湖に刻まれた記憶 失われた叡智を求めて-生成AIと綴る物語-

Kai

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- 3 - 抽出と心の機敏

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皆が実験の間に自分の仕事を片付けようと席を外していく。


その足取りは重く、誰もが口を閉ざしていた。




そんな中、レンと局長はミレイアに呼び止められた。

彼女の瞳の奥には、氷のような冷静さと、わずかな興奮にも似た光が宿っていた。


そして彼女は、淡々と、しかし有無を言わせぬ口調で告げた。



「ねえ、彼女たちへの対応だけど私が好きなようにしていいでしょ? 
 
研究時間を奪われるのは、私にとっても耐え難いのよ。

オリバーに聞いたけど、レンあなた彼女たちに野菜を育てに行かせる気だったのよね?



だから、本人たちに“野菜を育てたいんです”って、心の底から懇願させようと思うの。

そうしなければ、もっと『恐ろしい体験』をすることになるかもしれないと、理解させてあげればいいかと思うのだけどどうかしら?


本当なら、あなたたちが見たあの“遺物の何か”の片鱗でも見せてやれば、すぐにでも泣いて逃げ出すでしょうけどね」




呆れたようにレンが眉をひそめる。



「……3日か。一応解読に1か月の猶予を渡したんだが――。


あと、さすがに国際問題になるから精神を壊すことはするなよ」



「大丈夫よ。そこまでしないで済むと思うわ。


3日もすれば"早く野菜を育てに行きたいです"って泣いて言わせてみせるもの。


彼女たちには、この研究所が遊び場ではないことも、ここにいたいと思うことはとても大変だということも骨の髄まで理解してもらう必要があると思わない?


そうね。彼女たちには“食料自給の重要性”って名目で、外で頑張ってもらうのがやっぱりいいわね。



あ、実験結果がわかったら直ぐに連絡を頂戴。


それまでに下準備をしてくるわ。


…あの『何か』が何を望んでいるのか、探るためにもね。


もしかしたら、彼女たちのような“無垢な魂”の方が、何かを引き寄せやすいかもしれないし」



ミレイアは悪びれる様子もなく、どこか愉悦の色すら浮かべた涼しい顔で告げ部屋を後にした。

その姿は、獲物を見定めた捕食者のようでもあった。



少し怯えた顔を覗かせる所長と局長をしり目にレンは小さく肩をすくめ、母の最期の言葉は聞かなかったことにした。



ジョッシュ局長は、レンのそんな態度に「やれやれ」と首を振りながらも、どこか面白そうに口の端を上げた。




「お前さんのお袋殿は、相変わらず肝が据わってらっしゃるな。

まあ、あのお嬢さん方が3日持つか、見ものだな。


あの『何か』とやらに触れる前に、精神が保てばいいがな、はっはっは!」




「・・・ああ。どうだろうな。

 3日持ったら根性があったってことでいいんじゃないか。

 母上にかかれば、明日には出て行くと思うぞ。


だからさすがにまずいと最初から担当にされなかったのだから・・・


――もっとも、その前に抽出で『何か』が起きて母上がより暴走しなければいいが・・・。」




苦笑いと、拭いきれない不吉な予感を滲ませながら、2人は重い足取りで作業場へと移動してゆく―――











局長ジョッシュとレンは、事前に人払いが完了し、異様な静寂に包まれた作業場に向かった。



そこはまるで、これから神聖な儀式でも行われるかのような、厳粛で不気味な空気に満たされていた。



普段は研究員たちで賑わう場所だが、今は沈黙と、壁や床から染み出してくるような冷気だけが支配している。



中央には、透明な水盤──古代文の欠片の抽出に使われる魔導機器──が、まるで祭壇のように据え置かれていた。



その水面は、不気味なほど静まり返っている。


周囲には幾重にも簡易結界が張られ、異常発生時の緊急遮断装置も、物々しい光を放ちながら作動準備を整えている。




ジョッシュは手早く最終チェックを済ませ、レンに重々しく合図を送る。


その顔には、未知への挑戦と、破滅への恐怖が複雑に混ざり合っていた。




「……準備はいいか? 

エオス嬢が言っていた"コツ"が、我々を何処へ導くのか…あるいは、何を呼び覚ますのか…確認してくれ。


もし異変を感じたら、躊躇なく中断しろ。


これは命令だ。お前の精神が汚染されるのだけは避けねばならん」





レンは静かに呼吸を整え、意識を無に近づける。


まるで深淵に身を投じるような覚悟で。


雑念を手放し、空っぽの精神状態で水盤に触れた。


指先から、冷たい何かが精神の奥底へと侵入してくるような錯覚を覚える。





その瞬間、水面が僅かに震え──


次の瞬間、水盤の底から、黒いインクをぶちまけたように、おぞましいほどの数の文字列が、まるで意志を持った生き物のように、蠢きながら噴き上がり始めた。




古代語


見たこともない象形文字


断片化された数式


呪詛のような詩文


狂気を孕んだ設計図のようなもの──




ありとあらゆる古代文の欠片が、互いに絡み合い、押し合いへし合いしながら、怒涛の勢いで水盤を黒く埋め尽くしていく。



それは情報というより、怨念の奔流、あるいは絶望の叫びの結晶のようだった。



水盤から、微かに呻き声のようなものが聞こえる気さえした。





「……っ! なんだこれは…!


