当時は、光の大陸にあった大きな連合国でまとめてオルタンシアって呼ばれてたこともあるそうですよ」




その言葉に、ネイトも少し表情を引き締めた。






──光の連合国 オルタンシア──


かつてここも含め光の海連邦になる前の光の大陸は、炎の大陸に負けないくらいの広さを誇る大陸だった。


そして大戦が起きる前、その大陸すべての支配者だと"オルタンシア"と名乗る国が現れ、侵略戦争を始めた。



セラタはオルタンシアに初期の頃に吸収された国の一つだ。


オルタンシアの勢いは激しく、大戦前に大陸中の多くの国が統合・吸収され、地図上からその名を消している。


我が国は当時オルタンシアとの間に山と数国が存在したため、侵略の手が伸びるまでに時間があり、そして侵略の手が伸びる前に──モイラが出現し、オルタンシアもモイラによりほぼ姿を消し、それどころか地形まで変え──大陸は島々になった。


現在はその島々で光の海連邦と名乗り、協力関係を築いている。が──



レンはしばらく無言でその髪飾りを眺めたあと、ふっと息を吐いた。




「……そういう歴史、聞いたことがあった気がする」


「うん。私もだ」



ネイトも小さく頷く。




エオスは、静かに聞き入りながら、かつての世界の名残を思った。




──ほんの些細な偶然。

だが、それは過去と現在を緩やかに繋ぐ、小さな糸となるとはこの時誰も気づかなかった。












昼には少し早い時間だったが、丘の上に建つレストランのテラス席に五人は腰掛けていた。



眼下には、透き通った湖面が陽光を映し、ゆるやかに波打っている。



祭りのざわめきとは対照的な、穏やかな風景。



テオは「いやー、ここの飯は最高だね」と昼食に大満足し、ケイリーもエオスも、楽しげな表情を見せていた。



俺──レンは、ネイトが物静かに周囲を観察しているのを横目に、グラスを傾けていた。




「このあと、もう一回、街中を回ろうか?」




テオが陽気に提案し、エオスもこくりと頷く。





そのときだった。





レストランの一角に設置された魔道具が、けたたましい音を立てた。



──ニュース速報だ。





「……速報をお伝えします。

本日正午ごろ、東方連合域に属するインボルクラータで、“月花” 現象が確認されました。


付近一帯に不安定な魔力波動が観測されており、近隣住民には湖沼地帯への接近を控えるよう要請が出されています──」





食事をしていた客たちがざわつき始める。




ケイリーが眉をひそめ、テオも一瞬で表情を引き締めた。



「……月花、か」

「タイミングが悪いな」



俺は低く呟き、ネイトを見る。


ネイトは、表情を変えずに静かに考え込んでいた。




「私たちが今いる場所は問題ないはずですが……。

周囲への注意は、怠らないほうがいいですね」


「……ああ。少し様子を見て今日は戻ろう」




五人は無言で頷き合う。



エオスが小さな声で、「……あの花、昔から不吉の前触れだって……」と呟いた。


レンはそれに対し、短く答えた。


「気にするな。ただの迷信だ」




エオスは少し顔を上げ、こくりと頷いた。












丘の上から市街へ戻ると、空気は明らかに変わっていた。



ざわめき。



道行く人々が、足早に行き交う。



どこか焦りを帯びた視線が飛び交っている。




──レンは周囲に目を配りながら、テオと目配せした。



「……この空気、あんまりよくないな」

「だな。様子見より問題が起こる前に戻した方がよさそうだな」




テオも即答する。

ケイリーはエオスをさりげなく庇いながら、ネイトを見た。




「私もそう思いますわ」




ネイト──柔らかな声の奥に、きっぱりとした判断が滲んでいた。


「ええ、そうしましょう。無理をする必要はありません」




こうして、予定を切り上げ、先ほどまでの無邪気な観光気分もなく、引き締まった空気に包まれながら五人は馬車へと急いだ。






――――――――――






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