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北城市記録会 1年編
第24走 女子100m
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風は追い風だった————————
選手権ではなく記録会の場合、選手の事前申告タイムの早い順で走る番が決まる。
つまり第1組では、その記録会で最もレベルの高いレースを見る事ができるのだ。
そして今まさに始まろうとしている女子100mの第1組には、北城高校から女子キャプテン・如月美月が出場する。
そう、彼女の魅力は美しい容姿だけでは無く、短距離の実力も全国トップクラスな所なのだ。
「お、いきなり如月先輩だ」
スタンドの最前列に座る結城と一縷は、これから始まるレースに向けて体勢を整える。
【On Your Marks】
そしてスターターがマイク越しに合図を出し、いよいよ競技場も静寂に包まれる。
100mのスタート前だけ訪れる、特別な時間だ。
(あ、俺この瞬間好きだったな)
結城は心の中でそう呟く。
自分が競技場を支配している気分になれるこの瞬間が、結城は中学の頃から好きだったのだ。
【Set……】
だがそんな事を思い出している内に、とうとう女子の第1組が……
【パァアアン!!!】
激しい号砲と共にスタートした。
————————
美月は序盤から身体1つ分抜け出す!
それに呼応するように彼女のポニーテールも激しく波打っていた。
【早い!!】
スタンドの選手やマネージャー達も一斉にザワつく。
その空気を感じ取った結城も、彼女が同じキタ高である事を誇りに思うほど美しい走りを披露していたのだ。
美月はそこからさらにリードを広げていき、結局一度もリードを譲る事なくトップでレースを終えていた。
元々色白でスラッとした体型の美月ではあるが、キタ高の白いユニフォームが相まると、さらに美しく輝いて見える。
どこを切り取ってもサマになる、まさに主役のようだった。
そして気になるタイムだが……。
「じゅ……12.19!?早すぎるだろ!」
あまりに早いタイムを見た結城も、思わず興奮の声を上げる。
だがそれは結城だけではない。どうやら周りにいる他校の部員も、同様に興奮している様子が伺えた。
ちなみに風は+0.8※の好条件である。
そしてスタンドのザワつきは、圧倒的なタイムの速さだけでは無かったようで……。
【如月さんやっぱキレイだよなー。俺さっきすれ違ったぜ】
【マジ!?うらやまし~】
【何あの人。モデル?】
【去年取材されてたよね?生で見ると、さらにヤバいな】
【女だけど付き合いたいわー】
【さすがに彼氏いるっしょ】
このような会話が結城の周りから聞こえくる。
タイム以外の部分でも話題になる彼女の影響力は、どうやら結城の想像を超えているようだった。
「すれ違うだけで自慢されるとか、芸能人じゃん」
「それな。でも自慢したくなる気持ちも分かる。一緒に練習してる俺ら、恵まれすぎなのかもな」
「そうだな。手合わしとこ」
そう言って結城と一縷は、美月と同じ学校である今の環境に感謝し、走り終えたばかりの美月に手を合わせているのだった。
もちろんそんな事に気付かない美月は、スパイクを丁寧に脱ぎ、トラックに深くお辞儀をしてその場を後にしていた。
————————
しばらくスタンドは美月の話題一色になっていた。
おそらく今回の走りは各高校の部員や顧問に大きなインパクトを与えただろう。
これが北城市記録会の女子100mのピークになる、そう思われた。
第4組のとある選手が現れるまでは。
【パァン!!】
第4組スタートの号砲と共に、とある選手が一気に先頭に飛び出した。
それは結城にも馴染みのある顔である。
「……木本だ!」
