雷霆のサン・ベネット ~強すぎるクーデレ妻は魔王討伐の英雄でした~

成瀬リヅ

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城塞都市テザール

71.暗黒五郷(レイトピア)

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 肌が傷つくと錯覚してしまうほどにザラザラとした魔力。それを見た瞬間に俺は確信していた。

 ”コイツが魔王軍の元幹部だ”と……!



「随分と立派なイスに座ってるじゃねぇか。魔王は死んだから、今やお前が王様気分か?」

 俺は目の前の玉座に座る魔者に向かって語りかける。
 この魔者、顔は垂れ下がる白い布のようなモノで隠されており表情は見えないが、体から溢れ出るほどの濃い魔力からして、危険度Sランクの悪魔族なのは間違いなさそうだ。

 そして不自然なほどに体は細く長く、黒い衣服から見える腕はミイラのように茶色く痩せ細っていた。
 まさに”不気味”という言葉がピッタリだなコイツ。


「………………」

「どうした、おしゃべりは嫌いか?なら先手必勝、俺から攻撃させてもらうよ」


 そして俺が刀に魔力を込めて斬撃を飛ばそうとした、だがその瞬間だった。

【シュンッ】

 目の前から魔者が消える。消えたのだ。
 魔力に大きな揺らぎは無かった。本当に存在自体がその場所から消えた感覚だ。


「は?一体どこに……」


 不自然なタイミングで敵を見失った俺は、一瞬だけ思考が停止する。

 ここからどうするべきなのか?もしかして幻術か何かだったのか?そもそもアレは敵だったのか?

 このように色んな可能性が俺の脳内でグチャグチャに絡まってしまったからだ。
 しかし幸いにも、いや、不幸にも俺の予測は全て外れる。なぜなら俺の失明した右目によって出来た”完全な死角"に、ヤツは回り込んでいたのだから。


「………………ァア」

「!?!?」


 ほんの一瞬だけ感じとった俺の”右ナナメ後方”からの魔力。もはや俺は考えるよりも先に前方へとダイブしていた。
 そう、ヤツは俺の気付かない間に右ナナメ後方へと瞬間移動して、今まさに手から黒い炎を放っていたのだ!!


「あっっっぶね!?」


 剣竜アテラを操っていた悪魔も使っていた”黒い炎”。おそらく闇属性を扱う悪魔族にしか使えない攻撃魔法なのだろう。モロに食らえば間違いなく致命傷にもなりかねない一撃だ。

 それにしても不覚だった!コイツ、初めから俺を殺す気マンマンじゃねぇか!?
 あと0.2秒反応が遅れてたら、俺は今頃火だるまだったかもしれないぞ。

 そういえば思い出した事がある。俺が昔ベテラン冒険者から聞いた話だ。
 それは魔王軍に殺された人間たちに共通していたのは”油断”だったという事実だ。

 まさにさっきまでの俺みたいな甘い覚悟を持ったヤツが、次々と魔王軍に殺されていったんだろうな。
 確かに言われてみれば、初めてナツキさんと一緒に戦った洋館の魔者戦でも、魔者が真の姿を見せる前にナツキさんが一撃で仕留めていた。

 きっとアレが魔王軍と戦う時に必要な覚悟なんだと、今になって分かった気がする。


「さてと………とりあえず"ナツキさんが来るまでは死なない事"が目標になりそうだな」

「………………ァ」


 言葉を発さない魔者を前に、俺は本当の意味で気合いを入れ直すのだった。

————————

 とはいえ、まずはヤツの移動方法を見極めないと!ただでさえ俺は使い慣れていない刀を使っているんだ。
 少しでも生存率を上げるために情報を得ないとな。

 ちなみに柳さんが貸してくれたこの刀は、俺自身の属性と同じ”火と水”の素材を使った刀だ。
 とはいえ雷光龍の素材を使っている訳ではないので、以前のように雷を生み出す事は現時点では出来ない。

 せいぜい刀から固めた魔力を斬撃にして飛ばすのがやっとって所か?

 まぁいい。とにかくヤツから目を離すな。必ず攻略に繋がるヒントはあるはずだっ!

【スゥ……】

 すると早速、敵の魔物は右手をゆっくりと動かす。攻撃の準備か?それとも瞬間移動の準備か?
 見逃すな見逃すな見逃すな見逃すな………!必ず何かがあるはずだ。

【トッ………】

 右手を自分の右脇腹に置いた?その行為に一体何の意味があるんだ?
 ────と思考した瞬間だった。


【シュンッ】


 消えたっ!またヤツが消えたぞ!
 だが今度の俺は油断していない。左の魔力感知眼を最大限にまで高め、ほんの僅かな魔力残滓ざんしを見逃さなかったのだから!


