Sprint・High!(スプリント・ハイ!)

成瀬リヅ

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北城市地区予選 1年生編

第67走 選ばれし人々

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北城地区予選会 1日目
PM4:26

緑山記念競技場 Bゲート横
~北城高校 試合後ミーティング~

————————

「では次に、今日県予選出場を決めた選手の名前を読み上げます!」

 キャプテンの隼人は、円陣になっている部員達に宣言した。
 隣には吉田先生も立っている。

「まずは男子1500m。福田修平、安達良太!おめでとう!」

 名前を呼ばれた2人は少しだけ頭を下げ、周りの部員達は拍手を送った。

「次に円盤投げ。黒田一郎、黒田二郎、竹原豪気の3人!特に黒田兄弟は2人で1、2位を取りました!竹原も1年ながら5位入賞、おめでとう!」

 この段階で初めて1年生の県出場者が隼人の口から発表された。
 だが元々ゴーは中学時代から実力のある選手だったので、順当といえば順当だ。

「次は女子100m。如月美月、木本由佳!木本も1年ながらよく頑張った!おめでとう!」

 由佳は少しだけ恥ずかしそうな表情を見せたが、スグにいつものクールな表情へと戻し頭を下げた。

 この他にも男子では110mH(ハードル)の菅原健太郎や、高跳びの中川飛雄、400mの榊充。
 女子では400mの桜井凪、3000mの花江なども県への出場を決めていた。

「じゃあ最後に男子100m……」

————————

 雨天練習場の空気は張り詰めていた。
 それこそ周りにいた補助員の顔が引きつるほどである。

 その原因は、今招集が完了した男子100mの選手の緊張感だった。
 それもそのはず、県予選に進めるのは上位7名のみ。
 1次予選のタイムから見ても、非常にレベルの高い争いになるのは明白だったのだ。

 本来であれば昨年全国インハイに進んだ選手は、事前に申請すれば今年もその該当種目において無条件に県大会へと進める。
 ただし『市予選の該当種目に正式に出場』した場合、その権利は放棄され、純粋に市予選を勝ち上がらなければならなくなる。

 そして今大会では武川第二たけにの竹安が”無条件の県予選出場権利”を持っていたのだが、なんと竹安はその権利を放棄。
 試合勘を作る為に市予選に出場してきたのだ

 つまりこれは市予選のレベルが格段に上がる事と同義である。
 ただでさえ10秒台がひしめく北城市予選の中で、選手は実質残り6枠を死に物狂いで狙わなければならないのだ。

————————

 ある種の悲壮感も漂わせた100mの集団は、係員の指示に従い1列ずつスタンド下のスタート地点へと歩いていく。
 だが今から約25分後には全ての結果が出るという100mのシビアさは、スポーツの中で最短で終わる種目の真髄ともいえた。

 だがそんな空気の中で、結城は数年ぶりに味わう選手権の緊張感に懐かしさを感じていた。

(そういやこんな感じだったな)

 結城の心は1周回って落ち着いていた。
 世代最速だったあの頃の余裕を、心が思い出していたのだ。

 とはいえ身体は1次予選の疲労で既に疲れ切っているのだが……。



 そしてスタート地点に到着した全3組の選手達は、言葉少なく各々の荷物を置いてスグにユニフォームへと着替え始める。
 そんな第1組には1次最速タイムの竹安、そしてキタ高の翔がいる。

 さらにこの2人以外の選手達も11秒2~4台の選手が揃っており、1着以外は誰が勝つのかを予想するのは難しかった。

「じゃあ第1組の選手は準備して~」

 係員の指示により、スタブロへと向かう選手達。
 するとスタンドからはパラパラと拍手が起こった。
 花形と言われる100m走を間近で見るために、スタンドの最前列には各校の部員やOBが詰めかけていたのだ。

 そして最終第3組の結城も、既にユニフォーム姿へと着替え深呼吸をしている。
 それと同時に、1次に続いてキタ高100mの先陣を切る翔の背中を見つめながら、少し頼もしさも感じていた。

