湖に刻まれた記憶 失われた叡智を求めて-生成AIと綴る物語-

Kai

文字の大きさ
40 / 45
- 9 - 願いと祈りと選択

- 9 - 願いと祈りと選択 1話

しおりを挟む

――移動日当日。


セラフィナ湖の畔は、しんと静まり返っていた。


西の空にはまだ名残の陽が淡く差し込み、湖面を金色に染めている。


その向こう、東の空には白く輪郭を帯びた月が静かに浮かび、柔らかな光が水面にそっと溶け込んでいた。


湖の奥深くからは、時折、湖に遺された記憶の断片が、光の粒子や、意味をなさない古代文字、そして誰かの思い出の映像となって水面に浮かび上がっては、泡のように消えていく。



それは、幻想的で、どこまでも美しく、そしてなぜかいまは物悲しい光景だった。





出発の時を前に、ティモシー、ジル、サーシャ、ミラ、そして他の研究員たちが、湖畔に集まっていた。


それぞれが、これから向かうべき湖…それぞれの戦場を前に、最後の言葉を交わすために。



最初に口を開いたのは、サーシャだった。


彼は、自身の担当となる祖国の方角を静かに見つめると、仲間たちに向き直った。



「では、私は先に行く。

 …あまり、待たせないでくれよ」



その言葉は、命令でも懇願でもなく、ただ、未来での再会を信じる者だけが発することができる、静かな響きを持っていた。




「ええ。すぐに追いつきますわ」




ミラの隣で、彼女の祖母が優しく微笑む。


ミラもまた、静かに頷いた。




サーシャが努めて明るい声で言う。




「ああ。向こうで会おう。


作戦が終わったら、皆で祝杯をあげるよう。


昨日言ったように、僕の彼女も…一緒にね」





彼の瞳には、恋人を救い出すという固い決意と、仲間たちとの未来への希望が燃えていた。




「いいわね、それ! 

 その時は、とびきり美味しいお肉を私が用意してあげる!」



 
ジルが快活に笑い、皆の背中を叩くように言った。




それは、決して「別れ」の挨拶ではなかった。


それぞれの戦場へ向かう、「出発」の挨拶。


そして、全てが終わった後、この場所に、あるいは全く新しい世界で、再び集うことを約束する、誓いの言葉だった。



サーシャが、皆が、そしてミラと彼女の祖母が、それぞれの持ち場へと向かっていく。



ティモシーとジルは、その背中を、言葉なく見送った。





――――陽はすでに高く昇り、湖畔には柔らかな光が満ちていた。



空は雲ひとつない淡い青に染まり、湖面はその空をそのまま写し取ったように、静かで澄んでいた。



岸辺の草花は朝露を乾かしながら、光を受けて微かに揺れている。




ときおり吹き抜ける風が、水面に小さなさざ波を立て、木々の葉をさらさらと鳴らす。その音さえも、静けさの中では心の奥に染み込んでくるようだった。





やがて、湖畔にはティモシーが一人だけ残された。



仲間たちの気配が完全に消えたとき、張り詰めていたものがふっと緩み、抑えていた感情が、静かに彼を支配し始めた。






彼はゆっくりと目を上げ、湖面を見つめた。



そこにはまだ、薄く月の残像が浮かんでいた。




日差しの中にかろうじて残るその白い輪郭を見つめながら、彼の心は遠く離れた故郷へと向かっていく。



あの朝の匂い、笑い声、母の声。





それらが波紋のように胸の奥に広がり、やがて音もなく彼の瞳を潤ませた。




(母さん…ガイたち…手紙は、届いただろうか…)





平民の家に生まれた彼には、高価な映像通信の魔道具などない。



ダニエル所長が手配してくれた、最速の魔道具で送った手紙。


それが、彼が家族に伝えられる、最後の言葉だった。




この国の、いや世界の混乱の中で、無事に届くように手配して貰えただけでもありがたい。



ましてや、返信がもらえる可能性など、万に一つもないことは、彼自身が一番よく分かっていた。




それでも、想わずにはいられなかった。

最後に、もう一度だけ、顔が見たかった。声が、聞きたかった。





「…いつまで、そうやって黄昏ているつもり?