そう、結城の同級生である木本由佳だった。
彼女はスタートから2秒後には、既に体1つ分のリードを作っていた。
そして由佳はスピードに乗ったまま、一気に集団を突き放していったのだ。
【ザワァ……】
美月が走っていた時と同様のザワつきが、スタンドにも起こり始める。
由佳はその期待に応えるように、そこからもグングンとリードを広げ、最終的には2位の選手と目視5m以上の差をつけてゴールしていた。
そして気になるタイムは……。
【12.18(+1.1)】
「うぉぉおおおおお!?!?」
電光掲示板に表示されたタイムを見て、スタンドは今日一番の盛り上がりを見せた。
それもそのはず、このタイムは美月より早かったのだ。
【誰あの子?如月さんより速いじゃん!!】
【フォームめっちゃきれいだったね】
【あれもキタ高かよ。強すぎだろ】
【てかショートヘア可愛くね?】
由佳に対する賛辞や興味が、スタンドの至る所から湧き始める。
ちなみに由佳は、美月と同様にキリッとした目をしており、誰が見ても美人だ。
しかし美月よりは少しだけ輪郭に丸みを帯びてお入り、それが逆に愛らしさを感じさせていた。
ちなみに髪型は美月とは違い、ボブのショートヘアーである。
身長も美月よりは低いので、見た人に与える印象は大きく違う。
「凄いな、木本。一気に有名になったんじゃね?」
間近でレースを見て衝撃を受けた一縷は、結城に素直な感想を述べる。
そしてどうやら結城も同様のことを感じていたようだ。
「ちょっと凄すぎるな……。速いとは聞いてたけど、最初のレースでこの走りは凄すぎるよ」
結城も素直に由佳を讃えていた。
————————
その後も女子のレースは順調に進んでいき、いよいよ男子100mが近づいて来る。
第1組には北城高校陸上部キャプテンの佐々木隼人をはじめ、去年のインターハイで6位に入った山足実業の木村春彦。
さらには同じくインターハイで準決勝まで進んだ武川第二高校の竹安元彌もいる。
そして1年生からは、結城がいなくなった後の中学兵庫県チャンピオンであり、全中でも3位に入った武川第二の虎島勇気。
そして虎島に次いで兵庫2位に入り、全中の決勝にも進んだ北城高校の郡山翔などが名を連ねていた。
毎年全国トップクラスの戦いが行われる”陸上大国兵庫”において、まさにトップクラスの選手達が今回の記録会に集まったのだ。
そしていよいよ、市予選前最後のレースが始まる。
————————
※+0.8・・・レース時に吹いた風の強さの事。(+)だと追い風、(-)だと向かい風になり、当然追い風の方が選手の記録には有利になる。ただし+2.0以上の風が吹いた場合は”参考記録”となり、正式な記録としては認定されない。
選手権ではなく記録会の場合、選手の事前申告タイムの早い順で走る番が決まる。
つまり第1組では、その記録会で最もレベルの高いレースを見る事ができるのだ。
そして今まさに始まろうとしている女子100mの第1組には、北城高校から女子キャプテン・如月美月が出場する。
そう、彼女の魅力は美しい容姿だけでは無く、短距離の実力も全国トップクラスな所なのだ。
「お、いきなり如月先輩だ」
スタンドの最前列に座る結城と一縷は、これから始まるレースに向けて体勢を整える。
【On Your Marks】
そしてスターターがマイク越しに合図を出し、いよいよ競技場も静寂に包まれる。
100mのスタート前だけ訪れる、特別な時間だ。
(あ、俺この瞬間好きだったな)
結城は心の中でそう呟く。
自分が競技場を支配している気分になれるこの瞬間が、結城は中学の頃から好きだったのだ。
【Set……】
だがそんな事を思い出している内に、とうとう女子の第1組が……
【パァアアン!!!】
激しい号砲と共にスタートした。
————————
美月は序盤から身体1つ分抜け出す!