 対する隼人はというと、特に言葉を発する事はなく、集中力を高めているように見えた。
 1次予選で全体2番目のタイムを記録したとはいえ、1つのミスで結果が大きく変わるのが100m走だ。
 隼人はそれをしっかりと理解している。

 そして準備を終えた第1組の選手達は、スタブロの後ろに横並びになっていた。
 すると……

【それでは男子100m2次予選、第1組の選手を紹介します!!!】

 競技場全体に女性のアナウンスが響き渡る。
 2次予選からは全選手の名前と学校が発表されるのだ

【3レーン 郡山翔君!北城!】

 翔は右手を大きく上げ、慣れた様子でスタンドへと頭を下げる。
 それと同時に、スタンドに居たキタ高の部員とマネージャー達も一斉に叫ぶ。

【行ったれ翔~!!!】

 それを聞いた翔は、下げかけた右腕を再び上げて、声援にガッツポーズを返した。

【5レーン竹安元彌君!武川第二!】

 竹安も慣れた様子で軽く右手を上げ、スタンドに軽く頭を下げる。
 スタンドから響く”いけ元彌!!”の大声援は、部員の多さも相まって威圧感を感じさせた。

 そして全ての選手紹介が終わり……。


【On Your Marks】

【Set……】

 いよいよ2次予選がスタートした。

————————

【パァン!!】

 号砲と共に抜け出したのは、なんと翔だった!
 1次予選に続き、2次でも見事なスタートを決めたのだ。

 そのまま10m地点では完全に翔がトップに立ち、そのままレースが展開していく……。


 はずがなかった


 25m地点に達した時、すでに翔の右前の視野には竹安の背中が見えていた。
 たった15mの間に、一瞬でトップが入れ替わっていたのだ。
 そして竹安は何事も無かったかのようにそのまま加速し、60m地点で既に2位以下と1m程の差をつけた。

 しかし翔も何とか2着で粘る。
 後続を突き放す事は出来ず、いつ上位が入れ替わってもおかしくない展開だったが、粘ったのだ。
 竹安に食らいつくように走るその顔は、まさに鬼の形相であった。



 だが翔はスタートをほぼ完璧に決める事が出来たので、後半にまだ余力があった。
 むしろ竹安を除く他の選手は、序盤の差を埋める為にエネルギーを使った上、さらに翔を抜くためのエネルギーも必要になってくる。
 加えて翔は元々トップスピードのある選手なので、そうそう簡単には抜かれない。

(このまま竹安に離されてたまるかボケェゴラァ!!!)

 翔は脳内で叫ぶ!
 スタンドの声援はとっくに聞こえなくなっていた。

 だがそんな時に、翔の脳内には”ある言葉”がよぎった。


“お腹に重心を置いて走りなさい"


 これはサブトラックで渚から聞いた、吉田先生のアドバイスだった。
 吉田先生は、翔のアゴが上がって体が反ってしまうクセを少しでも無くそうと考えた結果、分かりやすく最小限の言葉を送っていたのだ。

 翔はそのアドバイスを残り25mで思い出す。
 既に3位との差は数センチになっている状況だったが、冷静に下っ腹へと意識を向けた。

 するとそこから翔の乱れていたフォームは少しだけ改善をみせ、先程より地面を強く叩き始めていた!
 そして徐々に縮められていた差はそこから詰まる事なく、見事に2着でフィニッシュを切ったのだ。



「おおお!!!」

 湧き上がるスタンド。
 というのも、竹安に次いで2着に入ったのが1年生というのは、それなりの衝撃があったのだ。

「郡山2着!2着だよスゲェ!」

 同じく興奮の声を上げたのは、400mの1次予選で敗退したキタ高1年の一縷いちるだった。
 もちろん周りの先輩達も驚きの表情を浮かべ、拍手を送っている。
 その中には金髪のリューも居た。

「やるやんアイツ!良い1年入ったんやなぁ」

 そして彼も拍手を送るのだった。
 フィニッシュ横のタイマーには、1着竹安のタイム“10.70(+0.5)"が表示されている。

————————
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