こら、なんて顔してるのよ。まだ世界の終わりは来てないわよ 


私が来てびっくりした?みんなに託されたの。


ティモシーひとりじゃ不安だって。」




感傷に沈んでいたティモシーの背中に、聞き慣れた、あっけらかんとした声がかけられた。



ジルだった。


彼女は、ティモシーの隣に立つと、同じように湖を見つめた。



「風邪をひくわよ。さあ、私たちも戻りましょう。これからが本番なんだから」


「…うん。心配をかけてごめん」



ティモシーは、力なく頷き、ジルと共に、研究所の居住区へと続く小道を歩き始めた。







月明かりが照らす道を、二人はしばらく無言で歩く。




その沈黙を破ったのも、やはりジルだった。






「あっ、ティモシー違うわよ? 


 役目を果たせないって心配してるわけじゃないわ


一番つらいところにティモシーが補うことになったでしょ?


だから、みんな罪悪感を持っただけよ」





「特にサーシャとミラが心配してたし、悪いって思ってたのよ。


ほら、サーシャなんて恋人に会いに行けるから浮足立ってたし。 


ミラだってなんだかんだおばあちゃんとずっと一緒にいられるって安心してたからティモシーが一人ぼっちで寂しいんじゃないかって。


だからね、能天気で底抜けに明るい私が居たらあなたはひとりで泣かないでいられるだろうって


泣いてない?本当に?とっても死にそうな顔してたわよ」





ジルの言葉にティモシーは何と答えていいかわからなかった。

そんなティモシーの様子も気にせず、ジルは続けた。




「そういえば、うちの親から、さっき通信があったわ」


「え…?」



「『せいぜい国の、いいえ世界の役に立ってきなさい。

 それから、くれぐれも運動不足で体調を崩したり、ストレスで周りに迷惑をかけたりしないように』ですって。




最後まで、心配することがズレてるのよ。


悲壮感なんて、欠片もなかったわ」




ジルは、本当に心底呆れたというように、カラカラと笑った。



その、あまりにも悲壮感のない、いつも通りのジルの様子に、ティモシーの心に張り詰めていた糸が、ふっと緩んだ。




そうだ。



皆、それぞれの形で、それぞれの家族との関係の中で、この現実に立ち向かっているのだ。


自分だけが悲劇の主人公のように感傷に浸っている場合ではない。



ジルの、ある意味ドライで、しかし力強いその在り方が、ティモシーの肩から、余計な力を抜き去ってくれた。




「…ははっ。ジルのお父様と、お母様らしいや」





ティモシーの口から、久しぶりに、心からの笑みがこぼれた。




「でしょ? まあ、そんなものよ、家族なんて」






ジルは、にっと笑うと、ティモシーの背中を力強く叩いた。





「大丈夫。安心して。


 私がついてるのよ?失敗するわけないじゃない


 終わる迄引き込まれないように支えるんだから大船に乗った気でいていいのよ。



 まあ、終わったら引き込まれて飛ばされちゃってもいいし、そこから旅するのもいいと思わない?


たぶんベネットはいま旅していろんなものを見て…もしかしたら興味が向きすぎてこちらの事忘れて没頭してしまっているかも知れないでしょ?



彼女ならあり得ると思わない?



それに、向こうでみんなが何かやってるでしょ?


たぶん、クリスとかはお店を湖の中に作る方法とか考えてると思うのよね。



だから終わったら美味しいものを食べてもいいし、気楽に行きましょうよ。」





あまりの言い草にティモシーが驚いて思わず笑ってしまう。



「…うん。ありがとう、ジル」




ティモシーは、真っ直ぐに前を向いた。



その瞳には、もう迷いや感傷の色はなかった。


あるのは、世界の運命を、そして仲間たちの未来を背負う、強い覚悟だけだった。





「行こう。僕たちも準備を――」





二人は、これから始まる壮絶な戦いに向けて、気持ちを新たにする。



夜空の月だけが、その静かな決意を、いつまでも見守っているかのようだった。







――――――――――






ブックマークの追加やいいねやコメント貰えたらすごく喜びます。
物語を書く元気にもなるので応援してもらえると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...