それに呼応するように彼女のポニーテールも激しく波打っていた。
【早い!!】
スタンドの選手やマネージャー達も一斉にザワつく。
その空気を感じ取った結城も、彼女が同じキタ高である事を誇りに思うほど美しい走りを披露していたのだ。
美月はそこからさらにリードを広げていき、結局一度もリードを譲る事なくトップでレースを終えていた。
元々色白でスラッとした体型の美月ではあるが、キタ高の白いユニフォームが相まると、さらに美しく輝いて見える。
どこを切り取ってもサマになる、まさに主役のようだった。
そして気になるタイムだが……。
「じゅ……12.19!?早すぎるだろ!」
あまりに早いタイムを見た結城も、思わず興奮の声を上げる。
だがそれは結城だけではない。どうやら周りにいる他校の部員も、同様に興奮している様子が伺えた。
ちなみに風は+0.8※の好条件である。
そしてスタンドのザワつきは、圧倒的なタイムの速さだけでは無かったようで……。
【如月さんやっぱキレイだよなー。俺さっきすれ違ったぜ】
【マジ!?うらやまし~】
【何あの人。モデル?】
【去年取材されてたよね?生で見ると、さらにヤバいな】
【女だけど付き合いたいわー】
【さすがに彼氏いるっしょ】
このような会話が結城の周りから聞こえくる。
タイム以外の部分でも話題になる彼女の影響力は、どうやら結城の想像を超えているようだった。
「すれ違うだけで自慢されるとか、芸能人じゃん」
「それな。でも自慢したくなる気持ちも分かる。一緒に練習してる俺ら、恵まれすぎなのかもな」
「そうだな。手合わしとこ」
そう言って結城と一縷は、美月と同じ学校である今の環境に感謝し、走り終えたばかりの美月に手を合わせているのだった。
もちろんそんな事に気付かない美月は、スパイクを丁寧に脱ぎ、トラックに深くお辞儀をしてその場を後にしていた。
————————
しばらくスタンドは美月の話題一色になっていた。
おそらく今回の走りは各高校の部員や顧問に大きなインパクトを与えただろう。
これが北城市記録会の女子100mのピークになる、そう思われた。
第4組のとある選手が現れるまでは。
【パァン!!】
第4組スタートの号砲と共に、とある選手が一気に先頭に飛び出した。
それは結城にも馴染みのある顔である。
「……木本だ!」
そう、結城の同級生である木本由佳だった。
彼女はスタートから2秒後には、既に体1つ分のリードを作っていた。
そして由佳はスピードに乗ったまま、一気に集団を突き放していったのだ。
【ザワァ……】
美月が走っていた時と同様のザワつきが、スタンドにも起こり始める。
由佳はその期待に応えるように、そこからもグングンとリードを広げ、最終的には2位の選手と目視5m以上の差をつけてゴールしていた。
そして気になるタイムは……。
【12.18(+1.1)】
「うぉぉおおおおお!?!?」
電光掲示板に表示されたタイムを見て、スタンドは今日一番の盛り上がりを見せた。
それもそのはず、このタイムは美月より早かったのだ。
【誰あの子?如月さんより速いじゃん!!】
【フォームめっちゃきれいだったね】
【あれもキタ高かよ。強すぎだろ】
【てかショートヘア可愛くね?】
由佳に対する賛辞や興味が、スタンドの至る所から湧き始める。
ちなみに由佳は、美月と同様にキリッとした目をしており、誰が見ても美人だ。
しかし美月よりは少しだけ輪郭に丸みを帯びてお入り、それが逆に愛らしさを感じさせていた。
ちなみに髪型は美月とは違い、ボブのショートヘアーである。
身長も美月よりは低いので、見た人に与える印象は大きく違う。
「凄いな、木本。一気に有名になったんじゃね?」
間近でレースを見て衝撃を受けた一縷は、結城に素直な感想を述べる。
そしてどうやら結城も同様のことを感じていたようだ。
「ちょっと凄すぎるな……。速いとは聞いてたけど、最初のレースでこの走りは凄すぎるよ」
結城も素直に由佳を讃えていた。
————————
その後も女子のレースは順調に進んでいき、いよいよ男子100mが近づいて来る。
第1組には北城高校陸上部キャプテンの佐々木隼人をはじめ、去年のインターハイで6位に入った山足実業の木村春彦。
さらには同じくインターハイで準決勝まで進んだ武川第二高校の竹安元彌もいる。
そして1年生からは、結城がいなくなった後の中学兵庫県チャンピオンであり、全中でも3位に入った武川第二の虎島勇気。
そして虎島に次いで兵庫2位に入り、全中の決勝にも進んだ北城高校の郡山翔などが名を連ねていた。
毎年全国トップクラスの戦いが行われる”陸上大国兵庫”において、まさにトップクラスの選手達が今回の記録会に集まったのだ。
そしていよいよ、市予選前最後のレースが始まる。
————————
※+0.8・・・レース時に吹いた風の強さの事。(+)だと追い風、(-)だと向かい風になり、当然追い風の方が選手の記録には有利になる。ただし+2.0以上の風が吹いた場合は”参考記録”となり、正式な記録としては認定されない。
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