このおぞましい気配…まさか、これは!?」





ジョッシュが思わず後ずさりしながら、恐怖に引きつった声を上げる。



通常の抽出なら、一度に得られる欠片の量は限られている。


これほどおぞましい密度と量を伴う現象は、禁断の記録の中にしか存在しなかった。




「一時停止だ、レン! 魔力を止めろ!


  それ以上深入りするな!


 その“何か”に意識を喰われるぞ!」



ジョッシュの鋭い声に、レンは、まるで呪縛から逃れるように水盤から手を離す。



全身から力が抜け、激しい眩暈と吐き気に襲われる。

脳裏に、再びあの黒と赤の光景が唐突に蘇る。



水面はゆっくりと静まり返ったが、盤上にはなお、解読を要するというよりは、触れることすら憚られるような、禍々しさを放つ膨大な情報が滞留していた。




ジョッシュは額に脂汗を滲ませ、震える声で呟く。




「……想定以上だ。

いや、これは我々の理解を遥かに超えている。



これが、“器”の差か……

それとも、あの『何か』が、レン、お前を選んだというのか…?




まるで、あれは―――」




局長は自分が口に出そうとした言葉に気づき口を濁した。


レンは荒い息を吐きつつ、顔面蒼白のまま、わずかに苦笑した。




「……器なんて言葉で片付けていい量じゃないと思うが。


 まるで…地獄の蓋が開いたみたいだ…


 またあの白昼夢のような“声”とも言えない感情というか、


 なんというか頭の中でまだ響いている…」




気分は?などと確認をしながらも、二人は確信する。



エオスたちが異常な速さで抽出した欠片、そしてネイトやレンが見たおぞましい幻影は、単なる偶然ではなく、魔道大国の、あるいはそれ以上の何かの意図的な“何か”が、悪意を持って現代に干渉を始めている明確な兆候ではないかと。




ジョッシュはレンの作業後、目を大きく見開き、恐怖と、それを上回る不謹慎なほどの知的興奮を隠そうともせず、震える指で自分の額を拭った。




「……まったく、不謹慎だが…これは…!


この“力”は、使い方によっては世界すら変えられる…あるいは、滅ぼせる…!」




自嘲するように呟きながら、まるで何かに憑かれたように、自ら水盤の前に立った。




同じ条件、同じ手順──




エオスが伝えた方法をなぞるように、ジョッシュも全神経を集中させ、精神を研ぎ澄まそうと試みる。





だが──




水面は微かに揺れるものの、文字列の出現は鈍く、断片的で、かつ脆弱だった。

まるで、深淵の主が彼を拒絶しているかのように。




ポツリ、ポツリと浮かぶ単語や断片文。



それもすぐに水面に吸い込まれ、嘲笑うかのように消えていく。




ジョッシュは眉間に深い皺を寄せ、数十分間、額に汗を浮かべながら作業を続けたが、結局──



レンが呼び覚ましたような、おぞましくも強力な欠片の群には、万に一つも到達できなかった。



静かに、そして打ちのめされたように、局長は手を離した。





「……ダメだな。…まるで、門前払いだ。


 この俺が、か。


 はっ、笑わせる」




深い絶望感を伴った沈黙の中、レンが低く、掠れた声で問いかける。




「局長でも、こうなるのか。


…あの『何か』は、明確に誰かを選んでいるとしか


 ――まるで、古代の神々が神託を下す相手を選ぶように…」




「……ああ」




ジョッシュは深く息を吐き、静かに、だが確信を込めた声で言葉を続けた。




「これは……昔から禁断の伝承として語られてきた、“繋がり”の話だ。

特定の系統、特定の素養、あるいは…何らかの『印』を持つ者にだけなどいろいろな説はあるが、古代文明の記憶や装置が、その真の姿を現し、時には


…その魂を取り込もうと反応するという


──そして、その“繋がり”は繁栄をもたらす。と、だがまた逆に破滅をもたらすという話もある」



「嫌な事言うなよ」




レンは目を細めた。

その瞳の奥に、新たな恐怖と、逃れられない運命への予感がよぎる。




「つまり、ネイトとエオス嬢、そして俺には…その『適性』がある。

あるいは、『印』を刻まれてしまったということか。


そして局長には、それが無い。

そういうことか」




局長は重々しくうなずいた。




「現時点では、それ以上の説明はできない。

ただ、確実に言えるのは──この適性は、祝福などではないのかもしれん。



むしろ、あの状態は極めて危険な呪いのように見えた。


今後も、計り知れない意味を持つだろうということだ。

お前さんたちは、否応なく、この“何か”と向き合わねばならんのだよ。

面白くなってきたじゃねぇか」




最後は少しふざけた口調だったが、その目には笑えない光が宿っていた。



二人は、禍々しい光を放つ水盤を見下ろしながら、しばし黙り込む。


そこに浮かんだ文字列の一部は、今も不気味にかすかに震えながら、まるで生きているかのように存在を主張していた。





――――――――――





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