「次は上から奇襲か!?見えてるぜ元魔王軍さんよぉっ!」


 俺は上から鋭い爪で襲い掛かってくるガリガリの魔者の腕に向かって刀を振り上げ、見事に斬撃を手に直撃させる事が出来ていた!!

 こうなってしまえば、あとは斬撃がまき割りの木のように、腕をタテに切り裂いてしまえばいいだけの話なのだが。


「…………ッァッア」


 残念ながら俺の理想は実現しなかった。信じられない光景だ。
 なんと魔者の手のひらに直撃したはずの斬撃が、まるでシャボン玉のように一瞬で消えてしまっていたのだ。

 だがそれだけでは終わらない。
 何と俺の放ったはずの斬撃は、気付けば俺の背後から”俺自身”に襲い掛かってきていた!!


「マジ………かよ!?」


 迫り来る斬撃。だが俺はとっさに前転をするような姿勢で斬撃をかわし、そのまま地面を強く蹴って魔者から距離を取る判断をした。
 しかし相手は元魔王軍幹部だ。俺が一瞬だけ視線を外したスキを見逃すはずがない。

【シュンッ】

 ヤツは再び姿を消したかと思えば、俺が距離を取った先の方向に瞬間移動していやがったのだ!

 そして殺意を感じさせる事もなく、ただ当たり前の作業のように右手をスッと上げ魔力を集中し始める。

 マズい、俺は刀を振る体勢を取れていない。だけどこのままじゃ、あの黒い炎を放たれてゲームオーバーだ!
 なら自分の腕一本ぐらいは捨てる覚悟で反撃をしてやるよチクショウがよ!!

 ────だがそう考えた矢先だった。


「「サン、そこで止まれっ!!」」


 俺の瞬時の判断を遮るようにして、あの麗しい声が空間に響き渡る。
 そう、この声の主は間違いない。俺の最愛にして最強の妻。


喪帝斬そうていざんッッ!!!」


 彼女の放った、小さくも力強い”炎の三日月型の斬撃”は、一瞬にして魔者の細い右腕を横から切り落とすのだった。



「な、ナツキさんっ!!思ったより早かったですね」

 最強の援軍に対し、思わず俺は気の抜けた言葉を投げかける。いつもなら”まだ生きていたのかサン。死んだかと思っていたよ”ぐらいの冗談を言ってくれるだろう。

 だが今は違った。彼女は血相を変えて俺に言い放つ。


「ハァ、ハァ………気を抜くなサンッ!!コイツは最終の魔王討伐戦で生き残った幹部の1人だ、本物の戦争だと思って対峙しろっ!」

「…………ハハ、マジかよ」


 緩みかけた空気が一瞬にして凍りつく。常に死と隣り合わせの空間でしか味わえない、戦争独特の空気だ。


「コイツは”消失のシェルドムート”。手で触れたモノを瞬間移動させる厄介なスキルを持っている。そしてもう一つのスキルが……」


 だがナツキさんが全てを言い終える前に、シェルドムート自身がそのスキルをスグに発現する。

「…………ッァ」

 ヤツは切り落とされた右腕の断面に魔力を込めたかと思えば、何とそこから一瞬にして新たな腕を生やしていたのだ!

 その再生スピードは肉眼でもギリギリ終えないほどに早く、まさに悪魔族の異常な魔力操作の熟練度が垣間見えた気がした。


「やはりな。見ての通りの”再生スキル”持ちだ」

「えーっと、コイツ普通に強くないですか???」

「当たり前だ。ヤツは魔王軍の5人の幹部、通称”暗黒五郷レイトピア”の中でも1.2を争う厄介な悪魔だぞ。
 ハッキリ言って、なぜ君がその使い慣れていない刀でここまで生き残れているのか不思議なぐらいだよ。私も久しぶりに全力疾走をするほどには焦っていた」

「急に怖くなってきた。オシッコ漏れそうなんですけど」

「なら漏らして少しでも体を軽くしておけ。ヤツに触れられたら、この鉱山の奥底に瞬間移動させられ圧死させられてもおかしくない。とにかくヤツの腕には触れるな!それだけが私からのアドバイスだ」


 だがそのナツキさんのアドバイスを聞いていたのか、はたまた偶然か。
 なんとシェルドムートは、ナツキさんを見てから異常に魔力を高めたかと思えば、何かを新たに体内から生み出そうとしていたのだ。

【グチョォォオ……】

 いや、もう気付いた頃には体から出ていた。粘液みたいなモノを垂らしながら、体から出てきていた。
 この状況において最悪の光景が俺の視界に広がっている。


「ナツキさん、腕が4本になるのは聞いてないです」

「仕方ないだろう。アレは私も初見だ」


 頼むから今日が俺たちの命日にならないことを祈る。

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